真の聖女として覚醒したら、世界の命運ガチで背負わされました。~できれば早く問題解決したいけど無理ですか。そうですか。

ねこたま本店

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第3章

5話 異変、降り来たる

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 魔動エンジンの出力を上げ、急ぎ接岸したイストークの港は、降り積もった雪でものの見事に真っ白になっていた。
 あまりの事に、私とエドガーもきょろきょろ周りを見回してしまう。
 つーか、雪かきしてない部分の雪の厚みがハンパねえ。軽く30センチ超えてるんですけど。
 当然、気温もめったくそに低い。船に積んでた温度計確認したら、気温マイナス2度だってよ。
 ちゃんと確認してた訳じゃないからはっきりした事は分からんけど、イストークの近海に入るまでの気温は、恐らく20度の半ばを越えてたはずだ。
 それがいきなりコレだもんな。殺す気か。

 まあ、そういう事なので早々に、こりゃ夏用の服じゃ到底過ごせんぞ、って話になり、船内に何か防寒に使える物はないか、とあちこちを漁った結果、幸いにも船内の倉庫の奥に積みっぱなしになっていた、厚手の服とフード付きのマントを発見できたので、今はそれを身に付けているが、それでもなお寒い。
「おいおいおい……。どうなってんだよこれ……。あっちもこっちもマジで真っ白じゃねえか。ってか、マジでクソ寒ぃな!」
「そりゃマイナス2度だもん、寒いに決まってんでしょ。分かり切った事言うなや。……ってか、寒いの通り越して顔面が痛い……」
 私とエドガーは、未だ雪の降りやまない空を見上げながら口々に文句を言う。

 うおっ、顔面にでかい雪粒が直撃した! 冷たっ!
 私は顔面に落ちてきた、幾つかの雪粒を慌てて手で払ってフードを目深にかぶり直した。
 あーもー、顔濡れたし……。もう空見上げるのやめよう……。
 って言うか……このデカい雪粒(もはや『粒』とは言えないサイズだけど)、これ普通の雪の結晶が大量に寄り集まってくっつく事で、こんなジャイアントぼた雪になってるみたいだな……。
 はぁ……。有り得ねぇ~……。
 いや、今実際有り得てるからこんな事になってんだろうけどさぁ。
 思わずため息が出る。

「こりゃ、女神が言ってた気象制御衛生が、いよいよバグるの通り越して壊れたのかも……」
「げっ、マジかよ……。なあ、お前どうにかできねえの?」
「無茶言振りすんな。人工衛星の修理なんてできっか」
「そうじゃなくて。魔法を使って、いい感じにこの辺の雪雲吹っ飛ばすとか」
「魔法初心者の私に、そんな器用な真似ができるとでも?」
「いやぁ、そういう自分で自分の可能性を狭めるような決め付けはよくないぜ? 試しにやってみろよ」
「適当な事言わないでくれる? 試したら試したで、今度は別の惨事が起きる予感バリバリなんだけど」

 私とエドガーが、船の前で棒立ちになったまましょうもない話を続けていると、遠くから灰色の防寒用マント(勿論フード付き)を身に付けた3人組が、こっちに走って来るのが見えた。多分、体格からして全員男だろう。
 ただ、足元が悪いせいか、走る速度はお世辞にも早くない。精々小走り程度の速さだ。
 つーかホント誰だ? あれ。防寒用のマントとフードのせいで、どこのどちら様だか全然分からん。

「聖女様! 使徒様! ああ、よくぞご無事で!」
 やがて、お互いの顔が幾らか分かる程度まで距離が近づくと、ようやく3人組の真ん中にいる人が声を上げた。
 ああ、トーマスさんか。んじゃ残りの2人は神官だな。
 トーマスさんは、昔から創世聖教会イストーク支部で司祭を務めている人で、月に2回、わざわざ王都にある大神殿へやって来て、祈りの間で何十分も祈りを捧げているくらい、敬虔な女神と聖女の信者でもある。
 お陰で私とシアも、すっかり顔見知りの間柄になった。

 180センチを超える長身な上、髪を綺麗に剃り上げたスキンヘッドなもんだから、ちょっと近寄りがたい感じがするけれど、中身は気の優しい穏やかなおじさんで、子供の頃はいつも私達に、素朴な焼きお菓子をお土産に持って来てくれたものだ。
 トーマスさんは、「質素な供物でお恥ずかしいですが」なんて言ってたが、変なクセが全くない、優しい甘みを持つ硬めのビスケットみたいで美味しかった。
 ちょっと口の中の水分持ってかれる系ではあるんだけど、ミルクと一緒に食べると、これがまた何とも言えぬ後引くお味で――

 いかん。話が逸れた。
 パブロフの犬よろしく、トーマスさんの顔見て反射でお菓子思い出してる場合じゃねえ。頭を切り替えねば。
「そちらもご無事で何よりです、トーマス司祭。一体いつから、イストークはこのような状況になっているんですか? それに、王都の方は――」
「それに関しては神殿で詳しくお話致しますので、ひとまずそちらへご足労頂けますでしょうか。このような場所で長々と立ち話していては、聖女様と使徒様の御身に障りましょう」
「司祭様の仰る通りでございます」
「まずはお身体を温められる場所へお越し下さい」

 心配そうな顔で、口々にそう言われてしまったら こっちとしても固辞できない。
 実際寒いし、こんな場所でずっと立ち話なんてしてたら、トーマスさんの言う通りマジで体調を悪くする。
「――分かりました。案内をお願いします」
 なのでここは、素直にトーマスさん達について行く事にしたのだった。

