20 / 39
20話。大地の聖女も信者にしてしまう
しおりを挟む
【大地の聖女ユリシア視点】
焼け焦げた匂いが鼻をつきます。
腕の中で、小さな命が弱々しく震えていました。
わたくしはヴェリディア公国の公女にして【大地の聖女】ユリシア、15歳。
王宮の中庭で、わたくしは今にも事切れそうな親友──【飛び猫】のミィナを必死に抱きしめました。
「……なんて、酷いことを……! ヘレナ様、これはどういう……ッ!?」
声が震えます。
腕の中のミィナが「……みゃぅ」と小さく鳴きました。
ミィナは7年前にわたくしが錬金術で生み出すことに成功してから、片時も離れず、心を分かち合ってきた翼を持つ猫──わたくしの【人工生命体】です。
わたくしにとっては、家族も同然の存在。それを、こんな……!
わたくしは怒りに燃えて、元凶──勇者王ディルムッドの愛人ヘレナを睨みつけました。
ここは色とりどりの花々が咲き誇る庭園、王宮で最も美しい場所です。
しかし、その花々が霞むほど、燃えるような赤いドレスを纏ったヘレナの美貌は、存在感を放っていました。
「何を怒っているのかしら? 神聖なる王宮に、その汚らわしい魔物が紛れ込んだから、焼き払っただけですわ」
ヘレナは白い喉を反らして、せせら笑います。
「ミィナは魔物などではありません! 見た目は少し変わっているかもしれませんが……この子は誰一人傷つけたことのない、優しい心を持った子なのですよ!」
「まあ、魔物を庇うとは。【大地の聖女】様ともあろうお方が、乱心したのかしら? そこを、お退きなさい。私の炎で、その汚らわしい魔物にトドメを刺して差し上げますわ」
ヘレナが指を鳴らすと、ボワァッ! と音を立てて、彼女の足元から紅蓮の炎が噴き上がりました。
周囲の花々が、まるでゴミ屑のように一瞬で灰になります。
まるで自分以外の全てが無価値だとでも言わんばかりの態度です。
この冷酷非情な女性が、かつては人々を導く【火の聖女】であったなどとは、到底信じられません。
しかも、10代を過ぎて聖女の資格を失ったはずなのに、未だにこれほど強力な火の力を保持しているとは、明らかに異常でした。
「ヘレナ様! ユリシア様は、間もなく陛下の正式な妃となられる御方ですぞ!?」
「ど、どうかお鎮まりください……!」
衛兵たちが駆けつけ、ヘレナを制止しようと声を張り上げます。
だけど、誰もヘレナを力尽くで拘束しようとはしません。
ヘレナの後ろ盾である勇者王の権勢を恐れているだけではありません。
単純な武力でヘレナに敵わないことを、誰もが理解しているのです。
ヘレナは、その気になればミィナを一瞬で炭にできたはず。なのに、そうしなかったのは……ミィナを嬲り殺しにして、わたくしが苦しむ様を楽しむため。そして、なにより──
「それとも【大地の聖女】様は、そのような魔物を庇って、この私に逆らうと? そんな方が、偉大なる勇者王ディルムッド陛下の妃に、ふさわしいとお思いなのかしら?」
──こうして、わたくしを人前で貶め、屈辱を与えるためです。
「妃の地位など、固辞すべきですわ! 早々に王宮から消えなさい、陰気な錬金術娘!」
勇者王の寵愛が、わたくしに移ることを恐れ、妬んで、こんなことをしているのは火を見るより明らかです。
この女性の嫉妬の炎は、国さえ焼き滅ぼしかねませんわ。
ですが、ここで引き下がる訳には参りません。ミィナのためにも、この国の未来のためにも。
わたくしは背筋を伸ばし、ヘレナを真っ直ぐに見据えました。
「はい、わたくしは、次代の王たるレオン殿下の妃にこそ、ふさわしいと確信しておりますわ」
「……なんですって?」
ヘレナの完璧に整えられた眉が、驚きに吊り上がりました。
「民が黒死病に喘いでいる時に、平然と回復薬の価格を5倍に吊り上げるような暴君は、王座にふさわしくありません! 早々に退位なさるべきです!」
わたくしは勇気を振り絞って、ディルムッド陛下と、彼を操るヘレナを断罪しました。
