魔王少女の勘違い無双伝~中二病をこじらせて、配下の人間も守る誇り高き悪のカリスマムーブを楽しんでいたら、いつの間にか最強魔王軍が誕生していた

こはるんるん

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10話。民を救って勇者王に無自覚に大ダメージを与えてしまう

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【勇者王ディルムッド視点】

「民より回復薬の値段を下げて欲しいという要望が、届けられておったが……」

 静まり返った会議室に、余、アステリア聖王国の国王ディルムッドの声が響く。
 始祖が神より授かった勇者の力を受け継ぐ、この世で最も偉大なる男が、余である。

「余に意見するなど、思い上がりも甚だしい! よって、回復薬の値段を5倍に引き上げる。本日、ただ今よりだ!」

 回復薬の生産・販売は完全に聖王国政府の独占下にある。

 認可の無い者には300%の消費税を課し、新規参入を許さぬようにしてあった。
 つまり、この『命の水』の値段をいくら吊り上げようと、愚かな民どもは、余の息のかかった商会からコレを買い求めるしかないのだ。

 くくくっ、民の苦しみの声は、余に富をもたらす心地良い音楽という訳だな。

「お待ちください、勇者王陛下! そ、それではあまりに……! 民は病から立ち直れず、国が崩壊いたしますぞ!」

 円卓の一角から、震える声が上がった。財務を預かる老臣であったが、老いぼれの戯れ言など耳障りでしかない。

「それがどうした? それより、黄金離宮の建設が遅れておるぞ! 余のかわいいヘレナが待ちわびておるのだ、急がせよ!」
「あら、陛下ったら……! 嬉しいですわ!」

 燃えるような真紅のドレスを纏った元【火の聖女】ヘレナが、しなだれかかってくる。

 この女の美しさは、まさに業火そのものだ。誰よりも光り輝いておるのが、触れれば我が身を焼き滅ぼすやもしれぬ。だが、その危うさこそが、余を狂おしく惹きつけるのだ。
 
 聖女は10代を過ぎるとその力を失い、数年後に、神によって、別の聖女が10代の娘から選ばれる。

 25歳のヘレナは、すでに聖女としての力は失っておったが、絶世の美女と称されたその美貌は衰えること無く、毒花のようにますます妖しく咲き誇っていた。

「はっはっは! ヘレナよ、お前を喜ばせることこそ、余の何よりの生き甲斐であるぞ!」
「あん。へ、陛下ぁ……!」

 腰を抱いてやると、ヘレナが甘く蕩けるような声を上げた。うむ、実に良い。

「恐れながら父上! 黄金離宮の建設費用を黒死病対策に回すべきでは、ございませんか!? 今、まさに民は救いの手を求めております!」

 鋭い声が響いた。忌々しい息子レオンだ。
 16歳の若造の分際で、父に意見するとは片腹痛い。

「黙れレオン! そもそも、今の平和は誰のおかげであるか!? 魔族が侵攻して来ぬのは、この勇者王ディルムッドの武威を恐れてのことぞ! その恩恵を受ける民草が、余に異議を唱えるとは何事か!?」

 余は15歳で父王を亡くし、勇者の力と王冠を受け継いだ。

 以来20年間、己を鍛え、聖騎士団を強くし、魔の森との国境を守り抜いてきたのだ。

 にも関わらず、さらに救いの手を求めるだと? 民とは、なんと厚かましい連中であるか!

 民は余の功績に、ただ平伏し、全てを差し出すべきなのだ。

 だが民たちは、余がヘレナに宮殿の一つや二つ与えるだけで『暴君』と陰口を叩き、まだ若造の息子レオンに王位を譲れなどと、身の程を弁えぬことを抜かしておった。
 故に、思い知らさねばならぬ。

「恐れながら、父上はヘレナ殿に誑かされておいでです! なぜ、もはや聖女ではなくなった彼女をいつまでも重用なさるのですか!?」

 その言葉に、円卓を囲む家臣たちが微かに頷く気配を感じ、余の不快感は頂点に達した。

「……レオンよ。勇者とは何か、忘れたか?  勇者とは神の代行者にして、正義そのもの。つまり、この余が『是』とすれば、それが世界の理(ことわり)となるのだ。貴様は、勇者であるこの父が、間違っていると抜かすか!?」

 怒号と共に、余は勇者の力である【オーラ】を解放した。
 余の身体から発せられた聖なる【オーラ】が、物理的な破壊力となって円卓を叩き割り、レオンを吹っ飛ばす。

「ぐあっ!?」
「ひぃぃッ!」

 レオンは壁に叩きつけられ、側近どもは余波によって椅子ごと転がった。
 この絶対的な力こそが、我が聖王国の秩序の礎よ。

「レオン、貴様の役目は、新たに降臨した聖女を探し出し、余の元へ連れてくることだ! 貴様は、そのことだけに専念しておれば良い!」
「……ぐぅっ!」

 レオンは口元の血を拭い、強い決意の籠もった目で、余を睨み返した。

「父上……! 回復薬の値上げだけは、どうかご再考を! 今は黒死病が……!」
「ええい、くどいぞ!」

 この息子の偽善には、まったく反吐が出る。
 レオンは政略結婚で生まれた、愛のない子供だった。故に情など、ひとかけらも湧かぬ。
 
 むしろ、この反抗的な態度が、余の憎悪を掻き立てる。
 
「黒死病に回復薬など、気休めにしかならぬ。感染者は、遅かれ早かれ死ぬ運命ではないか。ならば、病が出た村は、焼き払うのが最も効率的よ!」
「……ッ! なっ、なんという……! 今こそ、民に手を差し伸べ、一人でも多く救うべく努めるのが、王の、そして勇者たる者の務めではございませんか!?」