◆◆◆

 トーマスさんの案内で足を向けたのは、教会の建物の裏手側――台所に繋がっている、いわゆる勝手口の方だった。
 なんでも、今回の時期外れの降雪騒ぎで、教会の表側には人が大勢集まっていて、とてもじゃないがすんなり中に入れる状況ではないのだそうだ。
 民の心を鎮める為にも、しばらくのちで構いませんのでそちらへ顔を出して欲しい、と言われたので、素直にうなづいておく。つか、私が顔出した程度で落ち着いてくれりゃいいんだけど。
  何はともあれ、勝手口から教会の中へ入った私とエドガーは、通された応接室とおぼしき場所で、街の状況などを詳しく訊いてみる事にした。

 トーマスさん曰く、この雪が降り始めたのは今朝……つまり、大体今から数時間前の事らしい。
 ちなみに、降り始めの頃の気温はそんなに低くなかったそうだ。
 その為、最初の頃に降っていた雪は積もる様子もなく、ただ悪戯に地面を濡らしているだけだったのだが、1時間ほど経った辺りから急激に気温が下がり始め、雪の粒も大きくなり始めた。
 そこから、時間が経過するごとに気温はガンガン下がっていくし、雪の粒の大きさも増すばかり。
 当然、街の住民達も不安に駆られ始め、その多くが教会に押しかけてきている、と。

 ついでに言うなら、街にいる住民達への諸々の応対や急な降雪への対処だけで、領主も教会も兵士の詰め所もてんてこ舞いになっていて、まだ王都が他の町村がどうなっているのかは分からないそうだ。
 一応、ついさっき領主が王都へ早馬を出そうとした――らしいのだが、この豪雪の中、伝令を単身馬で駆けさせる訳にはいかないと思い直し、兵士達に小隊を組ませて、その小隊に伝令役を任せたとの事。
 でしょうねえ。
 こんなバカみたいなデカさの雪がガンガン降ってる中、伝令役を単身放り出したりしたら、間違いなく道中で凍死する。ここの領主さんが、その事にちゃんと思い至れる人でよかった。
 まあ、そういう事なら――やはり私がここで取るべき行動はひとつだけだろう。

 私は出された暖かい紅茶を口に含み、「状況は分かりました」とうなづく。
「エドガー、あんたはまず領主館に顔出して、人を借りてなんとか王都まで戻って」
「は? 俺だけか?」
「うん。あっちが今どうなってるのかは分からないけど、もしここと同じような異常気象に見舞われてるなら、大神殿の方に人が押しかけて来てるかも知れない。
 だとしたらきっと……ううん、間違いなくシアだけじゃ対応し切れなくて困ってると思う。私の代わりにシアを助けてあげて」
「あ、ああ。そりゃ勿論、お前がそう言うならそうするが……お前はどうするんだよ」
「私はこのまますぐに、ロゼの力を借りて聖地まで行ってくる。神託にあったオリハルコンを、一刻も早く届けないといけないから。――ロゼ、出てきてくれる?」

 荷物入れにしているカバンの口を開けると、肝心のロゼはその中で、のんびりまったり眠っていた。
 仰向けで身体捻って、ぷーすか寝息立ててます。
 なんというだらしない寝姿でしょう。可愛い。

「…………」
 私は思わず一瞬黙ってしまった。
 これ、完全にだらけ切ってんじゃん。
 もはや警戒心ゼロの座敷犬も同然じゃん。
 それでいいのか軍用魔獣。いや、可愛いけどさ。
 呼吸のたびに膨れたり引っ込んだりを繰り返す、モフ毛満載の腹に顔埋めて吸いたくなる。

 つーか、この大変な時にお昼寝タイムを満喫中だったのか。図太いなオイ。
 あと、このカバンは何の変哲もない布製なので、中にこもっていよう何してようが、今まで大分寒かったはずなんだけど……。こんな所で本来の頑強さを発揮しなくてもいいんだよ、ロゼちゃんや……。
 ホントもうどんだけ強靭な身体の造りしてんでしょう。ブラックフェンリルって生き物はさあ。

「ええと、ロゼちゃん?悪いんだけどちょっと起きてくれる?」
 私が改めて呼びかけると、ロゼはすぐに目を覚まし、キャン、という短いお返事と共に、すぐ起き出してカバンの外へと出て来てくれた。
 こっちを見返してくる瞳は、いつも通りパッチリしている。
 うむ、大変寝起きがよろしい。
 そして可愛い。可愛いは正義。うちの子最高。異論は認めない。

「ありがとうね、ロゼ。――さて。それじゃあまずは、教会に集まってる人達に顔を見せて、これから聖地へ向かう事を説明しましょうか」
「おい! まさか今からお前1人で聖地に向かう気か!?」
「なんと! 聖女様、それは幾ら何でも危険です!」
 応接室のソファからゆっくりと立ち上がり、静かに気合を入れる私を見たエドガーが慌ててソファから立ち上がり、エドガーの言葉を聞いたトーマスさんまでもが、血相を変えてソファから立ち上がった。
「大丈夫。道中はロゼが守ってくれるし、そもそもこの子、すっごい足が速いから。それはオリハルコン採掘の時の件で、あんたも既に確認済みでしょ」
 私はその場で軽く肩を回しながら言う。

 ――とにかく今は急がなければ。
 ただ手持ちのオリハルコンを届けただけでは、この異常気象は解消されないのだから。
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