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第6章
13話 高貴なる者はかく語りき 後編
しおりを挟む皆様お待たせしました。
今日から投稿を再開します。
なお、数日前に投稿したお知らせは、物語を円滑に追う妨げになりますので、投稿再開に伴い、消去させて頂きました。ご了承下さい。
皇女レーヴェリアは、ニアージュの驚きや動揺をよそに、自身が今置かれている状況を静かに説明し始めた。
だが、努めて冷静に話を進めようとしても、話の当事者である以上、そこには無意識の私情や主観が多分に含まれてくる。それゆえか、彼女の口から語られる話も、十数分程度では収まらぬほどの長さとなった。
その話を3人称に変換し、できうる限り要約すると、以下の通りとなる。
現皇帝が第2皇妃との間に儲けた唯一の子であり、皇太子アートレイと皇女レーヴェリアにとっては、腹違いの弟となる第2皇子、フレッド・ロア・ウィキニウスは、母である第2皇妃が第1皇妃と異なる派閥であった事から、アートレイやレーヴェリアとはあまり仲が良くない。
第1皇妃の実家が属する派閥が、元々第2皇妃の実家が属する派閥よりも力がやや劣っている事、生まれ持っての気位の高さ、そして、実家で刷り込まれた選民思想とが相まって、第2皇妃は第1皇妃とその子であるアートレイ、レーヴェリアを常日頃から見下していた。
また、第2皇妃は、派閥においては第1皇妃よりも優位にあるはずの自分が、宮廷においては第1皇妃の方が自分より優位にある、という状況が、忌々しくて仕方がないのだとも思われる。
それもまた、見下しの理由の一端だと考えて間違いなさそうだった。
そういった環境で育った結果、フレッドもまた母の悪い所をそっくりそのまま受け継ぎ、傲慢で尊大、身分で他者や家臣を差別するという、人の上に立つ者として、どうにもよろしくない性質を持って成長してしまった。
無 論の事、そのような振る舞いを続けていれば、自ずと皇帝の覚えも悪くなっていくものだが、第2皇妃もフレッドも、その点には思い至れなかったようだ。
その様を、ただ横から黙って見ていたアートレイは、増上慢とはかくも愚かなものなのだな、とうそぶき、呆れたように笑っていた。
レーヴェリアも同意見であった。
帝国は男児のみならず、女児にも皇位継承権が発生する国だ。
ゆえに帝国では基本、男女の別に関わりなく、生まれの早い順から高い継承権を有する事となるが、それも絶対的な決め事ではない。
実際に跡継ぎを決める権利を持つのは、あくまでも皇帝ただ1人。
皇帝は当初、自身の子に限っては生まれ順に関係なく、ただ優劣によって皇太子を決めるとしていたが、フレッドの常日頃からの言動はここでも仇となり、最終的に第1皇子であるアートレイが皇太子となった。
となれば当然、第2皇妃とフレッドはその決定が面白くない。
第2皇妃親子は皇帝の決定を不服に思い、幾度か皇帝へ直訴という形で皇太子の変更を願い出たが、皇帝は耳を貸さなかった。
それも当然の事だろう。
皇太子を選出した時点で、フレッドは皇帝から次期皇帝の器でないとみなされ、完全に見限られてしまっていたし、気安く皇太子の身分を持つ者を入れ替えていては、周囲に無駄な混乱を招く。
大国の主たる皇帝が、その程度の思慮を持ち合わせていない訳がない。
何より、そのような事で容易く揺らぐ身分であっては、『皇太子』の価値や重みが薄らぎ、周囲から軽んじられてしまう。
こうして、数度に亘る直訴を鬱陶し気な態度で退けられるに至った第2皇妃とフレッドは、実力行使によって皇太子の身分を手に入れるべく、年単位の時間をかけて水面下で策略を巡らせ続け――
ついに今回、その策を実行に移したのである。
レーヴェリアはつい数日前、皇帝の名代としてクロワール王国にほど近い、辺境伯公が治める国境の街へ視察に赴いた。
もっとも、皇帝の名代というのは表向きの理由であり、実際には、将来臣降下し、女公爵となる者の責務として、今のうちから各諸侯との繋がりを深めよ、との命を受けて行われる事になった視察だ。
第2皇妃はそこに狙いを定めた。
レーヴェリアを裏の繋がりで得た配下に攫わせ、その身を盾に、アートレイに皇太子の立場をフレッドに譲るよう脅迫する腹づもりで、視察中のレーヴェリアを襲撃したのである。
辺境伯公が出した護衛に守られ、安全なはずの辺境伯領の視察時。
だが、護衛の中に潜り込んでいた第2皇妃の内通者と、その内通者と呼応する形で、突如奇襲を仕掛けて来た襲撃者の攻撃を受けた視察団一行は、態勢を上手く立て直せないまま瓦解し、敢えなくレーヴェリアは攫われてしまう。
が、しかし、レーヴェリアとて、そのまま大人しく攫われっぱなしではいない。
レーヴェリアは生まれた時から、やんごとなき身分にある者として、護身に使える様々な術を叩き込まれるのと同時に、危地に放り込まれても容易く心が揺らがぬよう、精神的な鍛錬も積まされていたのだから。
ついでに言うなら――ドレスを仕立てる際、有事の際の為にと秘密裏に、袖の内側に作らせた隠しポケットに忍ばせていたナイフを使い、戒めを解く事など造作もなかった。
これも護身訓練の際に、徹底して叩き込まれていた技能だ。
こうして、皇太子の配下がレーヴェリアの救出を容易に行えぬように、との思惑から連れて行かれた、クロワール王国との国境付近の山中にて、レーヴェリアは夜間に行動を起こし、第2皇妃の手の者達の隙をついて脱出した。
その後、第2皇妃の手の者達の馬を奪い、夜陰に紛れて山間を越え、森を抜け、クロワール王国へと入った先――その場所こそ、エフォール公爵領だったのである。
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