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おまえは誰だ
しおりを挟む「──おや、気が付いたかい?」
気が付いた?
気が付いてなどいない。俺は、俺の意識はまだ闇の中だ。
ここがどこなのかも、俺がどうなったのかもわかっていない。
ただ、そんな俺にもひとつだけわかることがある。
この声の主が不破だということだ。だが姿は見えない。
「よくわかったね。さすがは私のファンだ」
──だれがファンだ。そうツッコもうとして、声が出ていないことに気づく。しかし、それと同時に俺の考えている、試行していることが通じしているという違和感にも気づく。
「そう。それはね、キミは死んだって合図なんだよ、少年」
──俺が死んだ?
「うん。まあ、正確に言うと、生物としての生命活動を終えたという事かな」
──どう違うんだ。
「なに。些細な差だよ。そこに大した違いはない。もしかしたら気のせいかもしれない」
──つまり、どういうことだ?
「つまり、私は少年に選択肢を与えているんだ」
──選択肢?
「このまま死ぬか、それとも生き返ってキミがしたいようにするか」
──その二択、不自然過ぎないか?
「やっぱりそう思う? ……そうだね。すこしばかりネタバレすると、このまま生き返れば、キミたちのいう天国へは行けない」
──いや、もっと具体的に。
「もっと具体的に? うーん、もう一度死んだら、今度こそ本当に死ぬという事。つまり、個の喪失、自我の消滅。少年の世界は消え、その他大勢の世界に溶け込む」
──意味が分からん。
「でも、理解は出来るだろ」
──なんとなく。
「さあ、それほど時間は残っていない。どうする? ふたつにひとつか、どっちもなしだ」
──死ぬ。
「おや、意外な回答だね。私としては、てっきり生き返るほうを選択するのだと思ったけど。理由を聞かせてもらえないかい?」
──無駄だからな。俺は結局、誰も救えなかったんだ。それで最終的に、俺を救ってくれたやつを見捨てて、逃げた。そんなやつに生き返る資格があると思うか?
「資格なんていらないさ。生きるのにね」
──は?
「難しく考えすぎなんだよ。もっと気楽にいこうよ。それに、悔しくないのかい?」
──悔しい?
「そう。キミをこんなにした男が憎くないのかい? 桂さんを殺した人間を許せるのかい?」
──許せるわけ、ないだろ。
「なら、なんでそのまま死んじゃうのさ。なんで何もやり返さず、ただ黙ってるだけなのさ」
──それは……。
「悔しいだろ? 憎いだろ? 許せないだろ? ならやり返そうよ」
──無理だ。
「なんで?」
──俺には、俺なんかには、そんなことは出来ない。
「怖いのかい?」
──ああ。怖いのかもしれない。
「誰が? あの黒服たちが? それとも、あの銃が? もしかして、あの浜田幸三とかいう男が?」
──全部だ。
「でも、キミはあの時、力を出し切って戦ったわけじゃないだろ? ほぼ不意打ちに近い状態だ。正面からぶつかれば、或いは……」
──それでもだ。俺は、俺よりも非力で、鈍くて、数しか取り柄のないあいつらが怖い。
「ふうん? なんで?」
──なんでって、それは……。
「特に理由なんてないのさ。それに、あえて言うならキミはただ拗ねているだけなんだよ」
──拗ねてない。
「いーや、拗ねてるね。というかキミは怖がってすらいないんだ。ただ思い通りにいかなかったことに対して、拗ねて、いじけて、ただそこから目を背けようとしているだけ」
──そんなわけないだろ。俺は、あいつらに勝てっこないと思った。だからあそこから逃げたんだ。
「じゃあ、桂美里さんが最期になんて言ってたか、キミ、知ってるかい?」
──は?
「ほらね。何も知らない。なぜならキミはあの時、心を閉ざしていたから。目も耳も感触も、すべてシャットアウトしてたから。都合の悪い情報は全部排除してた。だから何も聞こえなかったんだよ。……というか、撃たれてることにすら気づかないって、もはや滑稽を通り過ぎてアホだね、アホ」
──なんだと?
「おや、怒っちゃったかい? でも謝らないよ。事実なんだから。……まあ、でも私がここでアレコレとキミを煽っても意味なんてないんだよね。キミがこのまま消えたいのであれば、私はそれを承認するだけ。例えるならキミは水で、私はただの蛇口に過ぎないのさ。さて、では最終確認だ。キミは本当にこのまま死にたいのかい? それとも……」
──ちょっと待った。ひとつ聞いていいか?
「なんだい? 手短にね」
──あいつは、桂は……最期、なんて言ったんだ?
「それ、聞いちゃうかい?」
──そりゃ気になるだろ。
「自分から耳を塞いでたのに?」
──う……っ!
「まあいいや。じゃあ少年は生き返るってことだね」
──は? なんでそうなるんだよ!
「だって、それが気になるってことは、つまり生きたいって事でしょ?」
──意味が分からないんだが?
「あはは! おかしなことを言うね。今から死のうっていう人間が、とっくに死んじゃった人間の言葉なんて気にするなんて」
──いいから教えろ。
「じゃあ、生き返るって受け取っていいんだよね?」
──ふざけんな! なんでそうなるんだよ! 第一、俺は──
「『生きて、逃げて、カケル』」
──は? なんで……桂の声で?
「『あたしは、あたしが望んでこうなった。だから、カケルは何も気に病まなくていいの。カケルは、カケルの信じる事をやって。短い付き合いだったけど、楽しかった。ありがとう、カケル。大好き』」
──なんで……なんだよ、それ。なんなんだよ。
「私はただ彼女の言葉を繰り返しているだけ。キミが捨てたはずの情報を拾い上げただけ」
──なんでそんなことが……おまえは一体……?
「私は私さ。……もう、キミならわかっているんじゃないのかい?」
──私は、私……おまえは……俺なのか?
「そう。私は──俺は不破なんかじゃない。ここは天国でも地獄でも、その狭間でもない。ただの現実だ。おまえは今、俺の部屋でボロボロのまま眠っている。逃げ帰って、死にかけのまま眠っている。俺は、俺に語り掛けてるんだよ」
──俺は……おまえは……。
「どうした。まだ決心がつかないのか?」
──決心……?
「『正義で悪は倒せない。悪に堕ちてもいいという覚悟を持つ者だけが、真の悪を打倒出来るのだ』」
──それ、デスKの……。
「違う。たしかにデスKの言葉だが、ケイオスインザダークネスの作中の言葉だが、俺は俺に言っているんだ。──おまえはまだ、覚悟は決めていないのか?」
──俺は……俺は……!
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