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魔法少女誕生
シュバっと☆スペシャル・アサルト・魔法少女・チーム
しおりを挟む「助けてくださーい。あの手錠みたいにねじ切られて死んでしまいまーす」
目の前の九六間さんが間の抜けた声を上げる。ひとかけらの感情もこもっていない、相変わらず平坦な声で。
なんだ、何をやっているんだ。この変態眼鏡は。これ、まずくないか?こんなところを看守の人に見られたらヤバいんじゃ……。
「……さて、どうしましょうか鈴木さん」
混乱している私が、現状を理解しようとするよりも早く、九六間さんが身を乗り出してくる。
「ど、どうしましょうって……え? 何やってんですか? どういうつもりなんですか……」
「このままだと、あと数秒で看守が貴女の身柄を拘束するためにやってくるでしょう。そうしたら完全に貴女の逃げ道はなくなります。殺人に脱走未遂となれば、もう言い逃れは出来なくなる。……ですので、手短に申し上げます。魔法少女になってください。もはやそれ以外、あなたに残された選択肢はありません」
「あ! おま、た、謀ったな!?」
今頃になって現状を理解した私は、芝居がかった言い回しで九六間さんに詰め寄った。
「はい。緊急事態でしたので、急ぎ謀らせていただきました」
まさか、こんな丁寧な口調ではめられるとは夢にも思わなかった。手口こそ卑劣で杜撰でどうしようもないけど、ここまでやられたら逆に反抗する気も失せてしまう。事実、こうやっていつ看守が来るかわからない状態で、思考時間を限定されるのはかなり精神的に堪える。
それに──
「ちょっと待ってください、緊急事態……? 緊急事態ってなんですか?」
「……〝インベーダー〟が現れました。ちなみにインベーダーとは──」
「知ってます。なんか、魔物みたいなやつなんですよね……」
「ご存知でしたか」
「はい、それも看守の人から何となくは聞いていたので……というか、変な話ですけど、いま手錠を破壊したとき、あの夜の事も思い出しました。私、あの二人を……指名手配犯を……その……殺害してしまったんですね……」
今になって失われていた罪悪感……というか後悔が、津波のように私の心を呑み込んでいく。たとえその相手が、何人もの女性を殺害して、その尊厳を踏み躙っている凶悪な強姦殺人犯だとしても。〝人を殺してしまった〟という事実が、現実が重すぎる。
「なるほど。まさか力の解放が記憶を呼び戻すトリガーだったとは……。迂闊でした」
「そのまま、何も知らない私を騙して利用つもりだったんですか」
「はい」
「臆面もなくそんな事を……」
「とはいえ、貴女が二人を殺害したのは事実です」
「それは……まあ、そもそも……、というかあれは正当防衛で……」
「睾丸破裂に内臓破裂、頭部の損壊と、これは過剰防衛では?」
「うう……」
「この国では、どのような凶悪な犯罪者にも、個人で私刑を加える行為は禁じられています。それは犯罪であり、唾棄すべき殺人者と何ら変わらない行為です。……ただ、どのみち、あの二人には遅かれ早かれ相応の罰が下されたのも事実。実際、世論ではあの二人を殺害した正義のヒーローとして、貴女を支持する者も多い」
「え、もしかして実名報道とかされてるんですか?」
「いえ、今のところは、そのような事はありません」
「い、今のところは、ですか……」
「はい、だからこその取引です」
「取引……でも、魔法少女になる事と私がここから出られることに、どういう関係があるんですか?」
「申し上げるのが遅れてしまいましたが、魔法少女とは役職の名称。現在、この国において魔法少女とは、国家が保有する対インベーダーの殲滅を行う実力組織の総称です」
「えっと……」
「簡単に言うと、魔法少女は警察のような位置づけにあります」
「……はい?」
何を言っているんだ、この人は。魔法少女が今は警察……?
