不憫な青年は異世界で愛される

久村トノ

文字の大きさ
10 / 21

9.

しおりを挟む
「そこ、やっぱり知りたいよね」

急な問い掛けにイリヤは苦笑してお茶を啜り、オースティンも僕の思考を察したらしく頭を下げた。

「すまない、俺が口を挟んだから」

「そうだね。オースティンには後でしっかり反省してもらうよ」

もう口を挟まないでね、と口許だけ笑みを作ったイリヤが釘を刺す。オースティンはそれに無言で頷いた。

「神子っていうのは、女神アリウムの声を聞く力を持った人のことなんだ」

「女神の声、ですか」

「そう。我が国は女神アリウムから国王が助言を授かって政を行って来たんだ」

「え? 国王? 神子じゃないんですか」

「そこなんだよね。なぜか分からないけど、現国王は女神アリウムの声を聞くことが出来ないんだ。だから、神の声を聞くことが出来る神子を召喚することになった。神子は女神と同郷の者と伝わっていたからね」

「……」

「召喚でこちらへ来てくれたのが、アオイくんとーーサキヤ様だった」

サキヤーー紗季也、なのか……。

やっぱりと納得する気持ち以上に異世界に来てもまだ義弟に苦しめられるのかという絶望感が襲って来る。

ぽたり、とティーカップに涙が落ちた。

きっとまた、周囲に取り入って暴力を振るわれるんだろう。
朝から晩まで働かされ、休むことは許されない。
あの生活が続いていくんだ。

異世界に来たと気付いた時、戸惑ったし怖かったけど、心の奥底では安堵していた。
継母と義弟から解放される、と。

でもーー。

ここにも、紗季也がいる。
そして神官は僕が神子を、紗季也を害そうとしたと言った。
イリヤが最初、探るような目で僕を見ていたのも、きっと紗季也が嘘を吹聴してたんだろう。

止めどなく溢れては落ちる涙を拭うことも出来ず、声を殺して泣き続けていると、左右からそっと抱き締められた。

「大丈夫、アオイくんは私たちが守るよ」

「そうだ。俺とイリヤがいれば大丈夫だ」

「権力も実力も、私たちに叶う人ってそうそういないから、ね」

「誰が相手でも守ってやれるだけの力はある」

2人の優しさにもっと泣けて来る。
こちらへ来てから僕は泣いたり怯えたりするばかりで、その度に2人は嫌な顔せずに優しく抱き締めてくれた。

「イリヤさん……オースティンさん……すみません、僕……」

迷惑かけてばかりで申し訳なくなって謝ると、涙で濡れた両頬にちゅっと音を立ててキスされた。

「ーー!」

「約束したの忘れたのか?」

「それとも私たちにキスして欲しかったのかな?」

紗季也のことでいっぱいいっぱいになって、約束したことをすっかり忘れていた。

「すみません、忘れて、ました……んッ」

忘れていたことを謝ると、今度はオースティンが目元に口付けてきた。ニヤっと笑ったイリヤも負けじと耳朶を食んでくる。

「ーー今のは絶対わざとだよね?」

いつもより低めの声を耳に直接吹き込まれ、背筋が震えた。

本当にそんなつもりは無かったのに。

そう訴えるように2人を見ると。

「そんな目で見られると我慢出来なくなっちゃいそう」

「全くだ」

「でも、さすがに今すぐ手を出すわけにはいかないからね、オースティン?」

「分かっている」

2人は僕を見ながら訳の分からないことを話し出す。話について行けずにきょとんとしていると、イリヤが笑って頭を撫でてくれた。

「この話は追々ね。ーーそれより、涙が止まったみたいで良かったよ」

イリヤの言う通り、とめどなく流れていた涙はいつの間にか止まっていた。

安心したみたいに笑い掛けてくれる2人を見て、決意する。

きっとイリヤとオースティンなら、僕の話をちゃんと聞いて、信じてくれるだろう。

濡れた目元や頬を両手で拭うと、紗季也にこれまでされて来たこと、異世界へ来る直前に殴られたことを話し出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

魔王様と元 村人Aは一つ屋根の下

くろねこや
BL
橋の上で絶望してたらトラックが突っ込んできて、そのまま異世界へ落ちたオレ。 村人Aとしてスローライフを始めたものの、やはり元の世界に戻ることを諦めきれない。 ドラゴンも魔族も魔王もいるこの世界。 「あ、魔王を倒せば元の世界に帰れるんじゃね?」 ところが、倒すために探し出した魔王様はオレの記憶に興味津々で…。 「私もそなたと共に行く。そちらの世界はとても興味深い」 この時のオレは想像すらしていなかった。 そう遠くない未来、その“魔王様”と出会ったオレが、日本家屋で一つ屋根の下、一緒にのんびり暮らすことになるなんて。 ※こちらは『イライラしてますか?こちらへどうぞ』の世界と繋がっています。 ※『横書き』設定にてお読みください。

処理中です...