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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の虎
第116話 白の記憶 その1
しおりを挟む「――して、親愛的、玉に触れるのじゃろ? はよう、はよう」
フェニ子が私の手を取って、まるでオモチャをねだる子どものように、ぐいぐいと引っ張ってくる。
「お、やる気だね。ここに来る前は帰りたがってたのに」
「さすがにここまでくると妾も気になる」
「それもそうだね。もしかしたら〝朱雀〟のことについてなにか思い出すかもしれないし」
私はフェニ子に連れられ、改めて祠の正面に立ち、手のひらを扉にくっつけて肩に力を込めた。
扉はその古い見た目に反して、余計な力が必要ないくらいにスムーズに開いた。
祠の中は相変わらず外観に反して、ひどく静謐だった。
鳳凰のような俗っぽさもなく、青竜のような神秘的な感じもなく、ただ〝白〟が支配する空間だった。
この空間は途方もなく、地平線まで広がっているような気がするし、ひどく狭いようにも感じる。
ただ数歩進んだところに、宝玉が無造作に置かれているだけ。
宝玉は原形をとどめており、薄ぼんやりと乳白色の光を発しているように見える。
つまり白虎もまだ健在だということ。
「真緒」
紅月の声で我に返る。
私はそこでようやく一歩目を踏み出すが――ここで違和感に気づく。
足音が吸われ、呼吸が紙のように薄くなる。
空間はとても静かで耳鳴りすら聞こえてこない。
「では、触れるぞ」
まるで耳のすぐ近くで発せられた声のように、フェニ子の声だけがはっきりと聞こえてくる。
そして彼女は緊張した面持ちで、宝玉に手を伸ばした。
相変わらず特に変化はないが、フェニ子は目を閉じて意識を集中させている。
そして――
「……見えたのじゃ」
フェニ子が小さく息を吸い込む。
その瞳の奥にほんの一瞬、白い光が輝いた気がした。
「どう? 今度は何が見えたの?」
私が問うと、フェニ子はわずかに間を置き、いつになく真剣な表情で口を開いた。
「予想通りじゃ。今回妾が見たのは、白虎の目から見た記憶……」
「てことは、最後の玄武も、玄武視点の回想かもしれないってことかな。……それで、肝心の内容は?」
「要約すると魔王ビアーゼボと、変質していった鳳凰、つまり妾の記憶じゃ」
「〝魔王〟……に〝変質〟……」
「うむ。まずは昨日の青竜の記憶のおさらいじゃが、妾が神魔大戦の余波を受け、それを切り離したところまでは覚えておるかの?」
「うん。残響種になるような原因を、自分で切り離したってやつだよね?」
「そう……なのじゃが、白虎の記憶、感情を見るに、どうやらその出来事を境に、妾は変質し始めたようじゃ」
「あぁ……じゃあやっぱり、完全に切除することはできてなかったんだ……」
「いや、それはまだわからぬ」
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