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天才の苦悩
しおりを挟む「イロハちゃん、喉乾いた。お茶。濃いやつね」
「た、ただいま~」
「イロハちゃん、おなか減った。チョコバー買ってきて」
「よ、よろこんで~」
クラス決めが終わり、初顔合わせも終了し、新一年生たちが新しい学校に慣れ始めてきた頃──タケオはイヴの奴隷と化していた。
世界的デザイナー、クリスチアーヌ・ロランの孫娘に、その遠い親戚にあたる春風彩華をこき使う様は、もうすでにここ、一年二組の名物となっていた。
「か、買って参りました!」
必死に口内を駆けずり回り、汗だくになったタケオが、手に持ったチョコレートバーをイヴに差し出す。
「ご苦労様」
イヴはそのチョコレートバーを手に取り、パッケージをビリビリと破ると──
「ちょっとイロハちゃん、ナニコレ?」
「……はい?」
「溶けてるんだけど。チョコ。ギットギトになってるんですけど? あなたの熱で」
「まあ……でも、チョコは溶け始めが美味しいって聞くし……」
「ふぅん、でも残念。私は溶けていないチョコレートのほうが好きなの。もうこのチョコレートはあげるから、はやく買ってきて」
イヴはそう言うと、強引に、手に持ったチョコレートバーをタケオに押し付けた。
「で、でも……これ、最後のなんだけど……」
「じゃあ作ってきてよ」
イヴの言い方にむかっ腹が立ったのか、タケオは手に持ったチョコレートバーをバリバリと貪りながら叫んだ。
「無茶言うな! 買ってきてやったんだから黙って食え!」
「だから嫌いなんだってば! てか、もうあんたが食ってるし。……美味しかった? 溶けて、ギトギトになったチョコ?」
「まずい!」
「なんで勧めたのよ」
「ムカついたから……」
「なんでしょんぼりしながら言ってんのよ……」
そして、そんなドタバタな日が続いた──ある休日。
イヴは重度のホームシックを患い、〝家〟という単語を誰かが発しただけで、全身が痙攣し、目から涙を流すようになっていた。これを見かねたタケオは、クリスチアーヌへ提言。
特別に土日祝だけ、任意で家へ帰る事を許されたイヴは、その日もたまたま、家へと帰っていた。
部屋の中にはタケオがひとり、イヴの散らかした服やお菓子を片付けていた。
最初の頃はタケオに、自身の服すら触られることを嫌がっていたイヴだったが、もうタケオのいる生活に慣れてしまったのか、イヴの洗濯などもタケオが担当するようになっていた。最初の頃は〝ボーダーライン〟と称して、部屋の中心に簡易的な柵のようなものも立ってあったが、いまではその柵も崩壊しており、すっかりボーダーフリーとなっていた。しかし、そんなずぼらなイヴでも、さすがに下着類はまだ抵抗があるらしく、たまに大量の下着を抱えながら、寮内にあるランドリールームをうろついているイヴが目撃されていた。
まるで、殺人現場のように脱ぎ散らかされた服をひとつひとつ拾い上げながら、タケオはため息をついた。
「どうしてこうなったんだ」
そう辟易しながらも服を拾う手を止めないタケオだったが、やがて何かが視界に入ったのか、タケオは手を止め、足も止めた。
「……なんだ、これ」
そう言って拾い上げたのは一枚の紙だった。その紙には洋服の設計図、仕様書だった。素材からデザイン、寸法、色、形……それらが事細かに書かれており、タケオが授業で習ったような内容よりも明らかに洗練されており、より実践的で、商業的で、芸術的だった。
「うわっぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
入学式のあの時を彷彿とさせる叫び声が、一年生寮に響き渡る。
タケオは、突然のゾウとクマを足して二で割ったような雄叫びに耳を覆うと、忌々しそうに後ろを振り返った。
「み、見たなぁ……!!」
そこには鼻水と涙をたれ流しながらタケオを睨みつけている、イヴの姿があった。
「い、イヴ……? 家に帰ったんじゃ……」
ぶるぶるぶる……!
〝家〟という単語に反応してしまったイヴは白目を剥くと、まるで一昔前の携帯のバイブレーション昨日のように震えてしまった。
「いや、今日家に帰るんだから、そこまで反応しなくても……!」
ヴィー……!
もはや紐をひっぱって、振動させて遊ぶような玩具になってしまったイヴ。タケオはそんな彼女を抱えると、とりあえず、クリスチアーヌのいる研究室へと急いだ。
◇
「ついに恐れていたことが起きてしまいましたか……」
神妙な面持ちで話し始めるクリスチアーヌ。その手には、先日買い替えたばかりのスマートフォンが握られていた。
「イヴに起きた症状って、そんなに重いもの……なんですか?」
事態を重く見たタケオが、おずおずと口を開く。そして、その傍らには、ただボーっと虚空を見つめ、ブツブツと何かを呟いているイヴの姿があった。
「いえ、ついにわたくしの叩き出した最高スコアを破られまして」
「……もしかして、恐れていた事って、そのアプリの話ですか?」
「ええ。これは由々しい事です」
「どちらかと言うと、今のイヴのほうが由々しいと思いますけど……」
「そうでしょうか?」
「いや、重症でしょ。なんかブツブツさっきから呟いてて気持ちが悪いんですけど……」
クリスチアーヌは手に持っていたスマートフォンを、履いていたスキニーデニムの尻ポケットにねじ込むと、未だに意識を取り戻さないイヴに近づいていった。
「どれどれ……」
自身の孫を、まるで未確認生物を見るような目で見るクリスチアーヌ。
やがて事態を把握したのか、クリスチアーヌはポン、と手を叩いてタケオに言った。
「これはアレですね。懐郷病と羞恥を併発しただけですね」
「……つまり?」
「イロハさん、ついに見てしまったわね。イヴの秘密を……」
〝イヴの秘密〟
クリスチアーヌがその言葉を口にすると、念仏のように言葉を唱えていたイヴは口を閉ざし、ピクっと肩を震わせた。
「イヴの秘密……ですか?」
「はい。じつは──」
「ちょ、ちょっと待って、おばあちゃん。ほんとにイロハに言う気!?」
突如として息を吹き返したイヴは、クリスチアーヌに食ってかかった。いきなりの豹変ぶりに、隣にいたタケオがビクッと肩を震わせた。
「うお、生きてたんかい!」
「いや、死ぬわけないじゃない」
「そりゃそうか」
クリスチアーヌは二人の掛け合いに眉を顰めると、頬杖をついて面白くなさそうに口を開いた。
「……それにしても、仲良くなってませんか、あなたたち?」
「なってません!」
「なってない!」
強い口調で否定する二人だったが、タイミングは完全に重なっていた。
「なんていうか、ちょっと新鮮味がないというか、マンネリ化してきてるわよね、あなたたち。……じゃあ、ここで波風立たせておきましょうか」
「はあ? おばあちゃん、何言って──」
「イロハさん、いつか言ったイヴの問題。これがその問題の正体よ」
クリスチアーヌはタケオの手から部屋で見つかった紙を奪うと、それをひらひらと揺らしながら言った。
「トラウマです。……イヴのね」
「イヴの……?」
クリスチアーヌの言葉を受け、横にいるイヴの顔を見るタケオだったが、イヴはその視線から逃れるようにして、そっぽを向いた。
「その仕様書が、イヴのトラウマ……なんですか? ていうか、その仕様書、イヴが書いたやつなんですか!?」
「そう。これだけじゃなく、イヴはもう裁断から縫製、一連の既製服作成手順をひとりでこなせるのよ。……まあ、厳密に言うと、プレタポルテではないのですが」
「いや、でも、イヴは授業の時とか、いつも適当にやってましたよね?」
「それは……わざとそうしているのでしょう。ね? イヴ?」
クリスチアーヌの問いに、イヴは頑なに答えようとはしない。クリスチアーヌはそんなイヴを見ると、ため息をつき、ゆっくりと口を開け、話はじめた。
「むか~しむかし、あるところにイヴ・ロランという、洋服を着るのも、作るのも大好きな女の子がいました。イヴは小さい頃、よく『おばあちゃんみたいになりたい』と言って──」
「──ま、せ、ん! 言ってません! 何やってるの、おばあちゃん!」
「童話みたいなテイストで話したら、なんとなく傷も和らぐかなって思って……」
「逆にバカにされてるようにしか思えないんですけど?」
「そう? じゃあもっと喜劇っぽく──」
「自分で話すからいいわよ! ……なんとなく、イロハもわかってると思うけど、私ってば天才なの。服を作る事に関して」
「なんて歯に衣着せぬ発言だ。……でも、じゃあ、この前のあの授業で提案した、〝ジャパニーズトイレットスタイル〟とかいう、和式便所を使用する時に疲れないようにって、提案した服はなんだったんだよ」
「あ、あれは適当よ! そんなの本気で提案するはずないじゃない!」
「提案してくれよ! あれ女装中は本気で使えそうだったのに!」
「いや、褒めてたんかい! いいわよ、じゃあ今度採寸してあげるから、イロハ用に一着作ってあげるわよ!」
「やったぜ!」
「……ほらほら、あなたたち、そういう茶番はもういいから。さっさと話しちゃいなさい、イヴ」
「そ、そうだけど……」
クリスチアーヌに急かされたイヴはタケオを一瞥すると、口をツンと尖らせて言った。
「言ってもいいけど、私の才能に嫉妬しない事ね」
「嫉妬? なんで?」
「……まあ、いいわ。というか、そこまで勿体ぶるような話でも、壮大な話でもないからね?」
イヴはタケオに一言断りを入れると、大きく息を吐き、そのまま話し始めた。
「私が、昔に比べて、今はあんまり服とか作らなくなったのは、おばあちゃんの言う通り、トラウマが原因なの。まあ、実際はトラウマって呼ぶほど大袈裟なものでもないんだけどさ、昔、私がまだちっさい頃。小学生低学年くらいの頃かな。その時、私の夢はデザイナーになる事だったのね、もちろん服の」
「〝おばあちゃんみたいな偉大なデザイナー〟という注釈を付け加え忘れていますよ」
「おばあちゃん、話の腰を折らないで」
「ごめんなさい」
「……それで、そんな夢を持っていた私にもひとり、友達がいたの。親友が。その子も私と同じで、将来は自分のデザインした服をみんなに買ってほしいって言える子だった。その時、周りには、私と同じくらいの歳で、そんな具体的な夢を持ってる子ってそんなにいなかったの。だからなのかな、私とその子はすぐに意気投合して、打ち解けた。何をするにも一緒で、林間学校も、修学旅行も同じグループ、同じ部屋で、中学も同じ。趣味も、好きな服の種類も一緒。……こう言ったら語弊があるかもしれないけど、色々と合いすぎて、『気持ち悪いね』って言い合える仲だったの」
イヴはここで話を一旦区切ると、気怠げにクリスチアーヌを見て「……ねえ、まだこんな話続けるの?」と尋ねた。クリスチアーヌはその問いに首を横に振ると、「最後までイロハさんに聞いてもらいなさい」と答えた。イヴは珍しく、遠慮がちにタケオの顔を見ると、タケオはただ黙って、頷いてみせた。
「……けど、喧嘩したの」
「喧嘩って……その、仲の良かった子と?」
「そ。くだらない喧嘩。……だれが最初に提案したのかは忘れたけど、母の日……その日に、お互いのお母さんに、自分たちで作った服を作って送ろうって事になったの」
「中学生で?」
「そう。中学生で。……だからあの子は、服っていっても、もっと簡単な、ブレスレットやネックレスみたいなアクセサリーを想定してたの」
「イヴは……?」
「私は……ちょっと張りきっちゃって、綺麗めの、シックなワンピースを作っちゃったの」
「……中学生で?」
「うん。それでちょっと、私とあの子の間で価値観の違いが出たっていうか、そこまでは良かったんだけど、いざ母の日になって、お互いのお母さんに服をプレゼントした時、あの子、お母さんに言われてた」
「……なんて?」
「『なんでイヴちゃんはあんなに綺麗な、お店で売ってるような洋服を作れるのに、あなたはブレスレットを作ったの?』って」
それを聞いたタケオは、苦虫を噛み潰したような視線をクリスチアーヌに向けたが、クリスチアーヌは無表情のまま、何も反応を示さなかった。
「たぶん、あの子のお母さんも悪気があって言ったんじゃなかったと思う。ただ考えが足らなかっただけ。だからやっぱり、作った本人は良い思いはしないよね。それでその子、私に言ってきたの『あなたはおばあちゃんに手伝ってもらったんでしょ』って」
「クリスチアーヌ先生は……手伝ったんですか?」
「いいえ。それどころかイヴってば、わたくしのデザインした服はあまり好きじゃないらしくて、教えようとしてもずっと興味なさそうにしてて……だから、一度もきちんと教えたことはないんですよ」
「じゃあ、イヴはクリスチアーヌ先生からは教わらずに、独学で服を作ってたのか?」
「そう。本とか、全部お小遣いで買って、勉強して、自分なりに解釈して……だから、私もそれをきちんと伝えたらよかったんだけど、今までの私の努力とか勉強とか、全部否定された気がして、カッとなって言い返しちゃったんだよね。だからそれっきり」
「そんな事が……」
「そういう事。だから、もう学生の間は、作らなくてもいいかなって。どうせ私が頑張っても、誰も私の服なんて見てくれないしね。『クリスチアーヌの孫だから』『クリスチアーヌから直々に教えてもらってるから』『クリスチアーヌが手伝っているから』って。……だから適当にやってんの。これが……まあ、トラウマって呼ぶのも烏滸がましい、私の過去の正体」
ひととおり自身の中のモノをさらけ出したイヴの顔は、吐露する前に比べて、幾分か晴れやかな顔になっていた。
「……ね? わかったでしょ? そう考えたら、服なんて作ってる意味なんて──」
「いや、意味はあるだろ」
タケオはイヴを慰めるでもなく、責めるでもなく、ただあっけらかんと言い放った。
「……へ?」
「誰もイヴを見てないも何も……その仕様書、クリスチアーヌ先生の作る服とは全然別ものだろ。俺もいちおう、この学校に入る前に、普通の勉強と並行して、クリスチアーヌ先生のこれまで作ってきた服をいくつか見たけど、イヴのその設計図を見て、クリスチアーヌ先生を連想しなかったけどな」
「おばあちゃんと同じ事言ってる……」
イヴが呟くように言うと、タケオはクリスチアーヌのほうを見た。
「……イロハさんが、わたくしの服についてまで勉強していたのは意外でしたが、そうです。イヴの作る服とわたくしの仕立てる服はべつもの。そもそも考え方も異なっているのですから、一緒になる筈がない……と、常々イヴには言い聞かせていたのですが……どうやら、ただの方便だと思われていたようで……」
「ね、ねえ、イロハ。本当に……本当に、私のこの図を見て、おばあちゃんのとは違うって思ったの?」
「思ったっていうか、まあ、べつにクリスチアーヌ先生の事は浮かばなかったなって」
タケオの言葉に、口をぽかんと開けて放心するイヴ。そのイヴに、クリスチアーヌが優しく声をかける。
「ね、イヴ。わたくしの言った通り、分かる人にはわかるのです。これからあなた……いえ、あなたたちが上へ行けば行くほど、分かってくれる人たちも多くなっていきます。ただ、その分、厳しくもなってきますが。……だから、そんな些細な……周囲の小石につまづいただけで、悲観する必要はありません。上を見て、周りをよく見てみなさい。あなたの周りは、あなたが思っているよりも、案外広いのかもしれませんよ」
クリスチアーヌはそう言うと、にっこりとイヴに微笑みかけた。
「おばあちゃん……」
「俺がここで発言するのもなんだけど、ここに集まっている生徒って、とくに俺たちの居る学科の生徒って、本当に服について真剣だし、イヴがそこまで気を遣う必要はないと思うけどな。だから、イヴはイヴで、堂々としていればいいんだよ」
「イロハ……うん、私、頑張るよ! 卒業してから!」
「はい?」
「へ?」
吹っ切れたような、清々しい表情になったイヴとは対照的に、タケオとクリスチアーヌはただ口を開け、茫然とイヴの顔を見た。
「いやー! なんか肩の荷が下りたっていうか、軽くなったっていうか……うんうん! たしかにしょうもない事で、ずっと悩んでたのかもしれない」
「いやいや、しょうもないことって、ずっとそれで悩んでたんだろ?」
「そうだけど……、まあ、べつにそれでその子と仲悪くなったわけじゃないからね」
「……はあ? でもさっき、それっきりって言っただろ?」
「ああ、〝それっきり〟っていうのは、服について話すのはそれっきりって事。言ってたでしょ? そもそもその子とは、色々と趣味が合って、仲が良かったって。ていうか、今日もその子と好きなバンドのライブ観に行くために帰る予定だったし」
「いやいや、じゃあ俺……何の心配してたんだよ」
「まあ、私の事を心配してくれてたのは嬉しいし、有難いけどさ、それとこれとは別じゃん?」
「なにが?」
「だから、卒業してから本気出す」
「ダメな思考パターンの人間じゃん」
「まあ、実際、イロハやクラスのみんなも、まだまだ私の足元にも及ばないしね」
「いや、ぶっちゃけ過ぎだろ! 俺がトラウマになるわ! ……いやまあ、たしかに中学の頃から商業でも通用するような服を作る人間と一緒……ってわけにはいかないけどさ、それでも、なんていうか、勉強することはあるんじゃないか?」
「残念ながら、今あなたたちに教えているのは初歩中の初歩。ある程度、自分のスタイルを確立させているイヴにとっては、むしろ邪魔になりかねません」
「いや、そこは俺の肩を持ってくださいよ……」
「こればっかりはしょうがないです」
「しょうがないんですね……」
「同様にイヴ……とまではいきませんが、同クラスの清原千絵さんなんかも、本当は現在教えている内容はあまりやらなくてもいいのですが……」
「ああ、たしかにあの人も、いいセンスしてますよね。勉強熱心ですし」
「はい。イロハさんとは比べ物にならないくらいに」
「……俺だって普通に傷つくんですよ?」
「おや。失言でしたね」
クリスチアーヌがそう言ったところで、イヴがすっくと立ちあがった。
「……さて。そういうことで、もう今日は家に帰るから。約束もあるし。じゃあね、おばあちゃん、イロハ」
イヴはそれだけ言うと、手をひらひらとさせながら、そのまま研究室から出て行った。
「……これで、解決したんでしょうか?」
「さあ。……ですが、いい方向へ向いてるのではないかと」
「そう、だといいんですけどね」
「はい。それと、イロハさん……いえ、羅漢前剛雄さん。イヴの祖母として、あなたにお礼申し上げます」
クリスチアーヌはそう言うと、タケオに深々と頭を下げた。
「ちょ、なにやって……!? 天下のクリスチアーヌ先生が、俺なんかに頭を下げないでください!」
「あの子も、表面上はサバサバとしていますが、たぶん心の中では、おそらく、もしかしたら、ひょっとすれば、あなたに感謝しているかもしれません」
「それ、喜んでいいんですか?」
「わかりません。ですが、少なくともわたくしは喜んでおります。改めて、あの子の不安を取り除いてくれたこと、感謝します」
クリスチアーヌはもう一度そう言うと、今度はタケオの顔をまっすぐ見て言った。
「いえ、俺も今回の事で、イヴも、イヴなりに努力してたんだってわかりましたし、それを知れてよかったです。……それに、不安を取り除いたっていうか、俺はただ、話を聞いて、思ったことを言っただけですから」
「ご謙遜を。それで救われる人もいるという事を、どうか忘れないでくださいね」
「は、はい! 肝に銘じておきます」
「……ふふ、イロハさんを選んで正解でした。これなら、今度開催されるファッションショーも期待できますね」
「……ファッションショー? なんですかそれ?」
「ファッションショー。正式名は〝エトワール・ブリエ・コレクション〟略して〝ブリション〟」
「いや、略し方! ていうか、開催するんですか? 誰が出るんですか?」
「あなたとイヴです」
「……ンン?」
「あら、言っていませんでしたか? わたくしの気分で、ゲリラ的に開催するイベントで、学年問わず、わたくしが指名した子、腕に覚えのある子たちが服を作り、モデルに着せて行うファッションショーですが……そうですか、言っていませんでしたか」
「いやいや、いま〝気分で〟とか〝ゲリラ的に〟とか言いましたよね」
「言いましたね」
「じゃあ知らないのも当たり前なんじゃ……?」
「それもそうでした。うっかり」
「絶対ワザとだ。……ちなみにそれ、いつ開催されるんですか?」
「一か月後ですけど」
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「頑張ってくださいね」
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