 レオンは立ち上がって、生意気にも余にさらに意見しおった。

「父上! どうか、お目を覚ましください!  それは、勇者の道では……!」
「貴様ァッ!」

 その言葉が、余の逆鱗に触れた。
 怒りに任せ、腰の聖剣に手をかけた、その時だった。

「申し上げます! 勇者王陛下に、緊急のご報告が!」

 扉が開き、聖騎士隊長が息を切らせて転がり込んできた。その顔は、興奮で上気している。

「なにごとだ、騒騒しい!」
「は、ははっ! それが……! み、【水の聖女】様が……! 待望の水の聖女様が現れ、黒死病が蔓延した村を、そのお力で救ってしまわれました……!」
「なにぃいッ!?」

 余は腰を抜かしそうになった。

「【水の聖女】が黒死病を治した? それも一人二人ではなく、一つの村を丸ごと救ったのか!?」
「はっ!」

 聖騎士隊長が頷く。
 だ、だとしたら、歴代最高とも言える力の持ち主ではないか……?

「【水の聖女】様は、そのお力で大量の【エリクサー】をお造りになられ、黒死病で苦しむ民に、無償でお与えになったのです!」
「おおっ! 新たなる【水の聖女】様は、なっ、なんと強力で、慈愛に満ちたお方であられるか!」
「これぞ、まさに神のお導き! 我が国は、これで持ち直すことができますな!」

 重臣たちが、飛び上がらんばかりに喜んだ。

「【水の聖女】様は、商会を持っておられ、【エリクサー】販売のための認可を求めていらっしゃいます! 認可が得られるまで、【エリクサー】を無償で、民に配り続けるそうです!」
「なっ、なんだソレは……!?」

 民に無償で、そんな貴重な薬を配り続けるなど、常軌を逸した行為だ。
 なにより、そんなことをされたら、余の築き上げた回復薬の利権が台無しになるではないか!?

 余が唯一認可している回復薬を扱うヘレナ商会は、余の懐を潤し、商会長のヘレナに金儲けをさせてやるためのものだというのに……

「……新たなる【水の聖女】は、厄介な存在ですわね陛下」

 ヘレナの目に怒りの火が灯った。
 余の耳元で、ヘレナはそっと囁く。

「すぐにでもその娘を王宮に呼び出して、始末してしまいましょう」
「うむ」

 聖女が死ぬと、数年後に新たな聖女が現れる。余の邪魔になるのであれば、今度の聖女も密かに抹殺してしまうのが良かろう。

 嘆かわしいことに、かなりの割合でおるのだ。愛だの正義だのを頭から信じ、民のためと称して勇者である余の命令に耳を貸さない愚かな聖女が。

 そのような聖女は、余の統治の邪魔でしかないため、これまでも密かに2人始末してきた。

 よって、今の王宮には聖女は一人もおらぬ。
 勇者と聖女は手を取り合わねばならぬというのに、まったく悲しいことだ。

「それから……わ、私は! 愚かにも水の聖女様を殺めて、【エリクサー】を奪おうとしました!」
「……はぁ?」
 
 騎士隊長はそう言って、両手を差し出す。自首するということのようだが……

「これまでにも地位を利用し、私利私欲のために多くの民を苦しめて参りました! 私は裁きを受け、心から悔い改めたいと思います!」

 しょ、正直、意味がわからぬ。黙っておれば、罪など発覚せぬものを。
 この男は、一体どうしたというのだ?
 
「……なぜ、悔い改めようなどと思ったのだ?」

 余は呆気に取られ、思わず尋ねた。

「はっ! 罪に汚れた私のような者にまで、救いの手を差し伸べる【水の聖女】様の清きお心に触れ、感銘を受けたのです! 善などまやかし、この世に正義など無いと思っておりましたが、それは間違いでした! あのお方、アンジェラ様こそ真の聖女! あのお方が望まれた通り、私は心を入れ替えることにしたのです!」

 ほとばしる情熱のままに語る騎士隊長は、心の底から水の聖女アンジェラを崇拝しているようだった。

「こ、これは少々……」

 ヘレナが不快そうに眉根を寄せた。
 【水の聖女】の人心掌握術は、恐るべきもののようだな。

「素晴らしい! なっ、なんというお方なんだ! これは【水の聖女】様を、一刻も早く王宮に招かねばなりませんね!」

 レオンが歓喜して叫ぶ。
 
「……その通りだ。みなの者、水の聖女アンジェラを余の前に連れて参れ! 早急にだ!」
「はっ、はっ、はぁああ!」

 重臣たち一同が、頭を垂れた。
 急がねばならん。
 【水の聖女】を探し出して、すぐにでも抹殺せねば、余の盤石の支配が揺るぐことになる。

 もし、この慈善事業によって名声を獲得した【水の聖女】が、レオンに王位を譲れなどと言ってきたら……

 余は、水の聖女アンジェラに、魔王などよりはるかに強い脅威を感じるのだった。
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