白ウサギはアリスの再来に恐怖する

果桃しろくろ

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「!」

 慌ててベビーベッドの下に潜り込もうとする白ウサギ。しかし潜り込むよりも早く、あの頃よりも大きく節だっているが綺麗な指が、白ウサギのふくろはぎを捉えた。そして、そのままズルズルとベビーベッドの下から引きずりだされる。

「可愛いシッポ」

 ヒダスカートは捲りあがり、白いニーハイを全開にする。そして、純白のショーツに包まれたまろいお尻の上にのっている丸くて白いシッポが毛を逆立て膨らみ、ピクピクと動いて青年を誘惑していた。

「触ってもいい?」
「ぴゃあぁぁぁ!!」

 白ウサギが返事をする前にムギュッと掴まれ、撫でられた。硬直していた白ウサギは素早い動きで身体をひねり、脚を三角に折り曲げて小さく身体を防御していた。

「ダメです! なしです!」
「どうして? 私と白ウサギの仲でしょ?」
「そんな仲になった覚えはありません!!」
「昔は触らせてくれたのに」

 青年のいう昔というのは10年前。
 無理矢理白ウサギのシッポを触った事のある人物は、過去にあの子供だけ。

「しっぽは、勝手に貴方が! それに、お、女の子じゃなかったのですか!?」
「女の子だとは、一言も言ってないけど。勘違いしていた?」
「でも、水色のワンピースに白のフリフリエプロン! 髪は金髪で腰まであって! 何よりも可愛かったです!! そんな、甘いマスクをした煌めくイケメンじゃなかったです!」
「……ああ、あの頃は母と姉に姉のお下がりをふざけて着せられていた頃だったしね」

 近所に住むロリコンオヤジをあの格好で誘惑して、ボートから落してやったこともあるよ。なんて、黒い笑みを浮かべてニヤニヤ笑う顔は、確かに白ウサギを追いかけてきた七歳の子供――アリス――だった。

「白ウサギは変わらないね」

 視姦するような目つきで頭の天辺から足の爪先まで、じっくりと視られた白ウサギは、更に身体を縮こませた。

「こ、今度は何をしにこの国に来たんですか!?」

 あの時、滅茶苦茶にされた国と住人達の心のケアに、どれだけの時間がかかったのか! 自分が子供を連れて来てしまったという罪悪感で白ウサギも、立ち直るのに時間がかかった。ブルブルと震えながらも威嚇する姿に、青年――アリスは今すぐに抱きしめて……したいという気持ちを抑え、口角をあげる。

「あの時の私は七歳で、白ウサギからしたら、まだまだ子供だったでしょ?」
「……子供だからって、何をしてもいいんですか? 許されるんですか?」

 ウルウルと潤んだピンク色の瞳がアリスをギュッと睨みつける。

「いや違うよ。あの時の私の悪戯が過ぎたのは認める。ごめんね? でもね、初めての気持ちだったから、兎にも角にも、君の気を引きたくて必死だったんだよ」
「初めての気持ち?」

 白ウサギは、本能的にこれ以上先を聞いてはいけないと思いつつ、騒動の原因を曲がりなりにも引き起こした責任感から、話を促してしまった。

「初めて君を見た時、私は恋に落ちた」

 アリスの言葉に意味が分からないと、白ウサギは眉間にしわを寄せる。

「そんなに眉を寄せて……まぁ、君ならどんな表情でも可愛いけどね」

 アリスの長い人差指がクイクイっと、白ウサギの眉間のしわをのばした。七歳の頃のアリスは白ウサギよりも頭半分小さかった。それなのに、今のアリスは白ウサギが見上げる程。

「ねぇ、今の私と白ウサギ。ちょうど良いと思わない?」

 アリスの人差指が、クイっと白ウサギの顎を持ち上げ、そのままピンクの瞳を眩しそうに見つめた。

「あのまま、本当は君とずっと、くっついていたかったけれど、この世界では時間が止まったままだろ? 成長しない私はずっと七歳のまま……君を私のモノにしようとしてもできなかったんだよ」
「アリスのモノって?」
「簡単に言うと、あの頃の私は、まだ精通がきていなかったって事かな?」

 そして、にっこりと。ハートの女王の大事にしている薔薇の花にも負けないくらいの華やかな笑顔を向けた。

「だから、ちょうど良くなるまで、待っていたんだよ」

 白ウサギが訳も分からなくショックで気を失おうとした時、ベビーベッドの子豚が「ブギャ―。ブギャ―」と泣き出した。それに我に返った白ウサギは、すぐさま赤ん坊を抱き上げ、窓からジャンプをして逃げ出す。

「逃がさないよ。白ウサギ」

 アリスの声が背中に突き刺さっていく。

 元の世界に戻される10年前のアリス。
 吹き溢れるトランプの中で、白ウサギだけを見つめて言った。

 ――また、戻ってくるから。

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