22 / 61
サクラの昔話
ちょびっと☆昔話
しおりを挟む「──ええっ!? アネさん不良止めたんスか!?」
ツカサが目を丸くしながら、大声を上げながら、手に持っていた未開封の缶を握りつぶした。噴水のように撒布された100%オレンジ果汁が、ツカサの部屋のカーペットを汚していく。
「ちょ、ちょっとちょっと、何やってんの! 果汁! 染みてってるから!」
「ああ! す、すんません! 雑巾持ってくるっス!」
ツカサは慌てて立ち上がると、バタバタと足音を立てながら部屋を出ていった。
出所(?)したばかりで、ハンカチやティッシュといった、気の利いたものなど持っている筈もなく──私はただジュースが染みていくカーペットを見ながら、ツカサの家に来る途中購入した、ワンカップに口をつけた。
「ふう」
と一息。
戦闘で疲弊した体に清酒が染みる。……まあカーペットは最悪の場合、家でも洗濯可能な大きさだから、大丈夫でしょう。
それにしても、この話をツカサに話したらどうなるか、色々とツカサの反応は予測していたけど、まさかここまで驚くとは思ってなかった。
でもま、ツカサにとってそれくらい、私が不良を止めるという事が驚きだったということだろう。事実、あの時の私は、今の私が見たら思わず目を逸らして、極力関わり合いになりたくないくらい、ガラが悪かった……というか、ギラギラしてたと思う。女の子って光ってるもの好きだから、そういうのに引き寄せられるのもわからなくはないけど……だからって、不良に引き寄せられなくてもなくてよかったのに。
──バタバタバタ。
雑巾を取りに行っていたツカサが戻ってきた。手には白い雑巾を、そして頭には大きなたんこぶが出来ていた。
「アネさん! 雑巾とってきました!」
「ああ、うん。頭大丈夫?」
「ええっ!? なんなんスかいきなり! ひどいっスよー!」
「あ、ごめんごめん、そういう意味じゃなくてほら、なんかたんこぶ出来てない?」
「びっくりした……そういう意味だったんスね。えっと、これっスよね? えへへ、母ちゃんに静かにしろって殴られました」
「そりゃあんだけ騒いでたら怒られるよね……。でも、ツカサのお母さん元気そうでよかったよ」
「はい。ウチの母ちゃんも久しぶりにアネさんに会えてうれしいって言ってました」
ツカサはそれだけ言うと、跪いて雑巾で丁寧にジュースを吸い取っていった。
「話変わるけどさ、ツカサの部屋って……普通に女の子の部屋だよね」
なんというか、もっとチェーンやら鎖やら、環状の金属が連続して繋がっている物体やらでジャラジャラと飾り付けているイメージがあったけど、実際は可愛らしい花が飾ってあったり、カーテンやベッドの色がピンクだったりと、ツカサの見た目からは想像できないくらい、年相応な、まさに女の子な部屋だった。
「え、どういう意味っスか?」
「いや、なんていうか。……可愛い部屋だなって」
「ああ、家引っ越したばっかだから、あんまり物置いてないんスよね」
「へえ、また引っ越したんだ?」
「はいっス。いままでは母ちゃんの実家のほうで世話ンなってたんスけど、ウチが魔法少女になって生活も安定してきたから、こっちに引っ越して来たんスよ。たまにじいちゃんばあちゃんも遊びに来るっスよ」
「そうなんだ。仲いいんだね」
「家族っスからね……。ところで、ほんと驚いちゃったっスよ」
「何が?」
「アネさんが不良止めた事っス」
「それ、真面目に言ってる? さすがにこの歳で不良はないでしょ」
「不良やってなくても、アネさんくらいのお人ならギャングのボスや、極道の組長とかやってるって思ってました」
