真の聖女として覚醒したら、世界の命運ガチで背負わされました。~できれば早く問題解決したいけど無理ですか。そうですか。

ねこたま本店

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第1章

1話 女神からのSOS

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 お待たせしました。ここから新章開幕です。
 新たな厄介事に巻き込まれていく主人公を、どうぞ温い眼差しで暖かく見守ってやって下さい。





 それは丁度、昼を過ぎた頃の事。
 容赦なく照り付ける日差しにジリジリ焼かれるような心地を味わいながら、手にしたジョウロで家庭菜園の野菜達に水をやる。
 本当なら、こういう真っ昼間に植物へ水やりをするのはよろしくないのだけど、外気温があまりに暑過ぎるせいか、花壇の土が割と深い位置までカラッカラに乾いてしまった為、やむを得ず水やりをしている。
 一応日よけのパラソルを立て、野菜達を直射日光から守りつつ、周囲へ定期的に打ち水をしてるから、多分大丈夫だと思いたい。

 つか、大聖堂や大神殿で働いてる女性達のうち、水魔法が得意な人が、さっきから大気中の水蒸気を水に変換する魔法で打ち水やってるが、イマイチ量が出ない。
 私も、こないだ覚えたばっかの水の初級魔法を使い(まだ威力を絞るのが苦手なので、植物への直接的な水やりには使えないけど)、頑張って打ち水しようとしてるものの、こっちも似たような状態だった。
 どうなってるんだろ。確かに、この世界の夏は日本と違って湿度が低いけど、水分を凝結させづらいほどじゃなかったのに。どんだけ乾燥してるんだよ、今年の夏は。
 見れば、あっちでもこっちでも、神殿の神官や水魔法が使えない女官、使用人達が、私のようにジョウロを手にしてあちこちを歩き回っている。
 誰も彼も、みんなしんどそうだ。

 でもみんな、しんどいのを我慢して水撒きをしている。
 そりゃそうだ。
 ここにあるのは、私と妹のシアが世話してる家庭菜園だけじゃない。
 元々ここはディア様――教皇猊下の、大事な大事な庭園なのです。
 その庭園に植えてある花木を怠慢で枯らすなど、絶対にあってはならない事だ。
 おし。私も気合を入れ直そう。
 んで、他のみんなの事も手伝って、とっとと水撒きを終わらせて、一刻も早く全員で屋外に戻らないと。もうホントマジで死ぬ。


 こんにちは。しばらく前まで暫定聖女だった、アルエットです。
 この世界のバカ大公のせいで不慮の事故に巻き込まれ、何の説明もないまま予定外の転生を果たし、何の因果か聖女と呼ばれるようになってから、大体7年と少し。
 当時は半端な力しかなかったが、聖地で出会った女神に、聖女としての力を付与され直した今となっては、聖女の称号の前に暫定の2文字を付けて自称するのも、そぐわなくなった。
 なので、今後はきちんと聖女として、背筋を伸ばしてやっていくつもりだ。
 そう思ってるんだけど。
 現在ちょっと、心が折れそうな事態に直面している。

◆◆◆

 あれから何があったかと言いますと、特におかしな事件は起きておらず至って平和そのもの。
 私も引き続き、編入という形を取って入り直した学園で、頑張って魔法学を勉強中。
 こっちの方もなかなか順調で、私は各属性の初級魔法を扱えるようになっていた。
 新しいクラスでも上手くやってるし、月2回のペースで催している、メルローズ様達との平民流お茶会も毎回楽しい。

 ただ、大使館に逗留しているティグリス王子が、ほぼ日参状態でこっちへ顔を出し、そのたびに、日持ちしそうなお菓子だの花だのを持って来てくれる事に関しては、嬉しくもちょっと困りものだと感じている。
 花は徐々に置き場に困るようになってきたし、大した量じゃないけどお菓子はとても美味しくて、食べ過ぎて太りそうで少々怖い。
 かと言って、厚意で持って来てくれている物にケチ付けるような真似もできないので、ティグリス王子には申し訳ないけど、最近はもらったお菓子を時々神殿女官達に回し、代わりに食べてもらっていたりする。

 今さっき言った通り、大した量じゃないから後に取っておいて、お茶の時に適度に食べればいいんだろうけど、どうにもそれができない。
 だって、食べたらめっちゃ美味しいって分かってる物が部屋ン中にあると、つい手を伸ばして食べちゃうし。
 だったら、最初っから手元に残しておかないようにすべきだと思った次第。
 本当、変な所で自制できないよな、と思うけど、人にあげるという考えが働く程度の理性を持ち合わせてるだけ、まだマシだろう。
 ひとまず、そう思うようにしている。

 とまあ、そんな感じで色々ありつつも、普通に割と平和だったんですよ。
 でもなんか夏に入った途端、バカみたいに暑くなった。
 毎日毎日カンカン照りって程じゃあないが、とにかく気温が高いのだ。
 昨日なんて、空が全面分厚い雲に覆われて1日中ちょっと薄暗かったくらいなのに、温度計見てみたら、目盛りが36度を指していた。殺す気か。

 聞いた話によると、街のあちこちでもこの暑さにやられて倒れる人が続出してるみたいで、病院や医療関連の魔術師はてんてこ舞いになってるらしい。
 おまけに今月に入って丸10日、雨が全く降っていない。
 井戸水の水位も徐々に減ってきてるし、このままじゃ渇水待ったなしだ。
 女王様を含めた王侯貴族達も、あんまり悠長に構えていられなくなってきているようで、色々話し合ってるみたいです。


「聖女様、お客様がお見えです」
 ため息交じりに使ったジョウロを片付けていると、神殿女官のドロシーが来客を告げてきた。
「お客様? もしかして、ティグリス王子殿下ですか?」
「あ、はい。仰る通りです。先に客室へお通ししておきましょうか」
「そうして下さい。私は多少、汗を拭ってから行きます。流石に、今の汗だくのままの格好で殿下の前に出て行く訳にはいきませんし」
「かしこまりました。ただ……今は、湯浴みをして頂けるだけの水があまり……」
「分かっています。他の方にお願いして、桶に軽く湯を張ってもらって下さい。それで清拭しますので」
「では、そのように手配致します。……本当に申し訳ございません」
「あなたが謝るような事ではありません。お互い不自由な思いをしますが、これもひとつの試練と思って、水を大切にしながら頑張りましょう。女神は必ず、私達に再び恵みを与えて下さいます」
「……っ、せ、聖女様……!」
 私がそう言って励ますと、目に見えて落ち込んでいたドロシーがグッと顔を上げ、気合の入った表情になる。

 いや、別に嘘はついてないし、気休め言ってる訳でもないですよ?
 私の手元には女神――セアとの連絡手段がちゃんとある。
 本気で切羽詰まった状況になる前に、「一体なにやってんだ」ってクレーム……もとい、連絡入れるつもりだからね。
 なんせ、この星をテラフォーミングしたのは、セアの勤め先。
 それすなわち、あっちの世界は、ただの一企業が惑星ひとつにまるっと入植作業の手を入れ、余すところなく住環境を整えられるほど、化学と魔法が発達してるって事に他ならない。

 なら間違いなく、気象現象に手を入れるような技術だって持ってるはずだ。
 やむを得ない事だったとはいえ、会社ぐるみで女神と聖女という存在を作って立てて、それによって星とそこに生きる人達の管理をしてるんだから、私達の生活のフォローもキッチリやってもらおうじゃないか。
 この星に住んでる人達は、みんな犯罪行為に巻き込まれた被害者の末裔で、ついでに言うなら私とシア、エドガーも被害者だ。
 管理者に物申すくらいの権利は、あってしかるべきでしょうよ。

「聖女様、頑張りましょう! 今、他の神殿女官へ言付けて参りますので、しばらくお待ち下さいませ」
「よろしくお願いします」
 すっかり元気になったドロシーが、弾むような足取りで廊下の向こうに消えていく。
 しかしまあ、外がこんな状態なのに今日も来るとか、ティグリス王子も元気だね。
 最近インドア気味なお姉さんには、ちと眩しいですよ。

◆◆◆

 そんなこんなで翌日。
 朝、なんか寒くて目が覚めた。マジ寒い。
 今度は一気に気温が下がってるようだ。
 部屋の温度計見たら10度だってよ。おかしくね?
 完全に、二度見案件なんですけど。
 つーかマジ? 夏の気温じゃないじゃん。ウケる。アハハ。

 ……って、笑い事じゃねえぞコレ! ここまで一気に気温下がると、植えてる野菜や草木が枯れちまうわ!
 ホントマジどうなってんの!? 異常気象にもほどがある!
 これはもうダメだ! ヤバい! 今日の夜……いや、朝の用事が済んだらすぐセアに連絡取ろう! 幸い今日は学園休みだし!
 私は急いでクローゼットに駆け寄って、両開きの扉を勢いよく引き開けた。


 案の定、有り得ない前日との気温差に驚き、戸惑うのを通り越して不安な顔をしているみんなと一緒に、それでもいつも通り掃除をして朝の礼拝を済ませ、朝食をとる。
 今日の朝食は、バターロールパンとミニサラダ、ベーコンエッグ、デザートに林檎のコンポートがついた、合計4品。
 うんうん。いつも通り、とっても美味しい朝ごはんだ。
 それから、いきなりアホみたいに下がった気温に対応してか、食後に暖かいジンジャーティーを出してもらえて、ちょっと嬉しくなる。
 自分達だって不安だろうに、こんな風にさり気ない気遣いをしてくれるなんて、ここの料理人さん達は本当に冷静で視野が広い。
 おかげで身も心もあったまりました。ありがとうございます。

 朝食の後、シアとエドガーにだけ「ちょっと女神と話をしてみる」と告げ、自室に戻ってドアに鍵をかける。
 それから念の為、室内に風の魔法で結界を張り、部屋の外に声が漏れないよう防音措置を施した直後。
《もしもしっ! ねえアルエット聞いてる!? ちょっとお願い助けて!》
 身に付けてるペンダントから突如、切羽詰まったセアの声が響いた。

 ちょ、なんなのいきなり!
 心臓に悪いから、最初の一言で大声張り上げんのやめてくれませんかね!
 思くそドキドキしてる心臓をなだめつつ、服の下に隠れていた通信用のペンダント――ラピスラズリに似た色味の、ティアドロップ型をしたペンダントを引っ張り出し、こっちからも声をかける。

「ちょっとセア! 突然大声出すのやめてよね! つか、どうしたのいきなり?」
《どうしたもこうしたもないのよ! こっちも色々手を尽くしたんだけど、やっぱりダメだったの!》
「いやだから何が! 要領得ないからもっとちゃんと話して!」
《えあ? あ、ああそうよね、ゴメン。と、とにかく落ち着いて聞いて!》
「落ち着かなくちゃいけないのはそっちの方だと思うんだけど」
《揚げ足取らないでよ! いい、よく聞いて! このままじゃこの星、自然環境が崩壊して人が住めなくなっちゃうのッ!》
「――はあ!?」
 なんだか漫才じみてきたやり取りの最中、いきなり投下された爆弾発言に、私は思わず裏返った声を上げた。

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