「そして! 聖女の資格を失いながらも勇者王陛下に取り入り、私利私欲のために国を危うくするヘレナ殿! あなたこそ、この王宮から立ち去るべきですわ!」
「ふ、ふふ……あはははは! まさかディルムッド陛下を、公然と侮辱するとはね! 命知らずにも程があるわ! たとえ【大地の聖女】であろうと、ただで済むと思わないことね!」
ヘレナは底知れぬ悪意に満ちた笑みを浮かべました。
しかし、わたくしも退く気はありません。
「厳罰を受けるのは、あなたですわヘレナ殿! ヘレナ商会を通じて得たお金で、良からぬ者たちを雇っているそうですね! それで、自分にとって不都合な者を秘密裏に抹殺しているとか!?」
これまでヘレナから数々の嫌がらせを受けてきましたが、やられっぱなしだった訳ではありません。
レオン王子と密かに連携し、水面下でヘレナを調査をしてきたのです。
すべてはヘレナを断罪し、聖王国に巣食う闇を祓うために。
3年前、故国ヴェリディアで宰相の謀反に遭い、囚われの身となったわたくしを救ってくださったのが、親善大使として訪れていたレオン王子でした。
あの日、わたくしたちは互いの理想を語り合い、未来を誓い合ったのです。
レオン王子の妃として、民が心から笑える国を作る。わたくしには、その覚悟が、とうにできています。
「何を証拠にそのようなことを? ふっ、まぁ、良いです。罰として、あなたの顔に一生消えない呪いの火傷を刻み付けてやりますわ! そうすればディルムッド陛下にかわいがっては、もらえないでしょう!」
ヘレナの全身から業火が噴き出しました。
嫉妬と憎悪が形を成したかのような灼熱の奔流が、わたくしに襲いかかります。
「……目覚めよ大地よ!」
とっさに両手を地面につけ、祈りを込めます。わたくしの力に応え、大地が轟音と共に隆起し、分厚い土壁となって立ちはだかりました。
これならば、どんな炎であろうと防げるはず……
「えっ!?」
だけど、次の瞬間、信じられないことが起こりました。ヘレナの炎は、わたくしの土壁をまるで紙のように、いともたやすく穿ったのです。
「あははははッ! 【大地の聖女】の力など、しょせんは、この程度!」
万事休すと思った時でした。
「【氷結】!」
凛とした少女の声が響き、世界が変わりました。
背後から放たれた冷凍波が、ヘレナの炎を一瞬にして凍てつかせ、霧散させたのです。
中庭を満たしていた灼熱の空気は、吐く息も白くなるほどの極寒へと急変し、足元の地面までもがパキパキと音を立てて凍り付いていきます。
「なっ……!? こ、この魔法は!?」
「ふぅ……危なかったわね。念のため、少し冷やしすぎちゃったかしら」
いつの間にか、隣にハッと見惚れるほどの美少女が立っていました。
雪原に咲く一輪の花のような、儚さと強さを同居させた美貌。月光を溶かし込んだかのような銀髪が、風にさらりと揺れます。
その存在感は、ヘレナとは全く質の異なる、清らかで圧倒的なものでした。
「何者です!? この私を、元【火の聖女】ヘレナと知っての狼藉ですか!?」
ヘレナが驚愕と屈辱に顔を歪ませて叫びました。
「あなたがヘレナ? ふんっ、私は【水の聖女】アンジェラよ」
「な、なに……?」
「アンジェラ様!」
レオン王子が、大慌てで駆けつけて来ました。
その様子を見て、わたくしはこの方が、本物の【水の聖女】アンジェラ様だと確信しました。
黒死病の蔓延から聖王国を救った、歴代最高の聖女。
究極の回復薬【エリクサー】の大量生産という歴史的偉業を成し遂げた、憧れの存在です。
わたくしも錬金術の知識を総動員して、黒死病の治療薬の開発を試みましたが、実現することは叶いませんでした。
「アンジェラ様! わたくしは【大地の聖女】ユリシアと申します! お会いできて光栄です!」
思わず、感極まって声を上げてしまいました。
「あっ、本物のユリシア!? ……って、かわい【飛び猫】ちゃんが、ひどい火傷じゃないの!?」
アンジェラ様は、わたくしの腕の中のミィナを覗き込みました。
【飛び猫】ちゃん……? まさか、ヴェリディア公国の【人工生命体】のことをご存知なのでしょうか?