「いや、この国にギャングなんてないし、ヤクザなんてとてもとても……。たしかに不良やってて楽しい事もあったけど、それ以上に危険な事もあったし、あんまり両親に迷惑かけ続けるのもよくなかったしで……泣く泣くって感じかな……」
「はぁー……後ろ髪を引かれる思いで、とかいうやつっスね」
「そうだね」
──嘘です。
こんなもっともらしい事を言ってはいるものの、実は全くの口から出まかせで──
◇
花も恥じらう高生三年生の私は、片田舎にある寂れた学校校舎の屋上で、ひたすらに暇を持て余していた。というのも、いつもつるんでいたお友達は勉学に勤しんだり、就職活動に励んだり、恋にうつつを抜かしたりと、私ひとりだけが特にやる事もなく日々を消費していたからだ。
喧嘩をするにしても、私の生活圏内にいる不良は男女問わず誰も私には逆らわず、誰も私と目すら合わそうとしない。たまに活きの良い新入生やら転校生やらが私を訪ねて来てくれるのだが、十中八九、私の所に辿り着くよりも前に、私の舎弟の誰かにのされてしまう。
喧嘩喧嘩また喧嘩。
中学から高校まで、殴って殴られての繰り返しで、その先にあったのは虚無だった。
一昔前の日本ならまだしも、時はすでに丙政。
戦国時代よろしく、天下統一やら誰が強くて誰が弱いかやら、そもそも流行っていないのだ。
女子高生なら女子高生らしく、流行りのポップスを聞いたり、可愛らしくお化粧したり、パフェ食ったりクレープ食ったりパフェ食ったり、カラオケ行ったり、もっかいパフェでも食ってたらよかったのだ。
さすがにこのままじゃ色々とヤバいんじゃないか、と思い、ためしに舎弟たちと甘いものを食いに行ったものの──
『うっわ、あンま!? こんなんどこが美味いンすかね(笑)』
『甘ったるくてとても俺(あたし)らには食えたモンじゃないっす(笑)』
『好んで食ってる連中の気が知れねッす(笑)』
等々、半笑いでつれない反応を見せられてしまい、今度は頑張って慣れない化粧をしようにも──
『アネさん、どっかにカチコミ行ったんすか!?』
『その顔、誰にやられたんスか!?』
『お礼参りに行きやしょう!』
と色々と心配される始末。私には、もはや普通の女子高生の趣味を楽しむには遅すぎたのだ。
そんなある日、私は登校中に仲の良かった同級生の友達が、男と仲良く登校しているのを見て、キレてしまったのだ。
いや、べつにキレたからといって暴力に訴えたとか、さすがにそんな事はしないけど、なぜか私は半分自暴自棄に陥り、隣町のさらに隣の隣の隣の……隣まで半狂乱になりながら自転車を走らせた。
ここではないどこかへ。
その気持ちのみで、ひたすらにペダルを漕いで漕いで漕ぎまくった。しょぼい原付なんかよりは全然スピードは出ていたと思う。
そして辿り着いたのは、輝くネオンに電光掲示板、けたたましく鳴り響く街頭ビジョン広告に、鬱陶しい客引きが跋扈する夜の繁華街だった。ウシガエルの声と、盛りついた野良猫の声が鳴り響く田舎とは、まさに天と地の差。
私は心を落ち着かせるために、とりあえず手近にあった地元にもあるコンビニで、いつもの食ってる肉まんを購入した。
『うめぇ……!』
私はその時、そうこぼした記憶がある。
都会の真ん中で食べるモフモフホカホカの肉まんは、なぜかいつも田舎で食べていた肉まんよりも美味しく感じたのだ。材料も製造元も一緒なはずなのに。
これが都会という名の調味料の味か。
そんな単純馬鹿な私が、繁華街の大通りを歩きながら、コンビニの肉まんに舌鼓を打っていると、突然男性から声をかけられた。
『──ねえキミキミ、ひとり? 可愛いね、どこから来たの?』
0
あなたにおすすめの小説
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる