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26話。食い意地のおかげで勇者王の罪の証拠を掴む
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「ええッ!? ちょっと何でよ!?」
お腹いっぱいで大満足になった私は、シェフ(料理長)に会ってお礼を述べようと厨房にやってきた。
何よりも、私の心を虜にした魅惑の『ピリリと痺れる刺激物』の正体を突き止めたかったのよ。
なのに、なのに……!
「シェフが、クビになって王宮から追放ですって!? なんで……!? どうしてそんな理不尽がまかり通るのよっ!?」
「も、申し訳ございません、聖女様! 我々ではどうすることも……!」
私の剣幕に料理人たちが、平謝りで頭を下げる。
聞けば、つい先ほど勇者王の命令で、シェフは、王宮から叩き出されたというじゃない。
まさか、勇者王がパーティー中に席を外したのは、このためだったの……?
意味がわからないというか、なんていうことをしてくれたのよ!
「料理に入っていたあの痺れる万能調味料の正体を知りたいと思っていたのに!? シェフはどこ!? どこに行ったの!? まだ近くにいる筈よね!?」
「そ、それは……我々には……!」
料理人たちは、真っ青になって言葉を失っている。
「アンジェラ様、どうされたのですか?」
騒ぎを聞きつけて、レオンとユリシアがやって来た。
「聞いてよ! 私、シェフにお礼を言いたかったのに勇者王が追放したって!? あの痺れる調味料についてシェフに尋ねるがいい、って言っていたクセにこの仕打ちはあんまりじゃないの!?」
「た、確かに、あまりにも不自然ですね……父上がそのような不可解な行動を取るとは」
レオンが眉根を寄せた。
ユリシアもこくりと頷き、戸惑い気味に口を開く。
「気になっていたのですが、その痺れる刺激物とは? わたくしの料理には、そのようなスパイスは入っておりませんでしたが?」
すると料理人たちが、ビクリと身を震わせた。
それを見て、ユリシアの目つきが鋭くなる。
「……アンジェラ様は、昼間、殺し屋に襲われたと伺いました。もしかすると、今回の件と何か繋がりがあるのではないでしょうか? アンジェラ様にお出しした料理の残りがあるようでしたら、わたくしに成分分析させていただけませんか?」
「そ、それは……!」
料理人たちは、なぜか口をつぐんで後ずさる。
「そのご様子では、調べられると困ることがお有りのようですね?」
うん? どういうこと?
「ま、まさか……シェフが、アンジェラ様の毒殺を企てた!?」
レオンがハッとしたように目を見開く。
「えっ、ど、毒殺……ですって?」
私は度肝を抜かれた。
「おまえたち、知っていることがあれば、正直にすべて話せ!」
「も、ももも申し訳ございません! 救世主である【水の聖女】様に、とんだご無礼を!」
料理人の1人が、床に手をついた。
「じ、実は料理長より、アンジェラ様にお出しする全てのお料理とお酒に、『特製のスパイス』を入れるように、命じられておりました! その詳細は我々も知らされておりませぬが、お、おそらくは……毒物かと!」
「なんですってぇええ!?」
まさか、毒が入っていたなんて、まったく気づかなかったわ。
「なるほど、アンジェラ様は、そのことにお気づきになり、真相を確かめるために厨房へといらっしゃったのですね?」
ユリシアがポンと手を叩いた。
えっ、全然違うけど……?
