婚約破棄したった

枯井戸

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これからも

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 サンテティエンヌ家噴水前広場。
 そこにブルーデンツ、ビフテキ、ガルグマッグ、そしておだんご・・・・の四人が対峙していた。その他にもサンテティエンヌ家の使用人と思しき人間が数人いるが、全員、すでに芋虫のようにうずくまり、苦悶の表情を浮かべながら倒れている。


「──なんだ、ここまでか。意外と呆気ないものなんだな。元オディエウスの実行部隊とやらも」


 ブルーデンツは右手に刺突剣レイピアを構えながら、左の小脇に服を破られたビフテキを挟み・・ながら、ガルグマッグを挑発した。ビフテキは絶えず「放せー! 殺せー!」と顔を真っ赤にして喚いているが、誰もビフテキに触れようとはしていなかった。


「つ、強すぎる……! なんなんだ、おまえたちは……ッ! それにそこのおまえ……貴様、サンテティエンヌ家のメイドだろうが! なぜ、貴様が私にたてついておるのだ!」


 脂汗を滝のように流していたガルグマッグが、ブルーデンツの傍らで苦無クナイを構えていたメイド姿のおだんごを指さして喚いた。それを聞いたビフテキが「え? おだんごさん!? おだんごさんいるんですか!?」と騒ぎ出す。


「アホか、昨日、馬車から降りた時、案内してもらっただろうが」

「え? もしかして、あの時のメイドさん、おだんごさんなんですか!?」

「私だよぉ、ビフテキさぁん」

「あ、ほんとだ。この声、おだんごさんだ。あー……でも、たしかに、今思い返してみれば、妙に間延びした話し方するなー……って、思ってましたけど」

「ごめんなさいねぇ黙っててぇ。……それとガルグマッグ様ぁ。誠に勝手ですけどぉ、今日でメイドは辞めて、ギルドに帰りまぁす」

「ぎ、ギルド……だとォッ!? 貴様、元オディエウスの構成員だと言っていたではないか!」

「すみませぇん、あれは雇ってもらうためのなんですぅ……」

「で、では、わ、私を……騙したというのか……!?」

「おやおや、騙し騙されはお互い様じゃないですか。犯罪組織〝オディエウス〟の元頭領、ガルグマッグ・エドラー・・・・さん」


 ブルーデンツがその名を口にした途端、ガルグマッグの顔が曇った。


「な、なぜ、その名前を……!」

「おだんごちゃんに調べてもらったんですよ」

「すみませぇん、色々と調べさせていただきましたぁ……」

「──16年前に潰れた犯罪組織が、いまは〝サンテティエンヌ家〟を乗っ取り、名前を変えて、本拠地を変えて、まだ犯罪行為を続けていたとは……恐れ入りました。こんな立派な屋敷に住んでいるのに、広大な領地を治めているのに、まだ野心を持ち続けているとは……いやはや、俺もそのハングリーな精神だけは見習わないといけませんね」

「そ、そんなことまで……!? ……いや、いやいやいや、しかし、なぜそれを……! 私はヘマしていないはずだ……! ギルドなどに尻尾を掴まれるはずは……!」

「ナッテリー・ウルフ」

「……は?」

「事の発端は、街道・・に出没する、ナッテリー・ウルフの依頼でした」

「ナッテリー・ウルフといえば、ただの狼だろう! その狼と、私の正体と何の関係があるんだ……!」

「実はですね。ナッテリー・ウルフというのは肉食ではあるんですが、そもそもが臆病な性格でして、人なんて、ましてや馬車キャラバンなんて襲うはずがないんですよ。あいつらは普段、のほうで、群れで小動物などを狩ったりしてひっそりと暮らしているのです」

「で、でも師匠……現にナッテリー・ウルフは人里に……街道に現れて、馬車キャラバンを襲ってましたよね?」

「そう。そんな臆病な狼が、人を襲うはずがない。……ただ、例外もあるんだよ」

「例外……ですか」

「ナッテリー・ウルフは鼻がいい」

「は、鼻……だと?」

「そう。それも〝血〟……人間の血液にはすごく敏感なんです。やつらは一度でも人間の血のニオイを嗅いでしまえば、たちまち興奮してしまい、見境なく、同種以外の誰にでも襲い掛かるようになってしまうのです。──特に、死体を載せて街道を走る馬車キャラバンなんかが、定期的・・・に現れたりしたら、そりゃもう理性なんてぶっ飛んでしまうでしょうね」

