不憫な青年は異世界で愛される

久村トノ

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風呂から上がると、すぐにオースティンが食事を持って来てくれた。ハムのサンドイッチと野菜スープだ。久しぶりに人の作ったご飯はそれだけで美味しい。

「ごちそうさまでした」

「まだ食べられそうならおかわりを持って来るが」

皿とカップを重ねていると、オースティンにそう声をかけられたが首を振る。気持ちは嬉しいけど、これ以上食べたら眠くなりそう。

「いえ、もう十分です」

「遠慮はしなくていい。風呂でも思ったが、細過ぎるんじゃないか?」

痩せぎすの自覚はある。満足に食事の時間を与えられない上に食費が掛かるからと食べる量も継母と義弟に監視されていたのだ。
でも、そんな暗い話をするのは憚られ、どうしようかと思っていると、イリヤが助け船を出してくれた。

「オースティン。急に食べ過ぎるとお腹痛くなるんだよ。アオイくんの細さは私も心配だけど、それは徐々に。ね?」

「は、はい!」

こくこくと頷くと、オースティンは何か言いたそうな顔をしたが、ため息をついて了承してくれた。

「そうか。ーーなら、茶を淹れよう」

「ありがとうございます」

諸々の感謝を込めてお礼を伝えると、オースティンに頭を乱暴に撫でられ、髪を乱された。

なんで?!

ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えていると、イリヤは可笑しそうに笑った。





「落ち着いたところで、話をしようか」

オースティンが淹れてくれたお茶をひと口飲んだイリヤはそう切り出した。カップを両手に持ってその温かさを感じながら、イリヤの紅い瞳を真っ直ぐ見返して頷く。

「はい、お願いします」

「まず、アオイくんが知りたいのはここがどこで、何故ここにいるのかってことかな?」

「そう、ですね」

「きみも気付いていると思うけど、ここはアオイくんが生まれ育った世界じゃない。“異世界”といえば分かりやすいかな」

やっぱり……。

「ここときみがいた世界では、世界の理が違う。科学があまり発展していない代わりに魔法や魔術を使って人々は生活しているんだ」

イリヤは僕に分かりやすいように説明してくれる。僕が持っている知識を知っているみたいに。

「イリヤさんは、僕のいた世界について詳しいんですか」

「うん。行ったことはないから完璧に知ってるわけじゃないけど、以前、研究していたからね」

「研究、ですか……」

「そう。我が国ーーシーマニア王国という国なんだけど、この国は数百年前、初代国王が聖母の力を借りて悪しき魔法使いを倒し、建国したと言われているんだ」

「はぁ……」

初代国王、聖母、悪しき魔法使い……。
どれも聞き慣れなくて、今ひとつピンと来なかった。現実というより、おとぎ話を聞いているようなそんな感覚だ。

生返事を返す僕をイリヤはニヤっと笑って先を続けた。

「聖母は亡くなってからも女神アリウムになって今もなお、この国を守っていてくれるーーそんな彼女は、アオイくんの世界から召喚されて来たんだ」

「え?」

聖母……今は女神になった人が僕と同じ世界から?

目を見開く僕をイリヤは悪戯が成功した子どもみたいな顔で笑ってみている。

「それ以来、召喚しなくてもアオイくんの世界ーー特に日本からこちらへ迷い込む人が現れるようになったんだ」

「彼らのことを世界を渡って来る人という意味で“来界人”と呼んでいる。来界人の保護は俺たち騎士団が担っている」

イリヤの話にオースティンが割って入る。そのせいで情報が更に増えて僕の頭は混乱するばかり。

日本からここへ来る人がいて、来界人と呼ばれてて、オースティン達が保護してて……じゃあ、僕も迷い込んだってこと?

でもーー。

ふと、神官の言葉を思い出す。あの神官は僕を来界人ではなく“神子様の関係者”と言った。
再び嫌な予感がして、背筋が震える。

知ってしまうのが怖いけど、はっきりさせないともっと良くないことが起こりそうで恐ろしい。

僕に悪意を持っているらしい神子様ってーー

俯いて黙り込んだ僕にイリヤは慌ててオースティンをたしなめた。

「ちょっと話を脱線させないでよ。アオイくんが混乱するでしょ。私ばかりがアオイくんと喋って羨ましいのは分かったからさ」

イリヤのつっこみが正しかったらしいオースティンはふんっとそっぽ向いてしまった。
仲の良いやりとりは微笑ましいけど、そんな2人を見ても気持ちは浮き上がらない。

「アオイくん?」

「どうかしたのか?」

両側から心配そうに覗き込まれ、意を決して息を吸い込む。

「ーー神子様って一体何ですか?」

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