真の聖女として覚醒したら、世界の命運ガチで背負わされました。~できれば早く問題解決したいけど無理ですか。そうですか。

ねこたま本店

文字の大きさ
3 / 39
第1章

3話 贈られたお詫びの品と過剰戦力

しおりを挟む
 
 突然目の前に現れ、ちょこん、とお座りしている黒いチワワを、思わず無言で見つめる。
 私はぶっちゃけ犬には詳しくないのでよう分からんけど、チワワって黒いのもいるんだ。
 まあそりゃいるか。この世界ではともかく、私の元いた世界では、動物の被毛で黒ってのはスタンダードだったし。

 あー、ホントにモフモフだなぁ。
 こういうの『ロングコートチワワ』って言うんだっけ?
 つか、全体的に可愛い! 黒くてまん丸な目がウルウルしてるっぽく見え……うん? なんかこの子、背中にちっこいリュックみたいなモン背負ってるな?
 結構カッチリした形で、ランドセルに近い形状で……本革製っぽい見た目だ。
 しかも色がくすみピンクときたもんだ。
 黒いモフ毛に映えますなぁ。
 くぅ、お使いワンコみたいでますます可愛い……っ。

 いや待て。落ち着け。
 セアが何を思ってこの子をこっちに送り込んできたかは分からんが、わざわざリュックを背負わせてある、という事は、この中に何か重要な物が入っているはず。
「……そういや、セアがトリセツがどうとか言ってたような……」
 私は独り言ちながらチワワの傍にしゃがみ込み、チワワが背中に背負ってるリュックに目をやる。
「えーっと、ちょっと中身、取らせてもらっていいかな?」
「キャン」
 あらまあ。可愛いお返事付きで伏せしてくるじゃないですか。賢い!

 チワワの行動を了承、肯定と受け取り、チワワが背負ってるリュック――いや、ランドセルもどきだな、こりゃ――に、そっと手をかける。
 本革っぽい見た目にちょっとそぐわない、木製とおぼしきトグルボタンで留めてある蓋を開けて中を見ると――
なんか、真っ暗な空間が広がってました。
「…………」
 思わず言葉を失い硬直したのち、そっと蓋を閉じて自分のこめかみを押さえ、おもむろに右の人差し指と親指で眉間を揉み解す。

 えーと。これはアレか。
 昨今のファンタジー系ラノベによく登場する、無限収納的なモンか。
 もう一度手を伸ばし、「ちょっと持ち上げさせてね」とチワワに声をかけ、くすみピンクのランドセルもどきを両手で掴んで軽く持ち上げる。

 うおっ! 軽っ! めっちゃ軽っ!
 合皮……いや、布より軽いぞ!?
 この見た目で本革じゃないの!?
 一体なにでできてんだ、これ!

 私は狼狽しつつも再びランドセルもどきの蓋を開け、意を決して暗がりの空間が広がるその中に手を突っ込む。
 その途端、目の前に出現する半透明のウインドウ。
 そこに、内容物の名称とその数が記載されている。

『総合取扱説明書』×1

 ってのは分かるけど、その他の内容物が問題だ。

『ポテトチップス各種(日本製)』×∞
『チョコレート各種(日本製)』×∞
『チョコレート各種(外国製)』×∞
『チョコ菓子各種(日本製)』×∞
『キャンディ各種(日本製)』×∞
『駄菓子各種(日本製)』×∞
 etc……。

 なんっじゃこりゃあ!!
 色んなお菓子がめったくそに詰まってる!?
 ――あっ、いや、まだある! 飲み物だ!

『飲料水・清涼飲料水(日本製)』×∞
『コーヒー(有名ブランド各種)』×∞
『緑茶(有名ブランド各種)』×∞
『紅茶(有名ブランド各種)』×∞
 etcetc……。


 ……。これは一体どういう事ですか。セアさんや……。
 ――はっ! もしかしてこれ、『お詫びの品』のつもりか!?
 つか、それ差し引いても数量『∞』はねえだろ!? 『∞』は!
 おかしいだろどう考えても!

