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「俺は医務室へ直接行ってくる。イリヤ、念の為に結界を」
「わかった」
神官いなくなるとオースティンはイリヤにそう頼んで部屋を出て行った。
神子の話を聞いてから、全身の震えが止まらない。
見えない悪意が迫って来るような感覚に両腕で自分を抱き締める。怖くて仕方ない。
不安から呼吸がどんどん浅くなっていく。息苦しいのに深く空気を吸おうとしても、上手く出来ない。
指先が痺れ、頭がぼんやりしてくる。
意識が薄れそうになった時、強い力に抱きしめられた。
「大丈夫だよ。アオイくんは私たちがちゃんと守るから」
ーーイリヤさん……
天蓋の中に戻って来たイリヤに抱き締められ、ゆっくりと背中を撫でられる。
「心配しないで。ずっとそばにいるからね。大丈夫だよ」
イリヤの穏やかな声と温かな体温を感じていると、背中からも抱き締められた。
「俺もいるぞ。何があってもアオイを守ってやる」
ーーオースティンさん……
気付かないうちに戻って来ていたらしく、オースティンは後ろから抱き締めながら、あやすように頬を撫でてくれた。
2人の優しさに包まれながら、だんだんと呼吸も整い始める。
ゆっくり顔を上げると、蒼と紅の瞳が優しくこちらを見ていた。
また2人に心配を掛けてしまった。
「もう、大丈夫、です……。すみませんでした」
申し訳なさに頭を下げると、ちゅっと音を立てて左頬に口付けられた。イリヤだ。
何で今またキスされたんだろう?
驚く僕の思考を読んだようにイリヤは形の良い口唇をニヤリとあげて悪戯っぽく笑う。
「私たちに謝るの禁止ね、アオイくん。謝ったら罰としてキスするから。もちろん、本当に悪いことしたら謝ってもいいよ」
その時は違う罰になるけどね? とイリヤに囁かれた。
反応に困っているうちに逆の頬にキスが落ち、低く甘い声を耳に吹き込まれる。
「俺からもするからな」
頬を抑えてオースティンを見上げると、こちらも揶揄うような目をしている。
居た堪れずに顔を伏せると、2人は示し合わせたように声を上げて笑った。
◇◇◇
オースティンが連れて来たのは、優しそうな年配の男性だった。医務官と紹介されたが、医者のことだろうか。
イリヤの手で再びシャツを脱がされ、患部を曝け出される。
「これは……少し触りますよ」
皮膚の変色具合に少し目を見張られ、触診が行われる。
「幸い、内臓に傷はついてなさそうですが。背中もみせてください」
そう言われて背を向けると、診察を見守っていたイリヤとオースティンが息を飲んだ。2人の表情から背中の酷さも窺い知れた。
汚いものを見せてしまったというバツの悪さと怪我の理由を聞かれるだろう憂鬱さにため息が溢れる。
「下も見せてもらえますか」
医務官の言葉にイリヤは眉を顰めながら、ベルトを外し脱がせてくれた。
足にも古いものから新しいものまで無数のあざが残っている。
改めて見ると、自分の足ながら気持ち悪い。
しかし、医務官は表情を変えることなく、触診をすすめていき、全てのあざに触れ終えると、優しげに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これなら綺麗に治ります」
「本当ですか」
「ええ。治療しますので、ベッドから降りてこちらへ立ってください。ーーオースティン様、鞄をとって頂けますか」
医務官はオースティンから鞄を受け取ると、中からドライフラワーみたいなものを何種類か取り出した。
「傷ついたところが少し熱くなるかもしれませんが、すぐに治ります」
そう言って医務官は僕の周囲にドライフラワーを撒き、聞き取れない言葉を呟き始める。
すると、乾燥していた花たちが次々に生花に戻り、光りながら舞い上がった。
フラワーシャワーに見惚れていると、医務官が言う通り全身がじんわりと熱くなる。お風呂に浸かっているような、癒されるような熱だ。
全ての花が舞い落ちると医務官はにっこり笑って、治療の終了を告げた。
「もう大丈夫ですよ。ただ、体力が落ちているようですので、2、3日は栄養のあるものを食べ、安静にして下さい」
「ありがとうございました」
お礼を伝えると、医務官はいえいえと穏やかに手を振り、床に残った花弁を拾おうとした。しかし、その前にイリヤが風を起こし、全ての花を医務官の手の中へ集めてしまう。
「これはこれは。さすがでございますね、イリヤ様。助かりました」
「こちらこそ、アオイくんがお世話になりました」
医務室まで送るというオースティンの申し出を断り、医務官は部屋を出て行った。
改めて全身を見ると、あれだけ酷かった痣は綺麗に消えている。一番酷かった腹部を触っても痛みはない。
「魔法って凄いんですね……」
「彼の腕が良いのもあるけどね。ーーそれじゃあ、怪我も治ったことだし、脱いだついでにお風呂に行こうか」
そう言って伸びてきた腕をかわして、さっき連れて行かれたバスルームへ駆け込んだ。
3度目のお姫様抱っこを回避出来たことで安心していたが、その代わりとばかりに2人がかりで全身洗われることになった。
「わかった」
神官いなくなるとオースティンはイリヤにそう頼んで部屋を出て行った。
神子の話を聞いてから、全身の震えが止まらない。
見えない悪意が迫って来るような感覚に両腕で自分を抱き締める。怖くて仕方ない。
不安から呼吸がどんどん浅くなっていく。息苦しいのに深く空気を吸おうとしても、上手く出来ない。
指先が痺れ、頭がぼんやりしてくる。
意識が薄れそうになった時、強い力に抱きしめられた。
「大丈夫だよ。アオイくんは私たちがちゃんと守るから」
ーーイリヤさん……
天蓋の中に戻って来たイリヤに抱き締められ、ゆっくりと背中を撫でられる。
「心配しないで。ずっとそばにいるからね。大丈夫だよ」
イリヤの穏やかな声と温かな体温を感じていると、背中からも抱き締められた。
「俺もいるぞ。何があってもアオイを守ってやる」
ーーオースティンさん……
気付かないうちに戻って来ていたらしく、オースティンは後ろから抱き締めながら、あやすように頬を撫でてくれた。
2人の優しさに包まれながら、だんだんと呼吸も整い始める。
ゆっくり顔を上げると、蒼と紅の瞳が優しくこちらを見ていた。
また2人に心配を掛けてしまった。
「もう、大丈夫、です……。すみませんでした」
申し訳なさに頭を下げると、ちゅっと音を立てて左頬に口付けられた。イリヤだ。
何で今またキスされたんだろう?
