叔父にできること

すいすい

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番外編〜叔父の過去〜

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 昔から人と話すのが苦手だった。何か喋ろうとすると相手の顔色が気になって吃ってしまう。当然学校では根暗で話しかけてもオドオドした気持ち悪い奴だと思われ、避けられるか虐められるかのどちらかだった。
 それなのに家族は俺にゆっくりでいい、優一はちゃんと言葉を考えて話せる思慮深い優しい子だと言ってくれた。そんな訳ないのに。優しいのは家族の方だ。
 だけど小さい頃の俺はその言葉を真に受けてしまった。そして俺の勘違いにさらに拍車をかけたのは年の離れた姉だった。姉は長年弟が欲しかったらしく、念願叶って生まれた俺にそれはそれは甘かった。何をしても褒められ、喜ばれ、可愛い可愛いと言われる。
 そんな風に大切に育ててもらった俺は、たとえ学校で友だちができなくても教師に怒られようが家に帰れば己を全肯定してくれる存在がいることでそこまで気にせずに済んだんだ。

 ただそれも中学に入学し、終わりを迎えた。

 地元の中学校は良くも悪くも古い風習が残っていた。校則が厳しいことは言わずもがなで、体罰も平気で行われる環境だった。教師たちは不良よりも俺たちみたいな日陰の人間に目をつけ、理不尽な理由で怒鳴り、酷い時は手をあげることもあった。
 それでも人の目があるだけマシだったのかもしれない。一番最悪だったのは柔道部の顧問だった担任に強引に入部させられたことだ。精神を鍛えるための指導だと言われ、先輩と顧問に服で見えない部分を殴られ蹴られ痣が絶えなかった。怖い。辛い。もう行きたくない。
 だけど家族に相談なんかしたら傷つけることになる。考えれば考えるほど負の連鎖にハマるだけだ。そうして心も体もボロボロになっていった。
 いつしか無意識のうちに学校へ行くことへの拒否反応を起こしてベッドから起き上がることさえ出来なくなった。そこからは本当に早かった。家族に病院へと連れて行かれ、学校での待遇が明るみになった。優しい家族は俺のためにこれでもかと涙を流し、怒ってくれたよ。
 その時俺は
「ああ、これでもう苦しまなくていいんだ」
 そう思ってしまったんだ。本当に最低だよ。俺は学校から逃げられた。
 だけど家族は俺のせいで傷つかなくていいことで苦しまなきゃいけなくなったんだ。全部俺のせいだ。
 この件があってから俺は外の世界を遮断して部屋からほとんど出ないような生活をするようになった。家族ともまともに話すことから逃げた。弱くて卑怯で醜いゴミみたいな人間だ。早く死にたい。そればっかりを考えて狭い部屋の中、自分が腐っていくのを感じていた……。

 引きこもり生活を拗らせて三年。姉が高校生の頃から付き合っていた人と結婚をすることになったと聞かされた。単純に嬉しいと思った。優しい姉が選んだ人だから相手の人もきっといい人なのだろうな。ドア越しに話しかけられた声もとても温厚そうで俺なんかに
「優一君のお兄ちゃんになってもいいかい?」
 なんてわざわざ聞くような人だ。とんだお人好しもいいところだ。
 俺のせいで余計な苦労をかけた分、姉には幸せになって欲しい。そう心の底から願った。

    それから程なくして姉に子どもが生まれた。どっちに似てるんだろうか。性別はなんだろう。まあ俺がこの先会うことはないだろうな。そう思っていた矢先だった。姉が退院してすぐに実家を訪ねてきたんだ。それも俺に会うためだけに。姉は珍しく自分の子どもにあって欲しいと言って食い下がらなかった。そこまで説得をされたのは初めてだったし姉に負担をかける訳にも行かず、扉を開けることにした。普段どれだけ優しい言葉をかけられていても、もう何年も会ってなかったし顔を見ることができない。冷たい目や怒った顔で俺を見ているんじゃないかって勝手にビクビクしてしまう。そう思うと俯くことしか出来なかった。

「この子はね、明るい希望の光のような子になって欲しいっていう願いであきらにしたの。ほら優一も抱っこしてみてよ」

 姉の言葉に思わず顔を上げてしまう。そこには小さな赤ん坊を抱えながら、泣きそうな顔に優しい笑みを浮かべる姉と、その肩を支えながら愛おしそうな顔で姉たちを見ている義兄と思われる男性が立っていた。眩しくて温かい。俺なんかが邪魔しちゃいけない。そう思うのに嬉しくて堪らなかった。

「いや、でも俺なんか持ったら危ないし......」

 触れたい気持ちをぐっと抑えながら目をそらそうとする俺に姉が優しく笑いかける。

「大丈夫だから、ね?」

 俺はゆっくりと赤ん坊に手を伸ばした。じんわりと赤ん坊の体温が冷えた身体に伝わってくる。温かくて、大丈夫なんだって俺の方が抱きしめられてるみたいで不思議な感じだ。頬を冷たいものが伝う。その時初めて自分が泣いていることに気がついた。あれだけ出なかった涙が、今は何故だかとめどなく流れてくる。

 その日から晃は俺にとっての希望になったんだ。
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