魔王少女の勘違い無双伝~中二病をこじらせて、配下の人間も守る誇り高き悪のカリスマムーブを楽しんでいたら、いつの間にか最強魔王軍が誕生していた

こはるんるん

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31話。勇者王に勝利する

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 ウォオオオオンッ!

 耳をつんざく狼獣人の咆哮が、私の腰から轟いた。
 これは特殊な音波で、人間の恐怖心を煽り、数秒間動けなくするワイズおじいちゃんの奥の手よ。

「なぁ……っ!?」

 勇者王をはじめとしたその場の全員が、動きを止めた。

 この好機に、私は氷の魔剣を振りかざし、その切っ先に全魔力を集中させる。

「覚悟なさい、勇者王!」

 勇者王ディルムッドの纏う鉄壁の【オーラ】は健在。でも万物を斬り裂く【絶対零度剣】アブソリュートゼロでなら、ヤツの防御を突破できるわ。
 私は渾身の力を込めて突っ込む。

「はぁあああッ!」
「げはっ……!?」

 私の斬撃は、勇者王を吹っ飛ばして、壁に叩きつけた。
 奴の右肩から血飛沫が飛ぶと同時に、傷口が瞬時に凍結し、見るも無残な凍傷が広がる。

「うごぉ!?」

 さらに、裏切り者の聖騎士に手刀を喰らわせて気絶させた。

「レオン……!」

 同時に、【エリクサー】を取り出してレオンの口に注ぐ。

「……ぼ、僕よりもユリシアを」
「もちろん、同時にやっているわ!」

 私は闇の回復魔法【ダーク・ヒール】を発動。黒き癒しの輝きが、虫の息だったユリシアを優しく包み込んだ。
 よし、ギリギリ二人を救えたわ。

「【水の聖女】、き、貴様、今のは……!」

 その隙に、聖剣を拾って勇者王ディルムッドが立ち上がった。

「紛れもなく狼獣人の咆哮! それに闇の回復魔法とは……ど、どういうことだ!?」

 さすがに高レベルの勇者は、一撃じゃ倒せないみたいね。
 しかも、その質問は私にとって、致命的に都合が悪いわ。

「ご無事でございますか、アンジェラ様!」
「ジェラルド、ちょうど良かったわ!」

 そこに、手駒にした殺し屋のリーダー、ジェラルドが配下と共に駆けつけてきた。

「ユリシアを安全なところへ。ロイド商会まで連れて行ってちょうだい!」
「はっ!」

 誰が敵かもわからない王宮内にユリシアを置いてはおけないからね。

「さあ、【大地の聖女】様、こちらへ。我らが命に代えても、お守りいたします」
「……はい。今のわたくしでは、アンジェラ様とレオン様の足手まといになるばかりですものね」

 ユリシアは、ジェラルドの差し伸べた手を取って立ち上がる。
 思い切り痛めつけられた彼女は、まだ足元が覚束無いようだけど、私たちにエールを送ってくれた。

「レオン様、どうかご武運を! アンジェラ様、本当に、本当にありがとうございました!」
「ユリシア、待っていてくれ。僕は今日、ここで父上を……勇者王ディルムッドを打ち倒す!」

 レオンが剣の切っ先を、勇者王ディルムッドに突きつけた。

「誤魔化すな、【水の聖女】よ!」

 ディルムッドの鋭い視線が、再び私を射抜く。

「答えよ! 余は、聖女ともあろう者が、魔族と通じているのかと聞いておるのだ!」

 ぐっ……! なんて嫌な質問なの。
 うまい言い訳を考えつくことができず、私は押し黙る。
 怖くてレオンとユリシアの顔が、見られないじゃないのよ。

「いや、そもそも貴様は本当に……!」
「父上、僕たちを疑心暗鬼にさせるのが狙いなら、くだらない策です!」

 レオンが、私を庇うように前に出た。

「アンジェラ様こそ、誰よりも気高い聖女の中の聖女! そして何より……僕とユリシアの、かけがえのない友人です!」
「その通りですわ。ディルムッド陛下」

 ユリシアもまた、毅然とした揺るぎない声でレオンに賛同した。

 私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねる。

 レオンもユリシアも一瞬の迷いもなく、私を『友人』だと言ってくれた。
 魔族と通じているかもしれない、そんな疑惑の渦中にいるこの私を……

 私はユリシアに向き直って告げた。

「……ユリシア。ロイド商会で、この戦いの決着がつくまで待っていて。大丈夫、すぐに終わらせるから」
「はい、アンジェラ様! どうか、ご無事で……」
「そしたら……その、ちゃんと全部話すわ。私のこと!」

 ユリシアは私に向かって、コクリと頷いた。

「さっ、ユリシア様」

 それを見届けると、ジェラルドがユリシアを抱きかかえる。風のような身のこなしで、彼は壁に穿たれた穴から飛び出て行った。

「……これで何の憂いもなく、思いっきり戦えるわ!」

 私の正体と目的を話したら、ユリシアには嫌われてしまうかも知れない。軽蔑されるかも知れない。

 だけど、私のことを友人と言ってくれたレオンとユリシアには、ちゃんと誠実に向き合いたい。
 じゃないと、きっと私は一生後悔するわ。

 私の目指す悪とは、誇り高き者なのだから。

「調子に乗るな小娘が! 人質がいなくなった程度で、この勇者王に勝てるとでも……!」
「もちろん、勝てるわ!」

 私は絶対の自信を持って断言した。

「美学も誇りも持たない三流の悪役が、悪のカリスマであるこの私に勝てる道理なんて、これっぽっちも無いのよ!」
「余が三流の悪役だと……?」
「そうよ。見せてやるわ、【暴風雪】ブリザード!」

 放ったのは、生きとし生ける者を死に至らしめる強烈な猛吹雪。
 ユリシアを巻き込むことを恐れて使えなかった最上級氷魔法よ。

「ぐぉ!?」
「これが真の悪の力よ!」

 勇者王は【オーラ】の出力を全開にして耐える。
 しかし、極低温の冷気は、【オーラ】を透過して、彼の肉体を蝕み、【凍結】の状態異常を引き起こす。

 状態異常攻撃まで防げないことこそ、【オーラ】の致命的弱点よ。
 なにより、この氷の嵐は、【オーラ】の防壁を削りきって、奴に直接ダメージを与えた。

「バカなぁ!?」

 私はその隙に、間合いを詰め、【絶対零度剣】アブソリュートゼロを振りかざした。
 【凍結】の状態異常は、軽度であっても身体の動きを鈍くする。これなら……!

「剣で、余に勝てるか!」
「父上!」

 勇者王が無理やり聖剣を叩き付けてこようとした瞬間だった。
 レオンが猛然と剣を投げつけた。

 それをガードするために、勇者王の斬撃が致命的に遅れる。

「レオン、貴様ぁ……!」
「この魔王アンジェラの前にひれ伏しなさい、勇者王ディルムッド!」
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