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第7章
12話 極秘会談~開始前のひと時
しおりを挟む皆様お待たせ致しました。
ようやく腰の調子がよくなってきたので、本日より投稿再開させて頂きます。
ただ、まだ完治していませんので、当面の間は大事を取って、毎日ではなく1日おきに投稿ペースを落とす事にしました。
更新頻度は多少落ちますが、今後も引き続き、ご笑覧頂ければ幸いです。
翌日の昼前。
ニアージュとアドラシオンは、おおよそ手紙に記されている通りの時間に、王宮へやって来る事ができた。
長距離を馬車で移動するにも難の少ない、よく晴れた気候のよい日である事が幸いしたと言っていい。
正直な所ニアージュは、邸の主とその妻が揃って邸を空け、現状食客の扱いになっているレーヴェリアに、留守番をさせるような恰好になってしまう事には、若干どころかだいぶ抵抗があった。
無論の事、上記の点について抵抗があるのは、アドラシオンも同様だったようだ。
だが、手紙に『レーヴェリアを連れて来い』と書かれていない以上、共に来てもらう訳にもいかない。
やむなくアルマソンに後を任せ、侍女も伴わずに城までやって来たが、元より登場を命じられた理由が不透明で、事情がよく見えてこない事もあって、ニアージュは内心、落ち着かない気分でソワソワしていた。
到着早々、王妃付きの侍女だという女性達の案内によって、身支度の為にアドラシオンと別々の部屋へ通された事も、落ち着かなさに拍車をかける。
ニアージュが案内されたのは、豪奢な装飾が施された調度品がそこかしこに配置され、華美でありながらも品のいいインテリアで統一された部屋だ。
王妃付きの侍女曰く、他国から招いた来賓を滞在させる為に作られた、特別貴賓室だというこの部屋は、それはもう滅茶苦茶に広い場所だった。
普段ニアージュが、エフォール公爵家で使っている私室もかなり広いのだが、ここの広さはそれを優に上回る。倍近いと言ってもいい。
元々平民のニアージュには、どうして人ひとり過ごすだけの部屋をここまで広くするのやら、未だに全く理解できないというのが正直な感想だったが、まあ、それは言った所で詮ない事であろう。
ともあれ、その特別貴賓室にてサンドイッチなどの軽食を出され、それを摘み終えてしばらくすると、「これから行われる、帝国からの使者と話し合いの場に相応しい装いをして頂きたい」と言われ、今度は隣にあるバスルームにて、頭の上から爪先まで、それはもう徹底的に磨き上げられた。
更に、王妃が直々に手配したという、上質で気品溢れる装飾品とドレスに身を包み、ニアージュが再びアドラシオンと別の貴賓室にて合流したのは、夕方の4時に近い時間である。流石のニアージュもヘトヘトだった。
ついでに言うなら、久々に着用したコルセットで、腹周りがギッチギチに締め上げられている所もしんどいし、このしんどい状態のまま、貴賓室でやんごとなき方々の身支度が終わるまで、大人しく待たねばならないという状況も大変しんどい。
合流当初は、美しく着飾ったニアージュに見惚れていたアドラシオンだったが、自分の傍らに座ったニアージュの目が、死んだ魚のようになっている事に気付いて以降、気遣わしげな眼差しを向けるようになった。
「……ニア、大丈夫か」
「……。本音を言っていいなら、あんまり大丈夫じゃないです……。ドレスと装飾品が重たいし……こんな……親の仇みたいにお腹周りを締め上げられたのは、最初にマルグリット様とグレイシア様にお会いした時以降、なかったように思います……。
正直これじゃ、お茶も満足に飲めません……。アハハ……中身出ちゃいそう……」
ニアージュは乾いた笑いを零す。
「……本当、お貴族様のご令嬢やご夫人って、公式の場に出るだけでも、滅茶苦茶体力勝負なんだって事、改めて再実感してます……。
それでなくても、いつもは楽な格好で、楽に過ごしてますから……。人間一度楽を覚えてしまうと、どうしても楽な方へ楽な方へ流れてしまうし、その楽な環境が、当たり前になってしまうものなんですね……」
「……。それはまあ、確かにそうかも知れない……。正直言って、俺も今着用している最上位の正装は、首周りが無駄に詰まっていて息苦しいし、動きづらくて敵わなくて、さっさと脱ぎたいと思っているからな……。だがそれも、君と比べればまだ楽な方なのか……」
「でも、旦那様の服装にも色んな装飾がついていて、だいぶ重たそうに見えますよ?
何事かあっても武器を片手に立ち回るとか、全くできそうにないくらいには、カッチリしてる印象を受けるというか……。傍から見ている分には、とってもカッコよくて素敵だなあって思うんですけどね……」
ニアージュが何気なく口に出した本音に驚き、アドラシオンはあからさまに動揺して肩を揺らした。
「……! そ、そうだろうか? あ、ありがとう、ニア。君に褒めてもらえるなら、頑張って着込んでいる甲斐があるよ。
き、君も、そのドレスや装飾品、とてもよく似合っていて、その、き、綺麗だと思う……。君自身としては、苦しくて仕方ないのだろうが……」
今度は、アドラシオンが照れながらも口に出した本音にニアージュが驚き、露骨に動揺して一瞬硬直する。
「……っ、そ、そう、ですか? あの、ありがとうございます。確かにもう、苦しくて仕方がない恰好ですが……ほ、褒めて頂けて、嬉しいです……。私も、頑張って着飾っている甲斐があります」
「あ、ああ……」
それ以降、ニアージュもアドラシオンも照れて互いの顔を見られなくなり、揃ってうつむく。
2人の間に沈黙が落ち、なんとも言えない浮ついた空気が広がった。
もしこの場に他の誰かがいたなら、ニアージュとアドラシオンに向けて、さぞ生温い視線を注いだ事だろう。
「……。あの、ニア、今日はいい天気でよかったな」
「……あ、はい、そうですね。暖かくていい陽気ですし。ご飯も美味しい時期です」
「そうだな。それに、茶も美味い時期だと思う」
「ええ。それから、もうじきスカーレットチェリーも盛りの時期になりますね。あれはジャムもタルトも美味しくて」
「ああ。あれは、爽やかな甘酸っぱさが癖になる果実だな。それに、あの宝石のような実を敷き詰めたタルトは、見た目にも美しくて――」
しまいには沈黙に耐えられなくなり、脈絡のない世間話を始めてしまう2人。
ニアージュとアドラシオンは、ただただ「うっかり口を滑らせて想いを吐露してしまう前に、早く誰か呼びに来てくれ」と心中で願っていた。
いっその事、どちらかがさっさと口を滑らせてしまえば、何もかも丸く収まるのだろうに。
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