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終わりの始まり
しおりを挟む「転生者」
黒板の前、壇上で、自分を転生者だとのたまう、サイコ野郎が自己紹介を続けている。
転生者の名は、藩馬勇次郎。
某格闘漫画のオーガとほぼ同じ名前である。
自称転生者の転校生は、俺と同じく目を丸くしているクラスメート、先生の前で、なおも自分が生前、どんな人間だったかを語っている。
自分は勇者で、魔王と戦っている際に、魔法使いに無理やり転生されたと、訳の分からない話をしている。
およそ馬鹿馬鹿しい、相手にする時間すらもったいない与太話であるが、俺にはなんとなくわかる。
こいつは真実を語っている、と。
あいつを信じる理由は二つある。
ひとつめ、俺たちは小学一年生だからだ。
ピカピカの一年生。友達百人作って、百人で飯を食うという、『それ、ひとり余ってんじゃん』を地で往く残虐極まりない生き物、小学一年生だ。
現にそいつは今、ランドセルを背負っているし、俺も去年買ってもらったランドセルを背負っている。
ちなみに筆箱はボタンを押すと、どひゅんと鉛筆がせり上がってくる最新式である。
俺のお気に入りだ。
いや、その話は今はいい。
そして、アイツを信じる二つ目の理由。
それは――俺も転生者だからだ。
話は六年前にまで遡る。
生前、俺は所謂、どこにでもいる会社員。つまり、サラリーマンだった。
周五勤務で、朝は六時に起き、家に帰ってくるのは七時。ときどき土日も出勤したりする、フツーの、なんの取柄もない会社員だった。
転機は俺がその会社に就職して三年目。
俺はたまたまその日、寝坊をしてしまい、たまたまその日、電車を三本ほど遅らせたのだ。
それがいけなかった。
三十人。
それが犠牲者の数。
俺がたまたま乗っていた車両は、その日たまたま脱線してしまい、そのままたまたま死んでしまったのだ。
いや、たまたま死んだというのはあれか、意味がおかしいか。まあいいや。
なぜ、その日に限って寝坊してしまったのか、なぜ三本ではなくて、二本や四本にしておかなかったのか。
そんな事を悔いる前に、俺はどこか、よくわからない場所にいた。
一見、市役所のような光景。
しかし、そこにいる人間は皆、頭の上に輪っかをつけていたのだ。
俺はそれを見て瞬時に悟った。
これが最新の流行ファッションなのか、と。
もう、俺がついていくことすら、おこがましいほどに、『最新の流行ファッション』というやつは進化してしまったのか、と。
しかし、流行とは怏々として、若者がすべからく追うべきもの。
老兵はただ死にゆくのみ。
そう考えていると、俺の名前が呼ばれた。
『四百四十四番の番号札をお持ちの倉様、倉光宙様』
あまりの出来事に、頭が真っ白になる。
番号札の意味ないよね? などとツッコむひまもなく、頭に光輪をつけたファッショナブルなバカ者どもに『ぷーくすくす』と笑われる。
さらに追い打ちをかけるように『あ、ごめんなさい、四百四十四番の方です。これでは番号札の意味がありませんでした。大変申し訳ございませんでした、倉光宙様』というアナウンスが流れてきたのだ。
その瞬間、周りにいるファッショナブルはファッショナブルな笑いに包まれた。
俺はたまらず顔面ファッショナブルになりながら、呼ばれたファッショナブルな窓口に、ファッショナブルな着席をかましてみせた。
文句のひとつでも言ってやろうかと、役員の顔を睨みつけたら、そこには美女が書類を片手に申し訳なさそうな顔で、こちらを見てきていた。
ちなみに、その職員には光輪はついていなかった。
「ごめんなさい、わたし、新人で……まだ慣れていないんです……倉光宙様」
「まず、フルネームで呼ぶのをやめていただきたい」
「ご、ごめんなさい、クラピカ様」
「誰がクルタ族の生き残りだ! エンペラータイム使うぞ!」
「ぴ、ピカチュウ様……?」
「ピッピカチュウ(低い声)」
「ブフォッ!? や、やめてください。笑わさないで……! ください……!」
「いや、やめてほしいのはこっちなんですが……。なぜ、頑なに名字で呼んでくれないんですか?」
「も、申し訳ありません、倉様」
「ふぅ……、あの、ひとつ、お聞きしたいことが――」
「ええ、倉様は死にました」
「え?」
「お亡くなりになりました」
「え?」
「ちなみに、これが生前の倉様の写真です」
そう言って役員が取り出してきたのは、俺の死――
「うおえ!! やめて……ください……、なんてモンだしてくるんですか!? 悪魔ですか?」
「いえいえ、私は死に先案内人のぼたんと申します」
「な、なんか聞いたことが……て、そういうことじゃなくて……」
「えと……、あなたは……そうです。朝の出勤途中に死んだみたいですね?」
「死んだみたいですね……て、え? じゃあここ、どこなんですか?」
「霊界です」
「霊界……?」
「はい。大雑把に説明すると、死んだ人が初めに来る場所です」
たしかに大雑把極まりない説明を済ませた後、俺がいかに生前、なにも成し得ていないかを気かされた。そして――
「ですからね、霊会でも、今回の事故はほんとに異例で、あなたの行先、まだ決まっていないんですよ」
「え、じゃあどうなるんですか?」
「転生できます」
「転生って……あの転生……?」
「はい、あの転生です。では……転生プランをお選びください」
そう言って、役員はフリップを出してきた。
なんだこれは……、どういうことだ……?
理解が追いつかない。
つまり、違う人生を歩めるということか?
「プラン『イ』記憶はそのままで、元いた世界とは別の世界に飛ばされます。プラン『ロ』記憶を維持せず、異世界に飛ばされる。プラン『ハ』所持している武器の引継ぎはもちろん、新たに強力な武器を支給され、難易度の変更をすることが――」
「バイ〇ハザードかよ!」
「え?」
「バイオ〇ザードかよ!」
「え?」
「バイオハ〇ードかよ! ……て、もういいわ! 聞こえてるだろ!」
「いや、あと三回聞き直したら、〇の位置がどこに行くのかなって……」
「どうでもいいよ!」
「……というわけで、倉様、どの転生プランになさいますか?」
「どの転生プランって言われても……、異世界に行くのはダルイし、最強武器とかもらっても嬉しくないし、なんかこう……、なんかないんですか? 元の世界で赤ちゃんからやり直すみたいな」
「ありますよ。そうなってくるとプランは……『覇』ですね」
「かっこいいな! 『いろはにほへとちりぬるを』で統一しなかったのかよ!」
「こちらの場合は『威露覇爾圃㭭堵』となっています」
「暴走族かな? 暴走族なのかな? かっこいい漢字とか、使いたいのかな?」
「倉様はプラン『覇』――承りました。では……『よい、転生ライフを――』」
役員はそうやってにっこりと笑うと、手元にあった丸い、赤いボタンをポチッと押した。
俺の座っていた椅子が消え、俺は大きな、丸い落とし穴に吸い込まれていく。
悲鳴を上げる間もなく、視界がブラックアウトすると、次の瞬間、俺は、分娩室でタオルに包まれていた。
それから、なんやかんやで今に至るわけだ。
そして俺は『倉光宙』というふざけた名を捨て、新たに『神雷宙』という名を拝命した。
畜生め!
進化してんじゃねえか!
だれだ、俺にカミナリの石使ったやつ!
ダメだろ。ピカチ〇ウあんなに嫌がってたろ!
そのお陰で、クラスメートのガキ共に「ねえねえ、あなた雷宙っていうの? ぴかーって鳴いてよ」とからかわれ、「ライチ〇ウの鳴声は『ライライラ―イ』だろうが! 十万ボルトくらわせっぞ!」とマジなレスポンスをしてしまい、泣かせてしまう始末。
そのお陰で『ラ〇チュウの物まねに厳しいやつ』という烙印まで押されてしまった。
それから約半年、今度は俺の目の前に転生者がやってきた。
転生者と転生者は引き合うなんて、某奇妙な冒険みたいな設定が現実にもあるのか、と納得しかけていた時、衝撃の事が起きた。
「あ、じつは俺も転生者なんだよね」
クラスで一番やんちゃな大泉が手を挙げてカミングアウトしてきた。
いや、それだけじゃない。
それを皮切りに、次々に生徒たちが手を挙げ、終いには俺以外の全員が、手を挙げていた。
俺と先生はただただ、目を丸くし、状況の把握に努めた。
しかし、教室内ではすでに
「おまえもかよー」
「え? あたしもなんだけど……」
「ねえねえ、どうやって死んだの?」
と、生前トークで盛り上がっていた。
ナンダコレハ?
と、思っている内に、一人が大声を上げる。
「まってくれ、みんな。もしかして、俺たち、七年前の電車に乗り合わせていなかったか?」
まさか、と思い、教室を見渡し、生徒の数を数えてみる。
転校生を除いて、教室内には生徒が、三十人きっかりいたのだった。
「じゃあ……、手を挙げていないライ〇ュウを除いて……転校生を入れて……きっかり、三十人だ!」
うおー!
と再び盛り上がる教室。
そして、なぜか一気に全員がこちらを向いた。
「みんな、ライチ〇ウには優しくしような」
……解せぬ。
――――――――――――
続きません。
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