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第一枝
ギルド的に正しいチーム
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「――俺様についてくりゃ、初陣も絶対うまくいく!」
世界樹マルクト、最下層の枝。海に接する〝第一階層枝〟にある港町内、その遍歴者ギルド内に自信満々な声が轟く。
飲食もできるギルド内は昼間から二〇ほどの席が満杯で、角に位置するテーブルと椅子を占拠するチームからの宣言だった。
言って、がははと笑っていたのは杉野屋量司。
茶髪のウルフカット、整った目鼻立ちで長身の17歳。着崩したブレザー制服姿で長剣を傍らに置く、聖王たちと同じ〝地球〟から転移してきた高校生と称する人物である。
「リョウ、元気、きっと平気」
隣席で静かに微笑んだのは、33歳のヒューマン男性。チェン・ティーだった。
地球でいうところのアジア系の特徴を持ち、鳳凰の刺青を背負う引き締まった筋肉美を誇る美男で、上半身は裸だ。下は道着をはき、黒髪短髪の頭には鉢巻を、腰には異様に長い多節棍を巻いている。
「参考にならないわよん。リョウはいっつもこの調子だもの」
向かいの席で頬杖をつき、目を閉じたまま呆れたのは、豊満な容姿をしたエキゾチックな美女だった。あちこちを結った複雑な桃色の長髪、露出が多いボンテージ風の衣装で水晶玉を膝に置いていた。
クレイン・バルモ・テリエント、252歳、人間換算で20代半ばな魔族、人類の精気を吸うことで生きる淫夢魔女である。
「いいからはっはとむおうで」
「わらが減ってはまんとならと、みきゅうでは言うそうだしな。あ、それはわたしの肉だぞ!」
隣席から一人、いや二人? がいっぱいに食物を頬張りつつ口を挟む。食卓に並ぶ肉料理やサラダやスープや麺やパン……などなどを、スプーンとフォークとナイフと箸を同時に使いながら奪い合うように平らげる彼らは、スラサワ&フレイドルだった。
エルフと鬼族のハーフで、共に19歳。容姿は瓜二つな長髪の美少年だが、スラサワは鬼の特徴である一本角が額から生えた金髪で短剣と槍を得物とし、フレイドルはエルフの特徴を有して耳が尖った銀髪で弓を得意としていた。
さらには、背中合わせに身体が癒着しており、二人で着れる特注の布製鎧で身を包んでいる。
「もうみんな食べ終えたわよん」
クレインは血のようなワインをグラスで飲みながらツッコむ。
「いつまでもおかわり繰り返して食べ続けてるあんたらを待ってんの。何か言ったげて、サラ」
呼び掛けられたのは、癖の強いコンビたちに挟まれた席に座る少女だった。
「……」
けれども無言で頷いただけな、15歳の美少女サンサラ。絶大な魔力を有するマージ族の特徴たるやや浅い肌と赤い目、赤髪を有し、ポニーテールにしていた。種族伝統のきめ細かな刺繍を施したローブを纏っている。
「いいじゃねーか」量司は背もたれ付きの座席に深く寄り掛かって宥める。「戦闘時の運動量から換算するに、カロリー消費量として申し分ねえ。特に今回の相手としてはな」
そう、彼ら含むギルドを満たす遍歴者たちはほぼ戦いのために町を訪れたよそ者だ。
敵は魔族の軍団。
クリフォトの黒林檎は、高い位置に実る大きいものほど人の負の感情を吸収し強い魔族を生む。魔王を誕生させるのは最上部の大黒林檎、先代魔王の死後に実っているのは専ら最下層から中層までの小から中黒林檎程度で、この辺りだとたいがい生む魔物の知能も低い。
けれども、稀に上層の大黒林檎以上も産出していた。これ以降の魔族は知能も実力も高く、下位の魔族たちを従わせる能力すら持ち、群れを率いてユグドラシルに襲撃を仕掛けることがある。
