不憫な青年は異世界で愛される

久村トノ

文字の大きさ
8 / 21

7.

しおりを挟む
「俺は医務室へ直接行ってくる。イリヤ、念の為に結界を」

「わかった」

神官いなくなるとオースティンはイリヤにそう頼んで部屋を出て行った。

神子の話を聞いてから、全身の震えが止まらない。
見えない悪意が迫って来るような感覚に両腕で自分を抱き締める。怖くて仕方ない。

不安から呼吸がどんどん浅くなっていく。息苦しいのに深く空気を吸おうとしても、上手く出来ない。
指先が痺れ、頭がぼんやりしてくる。

意識が薄れそうになった時、強い力に抱きしめられた。

「大丈夫だよ。アオイくんは私たちがちゃんと守るから」

ーーイリヤさん……

天蓋の中に戻って来たイリヤに抱き締められ、ゆっくりと背中を撫でられる。

「心配しないで。ずっとそばにいるからね。大丈夫だよ」

イリヤの穏やかな声と温かな体温を感じていると、背中からも抱き締められた。

「俺もいるぞ。何があってもアオイを守ってやる」

ーーオースティンさん……

気付かないうちに戻って来ていたらしく、オースティンは後ろから抱き締めながら、あやすように頬を撫でてくれた。

2人の優しさに包まれながら、だんだんと呼吸も整い始める。
ゆっくり顔を上げると、蒼と紅の瞳が優しくこちらを見ていた。

また2人に心配を掛けてしまった。

「もう、大丈夫、です……。すみませんでした」

申し訳なさに頭を下げると、ちゅっと音を立てて左頬に口付けられた。イリヤだ。

何で今またキスされたんだろう?

驚く僕の思考を読んだようにイリヤは形の良い口唇をニヤリとあげて悪戯っぽく笑う。

「私たちに謝るの禁止ね、アオイくん。謝ったら罰としてキスするから。もちろん、本当に悪いことしたら謝ってもいいよ」

その時は違う罰になるけどね? とイリヤに囁かれた。

反応に困っているうちに逆の頬にキスが落ち、低く甘い声を耳に吹き込まれる。

「俺からもするからな」

頬を抑えてオースティンを見上げると、こちらも揶揄うような目をしている。
居た堪れずに顔を伏せると、2人は示し合わせたように声を上げて笑った。


◇◇◇


オースティンが連れて来たのは、優しそうな年配の男性だった。医務官と紹介されたが、医者のことだろうか。
イリヤの手で再びシャツを脱がされ、患部を曝け出される。

「これは……少し触りますよ」

皮膚の変色具合に少し目を見張られ、触診が行われる。

「幸い、内臓に傷はついてなさそうですが。背中もみせてください」

そう言われて背を向けると、診察を見守っていたイリヤとオースティンが息を飲んだ。2人の表情から背中の酷さも窺い知れた。

汚いものを見せてしまったというバツの悪さと怪我の理由を聞かれるだろう憂鬱さにため息が溢れる。

「下も見せてもらえますか」

医務官の言葉にイリヤは眉を顰めながら、ベルトを外し脱がせてくれた。
足にも古いものから新しいものまで無数のあざが残っている。
改めて見ると、自分の足ながら気持ち悪い。

しかし、医務官は表情を変えることなく、触診をすすめていき、全てのあざに触れ終えると、優しげに微笑んだ。

「大丈夫ですよ。これなら綺麗に治ります」

「本当ですか」

「ええ。治療しますので、ベッドから降りてこちらへ立ってください。ーーオースティン様、鞄をとって頂けますか」

医務官はオースティンから鞄を受け取ると、中からドライフラワーみたいなものを何種類か取り出した。

「傷ついたところが少し熱くなるかもしれませんが、すぐに治ります」

そう言って医務官は僕の周囲にドライフラワーを撒き、聞き取れない言葉を呟き始める。
すると、乾燥していた花たちが次々に生花に戻り、光りながら舞い上がった。

フラワーシャワーに見惚れていると、医務官が言う通り全身がじんわりと熱くなる。お風呂に浸かっているような、癒されるような熱だ。

全ての花が舞い落ちると医務官はにっこり笑って、治療の終了を告げた。

「もう大丈夫ですよ。ただ、体力が落ちているようですので、2、3日は栄養のあるものを食べ、安静にして下さい」

「ありがとうございました」

お礼を伝えると、医務官はいえいえと穏やかに手を振り、床に残った花弁を拾おうとした。しかし、その前にイリヤが風を起こし、全ての花を医務官の手の中へ集めてしまう。

「これはこれは。さすがでございますね、イリヤ様。助かりました」

「こちらこそ、アオイくんがお世話になりました」

医務室まで送るというオースティンの申し出を断り、医務官は部屋を出て行った。

改めて全身を見ると、あれだけ酷かった痣は綺麗に消えている。一番酷かった腹部を触っても痛みはない。

「魔法って凄いんですね……」

「彼の腕が良いのもあるけどね。ーーそれじゃあ、怪我も治ったことだし、脱いだついでにお風呂に行こうか」

そう言って伸びてきた腕をかわして、さっき連れて行かれたバスルームへ駆け込んだ。
3度目のお姫様抱っこを回避出来たことで安心していたが、その代わりとばかりに2人がかりで全身洗われることになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

魔王様と元 村人Aは一つ屋根の下

くろねこや
BL
橋の上で絶望してたらトラックが突っ込んできて、そのまま異世界へ落ちたオレ。 村人Aとしてスローライフを始めたものの、やはり元の世界に戻ることを諦めきれない。 ドラゴンも魔族も魔王もいるこの世界。 「あ、魔王を倒せば元の世界に帰れるんじゃね?」 ところが、倒すために探し出した魔王様はオレの記憶に興味津々で…。 「私もそなたと共に行く。そちらの世界はとても興味深い」 この時のオレは想像すらしていなかった。 そう遠くない未来、その“魔王様”と出会ったオレが、日本家屋で一つ屋根の下、一緒にのんびり暮らすことになるなんて。 ※こちらは『イライラしてますか?こちらへどうぞ』の世界と繋がっています。 ※『横書き』設定にてお読みください。

処理中です...