「さっ、【エリクサー】よ。これを飲んで元気になってちょうだい!」
アンジェラ様は究極の回復薬を取り出すと、ミィナの口元に振りかけました。
「みゃあああ!」
「あっ! ミ、ミィナ!?」
眩い光と共に、ミィナの身体がふわりと浮き上がります。
痛々しかった火傷は跡形もなく消え去り、弱っていた瞳に力強い光が戻ります。
ミィナは一声高く鳴くと、わたくしの顔にすり寄ってきました。
「ま、まさか、ミィナにまで慈悲かけていただけるなんて……!」
「当然よ。あなたにとって、ミィナはかけがえのない家族なのでしょう? ……あっ、ここは本来、レオンが助けるべき場面だったかしら?」
アンジェラ様は、小首を傾げて呟きました。
「そ、そこまでご存知で……! やはりアンジェラ様は、全てお見通しなのですね! さすがは真の聖女様!」
もしかして、わたくしとレオン王子が相思相愛であることまで、ご存知でいらっしゃる?
な、なんてお優しく、そして聡明な方なのでしょうか。きっと、わたくしとヴェリディア公国のこと、ミィナのことまで、事前に心を砕いて調べてくださっていたに違いありませんわ。
「えっと、まあ……私は真の聖女なんて言われるような者じゃないから、その呼び方はやめて欲しいんだけど」
なぜか、アンジェラ様はバツが悪そうにしていました。
どうやら、噂通り、謙虚なお方のようです。このような完璧な存在がこの世にいるなんて、感動を禁じ得ません。
「貴重な【エリクサー】を、貧民だけでなく、あんな魔物にまで与えるとは……反吐が出るわ、水の聖女アンジェラ!」
ヘレナが忌々しげにアンジェラ様を睨みつけました。
アンジェラ様は、凍てつくような冷たい視線をヘレナに向けます。
「ヘレナ。あなたには、ずいぶんと手厚い『歓迎』をしてもらったわね。あまりに礼儀知らずなお出迎えだったから、使者の男を一人捕らえて『教育』してあげたわよ」
「な、なに……? まさか」
さっきまでの傲岸不遜な態度はどこへやら。ヘレナの顔が、蒼白になりました。
焼け焦げた匂いが鼻をつきます。
腕の中で、小さな命が弱々しく震えていました。
わたくしはヴェリディア公国の公女にして【大地の聖女】ユリシア、15歳。
王宮の中庭で、わたくしは今にも事切れそうな親友──【飛び猫】のミィナを必死に抱きしめました。
「……なんて、酷いことを……! ヘレナ様、これはどういう……ッ!?」
声が震えます。
腕の中のミィナが「……みゃぅ」と小さく鳴きました。
ミィナは7年前にわたくしが錬金術で生み出すことに成功してから、片時も離れず、心を分かち合ってきた翼を持つ猫──わたくしの【人工生命体】です。
わたくしにとっては、家族も同然の存在。それを、こんな……!
わたくしは怒りに燃えて、元凶──勇者王ディルムッドの愛人ヘレナを睨みつけました。
ここは色とりどりの花々が咲き誇る庭園、王宮で最も美しい場所です。
しかし、その花々が霞むほど、燃えるような赤いドレスを纏ったヘレナの美貌は、存在感を放っていました。
「何を怒っているのかしら? 神聖なる王宮に、その汚らわしい魔物が紛れ込んだから、焼き払っただけですわ」
ヘレナは白い喉を反らして、せせら笑います。
「ミィナは魔物などではありません! 見た目は少し変わっているかもしれませんが……この子は誰一人傷つけたことのない、優しい心を持った子なのですよ!」
「まあ、魔物を庇うとは。【大地の聖女】様ともあろうお方が、乱心したのかしら? そこを、お退きなさい。私の炎で、その汚らわしい魔物にトドメを刺して差し上げますわ」
ヘレナが指を鳴らすと、ボワァッ! と音を立てて、彼女の足元から紅蓮の炎が噴き上がりました。
周囲の花々が、まるでゴミ屑のように一瞬で灰になります。
まるで自分以外の全てが無価値だとでも言わんばかりの態度です。
この冷酷非情な女性が、かつては人々を導く【火の聖女】であったなどとは、到底信じられません。
しかも、10代を過ぎて聖女の資格を失ったはずなのに、未だにこれほど強力な火の力を保持しているとは、明らかに異常でした。
「ヘレナ様! ユリシア様は、間もなく陛下の正式な妃となられる御方ですぞ!?」
「ど、どうかお鎮まりください……!」
衛兵たちが駆けつけ、ヘレナを制止しようと声を張り上げます。
だけど、誰もヘレナを力尽くで拘束しようとはしません。
