百合短編集

橘スミレ

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プレゼントのおまじない

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「私ね、彼氏ができたんだ」

 朝の慌ただしい時間帯に友人は私に報告してくれた。

「そうなんだ。よかったね。相手は誰なの?」

 私は極めて自然に聞き返す。
 あくまで親友として振る舞う。

「3組の馬場くんだよ。すっごくかっこいいの」
「ああ彼か。確かに彼はイケメンだね」
「でしょ! 告白は彼からだったんだけど、言い方がこれまたすごくかっこよくて!」

 だんだんと声が遠のいていく。何を言っているかよく聞こえない。
 彼女の発する言葉が糸のように解けて一本の音の波になって流れてくる。

「ごめん。ちょっとお手洗い行ってくる」

 私は逃げるようにトイレへ向かった。
 鏡の前で身支度する女子生徒の間をすりぬけて個室へと入り、後ろ手で鍵を閉める。

「ずっと好きだったのにな」

 スカートに水滴が染み込む。
 胸が締めつけられるように苦しい。

 自分が告白しなかったのが悪い。
 わかってはいる。
 だがフラれるのが怖くて、拒否されるのが怖くて親友という立場で妥協していた。
 勇気を出した彼には勝てない。
 それは仕方のないことだ。

 けれど簡単に気持ちに折り合いをつけられるほど、私は大人ではなかった。
 高校生の中でも幼い方に分類されるであろう私の精神は良からぬことを考えてしまった。
 こんなことするべきではない。
 頭ではわかっているが、止められない。

 いつしか涙は止まっていた。
 心に宿るは執着のみ。

 私は翌日、さっそく行動に移した。

「これ、彼氏ができたお祝い!」
「またまた大袈裟だね。彼氏ができたくらいでプレゼントなんて」
「いやいや、せっかくいい人掴んだんだから長続きするようにっていうおまじない! ネットでみたんだ」

 なーんて、嘘だよ。
 これは私が作った御呪いおまじないだ。

「開けてみてもいい?」
「どうぞどうぞ」

 リボンが解けて、中から小瓶が出てくる。

「香水だ! いい香り。私、この香り大好き!」
「気に入ってもらえてよかった」
「さっそくつけてみるね」
「うん!」

 彼女は手首に香水をつけた。
 甘い香りが漂ってくる。

「やっぱりいい香り! ほんとありがとうね」
「いえいえ。馬場くんとお幸せにね」
「えへへ。さっそく彼のところ行ってくるよ」

 彼女はパタパタと教室を出ていった。
 きっと彼に自慢しにいくのだろう。
 彼女には私とお揃いの香りをおおいに自慢してほしい。

 彼と話す時も、デートするときも、キスするときだって彼女は私の香りをまとっているのだ。
 ずっと私の香りをさせながら彼といるのだろう。

 そう考えると私はどうしても悪い笑みを浮かべてしまう。
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