「ぐ……っ!? 血のニオイだと……! 御者には死体の処理は念入りにしておけと、あれほど言っていたのに……!」


 ガルグマッグは拳をわなわなと震わせながら、忌々しそうに地面を睨みつけている。


「だから俺はおだんごちゃんに依頼を出したんです。ここにいないはずの、森で暮らしているはずのナッテリー・ウルフが、なぜこんなにも大量発生するんだ、と疑問に思った俺がね」

「はい~。その時も言いましたが、じつはギルドもこの違和感には気づいていたのですぅ。ですが、中々込み入った調査をすることができなくてぇ、かといって、無断で操作することも出来なくてぇ……そこで変態マゾ豚さんに依頼という形で調査を依頼され、ようやく本格的に調査することが出来たんですぅ」

「そういう事。んで、いざギルドが……おだんごちゃんが、本腰を入れて調査したら、もう出るわ出るわ。その黒い商売の証拠が。薬物、殺人、人身売買エトセトラ、エトセトラ……。これがもう、サンテティエンヌ家から洪水のように!」

「正直~、私も引いちゃいましたぁ……」

「──あれ、でも師匠……おだんごさんに依頼を頼んだのって一昨日なんですよね? でも今の話を聞く限りだと、昨日にはもう知ってるような感じでしたけど、いつ知ったんですか? 私たち、ずっと一緒にいましたよね?」


 ビフテキに突っ込まれ、ブルーデンツは困ったようにおだんごを見た。おだんごは少し考えると、肩をすくめて、しょうがなさそうにブルーデンツに合図を出した。


「あー……いま、一応本人から許可が出たからネタバレするけど、一昨日……ていうか、今まで俺とエステ・・・をしてた、あの女の人いるだろ?」

「えーっと、あの蝶のマスクをかぶった女性ですよね?」

「あれおだんごちゃんなんだよね」

「……エ?」


 ビフテキが、ブルーデンツに抱えられたまま固まる。


「ごめんなさいねぇ。私、諜報員スパイだから、色々な情報を集めるために、色々な顔を持ってるの~。〝ドエスパピヨン〟も、そのうちのひとつなのよ~」

「ま、マジですか! じゃあ、ずっと師匠の尻をしばいてたのは……おだんごさん!?」

「いや、あのな、ビフテキ。あれは尻をしばいてるとかじゃなくて、解毒効果のある鞭で──」

「師匠、黙れ」

「はい」

「いやいや、たしかにあの女性もすこし間延びした話し方でしたけど……ていうか、あの時のおだんごさんの名前、ドエスパピヨンなんですか!? ダサッ!」

「……まあ、そんな色々があって、俺たちはさらなる証拠を集めるため、ここに来たんですよ。ガルグマッグさん」

「証拠……あ、もしかして、昨日師匠が大量に持って帰った書類が……?」

「そう。あれが証拠な。俺とおだんごちゃんで調べた、サンテティエンヌ家の黒い商売の裏どり調査書とその証拠。詳細は省くけど、今も裏で秘密裏に行っている取引の履歴や、その顧客リストなんかが昨日の書類の正体な。……こんなもん、さっさと処分すればいいのに、つい残しちゃうのは、商売人の性ってやつなのかねぇ……」

「そ、そんな事が……私の知らないうちにあったんですね……」

「まあな。それで俺が昨日、書類を持ってギルドに提出してたってわけ。ちなみに、牢屋で言ってた応援ってのはギルドな。もう少ししたらここに来ると思う」

「そんな……じゃあ、ずっと前から怪しいと思って……あれ? てことは、私がサンテティエンヌ家出身だって知ってたんですか?」

「いや? それはマジで昨日まで知らなかった。……けどま、使えそうだったから利用した」

「だったら、ここに私を置いて帰ったのは……?」

「二人で帰ったら怪しまれるから。おまえの立場を利用した」

「じゃ、じゃあ師匠の実家がサンテティエンヌ家に援助を惜しまないとかいう、あれは……?」

「……あのなビフテキ、おまえ、俺の弟子を何年やってんだよ。教えただろ。レッスンその1」

「……〝人に取り入るには、まず自分から手の内を晒せ〟」

「そういう事。……つまり、ガルグマッグはべつに〝貴族の暮らしに憧れてて〟とか〝偉くなりたくて〟……とかいう、俗ぽい理由でおまえの母ちゃんに取り入ったんじゃなくて、商売を円滑に行うために、〝領主〟という肩書を欲しかっただけ。おそらくオディエウスを潰したのも、ここらへんがオディエウスとしての潮時だと考えたんだろう。これはいわば、ガルグマッグなりの〝人員整理〟だったわけだ」