「もし鈴木さんがここで首を縦に振り、魔法少女になっていただけるというのであれば、貴女が行った行為はすべて遡及的に公的なものになり、先の殺人や、今の脱走未遂もこちらのほうで完全になかった事に……は出来ませんが、それなりに穏便な処理をする事が可能です」
「あー……と、すみません、ちょっと確認していいですか」
「はい」
「今のを要約すると、『これまでの事を全部揉み消してやるから、魔法少女になれ』という事ですよね……?」
「話が早くて助かります」
「いや、せめて、もうちょっと柔らかい表現に言い直しましょうよ……」
「時間がありません。ご決断を」
コツコツ。コツコツ。
私の背後から、革靴が床を叩く音が近づいてくる。
ぐるぐる。ぐるぐる。
頭は回らず、目だけが回る。思考が空回る。
本当に、このまま魔法少女になるしかないのだろうか。……でも、他にも何か裏がありそうだし。とはいって、何を質問すべきか、すぐに思いつかない。
でも、とにかく、なにか質問しておかないと。
「えっと、えとえと……お、お給料は出ますか!?」
「業務の内容から鑑みて……、月の手取り最低五十は保証されるかと」
「ご、ごじゅ……!? って、万!?」
「イエス」
「ま、マジで!? ハイハイ! なります! 魔法少女!」
即答だった。
──ガチャ。
私の背後の扉が開き、看守の人が部屋に入ってくる。
「どうしました? なにかひねるとか、ひねらないとか聞こえてきたのですが……」
「ああ、それは僕です。急に持病の腹痛が発症してしまいまして。どうも、ご迷惑をおかけいたしました」
「そうですか。それはよかったですね」
「──いや、よかねえだろ!?」
「……おや?」
部屋から出て行こうとした看守さんが、私の手元を見て足を止める。
やばい。
なに全力でツッコんでるんだ、私。手錠、壊れたままだぞ。
──ササ。
私は咄嗟に、手錠を後ろへ隠して誤魔化した。
「あ」
見られた。絶対見られた。私の手。
ダメだ。どうしよう。せっかくここから出られそうだったのに。
「──ちょっとちょっと、手錠壊れてるじゃないですか~。勘弁してくださいよ~、九六間さ~ん」
看守さんは「まいったな~」と小さく呟くと、半笑いのまま部屋から出て行った。
あれ?
看守さんの反応が思っていたよりも薄い。というか、もっといろいろ厳しく詰問されたり、罰せられると思っていたのに……。
な~んだ。案外ユルいものなんだな~。
「……て、そんなわけないでしょうが! なんなんですか、コレ!?」
「〝なに〟とは?」
「お知り合いなんですよね? さっきの看守さんと」
「いいえ?」
「いや、〝九六間さん〟って名前で呼ばれてたじゃないです……あっ! さっき魔法少女は、警察みたいな組織って言ってましたよね、もしかして……!」
「バレてしまいましたか」
「バレますよ! もうすでに私が魔法少女になる事が決まってたんですね? その上でこんな……演技までして……!」
「まさか鈴木さんが、あそこまでツッコミに情熱を傾けている方だとは思っていなかっただけです」
「べつに私だって、ツッコミが好きでツッコんでるわけじゃないんですよ! みんな好き勝手ボケるから、私が片づけてあげてるんですよ! ……って! そんな事、今関係ないです! なんで私が悪いみたいに……せめて、もっと悪びれてください! 悩んだ私がバカみたいじゃないですか!」
「申し訳ありません。ですが、最初に言ったはずです。僕の目的は貴女をここから出す事だと」
「じゃあ、なんでこんな回りくどい事を……」
「貴女の意思を固めるのが目的です」
「私の意思……ですか?」
「はい。魔法少女という職業は、誰かに指示されるがまま、ふわふわとした気分のまま務まるような楽な仕事ではありません。鈴木さんには緊張感を持って任務にあたって戴きたかった為、こういった手段を取らせていただきました」
「じゃあこの手錠も、その演出の一環だったんですか?」
「……そのことについてはお詫び申し上げます。サーセン」
「いや、せめてもうちょっと誠意を……て、え? そんなに危険なんですか……魔法少女って?」
「魔法少女の相手は、一度人類を滅ぼそうとしたインベーダーです。決して楽の業務とは言えないでしょう。最悪の場合、命を落としてしまうなんてことも……」
「うええ!? そんなの聞いてな……じ、じゃあ、もうやめま──」
『ま、マジで!? ハイハイ! なります! 魔法少女!』
面会室にバカみたいにテンションの高い声が響く。というか私の声だった。
見ると、九六間さんがスマートフォンを掲げていた。
「ろ、録音……してたんですか……」
「大事な言質ですので」
「ひ、卑怯者!」
「なんとでも」
「バカ! アホ! マヌケ! 人間のクズ!」
「小学生ですか貴女は……」
「……ちなみに、もしそれを反故にした場合は……?」
「ご想像にお任せします。──が、その相手が我々国家であることをお忘れなく……」
想像出来ないし、想像したくもない。
言ってしまった以上、取り下げることも出来ない。九六間さんが〝警察のような組織〟と言った時、なんでこうなる事を予測できなかったんだろう。相変わらず、自分の危機管理能力のなさが恨めしい。
「……わかりました。なってやりますよ、魔法少女にでもマスカットにでも」
「鈴木さんになっていただくのは魔法少女です。マスカットは僕の仕事です」
ツッコみません。勝手にボケてればいい。
「それで、今、緊急事態なんですよね? インベーダーが出たとかって……」
「はい。魔法少女が担当するのは、ほとんどがインベーダー絡みのものになります。インベーダーとは文字通り侵略者の意。その侵略者の掃討、討伐を行う部隊が僕たち〝スペシャル・アサルト・魔法少女・チーム〟。略して〝S.A.M.T〟となります」
「うっわあ……。なんか変な固有名詞出てきた……」
「というわけで鈴木さん、緊急応援要請です。豊永市に現れたインベーダーの討伐に向かってください」
「え? イキナリ、私?」
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