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「俺達、少し行きたい所があって」


 用意してもらった朝食を一緒に食べた後、アルミオがそう言うのでどこへ行くのかと訊くとアルミオ達が今までいた所だと言うので俺達も付いて行く事にした。と言わないのが俺達の予想通りだったけど……。
 アルミオが先導して歩く後ろをイルムと手を繋いで歩く。イルムは本当に小さくて小学校一年生くらいの背なのかなあって感じなので、つい構いたくなってしまう。子供と触れ合う事って無かったから新鮮な感じだ。


 着いた場所は第六街区に近い第五街区の居住地区にある公園の様になっている広場の端の方で、低木などが多数植えられている場所だった。その中でもひっそりと人目に付かなさそうな場所の密集した低木の根本付近に、中に入り込める様な狭い空間があってボロボロの板が敷いてあり、彼らはここをねぐらに生活していたのが判る。イルムなら完全に隠れられる感じだ。

「ここに居たんだね……」
「はい、家から出ないといけなくなってからは……」

 しばらくは父親が蓄えてくれていたお金で家賃を払う事が出来ていたが、長期間はやはり難しく底を付いてからは家財や服を売ったりだとかで少しは凌いでいたらしい。やっぱりそれも時間の問題で家を失った後、居住地区に点在する広場を転々としている時にここを見つけてからはここに居たと……。

「ちょっと待っててください」

 そう言ってアルミオは敷いていた板を剥がし、その板を使って地面を掘り出した。二十センチくらい掘ってもまだかかりそうだったので代わりに土魔法でやってあげた。地中に箱を埋めているそうなので出て来い、と念じる。

「これ?」
「はい、これです。有難うございます」

 アルミオは出て来たボロボロの小さな木箱を開け、中から袋を取り出す。何だろうと思って訊いたら、中身を見せてくれた。
 出て来たのは少し汚れた冒険者証とくすんでしまっているが花と葉の形の金の台座に赤や緑などの小さな宝石で装飾された髪飾り。誰の物かなんて訊かなくてもすぐに判る。


「これだけは、どうしても……手放す事が出来なくて」

 呟いたアルミオは大事そうにそっと握っていた。







++++++





 宿屋に戻る前に、屋台に寄って昼食を買う。アルミオとイルムはベンチで待っていてもらってソランツェと二人で買いに行く。

「何か食べたいものある?」
「俺あのパンがいい!」
「! イルム!」

 希望を聞くと、イルムはあのパンと言うので俺があげたやつ?と尋ねると元気よくうん!と帰って来た。よしよし、おじさんが買ってあげるからな!弟の無邪気さに慌てるアルミオには気付かない振りで行こう。

「あれ美味しいよな~!」
「うん!」
「イルム……」
「お前はもう少し図々しく生きた方がいいかもな」

 ソランツェがアルミオの肩をポンと叩いていた。今は諦めろと言う様に。


 早速買いに行くと、店のおじちゃんに顔を覚えられていた様で三つ買うとちょっと多めに具材をサービスしてもらえた。

「わぁ、ありがとうございます!」
「そりゃ、別嬪さんにはサービスしとかねぇとな!」

 おぉぅ……ありがとよ……。愛想笑いで店を後にする。ここで、じゃあもっとくれないと~!、とかって冗談言えればいいのかもしれないけど俺は無理だなあ……。微妙な表情をしている俺を見てソランツェがクックッと笑っているのが憎たらしい。
 あとは、アルミオの分とソランツェの分のスピアディアの肉串とダスカという鳥の肉串とプレーンな丸パンを買う。

「スープとかも屋台で売ってくれたらいいのにな」
「どうやってだ?」
「スープ用の紙カップとか……ないか……」

 家からカップとか鍋持ってきたらそれに入れてあげるとか?今も普通の飲み物とかは水筒みたいなのに入れてもらうって形だし。屋台とかってやりたいって思えば誰でも出来るのかな?ちょっとやってみたいなあ。


 ベンチに戻って、みんなで食べる。紙皿大活躍です。
 ダスカの肉串は例のごとく塩味が足りないけど、噛み応えのある肉で結構美味しい方。塩をかけると炭火焼の焼鳥って感じでかなり美味しくなったので、なぜ塩をかけないんだ?と思う。もしかして、自分で味付け前提なのかな?な訳ないよなあ……勿体ない。

 イルムはパンを食べて喜んで、串から取り外して味付けしてあげたダスカの肉を食べて喜んでとニコニコしていて笑顔が可愛い。アルミオやテッドさん達に囲まれてこの笑顔のまま育って行って欲しいな。
 まあ、アルミオからしたら少し複雑な思いもあるかもしれないけど、なんて考えながらプレーンの丸パンを食べるとめちゃくちゃパサパサモソモソだった……。

「パサパサしてる……」
「ハズレだったな」

 どうやら屋台のパン屋はハズレがあったりするらしい。なんてこった。
 具材を挟んだ方のパンは漬けダレ+野菜とかの水分でしっとりしているのもあってかそんな事なかったから気にしてなかった。
 まだ二個もあるんだけど……。水分ないと結構厳しい感じなので、スープに浸してとかでならいけそう。スープ欲しいなあ。

「よし」
「どうした?」

 頭の中で、以前作った時の作業工程を思い浮かべて完成まで思い浮かべる。脳内調理とでも言おうか。フレンチシェフのレシピ本見ながらチキンブイヨン作ってから作ったアレ。飴色玉ねぎ頑張ったんだよ。料理ってたまに凝りたくなるんだよな餃子とかスパイスカレーとか麻婆豆腐とか。麻婆豆腐はピーシェン豆板醤じゃないと。そういえば、亜空間収納の中に入ってたな。使いかけ持って来てたんだった。でも、豆腐が無いんだよなあ。食べたいな、麻婆豆腐。豆腐どっかにないかな?作る?大豆もそうだけど、にがりってどこで手に入るんだ?海?海行けば魔法でどうにかなるかな?大豆、大豆なあ……うーん……

「リヒト?」
「リヒト兄ちゃん?」

 あ、「よし」って言って腕組んだまま止まってた。脳内調理したスープ出そうとしてたんだった。ソランツェとイルムがどうしたの?って顔で同じ方向に首を傾げているのが可愛いなあ。

「ごめん。これ出そうとして固まってた」

 パチンと指を鳴らせば、飴色玉ねぎのオニオンスープが入った鍋と木製スープカップ&スプーンが四人分。スープカップと木製スプーンは亜空間収納の中の木材から勝手に作られたらしい。マジでクソ便利だな。
 アルミオはソランツェを見て目で何か訴えている様だがソランツェはただ頷いてスープを手渡していた。

「リヒト兄ちゃんこれ何?」
「オニオンスープだよ。ちょっとお行儀悪いけどパンを浸して食べると美味しいよ」

 パンを千切り、ほら、と食べて見せるとイルムもすぐに真似をする。

「おいしい!これリヒト兄ちゃんが作ったの?」
「そうだよ。作ってたの仕舞っておいたんだ~」
「すごい!」

 ――という事にしておく。
 美味しい!美味しい!と喜ぶイルムとは別の二人分の視線が突き刺さるが知らん知らん。


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