「組織が大きくなってぇ、人が増えれば増えるほどぉ、組織として舵を切りにくくなっちゃうからねぇ……」

「実際、ここで働いている奴らはみんな、元オディエウスの構成員だしな」

「な……なんてことを……!」

「……ただ、サンテティエンヌ家を乗っ取ったのはよかったけど、正式な領主を名乗るには、ファゴット国王より賜った〝キングエメラルドの指輪〟が必要なんだよ」

「でも、その指輪はずっと私が持ってたから……」

「そう。この16年間、気が気でなかっただろうな。……そうですよね、ガルグマッグさん? いや、オディエウスの頭領で、サンテティエンヌ家を滅ぼしたエドラーさん」

「ぐ、ぎ、ぎ……っ! こ、この、クソガキが……! 私が……この16年、どんな気で商売を行ってきたと思っているんだ! 何年も計画と準備に費やし、やっとの思いで、このサンテティエンヌ家を手中に収めたと思ったら、今度は指輪が──」

「はいはい。……そういうのはもういいですから。いくら努力しようが、いくら頑張ろうが、いくら金を費やそうが、この国であなたのやったことは犯罪になります。あなたが今するのは過去を悔いる事でも、俺たちを恨む事でもありません。罪を償う事です。……まあ、これほどの罪を犯しておいて、果たして無事でいられるかどうかはわかりませんが……それでも、言うべき事とか、あるんじゃないですか? 俺たちじゃなく、自分の娘に」


 ブルーデンツはそう言って、初めて小脇に挟んでいるビフテキを見た。が、その瞬間、ガルグマッグが体を震わせながらケタケタと笑い出した。


「ふふふ……は……フハ……ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 ガルグマッグの突然の豹変ぶりに、ブルーデンツ、ビフテキ、おだんごの三人が眉をひそめる。


「何を勝った気になっているんだ、貴様らは。そいつらを倒した程度で、この私を、エドラーを倒せる気でいるのか……!? 長年、探し続けた、焦がれ続けたあのキングエメラルドが、今や私が手の中にあるのだぞ! 運は私に味方してくれているのだ! それに、私は、あのオディエウスの頭領、ガルグマッグ・エドラー様だ! 16年間、このような状況を、想定していなかったと思っているのか!」

「へえ、じゃあ何か対策でもあるんですか?」

「二度言わせるな。私はある、と言っているのだよ。ブルーデンツ君」


 ブルーデンツが挑発するように言うと、ガルグマッグが懐に忍ばせていた小型の注射器を取り出し、手首の静脈部に注射した。薬液を全て注入し終わったガルグマッグは、空の注射器を放り捨てると、やがて、喉を押さえ苦しみだした。


「なんだ……あれは……何をやってるんだ? 新手のデトックスか?」

「あなたがこの世からデトックスされてください、師匠」

「……あれは~、たぶん特殊な筋力増強剤かとぉ」

「わかるのか、おだんごちゃん?」

「いまぁギルドのほうでも話題になってるんですよぉ~。今まであまり強くなかった冒険者の方がぁ、急に重要な依頼をこなしてってぇ、ランクを爆上げする方がいるってぇ」

「あー……そういえば、言ってたね。なるほど。それがあれか……」

「はい~、いまビフテキさんの体の自由を奪っている〝クスリ〟とは逆の効果ですねぇ」

「……でも、なんかゲロゲロ吐いてるけど……」


 ブルーデンツが指さす先──さきほどまでの威勢はどこへやら、ガルグマッグは四つん這いになりながら、口から胃の中の物を戻していた。


「おそらくぅ、副作用でも現れたのではないでしょうかぁ。薬なので体調や体質によって、合う、合わないはあると思いますよぉ……」

「ああ、そういう事ね。なら、拍子抜けだけど、ここらへんで幕引きか。……あとはギルドが到着するまで、ふん縛っておけば──」


 ブルーデンツは呆れたような顔で、不用意にガルグマッグへ近づいていった。が、その後ろのおだんごがすかさず声を上げる。


「──いけません! 変態マゾ豚さん! たとえ体質に合わなくても、強化は完了されていますぅ!」

「……へ?」


 ──ガツン!
 振り返っておだんごを見たブルーデンツの顎に、ガルグマッグの渾身のアッパーカットが炸裂する。ブルーデンツはビフテキを抱えたまま宙を舞い、そのまま噴水の中へ、水柱を上げながらダイブしてしまった。


