血と死神と女子高生

橘スミレ

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第一話 想像

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 毒々しいほどの赤、口に含めば広がる甘酸っぱい味。私の大好物だ。今日のはあたりらしい。甘さの中にある独特の風味が丁度いい。私は瓶につめた私の食料ーー人の血液を眺める。

「今日のは当たりだな」
 そう思いながらブルーシートに包んだ死体を運ぶ。私が住む家の裏にある山、その奥深くまで運び埋めてしまえば死体はなかなか見つからない。死体になる前も社会との関わりが絶たれ一人死を待つだけの銅像だから探されることもない。味はそこまでだが比較的安全に血が手に入るのでよく利用する。
 今までで一番美味しかったのは母と父の血だ。交通事故に遭ったとき私にかかった両親の血。その味はこの世のものとは思えぬほど甘美な味がした。それを味わってしまってはもう他のものは味がしない。血しか食べられない味覚になってしまっていた。
 ブルーシートの隙間から死体の顔が覗く。青白い肌は死神を思わせた。死神は存在するのだろうか。キラキラと輝く魂を回収する死神。大きな鎌を持ち、全身を黒の死装束に包んだ死神。死体を食べたりするのだろうか。いつしか疑問は想像に変わり、いつしか私の頭の中で死神を作っていた。

「ねえ、死神ちゃん。この死体を食べてよ。え?今はお腹いっぱいだって?仕方ないなぁ、後でお腹空いても知らないからね」
一人しか居ない部屋で死体を前にそう会話する。
「じゃあ運ぶの手伝ってよ。それくらいはいいでしょう?」
声は返ってこない。それどころか死神に実体はない。だから私は死神の回答も自分で考える。
『いやよ!どうしてあたいがそんなことをしなくちゃいけないのよ。あたいがするのはキラキラの回収だけ」
死神ちゃんは黒のワンピースをひるがえしふわふわのクッションの上に寝っ転がってしまう。私は仕方なく一人で裏の山へ死体を運ぶ。穴を掘っているといつの間にやら死神ちゃんがやってきて大きな鎌を持って死体に近寄る。大きく振りかぶり死体の胸元へと振り落とす。鎌は死体をすり抜けるが刃に手のひら大の袋がぶら下がっている。あの中に魂が入っているらしい。彼女は袋を開く。私は穴を掘る。彼女は袋の中に入っている魂を丁寧な仕草で取り出すと赤の十字架のブローチがついた黒いポシェットの中にしまった。そしてまたクッションに戻って行った。私は処理の終わった死体を掘った穴に押し込む。ふと後ろを振り返るが彼女はいない。魂を運んでいるからだ。穴を再び埋め終わった頃には死神ちゃんも帰ってきている。そうしたらまた一緒に帰り、薄暗い部屋で寝る。そんな生活を送っていた。
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