驚く僕の思考を読んだようにイリヤは形の良い口唇をニヤリとあげて悪戯っぽく笑う。
「私たちに謝るの禁止ね、アオイくん。謝ったら罰としてキスするから。もちろん、本当に悪いことしたら謝ってもいいよ」
その時は違う罰になるけどね? とイリヤに囁かれた。
反応に困っているうちに逆の頬にキスが落ち、低く甘い声を耳に吹き込まれる。
「俺からもするからな」
頬を抑えてオースティンを見上げると、こちらも揶揄うような目をしている。
居た堪れずに顔を伏せると、2人は示し合わせたように声を上げて笑った。
◇◇◇
オースティンが連れて来たのは、優しそうな年配の男性だった。医務官と紹介されたが、医者のことだろうか。
イリヤの手で再びシャツを脱がされ、患部を曝け出される。
「これは……少し触りますよ」
皮膚の変色具合に少し目を見張られ、触診が行われる。
「幸い、内臓に傷はついてなさそうですが。背中もみせてください」
そう言われて背を向けると、診察を見守っていたイリヤとオースティンが息を飲んだ。2人の表情から背中の酷さも窺い知れた。
汚いものを見せてしまったというバツの悪さと怪我の理由を聞かれるだろう憂鬱さにため息が溢れる。
「下も見せてもらえますか」
医務官の言葉にイリヤは眉を顰めながら、ベルトを外し脱がせてくれた。
足にも古いものから新しいものまで無数のあざが残っている。
改めて見ると、自分の足ながら気持ち悪い。
しかし、医務官は表情を変えることなく、触診をすすめていき、全てのあざに触れ終えると、優しげに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これなら綺麗に治ります」
「本当ですか」
「ええ。治療しますので、ベッドから降りてこちらへ立ってください。ーーオースティン様、鞄をとって頂けますか」
医務官はオースティンから鞄を受け取ると、中からドライフラワーみたいなものを何種類か取り出した。
「傷ついたところが少し熱くなるかもしれませんが、すぐに治ります」
そう言って医務官は僕の周囲にドライフラワーを撒き、聞き取れない言葉を呟き始める。
すると、乾燥していた花たちが次々に生花に戻り、光りながら舞い上がった。
フラワーシャワーに見惚れていると、医務官が言う通り全身がじんわりと熱くなる。お風呂に浸かっているような、癒されるような熱だ。
全ての花が舞い落ちると医務官はにっこり笑って、治療の終了を告げた。
「もう大丈夫ですよ。ただ、体力が落ちているようですので、2、3日は栄養のあるものを食べ、安静にして下さい」
「ありがとうございました」
お礼を伝えると、医務官はいえいえと穏やかに手を振り、床に残った花弁を拾おうとした。しかし、その前にイリヤが風を起こし、全ての花を医務官の手の中へ集めてしまう。
「これはこれは。さすがでございますね、イリヤ様。助かりました」
「こちらこそ、アオイくんがお世話になりました」
医務室まで送るというオースティンの申し出を断り、医務官は部屋を出て行った。
改めて全身を見ると、あれだけ酷かった痣は綺麗に消えている。一番酷かった腹部を触っても痛みはない。
「魔法って凄いんですね……」
「彼の腕が良いのもあるけどね。ーーそれじゃあ、怪我も治ったことだし、脱いだついでにお風呂に行こうか」
そう言って伸びてきた腕をかわして、さっき連れて行かれたバスルームへ駆け込んだ。
3度目のお姫様抱っこを回避出来たことで安心していたが、その代わりとばかりに2人がかりで全身洗われることになった。
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