ヘレナの後ろ盾である勇者王の権勢を恐れているだけではありません。
単純な武力でヘレナに敵わないことを、誰もが理解しているのです。
ヘレナは、その気になればミィナを一瞬で炭にできたはず。なのに、そうしなかったのは……ミィナを嬲り殺しにして、わたくしが苦しむ様を楽しむため。そして、なにより──
「それとも【大地の聖女】様は、そのような魔物を庇って、この私に逆らうと? そんな方が、偉大なる勇者王ディルムッド陛下の妃に、ふさわしいとお思いなのかしら?」
──こうして、わたくしを人前で貶め、屈辱を与えるためです。
「妃の地位など、固辞すべきですわ! 早々に王宮から消えなさい、陰気な錬金術娘!」
勇者王の寵愛が、わたくしに移ることを恐れ、妬んで、こんなことをしているのは火を見るより明らかです。
この女性の嫉妬の炎は、国さえ焼き滅ぼしかねませんわ。
ですが、ここで引き下がる訳には参りません。ミィナのためにも、この国の未来のためにも。
わたくしは背筋を伸ばし、ヘレナを真っ直ぐに見据えました。
「はい、わたくしは、次代の王たるレオン殿下の妃にこそ、ふさわしいと確信しておりますわ」
「……なんですって?」
ヘレナの完璧に整えられた眉が、驚きに吊り上がりました。
「民が黒死病に喘いでいる時に、平然と回復薬の価格を5倍に吊り上げるような暴君は、王座にふさわしくありません! 早々に退位なさるべきです!」
わたくしは勇気を振り絞って、ディルムッド陛下と、彼を操るヘレナを断罪しました。
「そして! 聖女の資格を失いながらも勇者王陛下に取り入り、私利私欲のために国を危うくするヘレナ殿! あなたこそ、この王宮から立ち去るべきですわ!」
「ふ、ふふ……あはははは! まさかディルムッド陛下を、公然と侮辱するとはね! 命知らずにも程があるわ! たとえ【大地の聖女】であろうと、ただで済むと思わないことね!」
ヘレナは底知れぬ悪意に満ちた笑みを浮かべました。
しかし、わたくしも退く気はありません。
「厳罰を受けるのは、あなたですわヘレナ殿! ヘレナ商会を通じて得たお金で、良からぬ者たちを雇っているそうですね! それで、自分にとって不都合な者を秘密裏に抹殺しているとか!?」
これまでヘレナから数々の嫌がらせを受けてきましたが、やられっぱなしだった訳ではありません。
レオン王子と密かに連携し、水面下でヘレナを調査をしてきたのです。
すべてはヘレナを断罪し、聖王国に巣食う闇を祓うために。
3年前、故国ヴェリディアで宰相の謀反に遭い、囚われの身となったわたくしを救ってくださったのが、親善大使として訪れていたレオン王子でした。
あの日、わたくしたちは互いの理想を語り合い、未来を誓い合ったのです。
レオン王子の妃として、民が心から笑える国を作る。わたくしには、その覚悟が、とうにできています。
「何を証拠にそのようなことを? ふっ、まぁ、良いです。罰として、あなたの顔に一生消えない呪いの火傷を刻み付けてやりますわ! そうすればディルムッド陛下にかわいがっては、もらえないでしょう!」
ヘレナの全身から業火が噴き出しました。
嫉妬と憎悪が形を成したかのような灼熱の奔流が、わたくしに襲いかかります。
「……目覚めよ大地よ!」
とっさに両手を地面につけ、祈りを込めます。わたくしの力に応え、大地が轟音と共に隆起し、分厚い土壁となって立ちはだかりました。
これならば、どんな炎であろうと防げるはず……
「えっ!?」
だけど、次の瞬間、信じられないことが起こりました。ヘレナの炎は、わたくしの土壁をまるで紙のように、いともたやすく穿ったのです。
「あははははッ! 【大地の聖女】の力など、しょせんは、この程度!」
万事休すと思った時でした。
「【氷結】!」
凛とした少女の声が響き、世界が変わりました。
背後から放たれた冷凍波が、ヘレナの炎を一瞬にして凍てつかせ、霧散させたのです。
中庭を満たしていた灼熱の空気は、吐く息も白くなるほどの極寒へと急変し、足元の地面までもがパキパキと音を立てて凍り付いていきます。
「なっ……!? こ、この魔法は!?」
「ふぅ……危なかったわね。念のため、少し冷やしすぎちゃったかしら」
いつの間にか、隣にハッと見惚れるほどの美少女が立っていました。
