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完全超悪ジャスティス・カケル
しおりを挟む「──止めろ! ここで止めるんだ!」
「無茶だ! バケモノすぎる! 勝てっこない!」
「あんなの……人間じゃねえ……! 人間の形をした何かだ!」
「うおおおおおおお! バケモノめ! 死ねぇぇぇぇぇ!!」
黒服が銃口をこちらに向けてくる。
だめだ。だめだめ。
遅すぎる。そんなのじゃ、俺に傷ひとつつけられない。
俺は黒服と同じように、手を銃の形にし、人差し指をの先を黒服に向けた。
──バチィ!!
静電気の音を何倍にも増幅したような音が鳴り、黒服の上半身が吹き飛んだ。
残った下半身は、まるで支えを失った脚立のように、力を失い、ぱたりと倒れた。
家を出た俺は、再びここ、悪党どもの巣穴へとやってきていた。
相も変わらず、雅な街並みが俺の神経を逆なでしてくる。
俺の登場により、この町にいた金持ち連中どもは全員避難し、残っているのはここを警備しているやつらと、黒服どものみ。さっきからひとりひとり捕まえて、浜田幸三の居場所を訊いているのに、答えるやつはゼロ。全く。見上げた忠誠心だ。反吐が出る。
俺は、さきほど上半身が吹き飛んで死んだヤツの隣で、臭い糞尿を漏らしている黒服の襟元を掴んで引っ張り上げた。
「答えないと殺す。答えても殺す。一度だけ訊く。浜田幸三はどこだ?」
「し、しりません! ほほほ、ほんとうで──ばばあばばばばばばばばば……!」
俺の手から迸る電流が、黒服の全身を焼く。男はまるで、焼き肉時、取り忘れた肉のように真っ黒になって息絶えた。
「こいつも口を割らなかったか……」
それにしてもひどいやつじゃないか。浜田幸三という男も。
部下が、もうすでに数えきれないほど黒焦げにされているというのに、まだ名乗り出ないとは。これはもう、ここにいる人間を残らず全員殺したほうが早いか?
「──おら、おまえだろ! さっさといけ!」
「で、でも……!」
「こっちは何人もおまえのせいで死んでんだ! せめておまえが死ね!」
「ひ、ひぃ!?」
何かもめるような声が聞こえてくる。見ると、そこには黒服と浜田が揉みくちゃになって、何かもめていた。黒服は俺に気が付くと、俺の期限を取るようにして、浜田を嫌がる浜田を無理やり押さえつけながら、俺に差し出してきた。
「へ、へへへ……こ、こいつを探してたんでしょ? ジャスティス・カケルさん……だ、だから、俺の事は、どうか、その……見逃してくれます……よね?」
「ああ。考えてやるよ」
俺は人差し指を黒服の頭に照準を合わせると、そのまま頭を吹っ飛ばした。
「ひ、ひぃぃ!?」
黒服の支えを失った浜田は、汚い叫び声を上げながら、尻もちをついた。
俺は浜田の前まで歩いていくと、その場にしゃがみ込んで、浜田の顔を覗き込んだ。
完全に怯えきったような顔をしている。あの時、俺たちを追い詰めたときのような、〝裏社会のボス〟のような雰囲気は、この男からは微塵も感じなかった。それどころか、一気に何十歳も老けたような気がする。
「よお、探したぜ、〝ハマゾー〟さんよ」
「ひ、ひぃぃぃ!! お、おまえは……あのときのガキ……いや、じゃ、ジャスティス・カケル!?」
「ジャスティス・カケルだあ?」
「す、すみません! すみません! ジャスティス・カケル……様!」
「わかり易いようにご機嫌取りしてきやがって。何が様だよ。逆にバカにされてるとしか思わねえよ」
「ご、ごめんなさい! ゆ、許してください! ころ、ころころころろ……ころさないで……!」
「おいおい、てめぇの得意技は命乞いじゃなくてごますりだろうが。何やってんだ」
「は、はい? な、なに……やってるって……?」
「ごまをするんだろ? ああ!?」
「ひ、ひえええええええええええええ! す、すみません! 許して! 許してください! 殺さないで! もう、こんなことしませんから! 悪いことも何も、子どもも売りません!」
「それ当たり前のことだよなあ!? 親に教わらなかったのか? 人を売り買いしてはいけませんってよお!」
「す、すみませんすみません! ごめんなさい! ……あ、そうだ! あの、あの、あなた様が、連れ出そうとしていた、あの女! あの女をタダでお渡しするので!」
「な……!? か、桂のやつ、生きてんのか!?」
「え? あ、い、生きてます! はい! はい! 生きてますとも! 殺すはずないじゃないですか! そんな!」
「……嘘じゃねえんだよな?」
そんなはずはない。たしかに俺はあの時、感情をシャットアウトしていたけど、たしかにあいつは、桂は俺の腕の中で死んでいた。
期に及んでこいつ、俺を騙そうとしてやがるのか?
いますぐぶち殺してやりたいが、これはこれで見物だ。
こいつがどこまでやって来るか、遊んでやる。
「はい! 誓って! ついてきてください! ごご、ご案内いたしますので!」
「……いや、連れてこい」
「……へ?」
「ここに連れてこいって言ってんだ」
「あ……いや……でも、本人も、ひどく体力を消耗していて……歩けないというか、なんというか……」
「じゃあ丁重に運んで来い」
「そ、そんな……!」
「できないってのか? じゃあ、さっきのは嘘って事なんだよな?」
「い、いえ! めめ、滅相もない! いますぐ!」
そう言ってゴキブリのように駆け出した浜田の手を俺が掴む。
「おまえはここにいろ」
「……へ?」
「部下に連れてこさせろ」
「あの……!」
「その際、本当に生きていたら、おまえを解放してやる。ただ、嘘だった場合、おまえをこの世で一番残酷に殺してやる」
「えと、えっと……その、あの……」
「どうだ? やるか?」
「許してください!!」
浜田はそう言うと、縋るように俺の足にへばりついてきた。
「申し訳ありません! う、嘘です! へへへ、嘘なんです! あの女はすでに死んでいます! でも、撃ったのは儂じゃないんです!」
「でも命令したのはおまえだろうが」
「そ、そうですが、でも、でも……!」
「……もういい。何も言うな」
「じゃ、じゃあ許して……!」
「死ね」
──こうして、俺の悪は執行された。
浜田幸三の働いてきた悪事は、浜田幸三の死とともに、全国へと拡散され、ジャスティス・カケルもこの件を機に、世に広く知られることになった。
そして、そんなある日、悪を成そうとする俺に、ユナが声をかけてきた。
「ね、ねえ、カケルちゃん、なんか最近ちょっと、怖くない?」
「怖い? 俺が?」
「う、うん。その……前にも増して、話しかけづらくなったかな、なんて……あ、あはは~……そ、そんなわけ、ないのにねぇ~……」
「はは。当たり前だろ、ユナ。俺はいつでもせいぎの味方だよ」
「だ、だよねぇ……あの、それで、今日もどこか行くのぉ?」
「ああ。ちょっと野暮用でな」
「そ、そうなんだ……気を付けてねぇ……」
「わかってる」
「──あ、あの! カケルちゃん!」
「……なんだ、ユナ?」
「カケルちゃんとその……ジャスティス・カケルって、もう友達……じゃないんだよね……?」
「──ぷ。おいおい、なんて事訊いてくるんだよ」
「え、えへへへ……」
「俺があんな大量殺人犯と友達なわけがないだろ? いくら正義のためとはいえ、悪人を殺しまくるのはやりすぎだよ。あんなやつ、もうとっくの昔に絶交したってば。早く捕まってくれないかなぁ……」
「だ、だよねぇ……、ごめんね、変な事訊いちゃってぇ……」
「ユナが変なのは、いつものことだろ?」
「あっ! ひっどぉ~い!」
「わるいわるい。帰り際になにか買ってやるから」
「おお~! やったねぇ、じゃあ私、おだんごがいいなぁ。三色の」
「わかったわかった。楽しみに待ってろ」
「うふふ。……じゃあ、いってらっしゃい、カケルちゃん」
「ああ。いってくるよ。ユナ」
────────
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
最後らへんすこし駆け足気味ですみませんっ!(汗)
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