「変態マゾ豚さぁ~ん! ビフテキさぁ~ん!」


 おだんごの悲痛な、間延びした叫び声があたりにこだまする。


「──人の心配をしている場合か!」


 それを見たガルグマッグは、返す刀でおだんごに肉薄し、そのまま殴りかかった。おだんごは紙一重でそれを交わすと、身を反転し、後方へ飛び退きながら、持っていた苦無クナイを、ガルグマッグめがけ、投擲とうてきした。
 苦無クナイの軌道はガルグマッグの太もも。
 おだんごはまず、ガルグマッグの機動力を削ごうとしたが──鋼の如き硬化した肉の前に、苦無クナイは呆気なく弾かれてしまう。


「がっはっは! ぬるいぬるい! そのような玩具が、私に効くと思ったか!」

「ま、まさか、こんなに強くなっちゃうなんてぇ……これは~、困りましたねぇ……」


 おだんごがすかさず二本目の苦無クナイを取り出して構えるが、その表情にはかげりが見える。
 戦闘の続行か撤退か。
 おだんごの頭の中にその選択肢が浮かび上がった時──
 ──ベチャ。
 噴水の端のへり、そこに打ち上げられた魚の如く、白目を剥いたビフテキが打ち上げられた。それからややあって、全身が水に濡れたブルーデンツが這い上がってきた。


「大丈夫ですかぁ、変態マゾ豚さぁん、ビフテキさぁん!」

「とりあえずは大丈夫ー! ……まあ、ビフテキは噴水の底に頭をぶつけたぽいけど」


 ブルーデンツはおだんごの声に手を振りながら応えた。しかし、その傍らにいるビフテキは依然、ビクンビクンと痙攣している。


「──ほう? あれほどの攻撃を食らっておきながら、まだ立ち上がる気力があるか。さすがは高ランクの冒険者といったところか……」

「いやいや、どれほどのパンチだよ。大袈裟に吹っ飛んでやった・・・だけではしゃぐなよ、似非エセ貴族」

「言うではないか、元貴族の小僧。ではもう一度、今度は丁寧に貴様の体を損壊・・してやろう」

「けっ、やれるもんなら──やってみなァ!!」


 ブルーデンツは持っていた刺突剣レイピアを大きく振りかぶり、やり投げのように豪快に投擲してみせた。
 軌道はまっすぐ。狙いは頭部。
 風を裂き、空を裂き、刺突剣レイピアは物凄い勢いで、ぐんぐんとその距離を詰めていった。ガルグマッグは咄嗟に頭部の前で腕を交差させると、硬化した腕で刺突剣レイピアを防御した。──が、刺突剣レイピアは弾かれる事なく、ガルグマッグの前腕に突き刺さった。
 ズブズブ──
 刺突剣レイピアがガルグマッグの腕に突き刺さっていく。


「ぐぬ……うおおおおおおお! 止まれェェェェェェェ!!」


 ガルグマッグが喉が潰れそうになるほどの雄叫びを上げ、渾身の力を腕に込めた。
 右腕──左腕──
 刺突剣レイピアはそれらを刺し貫くと、脳天に届く寸前・・で止まった。


「は……ハハハハハハハハハハハハ! 止まった! 止まってやったぞ!」

「よかったな」

「……は?」


 ホッと安堵した表情を浮かべるガルグマッグ。しかし眼前には、水浸しになりながら、全速力で距離を詰めて来ていたブルーデンツの影が迫っていた。
 ブルーデンツは膝が胸につくくらいまで脚を曲げると、そのまま腕に突き刺さっていた刺突剣レイピアを足で押し込もうとした。


「や、やめ……! 助け──」


 目を大きく見開き、一瞬の間の中でブルーデンツに許しを請うガルグマッグ。
 だが、ブルーデンツはそれに構わず、そのまま刺突剣レイピアの護拳部分へ前蹴りを繰り出す。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ──コツン。
 しかし、その前蹴りに勢いは全くなく、刺突剣レイピアは全く動かなかった。それでもガルグマッグは、その勢いと恐怖から、刺突剣レイピアが刺さったと錯覚したのか、白目を剥き、天を仰ぐようにして倒れ、失神してしまった。


 ◇


 国王の派遣した憲兵と、ギルドの職員とでごった返すサンテティエンヌ家噴水前広場。
 そこに手錠をかけられ、職員に連行されていく元オディエウスの構成員と、薬の副作用により、一気に老人の様に老け込んでしまったガルグマッグがいた。ガルグマッグはその窪んだ眼孔から、虚ろな目で、ブルーデンツと、すでにクスリが切れ、動けるようになっていたビフテキを見ていた。ブルーデンツは相変わらず、興味が無さそうに腕組みをしていたが、ビフテキは眉をひそめ、口を〝への字〟に曲げ、複雑そうな表情を浮かべていた。


