【機神の錬金術師】「無能のあんたが憧れの錬金術師なわけない!」と俺を振った幼馴染。俺が結婚したかった人だと知り死ぬほど後悔してるがもう遅い

こはるんるん

文字の大きさ
53 / 75
5章。ルーチェと合体する

53話。異端審問官を平伏させる

しおりを挟む
 宗教国家エーリュシオン教国のトップである教皇の居城──カタリナ大聖堂の前に、機神ドラグーンは降り立った。

「は、はゎ~っ、やっぱりスゴいわ……」

 ティアが壮麗に連なった尖塔を見上げて、感嘆の息を吐く。

 カタリナ大聖堂は、第一級の芸術家たちが造営した世界最大の聖堂だ。荘厳さにおいて比類ない上に、城としての堅牢さも備えている。
 例え魔物の軍勢に襲われても、中に収容した人々を守り抜けるように造られていた。

 俺はハッチを開いて、機神ドラグーンの外に出る。

「おおっ、お待ち申しておりました。ヘルメス様!」

 聖騎士団を伴って、門前で待っていてくれたジオス枢機卿が歓迎してくれた。

「こ、これが噂の機神ドラグーン!」
「なんと……っ! 彼女が聖女ルーチェ様か!?」

 整列した聖騎士たちから、どよめきが上がる。
 ルーチェの放つ神々しさに、早くも魅力されてしまったようだ。

「むっ、私も聖女なんですけどぉ……」

 ティアが不満げに呟くが、ジオス枢機卿たちの視線はルーチェに釘付けだった。

「それでは、すぐに教皇様のところに案内してください」
「はい。こちらへ。歩きながらお話しましょう」

 聖騎士団に囲まれながら、俺たちは大聖堂の奥へと案内される。

「実は、教皇聖下の治療に当たる者は、教理省長官のラムザ枢機卿が厳しく選別しておりまして……私どもは教皇聖下にお目通りすることも、難しくなっているのです」
「そんなことが……?」

 教理省とは異説・異端の審問や、神の教えを広めることを目的とした部署だ。
 その発言力は、かなり強いとは噂で聞いていた。

「……ですが、直接お会いして確信を深めました。聖女ルーチェ様こそ、まさに神の御使い! 彼女なら教皇聖下にお目通りも叶うでしょう」

 ジオス枢機卿は興奮した様子でルーチェを見つめる。

「まさにその通り!」
「ルーチェ様からは、教皇聖下に勝るとも劣らない清らかなオーラを感じます! はっ、い、いやこれは教皇聖下に対して不敬でした……」

 聖騎士のひとりが口を滑らせた。
 教皇は確か、大聖女の称号を持つ女の子だった。父なる神に選ばれた、地上でもっとも神に近い存在という触れ込みで、教皇に選ばれた。
 その教皇にも勝るなどと言えば、さすがに問題発言だろう。

「お待ちあれ、ジオス枢機卿。恐れ多くも、教皇聖下の寝所に部外者を連れ込もうとは、いかなる了見ですかな?」
「ラムザ枢機卿!?」

 その時、物々しく武装した集団を引き連れて、神経質そうな顔をした男が現れた。
 集団が手にしているのは、ノコギリ刃、トゲ付きの鞭など、人を殺すための武器ではなく、痛めつけるための拷問器具だ。

「この人たち……まさか教理省・異端審問官!?」

 ティアが恐怖にのけぞった。
 神の教えに反した異端者を、拷問や処刑にかける異端審問官の悪名は世界中に轟いている。
 彼らはみな顔を隠し、物騒な空気を醸し出していた。

「……俺はアーディルハイド王国のレナ王女の婚約者ヘルメスです。信徒として、教皇様を病からお救いしに来たのですが?」

 変な難癖をつけられてはたまらない。俺は機先を制して声をかけた。

「そうであるぞ、ラムザ枢機卿。ヘルメス様は、教皇庁に多額の献金をされている信徒の中の信徒。しかもこちらのルーチェ殿は、かなりの力を持つ聖女であることを確認しています。何の咎があって、道をふさぐのですかな?」
「わ、私も聖女よ! い、一応……!」

 そんな俺たちの主張を、ラムザ枢機卿は鼻で笑った。

「これは笑わせる。錬金術師ヘルメス殿、あなたには異端の嫌疑がかけられている。そこのルーチェなる少女は、錬金術で造られたホムンクルスであるな?」
「なんと……!」

 ジオス枢機卿や聖騎士団が、鼻白んだ。
 まさか、もうそんな情報を掴んでいるとは驚きだった。

「神ならぬ者が、生命を創造する。これ、すなわち神への冒涜なり! ヒャハハハハハッ! ただで死ねると思うなよクソ異端者!」

 ラムザ枢機卿が、悪鬼のごとき形相で叫んだ。
 
「何が聖女だ。人心を惑わす魔女め! 判決、死刑! 異端審問官ども、その娘を処分しろ!」
「はっ! 死ねい、罪に穢れた魔女めが!」

 異端審問官たちが、一斉にルーチェに襲いかかる。

「なっ!? やめろ!」

 俺はルーチェの前に立ち塞がった。バフ魔法を自分にかけて、異端審問官たちの首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。
 ここで彼らを殺傷したら、それこそ神敵扱いはまぬがれない。そうなれば、最悪の事態だ。

「父なる神は御座にて、すべてを御覧になっておられます。もし、その娘が、まことに神に選ばれた聖女であるなら、必ず救いの御手を差し伸べるハズ。それが無いということは、救うに値しない罪人ということです」

 陶酔するようにラムザ枢機卿が告げた。
 クソっ、敵の数が多い上に全員、手練だ。手加減した状態では、対応しきれないぞ。俺は異端者審問官たちを昏倒させながら、歯噛みする。

「と、とととんでもない屁理屈だわ! ひどすぎじゃないの!?」

 ティアが思わず反論する。
 ラムザ枢機卿の論法を使えば、気に入らない者を葬ることをいくらでも正当化できるだろう。

「ヘルメス様、私も加勢します! こらっ! 私は聖女ティアよ! 聖女なのよ!」
「よせ! ティアまで魔女扱いされるぞ!」
「もう、遅い。教皇庁教理省は、聖女ティアの聖女認定を取り消す。異端者と魔女を庇う、貴様も罪に穢れた魔女だ! 懺悔しながら死ね、小娘めぇえええ!」

 ラムザ枢機卿が傲慢に顔を歪めて絶叫した。

「えっ、ちょ、ちょっと……!?」

 ティアが気圧されて、あとずさる。
 その時、ルーチェに武器を突き付けた異端審問官たちが、突如、動きを止めた。

「何? どうしたお前たち……?」

 ラムザ枢機卿が訝しむ。

「あっ、うわぁあああ……!」

 異端審問官らは床にひざまずいて、ルーチェを感激の目で見つめた。

「天使、まさに天使だ……っ!」
「駄目だ。このお方を傷つけることはできない!」
「何!? お、お前たち、まさか魔女に、たぶらかされたのか!? 神敵を目前にして、何をやっているのだ!?」

 ラムザ枢機卿が怒号を上げるが、彼の部下たちは動かなかった。
 ひざまずく異端審問官たちは、天使に許しを乞う敬虔な信者そのものだ。

「あんたの言う通り、神が救いの御手を差し伸べてくれた、ということじゃないか?」

 俺はラムザ枢機卿の前に歩み出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...