現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

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魔法少女派遣会社

ヒ・ミ・ツ☆花言葉

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「ず……ず……」

「ず?」

「ずるい! ずるいってツカサ! ずるいよ、花なんか撒き散らして、華麗に戦うんでしょ?」

「華麗に……かどうかはよくわかンないっスけど、アネさんみたく、懐に潜ってインファイト! みたいなカッコイイ感じじゃなくて、中距離からちまちまと攻撃してインベーダーの体力を削ったりダメージを与えたり、みたいな戦い方が主っスかね」

「いぃ~なぁ~! 私もそっちがよかった!」

「……え? その……ウチに幻滅しないんスか?」

「な、なんで幻滅するの!?」

「いや、なんというかその……〝かわい子ぶってんじゃねえよ〟とか〝日和ってんじゃねえよ〟みたいな事は言われるんじゃないかなって、覚悟してたんで……」

「言うワケないじゃん! てかそれ、逆にツカサが、どういう風に私を見てるのか気になるわ! 鬼じゃないんだから! ……そもそも、たぶんそれ、高校時代の私でも言わないよ」

「じゃ、じゃあべつに……ウチの事は嫌いになってないんスか?」

「私がツカサの事を嫌いに? ……ないない! あるわけないって」

「す、すみません……、でも、ありがとうございます!」

「そこでお礼を言われるのもなんか変な感じだけど……、まあ、よく考えたら確かに意外だったかな。ツカサが花って」

「そ……そっスよね……」


 ツカサは肩を落とすと、手元に視線を落とした。喜んだり悲しんだり、感情表現が豊かでかわいいけど、結構面倒くさいな、この子。慎重に言葉を選んでいかないと、すぐに落ち込ませちゃいそう。


「いやいや、意外っていっても変な意味じゃなくてさ、仮にもツカサってば、ここら辺の張ってるワケでしょ?」

「は、はい」

「そんなの子の頭の中っていうか、深層心理に〝花〟があったなんて、ちょっと可愛い所もあるんだなって思っただけ。技自体はすごく素敵な事だと思うよ。なんていうか、すごく魔法少女ぽいしね」

「そ、そうだったんスね……」


 私がそう言うと、ツカサはホッと胸をなでおろしてくれた。
 よかった。なんとか傷つけずに伝えられたみたいだ。……けど、あんまりさっきと言ってる内容変わってないけど、こんな感じのフォローでよかったのかな?
 でも、今はそれよりも──


「──ねえねえ、じゃあさ、ツカサって花が好きなんだ?」

「は、はい! 大好きっス! 花!」


 これまた意外な反応。
 てっきり恥ずかしがるか、否定するかと思ってたのに、まっすぐ『好き』と言ってきた。私に肯定されたことで余裕が出てきたのか、ともかくツカサは私が思っている以上に〝花〟が好きなようだ。


「……あ、そうだアネさん、あの花覚えてますか?」

「あの花って……」


 ツカサが部屋の隅、ベッドの横にある小さな棚の上に飾ってある花を指さした。そこまで花自体を意識してなかったけど、あれは紫色の……チューリップだろうか。生憎、私は花は嫌いではないけど、花についてあまり詳しいタイプでもない。だから断定はできないけど……あの花の形、小学生の頃に育てたことがあるような……ないような……名前は確か……。


「ちゅ、チューリップ……だよね?」

「そっス!」


 よかった。どうやら合ってたみたいだ。
 ツカサは嬉しそうに頷くと、チューリップを花瓶ごと花を持ってきて、ワンカップだらけの机の上へ置いた。
 見れば見るほど、素人目にもよく手入れされているのがわかる。花弁の艶が違うし、何より茎や葉が瑞々しい。

 でも、なんていうか、こう……空のワンカップに囲まれているチューリップってシュールだな……。


「ふんふん」


 そして、ツカサは何かを期待するような鼻息で、視線で、私を見つめてきている。たぶん、さっき〝あの花覚えてますか〟と訊いてきたから、それについての事なのだろうが──ごめん。
 このチューリップについては何も覚えてないんだ。
 私とツカサの間に、このチューリップが関係してくる、何かしらの出来事があったのだろう。そして、その出来事があったからこそ、おそらくツカサは花を好きになったのだろう。……けど、さっぱりわからん。
 とはいえ、ここで〝すまん、オラにはさっぱりわかんねえや〟とか言ってしまえば、ツカサはまた落ち込んでしまうかもしれない。
 だから考えるんだ。たとえわからなくても。
 ツカサがわざわざ〝あの花を覚えているか〟と訊いてくるという事は、だ。それはつまり──


「私が……ツカサにあげた……んだよね?」

「あ、やっぱり! 覚えててくれたんスね! さっすがアネさん!」


 パァッと、ツカサの表情が明るくなる。
 今まで見たツカサの笑顔の中で一番の笑顔。そんなに喜んでくれると私も嬉しい……けど、ごめんツカサ。適当に言っただけなんだ。私、覚えてないんだ。何もかも。もういっそのこと、ぶん殴ってほしい。

 でも、私ってばツカサに花を送ってたんだ……。それもチューリップを。
 どんな意図があったんだろう。記憶にないからさっぱりだ。


「このチューリップは、ウチが引っ越す時、アネさんと離れるのがイヤでイヤで、泣きじゃくって、駄々こねて、アネさんのご家族にまで迷惑かけて……そんなどうしようもなくガキだったウチにくれた花っス!」

「あ、あ~……あの時のね。うん。覚えてるとも」

「……まあ、正確にはあの時の花じゃくて……」

「え!? そ、そうなの!?」


 まさかのフェイントに、思わず声が裏返る。


「す、すんません、さすがにどんな花も十年もの間、綺麗なままってわけにもいかないんで……あっ! でも、あの時いただいたチューリップは捨てずに、いまも大事に押し花にして持ってるんスよ?」

「ああ、なんだそういう意味か……でも、べつにそこまでしなくてよかったのに」

「と、とんでもない! アネさんから頂いたチューリップこそが、ウチにとっての一番の宝物なんスから! ……花言葉は〝気高さ〟と〝王者の風〟『どんな時でも気高くあれ。胸を張って生きろ。簡単に涙を見せるな』という言葉を、アネさんはどうしようもなかったウチに送ってくれたんス。あの時のアネさんの言葉があったから、ウチは今日まで頑張ってこれたんス!」


 ナイス解説。
 こうやって、改めてツカサの口から聞けて、なんとなく当時の事を思い出してきた。ツカサみたいに、まるで昨日の事のように鮮明には思い出せないけど、たしかに私は泣きじゃくる男の子ツカサに向けて、そう言った記憶がある。

 その時はたしか、ツカサがなかなか泣き止んでくれなくて、慌ててそこら辺にあった花を引っこ抜いて渡したんだと思う。花言葉も適当で、その場の雰囲気に合わせて言っただけじゃなかったかな。
 でも、その口から出まかせも間違ってなかったみたいだ。
 なんたるミラクル。
 それにしても懐かしい。ツカサはあの時から……あの時から……うん、やっぱり男の子にしか見えなかった。


「そっからなんス。ウチが花を好きになれたのって」

「あ、そういえば玄間さんが言ってたけど、花を使う魔法少女はフラワーショップで働いてたんだって。それ、ツカサの事なんでしょ?」

「……あのダ眼鏡、アネさんにそんなことまで言ったんスか?」

「あ、あんまり知られたくなかった?」

「いえ、そんな事はないんスけど、番張ってるヤツがこそこそバイトしてるのって、なんか軟派な感じがして……」

「えー? そんな事ないと思うけどね。でも、軟派だなんだって言っても、そこでバイトしてたのって、お花が好きだったからだよね?」

「あ、はい。それもあるんスけど……、アネさんも知っての通り、ウチはいきなり母子家庭になったんで、せめて自分で使える分は自分で稼ごうかなって。それで、趣味と両立できる花屋にしたってだけっス」

「ええ子や……」

「ちょ……え? アネさん、泣いてるんスか!?」


 さっきから聞いてると……なんていい子なんだ。
 この子、本当に不良なのか?
 大人として、年上として、元不良として、今すぐ不良なんて、止めさせたほうがいいんじゃないか?


「な、泣いてないよ。今だけは目から日本酒が出せる魔法少女になっただけだよ」

「いまいち言ってることはわかんねっスけど、さすがアネさんっス!」

「うんうん。私の事はいいから、続けて。もっとそういうお話聞きたいし」

「よろこんで! ……えっと、それで花屋でバイトして、大変なことも勿論あったっスけど、勉強する事もいっぱいあったっていうか……」

「どんなこと勉強したの?」

「そっスね……花の綺麗な見せ方とか、ラッピングの方法とか……あとは、店長がすごく花言葉に詳しくて、同じ花でも国によって意味が違ってたり……あ、そうだ。アネさん!」

「なに?」

「アネさんが送ってくれたあの紫色のチューリップ、じつはまだ、別の花言葉があるって知ってたっスか?」

「さっきツカサが言ってた、気高さとか、王者の風の他にもまだ花言葉があるって事?」

「はいっス。気高さや王者の風は外国……西洋のほうの花言葉なんス。日本だとまた意味が違ってくるんスけど……ご存知っスか?」


 ツカサが何か期待するような目で見てくる。
 なんだろう。
 考えてもわからないけど、こうやってクイズみたいな感じで質問してくるって事は、それなりに当てやすい言葉なはず。じゃあ──


「友情……とか?」

「……あー……えっと、せ、正解っス! さっすがアネさん!」

「怪しい。ほんとに合ってるの、それ? なんかツカサの反応、微妙じゃない?」

「す、すんません! ほんとはウチ、ど忘れしちゃって……。正解を知らないまま質問しちゃったっス」

「なにそれ~、ダメじゃん」

「あはは……す、すんません。……と、ところで、あの……ずっと訊こう訊こうって思ってたんスけど……」

「ん? どうしたの改まって。何でも訊いてくれていいけど」

「その、ちょっと込み入った話になってくるんス」

「ええ~? なに? 怖い話? 止めてよ~、私そういうのあんまり得意じゃないからさ」


 私が茶化すように言うと、ツカサは「では、遠慮なく……」と一拍置いて、真面目な口調で返してきた。


「アネさんって、どうやって死んだ・・・・・・・・んスか?」
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