「──助けておくれブリジットよ。色々あったが、わしはおまえの実の父親だろう」


 足を止め、ガルグマッグがビフテキに助けを乞う。その光景を見たブルーデンツは大きなため息をつき、ビフテキは意を決し、口を開いた。


「……ブリジット? そんな人間は死にました。貴女がさっき殺したんでしょう?」

「だ、だが……」

「いいですか、おじいさん・・・・・、私の名前はビーフステーキ。ただの冒険者です。サンテティエンヌ家とはなんの関りもありません。そういうわけで──師匠!」


 ビフテキがガルグマッグから取り返したキングエメラルドの指輪を宙に向かって放り投げた。名前を呼ばれたブルーデンツは、腰に差していた刺突剣レイピアをスラリと抜くと、即座にその指輪を刺し貫いてみせた。
 指輪はキングエメラルドごと真っ二つに割れると、そのまま地面に落ちてしまった。


「──おじいさん。残念ですが、これで名実ともに、サンテティエンヌ家は終わりました。あなたはただのガルグマッグ・エドラー。犯罪者です」

「な、なななな、なんということを……!」


 ガルグマッグは目を見開いて驚くと、そのまま肩を落とし、失意のまま職員に連行されていった。ブルーデンツはガルグマッグをいなくなると、ビフテキに静かに声をかけた。


「……いいのか、指輪。形見だったんだろ? 母ちゃんの」

「いいんです」

「そうか」

「はい! だって、お母さんは最後まで私を大切にしてくれてたってわかりましたし、それに──」


 ガサゴソ。
 ガサゴソ。
 ビフテキは自分のポケットを漁ると、「じゃじゃ~ん」と言いながら、手のひらいっぱいの宝石を取り出した。


「今回の報酬として、サンテティエンヌ家から金目の物をくすねてきましたので」


 ブルーデンツはそれを見ると、ニヤリと笑い、同様に大量の貴金属類を懐から取り出した。


「ま、師弟ともに考えることは一緒ってわけか」

「ですね。最悪な教育・・・・・が行き届いているようです……でも、そのうち追い越しちゃいますけど」

「アホ。自惚れんな。おまえはまだまだ、俺の足元にも及ばねえよ。それに、俺が持ってきた金属のほうが重い」

「はっ、いやいや、バカですか。これの価値は重さではありません。希少性です。ただいっぱいあればいいってワケでもないんですよ。師匠」

「けっ、おまえに何がわかる」

「ふふーん、それについては師匠よりはわかってるつもりですから。教えてあげましょうか? 懇切丁寧に」

「いらねえよ」

「あ、ちなみにそれ、全部の値段を足しても、私がくすねてきたうちの、このイヤリングひとつの値段の足元にも及びませんので」

「ま、マジかよ……」

「ふふ、これでわかりましたね。師匠にはまだまだ私が必要だって。せいぜい損をしたくなければ、これからも私を頼る事ですね」

「……ああ、これからもよろしくな、ビフテキ」

「──なあッ!? 額面通りに受け取んなっての! 今のは皮肉! 皮肉だからな!」

「いや、まあ……俺のも皮肉のつもりだったんだけど……」

「ぐぬっ……!? し、知ってます! 騙されてあげただけだから!」

「──あ、あのぅ……」


 ふたりが言い争っているところに、おだんごがやってくると、地面に落ちていたキングエメラルドの指輪を遠慮がちに拾い上げた。ふたりはそんな事など気にも留めず、おだんごへ挨拶をする。


「ありがとな、おだんごちゃん。色々と助かったよ」

「私からも、ありがとうございました、おだんごさん!」

「……え~と、それはいいのですがぁ……おふたりさん、この国で勝手にキングエメラルドの指輪を壊すのは犯罪だって知ってましたかぁ?」

「……え?」


 ブルーデンツとビフテキ。二人の声が同じタイミングで重なる。


「軽くて懲役刑……最悪の場合、死刑が言い渡されるのですがぁ……あっ!」


 ふたりはおだんごが言い終える前に、その場から走って逃げてしまった。


「ごめんなさーい! おだんごさーん!」

「俺たちはもう消えるから、適当に処分しておいてー!」

「ちょ、ちょっと~! おふたりさぁ~ん!」


 ──こうして、牛豚コンビは散々ファゴットの国に迷惑をかけると、そのまま、素知らぬ顔で国外へと逃亡した。これより数年後、また別の国で牛豚コンビの姿が確認されたのだが、それはまた別のお話──

────────────────
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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