「まさか、父上までアンジェラ様の暗殺に加担していたなんて……! も、申し訳ありません、アンジェラ様!」
レオンがものすごい勢いで頭を下げてきた。
「えっ!? い、いいって、私は無事だし、気にしていないから」
「ありがとうございます! このお詫びは、必ずさせていただきます。ですが、今は……!」
レオンは興奮した面持ちで続ける。
「これはチャンスでもあります。実行犯のシェフの証言と物証を得ることができれば、父上の罪を糾弾できます!」
「はい! そうなれば、これまで日和見を決め込んでいた聖騎士や諸侯のほとんどが、レオン様の正義の旗の下に馳せ参じてくれるでしょう! 陛下を、王の座から引きずり降ろすことも夢ではありませんわ!」
「あっ……し、しかし、アンジェラ様、ご体調は大丈夫なのですか!?」
「その通りです! いかに回復魔法に優れた【水の聖女】様といっても!?」
レオンとユリシアが、私の顔を心配そうに覗き込む。
話が突然大きくなって、戸惑っていた私は、慌てて釈明する。
「えっ、ま、まあ。こんなこともあろうかと、【エリクサー】を持ち歩いるから、問題無いわ!」
「さすがはアンジェラ様! 父上の打つ手など、お見通しでしたか!?」
「そ、そうよ!」
そんなことは、まったく全然、無かったけど、私は思い切り胸を張ってドヤった。
その時、腰布の通信魔導具からヴェロニカの声が響いてきた。
「アンジェラ様、ご報告いたします! そのシェフですが、繁華街の裏路地で兵に襲われております。今、ワイズ様の手の者が護衛中です!」
「ヴェロニカ!? グッジョブよ!」
どうやら、厨房での話を聞いて、すぐにワイズおじちゃんが動いてくれたようね。
彼の配下は、嗅覚に優れた野良犬たちよ。
「今の声は!? ロイド商会の者が動いてくれているのですか?」
「そうよ。シェフの居場所を突き止めてくれたようね」
「では、すぐに助けに参りましょう! 勇者王陛下は、必ずやシェフの口を封じようとなさるはずですわ」
ユリシアが強い口調で促す。
「もちろんっ! あの絶品料理を生み出せる料理長を死なせるなんて、世界の損失だわ! 絶対に助けるわよ!」
私たちは厨房を飛び出し、一目散に繁華街を目指した。
不審に思った王宮の警備兵たちに何度も制止されそうになったけれど、そんなもの、ガン無視して突っ走る!
「なっ、なんて脚力だ……!」
レオンは肩で息をしながら、必死に私の後を追ってきた。
「アンジェラ様、その先の道を右です! 急いでください!」
ヴェロニカの誘導に従って、暗い路地を疾風のように駆け抜ける。
すると前方で、武装した兵たちが、犬に噛まれて悲鳴を上げていた。
その中心で、恰幅の良いコックコート姿の男性が、尻餅をついているのが見える。
「あっ、彼がシェフね!」
「はい! アンジェラ様、お気を付けて!」
ヴェロニカが叫ぶ。
兵士の一人が、シェフに向かって無慈悲に剣を振り上げた。
「させないわよ!」
私はその兵士の腕を狙って冷凍魔法を放つ。
「【氷弾】!」
氷の礫が命中し、一瞬にして分厚い氷塊が兵士の腕を覆った。
「う、腕がぁああ!?」
私は悶絶するその男の脇腹に、飛び蹴りを叩き込んだ。
ドゴォッ! という鈍い音と共に、男は壁に叩きつけられ、白目を剥いて崩れ落ちる。
ふぅ~、どうやら、彼らはふつうの兵士みたいね。殺さないように手加減するのが、難しいわ。
「あ、あなた様は……!?」
呆然としているシェフに、私はニッコリと微笑みかけた。
「私は水の聖女アンジェラよ! あなたを助けに来たわ!」
「なに!? み、【水の聖女】様が、なぜこのような場所に!?」
私の一言に、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた。
「お前たち、一体ここで何をしているのだ! 恥を知れ!」
「レ、レオン王子!?」
息を切らせて追いついてきたレオンが、鋭く詰問する。
「シェフを殺そうとしていたな! 父上の指示か!?」
「し、知りません! 我々は何も……!」
「ことはアンジェラ様の暗殺に関わることだぞ! 自分たちが何をしたのか、わかっているのか!?」
「なっ、なんだって!?」
詳細を教えられていなかったのか、兵士たちは驚愕に身を硬直させた。
「お前たちの中にもアンジェラ様の【エリクサー】に、自分の命を! なにより家族を救われた者がいる筈だ! その恩を仇で返そうと言うのか!?」
王子の剣幕に、シェフがガクガクと震えながら頭を垂れた。
「も、申し訳ございません、レオン王子! そして、【水の聖女】様! 陛下の命令で、やむを得ず……!」
「やはり、父上の指示で、アンジェラ様に毒を盛ったというのだな!?」
「さ、左様でございます……! そうしなければ、私の妻子を殺すと脅され……ううっ……!」
大粒の涙を流して懺悔するシェフ。なるほど、そういうことだったのね。
「まったく、勇者の風上にも置けない卑劣な男ね、あの王様は。でも、もう安心なさい。あなたとあなたの家族の身柄は、この私率いるロイド商会が責任を持って預かるわ」
「【水の聖女】様……!? ま、まさか、このような大罪を犯した私を、お許しくださるとおっしゃるのですか!?」
料理長が信じられないといった顔で私を見上げる。
「許すもなにも、あなが作ってくれた料理は最高だったわ。王宮を解雇されたのなら好都合よ。私のロイド商会で、シェフとして雇ってあげるわ」
そうすれば、あの絶品料理がまた食べられる!