雪原に咲く一輪の花のような、儚さと強さを同居させた美貌。月光を溶かし込んだかのような銀髪が、風にさらりと揺れます。
その存在感は、ヘレナとは全く質の異なる、清らかで圧倒的なものでした。
「何者です!? この私を、元【火の聖女】ヘレナと知っての狼藉ですか!?」
ヘレナが驚愕と屈辱に顔を歪ませて叫びました。
「あなたがヘレナ? ふんっ、私は【水の聖女】アンジェラよ」
「な、なに……?」
「アンジェラ様!」
レオン王子が、大慌てで駆けつけて来ました。
その様子を見て、わたくしはこの方が、本物の【水の聖女】アンジェラ様だと確信しました。
黒死病の蔓延から聖王国を救った、歴代最高の聖女。
究極の回復薬【エリクサー】の大量生産という歴史的偉業を成し遂げた、憧れの存在です。
わたくしも錬金術の知識を総動員して、黒死病の治療薬の開発を試みましたが、実現することは叶いませんでした。
「アンジェラ様! わたくしは【大地の聖女】ユリシアと申します! お会いできて光栄です!」
思わず、感極まって声を上げてしまいました。
「あっ、本物のユリシア!? ……って、かわい【飛び猫】ちゃんが、ひどい火傷じゃないの!?」
アンジェラ様は、わたくしの腕の中のミィナを覗き込みました。
【飛び猫】ちゃん……? まさか、ヴェリディア公国の【人工生命体】のことをご存知なのでしょうか?
「さっ、【エリクサー】よ。これを飲んで元気になってちょうだい!」
アンジェラ様は究極の回復薬を取り出すと、ミィナの口元に振りかけました。
「みゃあああ!」
「あっ! ミ、ミィナ!?」
眩い光と共に、ミィナの身体がふわりと浮き上がります。
痛々しかった火傷は跡形もなく消え去り、弱っていた瞳に力強い光が戻ります。
ミィナは一声高く鳴くと、わたくしの顔にすり寄ってきました。
「ま、まさか、ミィナにまで慈悲かけていただけるなんて……!」
「当然よ。あなたにとって、ミィナはかけがえのない家族なのでしょう? ……あっ、ここは本来、レオンが助けるべき場面だったかしら?」
アンジェラ様は、小首を傾げて呟きました。
「そ、そこまでご存知で……! やはりアンジェラ様は、全てお見通しなのですね! さすがは真の聖女様!」
もしかして、わたくしとレオン王子が相思相愛であることまで、ご存知でいらっしゃる?
な、なんてお優しく、そして聡明な方なのでしょうか。きっと、わたくしとヴェリディア公国のこと、ミィナのことまで、事前に心を砕いて調べてくださっていたに違いありませんわ。
「えっと、まあ……私は真の聖女なんて言われるような者じゃないから、その呼び方はやめて欲しいんだけど」
なぜか、アンジェラ様はバツが悪そうにしていました。
どうやら、噂通り、謙虚なお方のようです。このような完璧な存在がこの世にいるなんて、感動を禁じ得ません。
「貴重な【エリクサー】を、貧民だけでなく、あんな魔物にまで与えるとは……反吐が出るわ、水の聖女アンジェラ!」
ヘレナが忌々しげにアンジェラ様を睨みつけました。
アンジェラ様は、凍てつくような冷たい視線をヘレナに向けます。
「ヘレナ。あなたには、ずいぶんと手厚い『歓迎』をしてもらったわね。あまりに礼儀知らずなお出迎えだったから、使者の男を一人捕らえて『教育』してあげたわよ」
「な、なに……? まさか」
さっきまでの傲岸不遜な態度はどこへやら。ヘレナの顔が、蒼白になりました。
1
あなたにおすすめの小説
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~
eringi
ファンタジー
「役立たず」と呼ばれ、貴族家を追放された少年エリアス。
すべてを失った彼が辿り着いたのは、見捨てられた古の神殿。
そこで眠っていた「神剣」ルミナと「女神」セリアに出会い、隠された真の力――“世界の法則を書き換える権能”を得る。
学院で最底辺だった少年は、無自覚のまま神々と王族すら凌駕していく。
やがて彼の傍らには、かつて彼を見下した者たちが跪き、彼を理解した者たちは彼に恋をする。
繰り返される“ざまぁ”の果てに、無自覚の英雄は世界を救う。
これは、「追い出された少年」が気づかぬうちに“世界最強”となり、
女神と共に愛と赦しとざまぁを与えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる