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1章
付喪神の少女
しおりを挟む「たのも~」
朽ち果てた木製の大きな門前で、雪華さんが大声で呼びかける最中、私はその傍らでうつ伏せになり力尽きていた。
石段の段数こそ数えてはいないものの、おおよそ十五分は登りっぱなしだったか。
石段下を覗き込めば、先程の豪勢な焚き火がまるで豆粒のように小さく見える。
閉ざされた門は至る所に亀裂が入っていて、苔はおろか草まで生えている箇所が見受けられる。
朽ちているもののこのどっしりと構えた大きな門、果たしてこの向こうにどんな家があるのか。
「たのも~」
一向に返ってこない返事に首を傾げたかと思えば、再び大声で呼びかける。
もしかして留守?
雪華さんの様子を見てそう思った時、閉ざされた門が鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。
かなり重いのか人一人がかろうじて通れる程度に開けば、なにやら変わった女の子が顔を覗かせた。
この子が海山、だろうか……?
見た目は小学五、六年生ほど。先程会った朔夜って子と歳はあまり変わらなそうに見える。
艶やかな光沢が映える前髪は綺麗に切り揃えられていて、フードで若干見づらいものの髪の長さはギリギリ肩にかかる程度のショート。
その目つきには気怠さが伺えて、不意な来客に対して厄介だと主張するようなオーラが伺える。
なにが変わってるかと言えば、その服装。
上に羽織っているチャックが全開の黒いパーカーには猫の肉球のデザインが施されていて、被っているフードにはこれまた可愛らしい猫の顔が描かれている。
もちろん、耳まで付いている拘り様。
パーカーの下に着ているのはピンクのパジャマで、猫のシルエットが散りばめられた柄であるあたり、超が付くほどの猫好きで間違いはないだろう。
変わっているというか違和感というか、その格好にはまるでこの世界の雰囲気に逆らっているような異質さがあり、どこか親しみを感じられずにはいられなかった。
「……一度呼べばわかりますよ。何度も呼ばないでください」
溜息混じりに、表情通りの言葉が漏れ出る。
それに対抗するように、雪華さんが間髪を入れずに質問を紡ぐ。
「客人を待たせる方が悪いわい。で、海山はどこにおる?」
軽く背伸びをしながら、その女の子の後方を覗くような素振りを見せつつ尋ねる。
どうやら、この子は海山という人ではないらしい。
「海山様は死狂草の採集のため外出しています。ご用件があれば私が承りますが、いかがしますか?」
容姿に似合わない大人じみた言葉遣いで、雪華さんとの話が進んでいく。
「うむ……出来れば海山が適任なんじゃが。ほれ、こういうことなんじゃが」
唐突に雪華さんが私の肩に手を掛けるなり、動揺する間も無くその女の子の前へと差し出された。
互いの視線が合致してどこか気まずさを覚える中、疑心を含んだ様子で女の子が口を開く。
「……座敷童子がどうかしたんですか?」
またしても座敷童子と間違えられ、流石にショックを受けて泣きそうになるものの、雪華さんが気休めの慰めとばかりに頭を撫で回す。
むしろ、こうなれば座敷童子を直に見てみたいという興味すら湧いてきた。
「……人間じゃ。それも迷子のな?」
静かに告げられたその言葉を聞いた途端、あれだけ無表情を貫いていた女の子が目を見開き、顔色を変えた。
「そんな、馬鹿な……」
明らかな動揺を示し言葉を詰まらせるその様子に見兼ねたのか、右手を女の子の元へと差し伸し、そのまま額を指先で強く押す。
「それを究明するのがお主に課す任務じゃ。このまま元の世界へ戻したところで再びこちらへ来るのが関の山。何としても原因を突き止めよ」
淡々と、その女の子へ任務を与える。
私はこの時初めて、この雪華という人に抱いていた疑問を少しは理解できた気がした。
この人は恐らく、勘が鋭いという枠組みで捉えるのではなくて、相手の立場に立って考えることが得意なタイプとみるべきだろう。
駅を訪ねてきた時もそう。
きっと、思いやりが強過ぎるあまり相手の考えてることまで察するくらいに勘が研ぎ澄まされているのかも知れない。
「……わかりました、手は尽くします。ただ過去の情報も含め洗いざらい調べないといけません……時間が掛かりますからそのつもりで」
「一晩で頼む。明日は大事な要件があるからの」
急な無茶振りに大きな溜息が漏れ出るも、どうやら少女からしたら日常茶飯事らしく、渋々頷いて承諾してくれた。
「報酬、それ相応にお願いしますね。それと……人間様への挨拶が未だでしたね」
雪華さんに撫でられ、明らかに解せないと言いたげな表情を見せているその女の子が、私と改めて視線を合わせるなりその手を払い除け改まる。
「私は鬼柳院海山様の助手を務めさせてもらってます、椿と申します。付喪神歴はまだまだ短い不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」
これまたしっかりした丁寧な言葉遣いで、椿ちゃんが一礼する。
本来なら付喪神という単語に大きな反応を示しただろうけど、その気も起きないあたり完全に感覚が麻痺していることをしみじみと感じた。
「そういえば雪華さんにもまだ自己紹介してませんでしたね。私は浅葱雫と言います。よろしくお願いしますね」
あまりしっかりとした自己紹介する機会がなかったため少し照れ臭く挨拶するも、なぜか私の名前を聞くなり二人揃って驚く素振りを見せた。
「……聞きましたか、雪華さん」
「うーむ、まさかこんな偶然があるとはの」
意味深な一言を口にする雪華さん、それに同調するように椿ちゃんが頷く。
「え、何…どういうこと?」
意味がわからず混乱を覚え、どういうことかと仕切りに尋ねるものの、明らかにはぐらかされてしまう。
それどころか椿ちゃんへ黙秘するよう、人差し指を唇へ添えるようなジェスチャーまでしている始末。
「まぁ、これは言ってしまったらつまらんからのぅ。お楽しみというやつじゃ」
「それでは本堂へ案内します、ついてきてください」
案内を開始する椿ちゃんに、後を追うように逃げる雪華さん。
「いやいやいや!めっちゃ気になるんですけど!」
一向に晴れないもやもやに声を荒げるも、今はただなす術なくついていくしかなかった。
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