彼の腕前は、魔王城のシェフより数段上だから、これからの毎日が楽しくなるわ。
「わ、私は……なんということを……!? こんなにもお優しきお方を殺そうとしていたのか……!?」
シェフは、その場に突っ伏して号泣し始めた。
「……それで、あのピリリと舌が痺れる刺激物だけど、アレは何かしら?」
「……あ、あれは……アルカイド茸の神経毒でございます。まず口腔が麻痺し、その麻痺が瞬く間に全身に及び、心肺を停止させる、即効性の猛毒にございます」
はぁ? アレってば、そんか危険な毒だった訳……?
「その……お、お召し上がりになって……ご無事でございますか? あのような致死量を……?」
シェフが、この世の終わりのような顔で私を見つめた。
「わ、私は【エリクサー】を持ち歩いているから、全然へっちゃらよ!」
全力で誤魔化しておく。
本当は、魔王の状態異常耐性のおかげなんだけどね!
「さすがはアンジェラ様! 慈愛に溢れた見事なお沙汰、感動いたしました!」
気がつくと、レオンだけでなく、シェフを殺そうとしていた兵士たちまで、敬服したような目を向けてきた。
「これが本物の聖女様……!」
「敵にまで手を差し伸べるとは、なんと素晴らしきお方なんだ!」
えっ……? 私はただ、美味しい料理が食べたかっただけなんだけど?
「懺悔します! 我らの罪をお許しください【水の聖女】様!」
「はぁっ? いいって、いいって……!」
兵士たちは跪き、私に許しを請うてきた。
慌てて手を振って、彼らに気にしなくて良いと伝える。
「実際にシェフを殺した訳じゃないでしょう!?」
「その通りですが……! ああっ、なんと慈しみに満ちたお方なんだ!」
兵士たちは、感動に身を震わせて、私を見つめてきた。
「よし! 父上の犯罪の決定的な証拠を掴めたぞ! アンジェラ様、本当にありがとうございます! これで、聖騎士団と貴族のほとんどが僕の味方になってくれるはずだ!」
レオン王子は、勝利を確信したように拳を握りしめた。
どうやら、私の食い意地が、思わぬ形で勇者王を打倒する手助けになってしまったようね。
まっ、結果オーライといったところかしら。
お腹いっぱいで大満足になった私は、シェフ(料理長)に会ってお礼を述べようと厨房にやってきた。
何よりも、私の心を虜にした魅惑の『ピリリと痺れる刺激物』の正体を突き止めたかったのよ。
なのに、なのに……!
「シェフが、クビになって王宮から追放ですって!? なんで……!? どうしてそんな理不尽がまかり通るのよっ!?」
「も、申し訳ございません、聖女様! 我々ではどうすることも……!」
私の剣幕に料理人たちが、平謝りで頭を下げる。
聞けば、つい先ほど勇者王の命令で、シェフは、王宮から叩き出されたというじゃない。
まさか、勇者王がパーティー中に席を外したのは、このためだったの……?
意味がわからないというか、なんていうことをしてくれたのよ!
「料理に入っていたあの痺れる万能調味料の正体を知りたいと思っていたのに!? シェフはどこ!? どこに行ったの!? まだ近くにいる筈よね!?」
「そ、それは……我々には……!」
料理人たちは、真っ青になって言葉を失っている。
「アンジェラ様、どうされたのですか?」
騒ぎを聞きつけて、レオンとユリシアがやって来た。
「聞いてよ! 私、シェフにお礼を言いたかったのに勇者王が追放したって!? あの痺れる調味料についてシェフに尋ねるがいい、って言っていたクセにこの仕打ちはあんまりじゃないの!?」
「た、確かに、あまりにも不自然ですね……父上がそのような不可解な行動を取るとは」
レオンが眉根を寄せた。
ユリシアもこくりと頷き、戸惑い気味に口を開く。
「気になっていたのですが、その痺れる刺激物とは? わたくしの料理には、そのようなスパイスは入っておりませんでしたが?」
すると料理人たちが、ビクリと身を震わせた。
それを見て、ユリシアの目つきが鋭くなる。
「……アンジェラ様は、昼間、殺し屋に襲われたと伺いました。もしかすると、今回の件と何か繋がりがあるのではないでしょうか? アンジェラ様にお出しした料理の残りがあるようでしたら、わたくしに成分分析させていただけませんか?」
「そ、それは……!」
料理人たちは、なぜか口をつぐんで後ずさる。
「そのご様子では、調べられると困ることがお有りのようですね?」
うん? どういうこと?
「ま、まさか……シェフが、アンジェラ様の毒殺を企てた!?」
レオンがハッとしたように目を見開く。
「えっ、ど、毒殺……ですって?」
私は度肝を抜かれた。
「おまえたち、知っていることがあれば、正直にすべて話せ!」
「も、ももも申し訳ございません! 救世主である【水の聖女】様に、とんだご無礼を!」
料理人の1人が、床に手をついた。
「じ、実は料理長より、アンジェラ様にお出しする全てのお料理とお酒に、『特製のスパイス』を入れるように、命じられておりました! その詳細は我々も知らされておりませぬが、お、おそらくは……毒物かと!」
「なんですってぇええ!?」
まさか、毒が入っていたなんて、まったく気づかなかったわ。
「なるほど、アンジェラ様は、そのことにお気づきになり、真相を確かめるために厨房へといらっしゃったのですね?」
ユリシアがポンと手を叩いた。
えっ、全然違うけど……?
「まさか、父上までアンジェラ様の暗殺に加担していたなんて……! も、申し訳ありません、アンジェラ様!」
レオンがものすごい勢いで頭を下げてきた。
「えっ!? い、いいって、私は無事だし、気にしていないから」
「ありがとうございます! このお詫びは、必ずさせていただきます。ですが、今は……!」
レオンは興奮した面持ちで続ける。
「これはチャンスでもあります。実行犯のシェフの証言と物証を得ることができれば、父上の罪を糾弾できます!」
「はい! そうなれば、これまで日和見を決め込んでいた聖騎士や諸侯のほとんどが、レオン様の正義の旗の下に馳せ参じてくれるでしょう! 陛下を、王の座から引きずり降ろすことも夢ではありませんわ!」
「あっ……し、しかし、アンジェラ様、ご体調は大丈夫なのですか!?」
「その通りです! いかに回復魔法に優れた【水の聖女】様といっても!?」
レオンとユリシアが、私の顔を心配そうに覗き込む。
話が突然大きくなって、戸惑っていた私は、慌てて釈明する。
「えっ、ま、まあ。こんなこともあろうかと、【エリクサー】を持ち歩いるから、問題無いわ!」
「さすがはアンジェラ様! 父上の打つ手など、お見通しでしたか!?」
「そ、そうよ!」
そんなことは、まったく全然、無かったけど、私は思い切り胸を張ってドヤった。
その時、腰布の通信魔導具からヴェロニカの声が響いてきた。
「アンジェラ様、ご報告いたします! そのシェフですが、繁華街の裏路地で兵に襲われております。今、ワイズ様の手の者が護衛中です!」
「ヴェロニカ!? グッジョブよ!」
どうやら、厨房での話を聞いて、すぐにワイズおじちゃんが動いてくれたようね。
彼の配下は、嗅覚に優れた野良犬たちよ。
「今の声は!? ロイド商会の者が動いてくれているのですか?」
「そうよ。シェフの居場所を突き止めてくれたようね」
「では、すぐに助けに参りましょう! 勇者王陛下は、必ずやシェフの口を封じようとなさるはずですわ」
ユリシアが強い口調で促す。
「もちろんっ! あの絶品料理を生み出せる料理長を死なせるなんて、世界の損失だわ! 絶対に助けるわよ!」
私たちは厨房を飛び出し、一目散に繁華街を目指した。
不審に思った王宮の警備兵たちに何度も制止されそうになったけれど、そんなもの、ガン無視して突っ走る!
「なっ、なんて脚力だ……!」
レオンは肩で息をしながら、必死に私の後を追ってきた。
「アンジェラ様、その先の道を右です! 急いでください!」
ヴェロニカの誘導に従って、暗い路地を疾風のように駆け抜ける。
すると前方で、武装した兵たちが、犬に噛まれて悲鳴を上げていた。
その中心で、恰幅の良いコックコート姿の男性が、尻餅をついているのが見える。
「あっ、彼がシェフね!」
「はい! アンジェラ様、お気を付けて!」
ヴェロニカが叫ぶ。
兵士の一人が、シェフに向かって無慈悲に剣を振り上げた。
「させないわよ!」
私はその兵士の腕を狙って冷凍魔法を放つ。
「【氷弾】!」
氷の礫が命中し、一瞬にして分厚い氷塊が兵士の腕を覆った。
「う、腕がぁああ!?」
私は悶絶するその男の脇腹に、飛び蹴りを叩き込んだ。
ドゴォッ! という鈍い音と共に、男は壁に叩きつけられ、白目を剥いて崩れ落ちる。
ふぅ~、どうやら、彼らはふつうの兵士みたいね。殺さないように手加減するのが、難しいわ。
「あ、あなた様は……!?」
呆然としているシェフに、私はニッコリと微笑みかけた。
「私は水の聖女アンジェラよ! あなたを助けに来たわ!」
「なに!? み、【水の聖女】様が、なぜこのような場所に!?」
私の一言に、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた。
「お前たち、一体ここで何をしているのだ! 恥を知れ!」
「レ、レオン王子!?」
息を切らせて追いついてきたレオンが、鋭く詰問する。
「シェフを殺そうとしていたな! 父上の指示か!?」
「し、知りません! 我々は何も……!」
「ことはアンジェラ様の暗殺に関わることだぞ! 自分たちが何をしたのか、わかっているのか!?」
「なっ、なんだって!?」
詳細を教えられていなかったのか、兵士たちは驚愕に身を硬直させた。
「お前たちの中にもアンジェラ様の【エリクサー】に、自分の命を! なにより家族を救われた者がいる筈だ! その恩を仇で返そうと言うのか!?」
王子の剣幕に、シェフがガクガクと震えながら頭を垂れた。
「も、申し訳ございません、レオン王子! そして、【水の聖女】様! 陛下の命令で、やむを得ず……!」
「やはり、父上の指示で、アンジェラ様に毒を盛ったというのだな!?」
「さ、左様でございます……! そうしなければ、私の妻子を殺すと脅され……ううっ……!」
大粒の涙を流して懺悔するシェフ。なるほど、そういうことだったのね。
「まったく、勇者の風上にも置けない卑劣な男ね、あの王様は。でも、もう安心なさい。あなたとあなたの家族の身柄は、この私率いるロイド商会が責任を持って預かるわ」
「【水の聖女】様……!? ま、まさか、このような大罪を犯した私を、お許しくださるとおっしゃるのですか!?」
料理長が信じられないといった顔で私を見上げる。
「許すもなにも、あなが作ってくれた料理は最高だったわ。王宮を解雇されたのなら好都合よ。私のロイド商会で、シェフとして雇ってあげるわ」
そうすれば、あの絶品料理がまた食べられる!
彼の腕前は、魔王城のシェフより数段上だから、これからの毎日が楽しくなるわ。
「わ、私は……なんということを……!? こんなにもお優しきお方を殺そうとしていたのか……!?」
シェフは、その場に突っ伏して号泣し始めた。
「……それで、あのピリリと舌が痺れる刺激物だけど、アレは何かしら?」
「……あ、あれは……アルカイド茸の神経毒でございます。まず口腔が麻痺し、その麻痺が瞬く間に全身に及び、心肺を停止させる、即効性の猛毒にございます」
はぁ? アレってば、そんか危険な毒だった訳……?
「その……お、お召し上がりになって……ご無事でございますか? あのような致死量を……?」
シェフが、この世の終わりのような顔で私を見つめた。
「わ、私は【エリクサー】を持ち歩いているから、全然へっちゃらよ!」
全力で誤魔化しておく。
本当は、魔王の状態異常耐性のおかげなんだけどね!
「さすがはアンジェラ様! 慈愛に溢れた見事なお沙汰、感動いたしました!」
気がつくと、レオンだけでなく、シェフを殺そうとしていた兵士たちまで、敬服したような目を向けてきた。
「これが本物の聖女様……!」
「敵にまで手を差し伸べるとは、なんと素晴らしきお方なんだ!」
えっ……? 私はただ、美味しい料理が食べたかっただけなんだけど?
「懺悔します! 我らの罪をお許しください【水の聖女】様!」
「はぁっ? いいって、いいって……!」
兵士たちは跪き、私に許しを請うてきた。
慌てて手を振って、彼らに気にしなくて良いと伝える。
「実際にシェフを殺した訳じゃないでしょう!?」
「その通りですが……! ああっ、なんと慈しみに満ちたお方なんだ!」
兵士たちは、感動に身を震わせて、私を見つめてきた。
「よし! 父上の犯罪の決定的な証拠を掴めたぞ! アンジェラ様、本当にありがとうございます! これで、聖騎士団と貴族のほとんどが僕の味方になってくれるはずだ!」
レオン王子は、勝利を確信したように拳を握りしめた。
どうやら、私の食い意地が、思わぬ形で勇者王を打倒する手助けになってしまったようね。
まっ、結果オーライといったところかしら。
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