今回の相手なのだ。
事前に偵察隊が確認した魔族軍はたいした規模ではなかったが、迎え撃つには、小さな港町である最下層枝の軍隊だけではやや心許なかった。ために、このユグドラシル頂上にも住む聖王が直々にギルドに依頼、マルクト全土から定員限度まで集まった遍歴者たちが待機していたわけである。
「話が耳に入ったが、おまえら〝スプラウト〟か?」
突如、六人の会話に誰かが割り込んできた。
「そうだが、なんか用か?」
真っ先に量司が反応して一同と共に視線を向けた先には、男女の二人組がいた。剣士らしき強面の男と、魔法使いらしきケバめの女だ。
かなりの声量によるやり取りだったため、他の遍歴者たちもざわめく。
「スプラウト!? あいつらがなの、噂には聞いてたけど」
「通りで、変なのがそろってるわけだ」
「障がい者を寄せ集めた聖王肝入りのチームって聞いたが、マジかよ」
「特例で優先的に仕事回されたらしいぜ、足引っ張んねえで欲しいな」
「差別撤廃で落ちこぼれの弱者チームにもチャンスをってやつか? ここは戦場だぞ、ふざけんな」
一連の囁きが終わった後で、ケバい女は得意気に言う。
「聞こえたかしら? 要件はみなが代弁してくれたわね」
強面男が嫌みったらしく継ぐ。
「ギルドは実力主義だったのに、勇猛果敢な戦士たちが聖王の作った年齢制限で奪われたんだぜ。なのにてめえらみたいな出来損ないが属してるってのはおかしくねえか?」
「だったら問題ねーな、俺様たちはこの中で一番強い」
量司は大声で即答する。
「なんだと!」
聞こえたギルド中の遍歴者たちが殺気立った。
「たいした度胸だな小僧」
「試してやりましょうか?」
強面とケバめが凄むと、女性店員が間に入った。
「ちょっとみなさん、困ります店内で騒がれては!」
「俺様は別に構わないぜ」
「店が困るって言ってんだけど!」
リーダーがツッコまれたところで、ようやく食事を終えたスラサワ&フレイドルが制する。交互にお茶を飲みながら。
「よせよ」
「わたしたち以外が怪我をして、魔族との戦いに支障が出るだけだ」
「そうそう。あ、店員さんごちそうさん」
「怪我じゃすまなくなるのはあなたたちでしょ」
対して、ケバ女と強面男も交互に返す。
「だいいち多少疲れたとこで、小規模な魔物軍団なんざ倒し慣れてんだよ。てめえら素人と違ってな!」
「ええ、明日には元気で迎え撃てるわよ。さあ、準備運動にあんたらを無料で討伐してあげる!」
「明日だと? バカか」鼻で笑ったのは量司だった。「戦争は今日だ」
「――さっそく先制攻撃よん」
ふとクレインが唐突な呟きを発し、
「頼む!」
量司が指示した瞬間。
天井をすり抜け、赤い髑髏が降ってきた。大口を開け、ケバめ女と強面男を呑み込むように。
「〝安息日〟!」
すかさず、尻尾の先端と水晶玉をそちらに向けて唱えたのはクレインだ。
包み込むような青白い光のドームが発生。遍歴者たちを守り、打ち消すように髑髏を相殺して消える。
「……危なかったな、〝死の舞踏〟だ」
呆然としてへたり込む絡んできた二人に、量司は語り掛ける。
「影響範囲は小さいが、物体を透過して標的へと弧を描くように飛ぶ。当たれば生物を確実に殺す、上級即死魔法だぜ」
「本当の狙い、ぼくたち」
チェンの分析に、クレインが同意する。
「事前に張ってた街全体を覆う結界で軌道がずれたのねん。想定より早かったわん」
「……」
騒然とするギルド内で、虚空から出現させた杖を握って最初に席を立ったのはサンサラだった。
「おっ、行くか」
続く量司に、スプラウトと呼ばれたチームの全体が起立した。
カンカンカンカンカン!!
