私が魔女になるまで

橘スミレ

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ここに居たい

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ふと恵里の方へ目をやると、彼女は静かに俯いていた。
「恵里、どうした。口に合わんかったか?」
そう問うも恵里は首を振るばかり。
「お腹痛いの?」
ローズがそう聞いても首を振る。バーミーが
「大丈夫か?」
と戸惑いながら声をかけてはいるが彼女は今にもなきだしそうである。それでも何とか顔をあげて話し始めた。
「私、かたぬき初めてやったし、くっきー?も初めて食べた。甘くてかわいくて、なんかすごい楽しかった」
涙が目から溢れほおをつたう。
「私ずっとここにいたい。わ、私を弟子にしてください!」
涙で顔を濡らしながら話す恵里。ああ、どれほど元いた場所が辛かったのだろう。私は立ち上がり、恵里を力一杯抱きしめる。
「いいに決まってるじゃろ。妾がそなたを大切に育ててやる。焼き菓子だけでない。団子や羊羹、猪口冷糖に卵糖。色々食べよう。他にも楽しいことをさせてやる。だからここを離れるでないぞ」
「はい!」
元気な返事を聞き、もう一度力強く抱きしめてから離す。
「あなた達、仲が良いのはよろしいのだけれどもう少し人目を気にしてくれないかしら。私の可愛いバーミーには刺激が強すぎるから」
ローズが顔を真っ赤に染め、目をぐるぐると回しているバーミーの頭を撫でている。私は恵里と目を見合わせ笑ったのだった。

その頃、恵里の母は大慌てだった。朝、学校から恵里が登校していないと連絡があった。確かに学校に行かせたはずの娘が投稿してないなどと言われたら誰でも慌てるだろう。だが恵里の母は元公務員で頭の回転は早い。早急に状況を理解し、学校には風邪だと伝えて誤魔化した。
「全く、折角今まで風邪を引こうが骨折しようが登校して守ってきた皆勤賞が駄目になってしまった。あの子は何をしているのだか」
そう言いながら服を着替える。いつもの外出用の洋服ではなく、作業服。そしてトングとビニール袋。時々ご老人方へのアピールで行うゴミ拾いのフリをすれば探すのも容易だろうと思ってのことだった。だがさっぱり見つからない。ここまで何百、何千万円もかけて育ててきた大事な娘。私学へ通わせるため塾にスイミング、新体操、そろばん、プログラミング、ピアノなどありとあらゆる習い事をさせてきた。彼女のために厳しく躾けてきた。なのに全て無になってしまうなど許されない。なんとかして見つけ出さなければ。母親はまた娘を探して歩き出す。
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