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4章。ホムンクルスのルーチェ

49話。幼馴染、ヘルメスにロイの素晴らしさを語りまくる

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 まさか、ティアからロイを評価する言葉が聞けるとは思わなかった。

「わ、わかった。考えておく……」

 驚きのあまり、つい良く考えずに答えてしまう。

「はい、ありがとうございます!」

 ティアは目をキラキラさせて、俺を見上げた。

「ロイは、普段はぼぅーっとしているような一見すると冴えない奴なんですけど、スゴイ努力家ですから! どうか、見捨てないで長い目で見てあげてください!」
「そ、そうか……」

 なんか、複雑な言われようだな。

「へぇ~、ロイの奴もいっぱしの錬金術師になっていたんだな」
「ティアちゃんから推薦されて、ヘルメス様のお仲間になれるなんて、うらやましいぜぇ!」

 村人たちも、口々に俺のことを噂した。
 困ったな。ロイが【ドラニクル】が入る流れになったら、正体を隠すのに不都合だ。ここはやんわりと断る方向に持っていかないと……

「ただ、【ドラニクル】のメンバーは、竜機シリーズの主──操縦者候補のみの少数精鋭なんだ。操縦者候補は女子に限られるし、錬金術の助手は今のところ求めていないんだ」
「はい。私がマスターの錬金術の助手も務めます」

 ルーチェが声を上げる。ナイスアシストだ。

「ぐっ! 聖女であるだけでなく、錬金術の技術まであるっていうの!?」
「はい。マスターの助けになるべく創造されたのが、私です。機神ドラグーンをサポートする【聖竜機バハムート】の主でもあります」

「なんですって!? ぐ、ぐゃじぃいいい! ちょっと、かわいくて聖女で、ヘルメス様に造られたからって、いい気にならないでよ! 錬金術に限って言えば、アンタなんかよりロイの方が断然、上なんだからね!」
「な、なにを根拠にそんなことを……?」

 思わず口を挟んでしまった。

「ロイは失敗作ですけど、魔力を通すと空を飛べる腕輪も作っているんです! これって、他には無いモノですよね? それに冒険者としての腕前もSランク級だと、ランディが言っていました!」

 ティアは腕を振り上げて力説する。

「それに追放をした私のことも助けてくれる、イイ奴なんです! 絶対に絶対に、その娘よりも、ロイの方がお役に立てると思います! アイツは、私の自慢の幼馴染なんです!」
「お、おぅ……」

 まさかの賞賛に、口ごもってしまう。
 自慢の幼馴染? そんな言葉がティアの口から聞けるとは思わなかった。

「……残念ですが、それは有り得ません。私はマスターの錬金術をサポートするためにも造られました。知識、技術は、マスターのそれを受け継いでいます。いわばマスターの直弟子です」
「えっ……ヘルメス様の直弟子ですって? ぐぅううううッ!」

 反論できずに、ティアは拳を震わせた。

「で、でも、もし二人目の助手が必要になったら、ぜひロイに声をかけてあげてください。あいつは、これからもっとスゴイ錬金術師になるハズですから! この私が保証します!」
「そうか、ありがとう。ロイのことは覚えておくよ」
「はい、ありがとうございます!」

 ティアは勢いよく頭を下げる。
 ロイへの評価がこんなにも上がっているとは思わなかった。
 それにまさかロイのことを考えて、ヘルメスにロイを推薦してくれはとはな……
 
 子供の頃、まだ聖女ともてはやされる前のティアのことを思い出した。あの頃のティアは、他人を思いやれる優しい娘だった。
 自分の無力さを知り、窮地をみんなの力を借りて乗り越えたことで、ティアはあの頃の心を取り戻しつつあるのかも知れない。

「それでヘルメス様、私のドラニクル入隊の件なんですけど……一応、今回、かなり私も活躍できちゃった訳ですし、条件を緩めてくれるとありがたいかなぁ、なんて!」

 ティアは上目遣いで、そんなことを言ってくる。

「むぅっ! ティア、あなた図々しいわよ!」
「肯定です。それとこれとは話が違うと思いますが?」

 シルヴィアと、ルーチェがティアを咎めるように睨んだ。

「悪いがそれはできない」

 ちゃっかりしているところは、相変わらずだった。思わず苦笑してしまう。

「ヘルメス様! 大変です! 大変なことがわかりましたわ!」

 その時、レナ王女が大声を上げながら駆け込んできた。
 みんなの注目が集まる。

「レナ、どうしたんだ?」
「遅くなって申し訳ありません! それよりもゼバルティア帝国です! 帝国騎士団、及び、帝国の村落は今回のダンジョン出現で一切の被害を受けていないことが、わかりましたわ。悪魔の襲撃は、帝国の計略である可能性が高いです!」

 俺を含めたその場の全員が衝撃を受けた。
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