途端、街中に金属音が響き渡る。敵襲を伝える、見張り塔からの警鐘だった。
世界樹マルクト、最下層の枝。海に接する〝第一階層枝〟にある港町内、その遍歴者ギルド内に自信満々な声が轟く。
飲食もできるギルド内は昼間から二〇ほどの席が満杯で、角に位置するテーブルと椅子を占拠するチームからの宣言だった。
言って、がははと笑っていたのは杉野屋量司。
茶髪のウルフカット、整った目鼻立ちで長身の17歳。着崩したブレザー制服姿で長剣を傍らに置く、聖王たちと同じ〝地球〟から転移してきた高校生と称する人物である。
「リョウ、元気、きっと平気」
隣席で静かに微笑んだのは、33歳のヒューマン男性。チェン・ティーだった。
地球でいうところのアジア系の特徴を持ち、鳳凰の刺青を背負う引き締まった筋肉美を誇る美男で、上半身は裸だ。下は道着をはき、黒髪短髪の頭には鉢巻を、腰には異様に長い多節棍を巻いている。
「参考にならないわよん。リョウはいっつもこの調子だもの」
向かいの席で頬杖をつき、目を閉じたまま呆れたのは、豊満な容姿をしたエキゾチックな美女だった。あちこちを結った複雑な桃色の長髪、露出が多いボンテージ風の衣装で水晶玉を膝に置いていた。
クレイン・バルモ・テリエント、252歳、人間換算で20代半ばな魔族、人類の精気を吸うことで生きる淫夢魔女である。
「いいからはっはとむおうで」
「わらが減ってはまんとならと、みきゅうでは言うそうだしな。あ、それはわたしの肉だぞ!」
隣席から一人、いや二人? がいっぱいに食物を頬張りつつ口を挟む。食卓に並ぶ肉料理やサラダやスープや麺やパン……などなどを、スプーンとフォークとナイフと箸を同時に使いながら奪い合うように平らげる彼らは、スラサワ&フレイドルだった。
エルフと鬼族のハーフで、共に19歳。容姿は瓜二つな長髪の美少年だが、スラサワは鬼の特徴である一本角が額から生えた金髪で短剣と槍を得物とし、フレイドルはエルフの特徴を有して耳が尖った銀髪で弓を得意としていた。
さらには、背中合わせに身体が癒着しており、二人で着れる特注の布製鎧で身を包んでいる。
「もうみんな食べ終えたわよん」
クレインは血のようなワインをグラスで飲みながらツッコむ。
「いつまでもおかわり繰り返して食べ続けてるあんたらを待ってんの。何か言ったげて、サラ」
呼び掛けられたのは、癖の強いコンビたちに挟まれた席に座る少女だった。
「……」
けれども無言で頷いただけな、15歳の美少女サンサラ。絶大な魔力を有するマージ族の特徴たるやや浅い肌と赤い目、赤髪を有し、ポニーテールにしていた。種族伝統のきめ細かな刺繍を施したローブを纏っている。
「いいじゃねーか」量司は背もたれ付きの座席に深く寄り掛かって宥める。「戦闘時の運動量から換算するに、カロリー消費量として申し分ねえ。特に今回の相手としてはな」
そう、彼ら含むギルドを満たす遍歴者たちはほぼ戦いのために町を訪れたよそ者だ。
敵は魔族の軍団。
クリフォトの黒林檎は、高い位置に実る大きいものほど人の負の感情を吸収し強い魔族を生む。魔王を誕生させるのは最上部の大黒林檎、先代魔王の死後に実っているのは専ら最下層から中層までの小から中黒林檎程度で、この辺りだとたいがい生む魔物の知能も低い。
けれども、稀に上層の大黒林檎以上も産出していた。これ以降の魔族は知能も実力も高く、下位の魔族たちを従わせる能力すら持ち、群れを率いてユグドラシルに襲撃を仕掛けることがある。
今回の相手なのだ。
事前に偵察隊が確認した魔族軍はたいした規模ではなかったが、迎え撃つには、小さな港町である最下層枝の軍隊だけではやや心許なかった。ために、このユグドラシル頂上にも住む聖王が直々にギルドに依頼、マルクト全土から定員限度まで集まった遍歴者たちが待機していたわけである。
