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アムダの神殿
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アムダの神殿。
『神殿』とはいいつつも、本殿は小さく、建物はまるで地方にある小さな教会のような外観なのだ(建物と敷地面積はデカいが)。
そして屋根のてっぺんにはこれまた豪快に、十字架がブスリと突き刺さっていた。
その十字架にはなにか、ものすごく有難くて、よくわからないホニャホニャとした理由が込められている……とのことだったが、正直憶えていない。
ちなみに、世界各地にアムダの神殿は点在しているのだが、ここはその総本山。
だからここへは転職を希望する冒険家たちや、観光客などでごった返しており、連日超満員の大盛況となっている。
これを活かさぬ手はない。と、立ち上がったのが、我らが『勇者の酒場』。
アムダ饅頭からはじまり、アムダティーシャツ、アムダペナント、アムダタオル、果てはアムダ下りツアー。
下りのツアーってなんだよ、どこをだよ、屋根をか? あの急こう配の屋根を下るのか? 下ってしまうのか? アホか!
とツッコまずにはいられない、魅惑のラインナップとなっている。
そのせいか、いまやアムダ神殿総本山は、一大観光産業としても成り立っており、大元である、勇者の酒場の懐を潤すことにも一役買っていた。
まったく、あいつらのその有り余る商魂には、ある意味脱帽ものだが、それをもう少し冒険者へ還元してはくれないものだろうか、と期待するだけ野暮なのは、皆知っている。
話は戻るが、アムダの神殿とはまさに、すべての冒険者にとっての入り口だ。
俺も遡ること……まあ、何年前かは忘れたが、あの忌々しいユウキに連れられ、ここへ来て、エンチャンターに転職した。
転職するにあたっては、神殿内部で行われる『転職の儀』を受ける必要がある。
『転職の儀』と大層な名前を冠してはいても、杖を持ったおっさんが『はいやーほいやーそいそいそい(忘れたから適当)』と唱えるだけの、至極簡単な作業。
その分、回転率もよく、冒険者掃けもいいのだが、見た目からはわからないほどに、それは重労働らしかった。
そういえば、今思い出したけど、この前新聞で、アムダ神殿の大神官が退役したんだっけ。
後任にはたしか、あのおっさんの孫が務めているんだっけな。
退任の理由は『腰が痛いからもう無理』だったっけ。
もうすこしなんというか、なにか言い方はあったのではないか、とは思ったが、なんかもうどうでもよかったので、どうでもよかった。
……あのおっさん、前からあんな適当なかんじだったし。
ちなみに、アムダ神殿自体は非営利目的の組織なので、転生の儀は無料で受けられるのである。
ただし、饅頭やらティーシャツやらなんやらは普通に金を取るのだ。それも割高で。
そこは勇者の酒場管轄だからね。
したがって、以前来たときは大神殿内で『しゃっせー』とか『まいど、あじゃじゃしたー』という、およそ場違いとしか思えない掛け声がそこら中で飛び交い、反響し合っていた。
まじで神殿だよな? ここ? と、問いたくなるくらい賑やかだったのだ。
それが良いのか悪いのか、と問われると……うん、まあ、ほら、悪いよね。神殿だし。
とまあ、長々とアムダの神殿について語りはしたものの、とにかくここは職業を変えられる場所、ということだ。。
「みてみて、ヴィッキー、このティーシャツ! 可愛いよね」
「おお、いいな! ちなみに、この『マンジュウ』というやつも美味いぞ! おい店主、トマトソースは無いのか?」
「ねえなぁ……。チリソースならあるんだが……」
「ひ、ひぃ……チリソース……」
そしてここにもふたり、アムダ神殿を満喫している方々が。
アーニャは可愛いものに目が無いのか、さきほどからあっちへこっちへ、目移りしまくっている。
初めて見る光景にはしゃぐのはわかる。けど、さきほどからアーニャが手に持って、可愛いと触れ回っている『アムダティーシャツ』は、白地のティーシャツにアムダ神殿がデカデカとプリントされているだけの、至極単純な作りのティーシャツだった。
ごめん、アーニャ。
君のいう可愛い基準は、俺には理解し難い。
だって、ただの建物なんだもの。
「……なあ、アーニャ」
「はい、いかがなされましたかっ! ユウトさん!」
アーニャは未だ興奮冷めやらぬ様子で、俺のところまで駆け寄ってきた。
その顔は上気しており、いつものアーニャとは違って、年相応に見えた。
そして俺はアーニャの頭に手を置くと、あろうことか、そのまま撫でまわしてしまった。
よく手入れされているであろう、金色の髪一本一本が、スルスルと俺の指の間を滑る。
そして、撫でるたびに、何かよくわからないいい香りがあたりに漂う。
条件反射。
すり寄ってきた猫をおもわず撫でてしまうように、アーニャの頭も撫でてしまう。
仕方ない、アーニャのせいだ、仕方ない。
……なんて酷い句だ。我ながら何をしているんだ、と思ってしまう。
「くすくす……どうなされたのですか? ユウトさん」
「いや……、職業はもう決めたのか?」
「はい。一晩ぐっすり寝て、決めさせていただけました」
「そっか。決めたのなら、俺がどうのこうの言う必要はないな。アーニャの好きなようにすればいいよ。あとは俺がきちんとサポートするから。そのためのエンチャンターだしな」
「はいっ! ありがとうございます! ……あ、えっと……」
「ん? どうかした?」
「あの……、一晩と言われて思い出したのですが、ユウトさん、昨晩はきちんと休まれたのですか?」
「あー……いやー……」
アーニャが俺にそれを尋ねてきた理由。
たぶん、昨晩のユウのことだろう。
昨晩、就寝時のことだ。体に何か違和感を感じ、目を開けてみたらユウの後頭部が目の前にあったのだ。
どうやらユウが、布団のように俺の上にかぶさっていたらしかった。
「何やってんだ?」
って訊いたら、寝ぼけまなこで「幽体離脱~」とか言って、ゆっくり状態を起こしやがった。それ以降も何かと、俺にくっついてきたり、近くでもぞもぞしてきたりで、結局寝られなかった。
なんなんだろうな、あいつは。
十中八九、俺の言った『あとで憶えておけよ』を曲解していたのだろう。
それか、やっぱり頭がおかしいんだろうな。たぶん。
母さんが俺に提案したのは、旅に連れてけ、じゃなくて病院へ連れて行けってことなんだろう。
「おにいちゃん、ボーっとしてどうしたの?」
「おまえのことを考えてたんだよ」
「それって、告白?」
「ちがうわ! 悲しいんだよ。妹がこんなんで……」
「そうなの? 大変なんだね」
「おまえのことなんだけどなー!?」
「ふふふ……、おにいちゃん、おもしろい顔」
「……ところで、訊くだけ無駄だろうけど、おまえは決まったのか?」
「ばっちり」
「ふうん、それで、何にするんだ?」
「ナ・イ・ショ(魔法戦士)」
「うん、内緒に出来てねえな! 漏れてんだよ、心の声が! 漏洩してんだよ、秘匿情報が! 口から!」
「な、なんだイキナリ? デカい声出して……!」
食べかけの饅頭を持ったヴィクトーリアが、ビックリしたような顔で俺を見上げる。
「おまえはいつまで食ってんだ……」
「いやいや、なかなかにうまいぞ! ここの『マンジュウ』は! 『コシアン』というやつが効いてるらしいな! これで、トマトソースのひとつでもあればいいのだが……、そうだ、ユウトも食ってみるがいい! ほれほれ!」
「や、やめろ……! 食いかけの饅頭を口に押し付けるな! それに、俺は甘いものが苦手なんだ!」
「な……!? そうなのか!? もったいないな、うまいのに」
「……ああ、そうだ。ガキの時ホイップクリーム大臣に攫われそうになって以来な(ウソ)」
「そ、そんなことが……もったいないな、うまいのに」
「ところで、ヴィクトーリアは決まってるのか? 昨日はなんか、うやむやになっちゃったけど」
「もももももっもっも……もちろんだとも! 心の友よ!」
「そ、そうか……?」
なんか、昨日からこの話題を振ると、妙にどもるよな。
何かあるのか……? もしかして俺と同じように、ヴィクトーリアも戦士職を極めすぎて、転職しても意味ないとかか? それなら、言ってくれればよかったのに。
『ピンポンパンポ~ン。番号札六百六十六番をお持ちの方は、神殿一階の転職の間へお越しください。ピンポンパンポ~ン』
「ピンポンパンポンは口で言うんだな……」
「あ、あたしの番だね」
番号札六百六十六番はユウの番号。
アムダの神殿はこのように、転職を希望する者には整理券が配られるのだ。
もちろん、俺は転職を希望していないため、番号札は持っていない。
持っているのは、俺以外の三人だ。
それにしても、なんて縁起の悪い数字だよ。
これ持ってるのが、アーニャやヴィクトーリアじゃなくてよかったわ。
「……もう、ユウの順番まで回ってきたか」
「儀式中は、部屋にわたしたちも入っていいのか?」
「俺が前に来たときは入っても問題なかったな。いまはどうかわからんが」
「ふむ、そうなのか……」
「うーん、そうだな……、どうせ、三人とも転職するんだし、三人で行ってきなよ。俺はもう引退してるおっさんのとこに行ってくるから」
「なんと、ユウトは大神官様と知り合いなのか?」
「知り合いというかなんというか……、まあ、色々だな」
「ふむぅ、そうなのか」
「て、ことだから、三人で大丈夫だよな?」
俺が問いかけると、三人とも返事を返してくれた。
「よし、じゃあ終わったら、神殿の出入り口で待ち合わせな」
俺はそう言って、神殿地下二階にある大神官の待機所へ向かった。
引退しているとはいえ、おっさんはたぶんあそこで待機してるだろ。
ちなみに、俺がおっさんのところへ行く理由。それはべつに、おっさんの背中をさすってあげたり、茶を汲んだりするためじゃない。
『隠者の布』をもらうためだ。
『隠者の布』はその名前の如く、包んだものの気配を遮断するもの。
大神官なんかは、その聖なるオーラのせいで、強い魔物を引き寄せやすく、そして狙われやすかったりするのだ。
そこで必要になってくるのが『隠者の布』。
これを体の一部に巻き付ければ、その者のもつオーラを遮断し、隠匿することができる。
つまり、これからの俺の旅には、もってこいというわけだ。
貴重な品だけど、まあ、たくさんあるし譲ってくれるだろ。
それにいちいち、顔を晒して『あー! あの極悪非道勇者パーティのイケメン担当だー!』なんて後ろ指さされてはたまらんからな。
……さて、三人も行ったし、俺もボチボチ行くか。
――――――――――――
読んでいただきありがとうございました!
『神殿』とはいいつつも、本殿は小さく、建物はまるで地方にある小さな教会のような外観なのだ(建物と敷地面積はデカいが)。
そして屋根のてっぺんにはこれまた豪快に、十字架がブスリと突き刺さっていた。
その十字架にはなにか、ものすごく有難くて、よくわからないホニャホニャとした理由が込められている……とのことだったが、正直憶えていない。
ちなみに、世界各地にアムダの神殿は点在しているのだが、ここはその総本山。
だからここへは転職を希望する冒険家たちや、観光客などでごった返しており、連日超満員の大盛況となっている。
これを活かさぬ手はない。と、立ち上がったのが、我らが『勇者の酒場』。
アムダ饅頭からはじまり、アムダティーシャツ、アムダペナント、アムダタオル、果てはアムダ下りツアー。
下りのツアーってなんだよ、どこをだよ、屋根をか? あの急こう配の屋根を下るのか? 下ってしまうのか? アホか!
とツッコまずにはいられない、魅惑のラインナップとなっている。
そのせいか、いまやアムダ神殿総本山は、一大観光産業としても成り立っており、大元である、勇者の酒場の懐を潤すことにも一役買っていた。
まったく、あいつらのその有り余る商魂には、ある意味脱帽ものだが、それをもう少し冒険者へ還元してはくれないものだろうか、と期待するだけ野暮なのは、皆知っている。
話は戻るが、アムダの神殿とはまさに、すべての冒険者にとっての入り口だ。
俺も遡ること……まあ、何年前かは忘れたが、あの忌々しいユウキに連れられ、ここへ来て、エンチャンターに転職した。
転職するにあたっては、神殿内部で行われる『転職の儀』を受ける必要がある。
『転職の儀』と大層な名前を冠してはいても、杖を持ったおっさんが『はいやーほいやーそいそいそい(忘れたから適当)』と唱えるだけの、至極簡単な作業。
その分、回転率もよく、冒険者掃けもいいのだが、見た目からはわからないほどに、それは重労働らしかった。
そういえば、今思い出したけど、この前新聞で、アムダ神殿の大神官が退役したんだっけ。
後任にはたしか、あのおっさんの孫が務めているんだっけな。
退任の理由は『腰が痛いからもう無理』だったっけ。
もうすこしなんというか、なにか言い方はあったのではないか、とは思ったが、なんかもうどうでもよかったので、どうでもよかった。
……あのおっさん、前からあんな適当なかんじだったし。
ちなみに、アムダ神殿自体は非営利目的の組織なので、転生の儀は無料で受けられるのである。
ただし、饅頭やらティーシャツやらなんやらは普通に金を取るのだ。それも割高で。
そこは勇者の酒場管轄だからね。
したがって、以前来たときは大神殿内で『しゃっせー』とか『まいど、あじゃじゃしたー』という、およそ場違いとしか思えない掛け声がそこら中で飛び交い、反響し合っていた。
まじで神殿だよな? ここ? と、問いたくなるくらい賑やかだったのだ。
それが良いのか悪いのか、と問われると……うん、まあ、ほら、悪いよね。神殿だし。
とまあ、長々とアムダの神殿について語りはしたものの、とにかくここは職業を変えられる場所、ということだ。。
「みてみて、ヴィッキー、このティーシャツ! 可愛いよね」
「おお、いいな! ちなみに、この『マンジュウ』というやつも美味いぞ! おい店主、トマトソースは無いのか?」
「ねえなぁ……。チリソースならあるんだが……」
「ひ、ひぃ……チリソース……」
そしてここにもふたり、アムダ神殿を満喫している方々が。
アーニャは可愛いものに目が無いのか、さきほどからあっちへこっちへ、目移りしまくっている。
初めて見る光景にはしゃぐのはわかる。けど、さきほどからアーニャが手に持って、可愛いと触れ回っている『アムダティーシャツ』は、白地のティーシャツにアムダ神殿がデカデカとプリントされているだけの、至極単純な作りのティーシャツだった。
ごめん、アーニャ。
君のいう可愛い基準は、俺には理解し難い。
だって、ただの建物なんだもの。
「……なあ、アーニャ」
「はい、いかがなされましたかっ! ユウトさん!」
アーニャは未だ興奮冷めやらぬ様子で、俺のところまで駆け寄ってきた。
その顔は上気しており、いつものアーニャとは違って、年相応に見えた。
そして俺はアーニャの頭に手を置くと、あろうことか、そのまま撫でまわしてしまった。
よく手入れされているであろう、金色の髪一本一本が、スルスルと俺の指の間を滑る。
そして、撫でるたびに、何かよくわからないいい香りがあたりに漂う。
条件反射。
すり寄ってきた猫をおもわず撫でてしまうように、アーニャの頭も撫でてしまう。
仕方ない、アーニャのせいだ、仕方ない。
……なんて酷い句だ。我ながら何をしているんだ、と思ってしまう。
「くすくす……どうなされたのですか? ユウトさん」
「いや……、職業はもう決めたのか?」
「はい。一晩ぐっすり寝て、決めさせていただけました」
「そっか。決めたのなら、俺がどうのこうの言う必要はないな。アーニャの好きなようにすればいいよ。あとは俺がきちんとサポートするから。そのためのエンチャンターだしな」
「はいっ! ありがとうございます! ……あ、えっと……」
「ん? どうかした?」
「あの……、一晩と言われて思い出したのですが、ユウトさん、昨晩はきちんと休まれたのですか?」
「あー……いやー……」
アーニャが俺にそれを尋ねてきた理由。
たぶん、昨晩のユウのことだろう。
昨晩、就寝時のことだ。体に何か違和感を感じ、目を開けてみたらユウの後頭部が目の前にあったのだ。
どうやらユウが、布団のように俺の上にかぶさっていたらしかった。
「何やってんだ?」
って訊いたら、寝ぼけまなこで「幽体離脱~」とか言って、ゆっくり状態を起こしやがった。それ以降も何かと、俺にくっついてきたり、近くでもぞもぞしてきたりで、結局寝られなかった。
なんなんだろうな、あいつは。
十中八九、俺の言った『あとで憶えておけよ』を曲解していたのだろう。
それか、やっぱり頭がおかしいんだろうな。たぶん。
母さんが俺に提案したのは、旅に連れてけ、じゃなくて病院へ連れて行けってことなんだろう。
「おにいちゃん、ボーっとしてどうしたの?」
「おまえのことを考えてたんだよ」
「それって、告白?」
「ちがうわ! 悲しいんだよ。妹がこんなんで……」
「そうなの? 大変なんだね」
「おまえのことなんだけどなー!?」
「ふふふ……、おにいちゃん、おもしろい顔」
「……ところで、訊くだけ無駄だろうけど、おまえは決まったのか?」
「ばっちり」
「ふうん、それで、何にするんだ?」
「ナ・イ・ショ(魔法戦士)」
「うん、内緒に出来てねえな! 漏れてんだよ、心の声が! 漏洩してんだよ、秘匿情報が! 口から!」
「な、なんだイキナリ? デカい声出して……!」
食べかけの饅頭を持ったヴィクトーリアが、ビックリしたような顔で俺を見上げる。
「おまえはいつまで食ってんだ……」
「いやいや、なかなかにうまいぞ! ここの『マンジュウ』は! 『コシアン』というやつが効いてるらしいな! これで、トマトソースのひとつでもあればいいのだが……、そうだ、ユウトも食ってみるがいい! ほれほれ!」
「や、やめろ……! 食いかけの饅頭を口に押し付けるな! それに、俺は甘いものが苦手なんだ!」
「な……!? そうなのか!? もったいないな、うまいのに」
「……ああ、そうだ。ガキの時ホイップクリーム大臣に攫われそうになって以来な(ウソ)」
「そ、そんなことが……もったいないな、うまいのに」
「ところで、ヴィクトーリアは決まってるのか? 昨日はなんか、うやむやになっちゃったけど」
「もももももっもっも……もちろんだとも! 心の友よ!」
「そ、そうか……?」
なんか、昨日からこの話題を振ると、妙にどもるよな。
何かあるのか……? もしかして俺と同じように、ヴィクトーリアも戦士職を極めすぎて、転職しても意味ないとかか? それなら、言ってくれればよかったのに。
『ピンポンパンポ~ン。番号札六百六十六番をお持ちの方は、神殿一階の転職の間へお越しください。ピンポンパンポ~ン』
「ピンポンパンポンは口で言うんだな……」
「あ、あたしの番だね」
番号札六百六十六番はユウの番号。
アムダの神殿はこのように、転職を希望する者には整理券が配られるのだ。
もちろん、俺は転職を希望していないため、番号札は持っていない。
持っているのは、俺以外の三人だ。
それにしても、なんて縁起の悪い数字だよ。
これ持ってるのが、アーニャやヴィクトーリアじゃなくてよかったわ。
「……もう、ユウの順番まで回ってきたか」
「儀式中は、部屋にわたしたちも入っていいのか?」
「俺が前に来たときは入っても問題なかったな。いまはどうかわからんが」
「ふむ、そうなのか……」
「うーん、そうだな……、どうせ、三人とも転職するんだし、三人で行ってきなよ。俺はもう引退してるおっさんのとこに行ってくるから」
「なんと、ユウトは大神官様と知り合いなのか?」
「知り合いというかなんというか……、まあ、色々だな」
「ふむぅ、そうなのか」
「て、ことだから、三人で大丈夫だよな?」
俺が問いかけると、三人とも返事を返してくれた。
「よし、じゃあ終わったら、神殿の出入り口で待ち合わせな」
俺はそう言って、神殿地下二階にある大神官の待機所へ向かった。
引退しているとはいえ、おっさんはたぶんあそこで待機してるだろ。
ちなみに、俺がおっさんのところへ行く理由。それはべつに、おっさんの背中をさすってあげたり、茶を汲んだりするためじゃない。
『隠者の布』をもらうためだ。
『隠者の布』はその名前の如く、包んだものの気配を遮断するもの。
大神官なんかは、その聖なるオーラのせいで、強い魔物を引き寄せやすく、そして狙われやすかったりするのだ。
そこで必要になってくるのが『隠者の布』。
これを体の一部に巻き付ければ、その者のもつオーラを遮断し、隠匿することができる。
つまり、これからの俺の旅には、もってこいというわけだ。
貴重な品だけど、まあ、たくさんあるし譲ってくれるだろ。
それにいちいち、顔を晒して『あー! あの極悪非道勇者パーティのイケメン担当だー!』なんて後ろ指さされてはたまらんからな。
……さて、三人も行ったし、俺もボチボチ行くか。
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