現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

文字の大きさ
11 / 61
魔法少女誕生

やばくない?☆紅の空

しおりを挟む

〝恐怖心〟というものが私の中で薄れてきている気がする。
 それが一体いつからなのかはハッキリとわからないけど、あの夜──あの暴漢二人組に襲われた時はまだあった。あの時の私は、目の前にいる得体のしれない男二人に恐怖してたし、ナイフに恐怖してたし、痛みに恐怖してたし、動かなくなっていく体に恐怖してた。
 しかし、今はどうだろう。
 私は今から、人類の脅威と呼ばれている侵略者インベーダーなるモノと戦おうとしている。
 これは、それらとは比べ物にならないくらい、怖い事柄……つまり、恐怖心を抱くべき・・事柄なのではないだろうか。

 たしかに魔法少女という立場からくる強い責任感で、恐怖心を塗りつぶしている節はあるが、それを抜きにしても、果たして私はこの状況を怖いと思っていたのだろうか。
 私という個の喪失。自意識の消滅。生命が無へと還る。

 ──言い方を変えても抱く感情は変わらない。
 あえて言うなら凪。凪なのだ。
 風も吹かず、波も立たず。ただ海上をプカプカと浮いているような心持ち。
 これは未だインベーダーの姿形を見たことがない、無知からくる余裕の表れか、はたまた〝力〟を手に入れた驕りからくる万能感か……。
 もしくは、この世界を現実だと受け入れてないのか……。


「空、いなぁ……」


 私はため息ついでに、言葉も吐いた。
 豊永南小学校。そのグラウンド。私はそこで、ポツンとひとり佇んでいた。マスコット玄間は今、どこかに身を隠しているらしい。


『ザザ……ザー……もしもし、聞こえて……ザー……るきゃと……か?』


 不快な雑音ノイズと、途切れ途切れに発せられる男の声が、私の鼓膜を勝手に揺らす。
 玄間から渡され、言われるがまま耳につけた小型のインカムだ。耳に引っかける形でくっついていて、軽く頭を揺らしてもずれない。


『聞こえてザー……たら……ザザザ……左手をゆっくりと……挙げ……きゃと……』


 私はマスコットに言われた通り、左手をゆっくりと挙げた。
 それにしてもすごいノイズ。さっき別れたばかりだから、そこまで離れたところに隠れていないと思うんだけど……安物なのだろうか。こういう所にはあまりお金はかけないのかな。


「……あの、これインカムだからこっちの声も聞こえてるはずですよね。わざわざ手を挙げる必要なかったんじゃ……」

『きゃときゃときゃときゃと(笑)。お恥ずかしい。映画で見て、一度このやりとりをやってみたかったんだきゃと』

「めんどくさっ。そもそもなんで私に……他の魔法少女さんたちとも組んでお仕事してたんですよね? ならもう十分じゃないですか」

『みんなブロッサムみたいにノリが良くなかったんだきゃと……こんな事しても大抵は無視されるか、罵られるだけだったのきゃと』

「なんて殺伐とした魔法少女たちなんだ……て、アレ? いまこの会話にノイズは入ってないですね? また場所を移動したんですか?」

『ザザザー……あとで……ザー……また連絡入れる……きゃと……』


 ブツ──
 一方的に通信を切られた。インカムを取り外して色々といじってみるが、こちらからは通信できないみたいだ。


「はぁ……」


 ため息をつき、インカムを耳にかける。
 たぶん……いや、好意的に解釈すると、私の緊張をほぐそうとしてくれたんだろうけど、これ、普通に考えて大事な戦闘の前にする会話じゃないよね。

 それにしてもあのマスコット玄間、キャラが変わり過ぎじゃないだろうか。案外、あの鉄面皮の素の性格はこんな感じだったり……はないか。あの男が笑っている姿なんて想像が出来ない。だとすれば、あれも仕事のために作っている仮人格みたいなものなのかな。
 そこまでする必要があるのかどうかは甚だ疑問だけど、あそこまで性格を切り替えられるってすごいな。精神への負担が凄そう。
 そういう事を考えると、やっぱりお金を稼ぐって大変なんだなって思いました。……あれ? 日記?