「話が耳に入ったが、おまえら〝スプラウト〟か?」
突如、六人の会話に誰かが割り込んできた。
「そうだが、なんか用か?」
真っ先に量司が反応して一同と共に視線を向けた先には、男女の二人組がいた。剣士らしき強面の男と、魔法使いらしきケバめの女だ。
かなりの声量によるやり取りだったため、他の遍歴者たちもざわめく。
「スプラウト!? あいつらがなの、噂には聞いてたけど」
「通りで、変なのがそろってるわけだ」
「障がい者を寄せ集めた聖王肝入りのチームって聞いたが、マジかよ」
「特例で優先的に仕事回されたらしいぜ、足引っ張んねえで欲しいな」
「差別撤廃で落ちこぼれの弱者チームにもチャンスをってやつか? ここは戦場だぞ、ふざけんな」
一連の囁きが終わった後で、ケバい女は得意気に言う。
「聞こえたかしら? 要件はみなが代弁してくれたわね」
強面男が嫌みったらしく継ぐ。
「ギルドは実力主義だったのに、勇猛果敢な戦士たちが聖王の作った年齢制限で奪われたんだぜ。なのにてめえらみたいな出来損ないが属してるってのはおかしくねえか?」
「だったら問題ねーな、俺様たちはこの中で一番強い」
量司は大声で即答する。
「なんだと!」
聞こえたギルド中の遍歴者たちが殺気立った。
「たいした度胸だな小僧」
「試してやりましょうか?」
強面とケバめが凄むと、女性店員が間に入った。
「ちょっとみなさん、困ります店内で騒がれては!」
「俺様は別に構わないぜ」
「店が困るって言ってんだけど!」
リーダーがツッコまれたところで、ようやく食事を終えたスラサワ&フレイドルが制する。交互にお茶を飲みながら。
「よせよ」
「わたしたち以外が怪我をして、魔族との戦いに支障が出るだけだ」
「そうそう。あ、店員さんごちそうさん」
「怪我じゃすまなくなるのはあなたたちでしょ」
対して、ケバ女と強面男も交互に返す。
「だいいち多少疲れたとこで、小規模な魔物軍団なんざ倒し慣れてんだよ。てめえら素人と違ってな!」
「ええ、明日には元気で迎え撃てるわよ。さあ、準備運動にあんたらを無料で討伐してあげる!」
「明日だと? バカか」鼻で笑ったのは量司だった。「戦争は今日だ」
「――さっそく先制攻撃よん」
ふとクレインが唐突な呟きを発し、
「頼む!」
量司が指示した瞬間。
天井をすり抜け、赤い髑髏が降ってきた。大口を開け、ケバめ女と強面男を呑み込むように。
「〝安息日〟!」
すかさず、尻尾の先端と水晶玉をそちらに向けて唱えたのはクレインだ。
包み込むような青白い光のドームが発生。遍歴者たちを守り、打ち消すように髑髏を相殺して消える。
「……危なかったな、〝死の舞踏〟だ」
呆然としてへたり込む絡んできた二人に、量司は語り掛ける。
「影響範囲は小さいが、物体を透過して標的へと弧を描くように飛ぶ。当たれば生物を確実に殺す、上級即死魔法だぜ」
「本当の狙い、ぼくたち」
チェンの分析に、クレインが同意する。
「事前に張ってた街全体を覆う結界で軌道がずれたのねん。想定より早かったわん」
「……」
騒然とするギルド内で、虚空から出現させた杖を握って最初に席を立ったのはサンサラだった。
「おっ、行くか」
続く量司に、スプラウトと呼ばれたチームの全体が起立した。
カンカンカンカンカン!!
途端、街中に金属音が響き渡る。敵襲を伝える、見張り塔からの警鐘だった。
応援ありがとうございます!
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