訳あり公爵と野性の令嬢~共犯戦線異状なし?

ねこたま本店

文字の大きさ
101 / 123
第7章

12話 極秘会談~開始前のひと時

しおりを挟む



 皆様お待たせ致しました。
 ようやく腰の調子がよくなってきたので、本日より投稿再開させて頂きます。

 ただ、まだ完治していませんので、当面の間は大事を取って、毎日ではなく1日おきに投稿ペースを落とす事にしました。
 更新頻度は多少落ちますが、今後も引き続き、ご笑覧頂ければ幸いです。








 翌日の昼前。
 ニアージュとアドラシオンは、おおよそ手紙に記されている通りの時間に、王宮へやって来る事ができた。
 長距離を馬車で移動するにも難の少ない、よく晴れた気候のよい日である事が幸いしたと言っていい。

 正直な所ニアージュは、邸の主とその妻が揃って邸を空け、現状食客の扱いになっているレーヴェリアに、留守番をさせるような恰好になってしまう事には、若干どころかだいぶ抵抗があった。

 無論の事、上記の点について抵抗があるのは、アドラシオンも同様だったようだ。
 だが、手紙に『レーヴェリアを連れて来い』と書かれていない以上、共に来てもらう訳にもいかない。

 やむなくアルマソンに後を任せ、侍女も伴わずに城までやって来たが、元より登場を命じられた理由が不透明で、事情がよく見えてこない事もあって、ニアージュは内心、落ち着かない気分でソワソワしていた。

 到着早々、王妃付きの侍女だという女性達の案内によって、身支度の為にアドラシオンと別々の部屋へ通された事も、落ち着かなさに拍車をかける。

 ニアージュが案内されたのは、豪奢な装飾が施された調度品がそこかしこに配置され、華美でありながらも品のいいインテリアで統一された部屋だ。

 王妃付きの侍女曰く、他国から招いた来賓を滞在させる為に作られた、特別貴賓室だというこの部屋は、それはもう滅茶苦茶に広い場所だった。
 普段ニアージュが、エフォール公爵家で使っている私室もかなり広いのだが、ここの広さはそれを優に上回る。倍近いと言ってもいい。

 元々平民のニアージュには、どうして人ひとり過ごすだけの部屋をここまで広くするのやら、未だに全く理解できないというのが正直な感想だったが、まあ、それは言った所で詮ない事であろう。

 ともあれ、その特別貴賓室にてサンドイッチなどの軽食を出され、それを摘み終えてしばらくすると、「これから行われる、帝国からの使者と話し合いの場に相応しい装いをして頂きたい」と言われ、今度は隣にあるバスルームにて、頭の上から爪先まで、それはもう徹底的に磨き上げられた。

 更に、王妃が直々に手配したという、上質で気品溢れる装飾品とドレスに身を包み、ニアージュが再びアドラシオンと別の貴賓室にて合流したのは、夕方の4時に近い時間である。流石のニアージュもヘトヘトだった。

 ついでに言うなら、久々に着用したコルセットで、腹周りがギッチギチに締め上げられている所もしんどいし、このしんどい状態のまま、貴賓室でやんごとなき方々の身支度が終わるまで、大人しく待たねばならないという状況も大変しんどい。

 合流当初は、美しく着飾ったニアージュに見惚れていたアドラシオンだったが、自分の傍らに座ったニアージュの目が、死んだ魚のようになっている事に気付いて以降、気遣わしげな眼差しを向けるようになった。

「……ニア、大丈夫か」

「……。本音を言っていいなら、あんまり大丈夫じゃないです……。ドレスと装飾品が重たいし……こんな……親の仇みたいにお腹周りを締め上げられたのは、最初にマルグリット様とグレイシア様にお会いした時以降、なかったように思います……。
 正直これじゃ、お茶も満足に飲めません……。アハハ……中身出ちゃいそう……」

 ニアージュは乾いた笑いを零す。

「……本当、お貴族様のご令嬢やご夫人って、公式の場に出るだけでも、滅茶苦茶体力勝負なんだって事、改めて再実感してます……。

 それでなくても、いつもは楽な格好で、楽に過ごしてますから……。人間一度楽を覚えてしまうと、どうしても楽な方へ楽な方へ流れてしまうし、その楽な環境が、当たり前になってしまうものなんですね……」

「……。それはまあ、確かにそうかも知れない……。正直言って、俺も今着用している最上位の正装は、首周りが無駄に詰まっていて息苦しいし、動きづらくて敵わなくて、さっさと脱ぎたいと思っているからな……。だがそれも、君と比べればまだ楽な方なのか……」

「でも、旦那様の服装にも色んな装飾がついていて、だいぶ重たそうに見えますよ?
 何事かあっても武器を片手に立ち回るとか、全くできそうにないくらいには、カッチリしてる印象を受けるというか……。傍から見ている分には、とってもカッコよくて素敵だなあって思うんですけどね……」

 ニアージュが何気なく口に出した本音に驚き、アドラシオンはあからさまに動揺して肩を揺らした。

「……! そ、そうだろうか? あ、ありがとう、ニア。君に褒めてもらえるなら、頑張って着込んでいる甲斐があるよ。
 き、君も、そのドレスや装飾品、とてもよく似合っていて、その、き、綺麗だと思う……。君自身としては、苦しくて仕方ないのだろうが……」

 今度は、アドラシオンが照れながらも口に出した本音にニアージュが驚き、露骨に動揺して一瞬硬直する。

「……っ、そ、そう、ですか? あの、ありがとうございます。確かにもう、苦しくて仕方がない恰好ですが……ほ、褒めて頂けて、嬉しいです……。私も、頑張って着飾っている甲斐があります」

「あ、ああ……」

 それ以降、ニアージュもアドラシオンも照れて互いの顔を見られなくなり、揃ってうつむく。

 2人の間に沈黙が落ち、なんとも言えない浮ついた空気が広がった。
 もしこの場に他の誰かがいたなら、ニアージュとアドラシオンに向けて、さぞ生温い視線を注いだ事だろう。

「……。あの、ニア、今日はいい天気でよかったな」

「……あ、はい、そうですね。暖かくていい陽気ですし。ご飯も美味しい時期です」

「そうだな。それに、茶も美味い時期だと思う」

「ええ。それから、もうじきスカーレットチェリーも盛りの時期になりますね。あれはジャムもタルトも美味しくて」

「ああ。あれは、爽やかな甘酸っぱさが癖になる果実だな。それに、あの宝石のような実を敷き詰めたタルトは、見た目にも美しくて――」

 しまいには沈黙に耐えられなくなり、脈絡のない世間話を始めてしまう2人。
 ニアージュとアドラシオンは、ただただ「うっかり口を滑らせて想いを吐露してしまう前に、早く誰か呼びに来てくれ」と心中で願っていた。

 いっその事、どちらかがさっさと口を滑らせてしまえば、何もかも丸く収まるのだろうに。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...