 いやまあね、お気遣いは嬉しいよ!? ホント嬉しい!
 もう二度と口にできないと思ってた、慣れ親しんだ物を飲み食いできるんだからさ!
 でも素直に喜ぶには規格外が過ぎる!
 私がこれを転売ヤーよろしく売り払いまくったりしたらどうするつもりだ!
 そんな事絶対やらんけども!

 私はその場にへたり込む。
 もう頭を抱えるしかない。


「…………。取り敢えず、トリセツ出して読もう……」
 私はひとまず目の前の問題を棚上げし、ランドセルもどきの中にもう一回手を突っ込んだ。
 その上で、トリセツ出したい、と念じてみると、ウインドウに表示されている『総合取扱説明書』という部分がチカチカ点滅したのち、黒い空間の中にある手に何かが触れたような感触が。
 ああ、はいはい。掴んで出せって事ね。

 取り出したトリセツは、見てくれは普通の文庫本と大差なかったが、『総合取扱説明書』と銘打たれているだけあって、割とごん太だった。

◆◆◆

 トリセツによると、チワワが背負ってるランドセルもどきの正式名称は『携行型亜空間収納ボックス・TS&SRヴァージョン・ランセルモデル』というらしい。
 正式名称クソなげぇよ。覚えられんわ。
 もういい。今後はランドセルって呼ぶ事にしよう。

 ともあれ、このランドセルの性能は私が予測した通り、ファンタジー系ラノベに登場する無限収納とほぼ同じで、生き物以外の物質なら何でも放り込んでおけるし、いっぺん中に入れた物は時間経過からも保護され、傷む事もなければ腐る事もなく、また、冷めたり温くなったりする事もない、というもの。

 そして更に、複数の空間と空間を接続し、別の場所に保管されている物質をも取り出す事が可能、らしい。
 ああ成程。つまりこの機能があるから、さっき見たお菓子や飲み物がみんな、『○○×∞』なんて表記になってたのか。
 まさに空前絶後のとんでもランドセルだ。

 また、このランドセルには魔力波長認証システムというのが搭載されていて、魔力の波長を登録した登録者以外には蓋を開けられないようになっている他、登録者以外が持ち出すと防犯システムが作動、ほんの一瞬ながら、高電圧の放電が行われるようになっている模様。

 要するに、盗っ人野郎を感電させるスタンガン機能も搭載してるんだね。
 うーむ、なんとまあ物騒なランドセルである事か。
 盗んだ奴がショックで死んだらどうすんだ。
 ま、そうなったらなったで、盗んだ奴が悪いって事で片付けられておしまいで、誰もどうもしないんだろうな。
 日本と違って、犯罪者に対して激烈に厳しいこの世界の理よ。
 情状酌量の『じ』の字もねえ。

 でもって、そんな物騒ランドセルに、私が触ったり蓋を開けたりしても平気なのは、セアが先んじて自分の魔力の波長を登録してるからだと思われる。
 なんせ、私が今自分の魂の容れ物にしているのは、セアのクローン体だ。
 つまり私は、遺伝子レベルでセアと丸っきり同じ人間だという事。
 それすなわち、生体認証タイプのセキュリティシステムが付いてる物全てを、お互い共有できるという事でもある。
 こういう所はちょっと便利かも……いや、そうでもないな。
 こっちの世界に、生体認証システムなんてモンは基本存在しないし。
 まあとにかく、この中に掘り出したオリハルコン詰めて持って来い、という事で間違いなさそうだ。
 盗まれる心配もほぼゼロだし、荷物の持ち運びに関してはこれで解決だ。

 さて。次に、この黒モフなチワワの事に関して……おっ、あったあっ…た……。
 トリセツの文面を見た私は、またも硬直する羽目になった。




【飼い主様へ】
特Sランク魔獣・ブラックフェンリルの特徴と飼育について


 このたびは当店でのブラックフェンリルのご購入、誠にありがとうございます。
 店頭でのご説明通り、当店のブラックフェンリルは全て政府機関による検疫をパスし、各種予防接種と最低限の教育を施しておりますので、契約を済ませた方であれば、どなた様でも安心して飼育・使役して頂けます。
 寿命は平均して、およそ100~150年です。
 最後まで責任持って飼育して頂きますよう、店員一同心からお願い申し上げます。

 戦闘形態時の体高は5~6メートルほどですが、非戦闘時は20センチほどの小型犬に擬態して過ごす習性がある為、通常の飼育下ではさほど場所も取りません。
 擬態時の見た目は大変愛くるしく、軍用としてだけでなく戦地における傷病者を癒すアニマルセラピーの現場でも、優れた力を発揮する事でしょう。

 ブラックフェンリルが習得できる魔法とその威力は個体によってまちまちですが、雷と風の魔法は間違いなく使えるようになります。
 喋る事はできませんが、知能が大変高く、人語を解する為、しっかり教えれば警備を行う設備に損害を与える事もありません。
 ただし、広域殺傷魔法や極大魔法の行使を最も得意とするがゆえ、手加減できない個体が圧倒的に多いので、捕虜を確保する目的でのご利用は控えられた方がよいかと思います。


 ブラックフェンリルは、飼い主様とスキンシップを取る際に飼い主様の魔力を吸収し、それをエネルギー源としますので、餌は基本的に不要です。長期の行軍にもよく耐えます。
 また、嗜好品の摂取も可能です。
 もし何か食物を欲しがる事があれば、適度に与えてあげて下さい。
 ブラックフェンリルは雑食であると共に、無機物や猛毒さえも取り込み、消化できる、極めて頑強な消化器官を有している為、食べさせていけない物は皆無です。安心して同じ物を一緒にご賞味頂けます。

 また、集団生活をする犬や狼と違い、単独行動で生活するネコ科の動物に近い習性を持った生物なので、意識して序列を覚えさせる必要もありません。
 主として認めた相手には、息をするような自然さで従いますが、前述の通り大変賢い生物ですので、決して邪険には扱わず、飼育環境を常に清潔に保ち、ストレスを与える事なく、優しく接して下さいますよう、伏してお願い申し上げます。
 ぜひとも大切な家族の一員として、末永く大切に可愛がってあげて下さい。
 お客様の日々の戦いに、幸運がありますように。


 ※一般の方には誤解される事も多いのですが、ブラックフェンリルは神話に登場するフェンリルとは、全く別種の生物です。
 お客様の生活圏にご近所様がお住まいの場合には、その点のご説明を先んじてして頂いた方が、後々のトラブルを回避しやすくなるかと思われます。




「…………」
 ふーん。これ……このチワワ、犬じゃないんだ。
 ブラックフェンリルね。かっけぇお名前だね。
 一番得意な魔法が広域殺傷魔法と極大魔法で、手加減が苦手なのかー。
 ぶきっちょさんなんだね。アハハ。

 ――って、笑い事じゃねえ!!
 つか文面から察するに、ゴリッゴリの軍用犬的生物なんじゃね!? この子!
 なんつー物騒な生き物を寄越すんだ!
 ディア様と女王様になんて説明すりゃいいんですかこん畜生!!
 いや、その前にエドガーとシアにどう紹介すれば!?

 頭が痛いやら眩暈がするやらで、またもその場にへたり込んでうずくまる私。
 そして、そんな私の手を、ちまこい前足でチョイチョイ、と軽くつつきながら、キューン、と心配そうに鳴いている、チワワ改めブラックフェンリルちゃん。

 くそぅ、物騒な生き物だって分かってても可愛い!
 ちょ、なに人の手をちっちゃい舌で舐めてくれちゃってるの!?
 なにこれぐうかわ!
 やだもうぎゃんかわ!
 ダメだ! 負けた! 返品ムリ!!
 今日からお前はうちの子だ!

 こうして私は、ブラックフェンリルという名のチワワっぽい生き物に、あっさりと籠絡された。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

処理中です...