 ──ふと、私はもう一度空を仰ぐ。


「……何度見ても赤い」


 あの青い空はどこへやら。まるで透明の水槽の中に、一滴の濃ゆい赤絵具を垂らして二、三回ゆっくりかき混ぜたようだ。

 この赤い空はインベーダーが出現するとこうなる・・・・とのことらしい。どうしてこうなるのか、何が原因なのかはわかっていない。
 あの日、世界が滅びかけた日からずっとこうなんだとか。日常生活や作物なんかには影響がないとは言われてるけど、やっぱりこういう色の空を見せられると気が滅入ってしまうとかいうか、精神衛生上よろしくないのだろう、犯罪率もかなり上がってきているらしい。
 だからその分、警察に人たちも大変なようで、私がさっきまで居たあの留置場の看守も、今は別部署からの要請で外に駆り出されているらしい。ただでさえインベーダーやら、世界崩壊するやらしないやらで忙しいというのに、こうやって秩序を守ってくれている警察には頭が上がらない。……まあ、私もその警察みたいなものらしいから、これからは馬車馬の如く働かさせるんだろうけど……。


『ザザ……ザー……』


 再びインカムから雑音ノイズが聞こえてくる。


『……キューティブロッサム……キューティブロッサム、応答せよ。聞こえて……きゃとか……』

「もうその小芝居いいですって」

『あ、そう? じゃあ普通にするきゃと』

「できればそのうざったい口調もやめて……くれないんですよね。はぁ……、なんでもないです。それで? 今度は何の用なんですか?」

『もうすぐそちらにインベーダーが到着するみたいきゃと。準備はいいきゃとか?』

「準備って言われても、初めてだからどう準備していいかなんとも……でも、今回現れるのってそこまで強敵じゃないんですよね?」

『強敵きゃと』

「はい? 話が違いませんか?」

『心配ないきゃと。強敵ではあるきゃとが、戦ったりはしないと思うきゃと』

「どういう事ですか?」

『今そこに向かっているのは、下位インベーダーたちに命令を下している、上位インベーダー……魔法少女ぽく言うと、悪の幹部みたいな感じの敵きゃと』

「幹部!? 魔法少女になって早々、いきなり過ぎませんか!?」

『だから心配ないきゃと。たぶん戦闘にはならないきゃとから』

「戦闘にならない……くらい強いんですか?」

『そういう意味じゃないきゃと。これはあとで説明しようと思ってたんきゃとが、もうすでに我々人類は、インベーダーの侵略を阻止しているんきゃと。例えは悪いきゃとが、戦争で言えば戦勝国。インベーダー側が敗戦国。現在も時々現れて悪い事をしているのはインベーダー側の残党きゃと。ちなみに今の魔法少女の仕事は、主にこれきゃと』

「なるほど。ということは、今回現れたその幹部っていうのも残党なんですよね。……あれ? だったらその幹部はなんのために……?」

『それが……わからないんきゃと』

「わからない……?」

『今回現れたインベーダーの名称は〝ミス・ストレンジ・シィムレス〟。生物学的には雌。人語を解し、コミュニケーションをとることは可能。幹部の中では圧倒的な戦闘力を誇り、数多の魔法少女たちを手にかけてきた上位インベーダー』

「ヤバいヤツじゃないですか」

『──なのきゃとが、ミス・ストレンジ・シィムレスがこれまでに殺害した人間、および魔法少女はゼロ。死傷者や重傷者も出していないきゃと。それらの理由から否殺コロサズのインベーダーと呼ばれているきゃと。要するに、ちょっかいをかけてきて、満足したら勝手に帰る感じのインベーダーきゃと』

「なんてはた迷惑なインベーダーなんですか」

『まあ、迷惑極まりないインベーダーきゃとが、他の無差別に人間を殺めるインベーダーと比べると断然無害きゃと。だからこそ、新人であるキューティブロッサムに白羽の矢が立ったのきゃと。死傷される心配も、殺される心配もない分、思う存分経験を積むことが出来るきゃと。初戦だし、せいぜい胸を借りるきゃと』

「インベーダーに胸を借りるってのも変な話で──」

「──オーッホッホッホ!!」


 甲高い女性の声がグラウンドに響く。
 見ると、私と同じくらいの身長の女性が、口に手を当て、フィクションでしか聞いたことの無いような高笑いをあげていた。


「貴女が今回、あたくしと遊んでくださる魔法少女ね?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...