真の聖女として覚醒したら、世界の命運ガチで背負わされました。~できれば早く問題解決したいけど無理ですか。そうですか。

ねこたま本店

文字の大きさ
35 / 39
第3章

6話 再び聖地へ

しおりを挟む

 私は教会側が新しく用意してくれた本格的な防寒具に身を包み、足元をてってこ歩くロゼを右隣に、教会の神官さん2人を背後に引き連れて、教会内部にある礼拝堂へ足を向けた。
 神殿奥にある、宿舎を含めた教会関係者の生活圏と一般の人々が訪れる礼拝堂は、ドアが取り付けられていない、2カ所の小さな出入口で繋がっている。

 礼拝堂と宿舎を繋ぐ出入口にドアがないのは、創世聖教会側の『私達は、女神の御名の元においてはみな平等です。ゆえに、神職にある者とそうでない者達の間に、垣根を作るような行いは一切致しません』という、主義主張に則っての事らしい。
 でも、確か大神殿にある宿舎と礼拝堂に繋がる出入口には、どれにもしっかりした造りの扉が据え付けられてたような気がするんだけど。教皇猊下の住居が近くにあるせいだろうか。
 これこそが、いわゆる本音と建前のせめぎ合い、もしくは、人間社会の現実が生む大いなる矛盾、というものなのかも知れない。

 まあそれはともかく、私は心の中で、お邪魔します、と述べて、静かに礼拝堂へ足を踏み入れた。
 王都にある大神殿と比べると、その半分以下の広さしかない礼拝堂の中に、優に4、50人を超える数の人々が、老若男女問わず身を寄せ合っている。
 彼らはみな、突如襲いかかってきた異常気象に、心底恐れおののいているのだろう。
 人々はこの異常気象の解消を願って礼拝堂の床に跪き、正面からは顔も見えないほど深く頭を垂れて、一心不乱に女神へ祈りを捧げているようだった。
 それこそ、誰も一言も発しないまま祈りに集中し、身じろぎすらろくにしてないせいで、礼拝堂の中は水を打ったように静まり返っている。

 うわー……。事情を説明するつもりで来たのはいいけど……どうしよ。
 声かけづれぇなんてモンじゃないぞ。この雰囲気。
 しかし、ここで怖気づいてまごまごしていては、一向に話が進まない。
 私は心の中で、自分自身に気合と喝を入れ直し、意を決して口を開く。
 おっしゃ行け、私! 怯むな! 男は度胸、女も度胸だ!
 愛嬌なんてフワッとしたモンで世界が救えるか!
 非情な現実の前では笑顔なんぞ無力もいい所。腹の足しにもなりゃしねえわ!

「――皆さん。祈りを捧げておられる最中、失礼します」
 私が発した声は、礼拝堂内部が静まり返っていたせいか、思っていたより大きくその場に響いた。
 その途端、床に額をこすり付けんばかりの様子で祈っていた人達が、まるで示し合わせたようなタイミングで、一斉に顔を上げて私を見てくる。
 怖ッ! めっちゃ怖ッ! 動きが揃い過ぎててマジ怖い!

 私が思わずちょっぴり顔を引きつらせていると、祈りを捧げていた人達のうちの誰かが、「聖女様だ」と独り言のように言う。その一言を皮切りに、礼拝堂の中にいる人達が一気に、わっ、と声を上げた。
流 石に私の方に押しかけて来る人はいないものの、その場にいる何10人もの人間が、てんでバラバラにあれこれ喋り倒すもんだから、何を言われてんだかほとんど聞き取れない。
 おい誰だ、今「明日の漁は豊漁ですか」とか訊きおったのは。
 分かるかそんなモン。つーか、今はこの意味不明な状況を心配しろよ。

「み、皆さん! 落ち着いて! 落ち着いて下さい!」
「聖女様から皆さんに、お話がございます!」
「どうか女神の代理人たる御身の話に、耳を傾けて下さい!」
 私と神官さん達が慌てて声を張り上げると、ようやくみんな口を噤んでくれた。
 しかしその代わりに、またもや一斉にこちらへ視線を向けられて、反射で一瞬怯んでしまう。
 落ち着け。この人達は話の通じない暴徒じゃない。話せば分かる人達だ。多分。

「――えー、ええと。皆さん、どうかお聞き下さい。私は今日これまで、女神の神託に従い祖国を離れておりました。
 それはひとえに、この世界へ差し迫る、滅びの魔手がもたらす脅威を防ぐ為に必要となる、女神への供物を見出し、手に入れる為です。残念ながら今回の異常気象も、その魔手の一端がもたらしたものと考えて間違いないでしょう」
 私の発言に、礼拝堂の中の人達が動揺してざわめく。

「ですか! 私と使徒は、その脅威を祓う為、女神が御自ら指し示した場所へ赴き、その供物の入手に成功しました! あとは聖地にて供物を女神へ捧げれば、世界は脅威から救われます!
 私はこれより聖地へ急ぎ赴き、女神の御元へ供物を捧げて参ります。――しかしながら、聖地までは遠き道のりです。女神へのお目通りが叶うまでには、相応の時間がかかるでしょう。
 それまでどうか皆さんには、身分と立場の隔てなく一丸となって支え合い、街を守り抜いて頂きたいのです。どうかこの願いを、聞き届けて下さいませんでしょうか」

 ここへ来るまでに、何度も頭の中で捏ね繰り回して考えた言葉を堂々と告げると、礼拝堂の中の人達は一瞬の沈黙ののち、再び、わっ、と湧き上がるような声を上げた。
 ……ふう。あー緊張した。
 ぶっちゃけ、演説なんて前世でもやった事ないし、何よりガラじゃないから不安だったんだけど、一応納得してくれたみたいだ。よかった。

 そんなこんなで、半分以上勢い任せな状況説明を終えた私は、でっかくなったロゼの背中に乗っかって、全速力でイストークを飛び出した。
 背後からは、こんな天候であるにも関わらず、わざわざ私の見送りに出てきてくれた人達の、「お気をつけてー!」とか、「聖女様バンザーイ!」とか、「女神の加護がありますようにー!」とかいう声が、うっすら聞こえてくる。
 心配してもらえるって、本当に有り難い事だよね。
 あの人達の為にも、ここはひたすら急がねば。

 なんせ現状、通信用にもらったペンダントで呼びかけても、セアから返事が返って来ないのである。
 これはもう、いよいよ本気でイカレ始めた気象制御衛生の修理にかかり切りになっていて、呑気に私の呼びかけに応えてられる状況にない、と考えた方が妥当だ。
 だとすれば、もうマジで一刻の猶予もない。
 頼む! お願い! 間に合ってくれ!

◆◆◆

 ロゼと協力して張った結界のお陰で、私は風にも雪にも寒さにも晒されず、だいぶ快適な状況で道を急ぐ事ができた。
 普通なら、辺境伯領を経由しないと到底先に進めないんだけど、今回に限っては何の問題もない。なんせうちのロゼちゃんは空中を走れるからね。
 まずは、エクシア王国でオリハルコンを採りに行った時と同じように、重量軽減魔法を使ってトップスピードを維持したまま、平地を一気に駆け抜けて、うっそうとした森が見えてきた所で、風魔法を使ってひとっ飛びと洒落込む予定だ。

 いやー、改めて思うが、ホントにめっちゃ速い。
 流石に、ジェットエンジン搭載した旅客機には速度で劣るけど、それでも周囲の景色が根こそぎブレて、まともに視認できない程度のスピードは軽く出ている。
 これなら、半日とかからずに聖地へ入れるはず。
 まあ、ロゼの体力と相談しながら進む必要があるから、実際にはもっとかかるかも知れないが、それでも以前の聖地巡礼の際、徒歩で道を進んだ時と比べれば、まさしく雲泥の差というものだろう。

 そうしてロゼの背中に乗ったまま、どれほど進んできただろうか。
 聖地への道のりは非常に遠い為、案の定、エクシア王国の時のようにずっとトップスピードを維持して進んではいられなかった。
 私はロゼに走る速度を落とさせた上で、時折休憩を挟みながら聖地へ向かう。
 それでも普通の車より、遥かに速い速度で道を進んでいくと、辺境伯領に差しかかってきた辺りから雪はみぞれに変わり、そこから雹交じりの雨へと変化した。

 そして、聖域近くの森の上空に到達した直後。
 私は眼下に広がる光景に思わず息を呑んだ。
 以前足を踏み入れた、女神の聖域へ続く草原は、空から降り注ぐ氷の破片が突き刺さり、まるで針山地獄のような有り様になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

処理中です...