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魔法少女派遣会社
またまた☆インベーダー襲来
しおりを挟む「──ただいま戻りました」
クロマさんが透明のクリアファイルを片手に、忙しそうに事務所にやってきた。
「どうでした?」
私がクロマさんに尋ねる。
〝どうでした〟というのは、私の部屋、つまり家について。
現在、私の家は変なインベーダーに占拠されているため、適当な理由をでっちあげて、クロマさんに私の新しい住居を探してもらっていたのだ。
そして、その第一候補が──
「もちろん、オーケーでした。今日からでも、すぐに移住することが出来ます」
「ははは……まあ、移住も何も、私の手元に大した荷物もないんですけどね……」
私がかるく自虐を織り交ぜながら笑うと、クロマさんは特に何も言わず、私にクリアファイルを手渡してきた。
私はそのファイルを手に取ると、中に入っている書類を、ファイルの上から確認した。
〝S.A.M.T.特別寮〟
と、書類の上部に大きく印字されてある。
そう。私はこれから、あの〝物恐礼荘〟とかいうけったいなアパートを出て、この組織が保有している寮へと引っ越すのだ。所謂、社宅である。広さの割に、家賃がかな~りお得なので、二つ返事でお願いした。
「ありがとうございます。手続きとか、本人がいなくても大丈夫だったんですか?」
「S.A.M.T.に所属している魔法少女なら無条件で居住することが出来るので、大した手間にはなりませんよ。冷蔵庫と洗濯機にベッド、それにエアコンはすでにございますので、その他の家具はご自身で準備をお願いします」
「デュフフ、これにてキューブロ殿は、拙者と同じ屋根の下という事になりまするな……」
「なんか語弊があるけど、まあ、そういう事かな。……それで、住み心地はどんな感じ?」
「可のなく不可もなく」
「普通なんだね……」
この特別寮に暮らしている人間は大きく分けて2パターンある。
ひとつは私や霧須手さんみたいな魔法少女。ツカサは自分の家があるし、お母さんをひとりにさせたくないから、ここには住んでいないらしい。
「霧須手さんは、親御さんと一緒に住まなくていいの?」
「ああ、拙者はちょっと……今はあんまり家に帰りたくないというか……」
「うん、まあ、ですよねー……」
ちなみに、私と霧須手さん以外にも、あと二人の魔法少女がこの寮に住んでいるらしい。
そして、もうひとつのパターンが、ここ所属の職員さんたちだ。
ここ、〝スペシャル・アサルト・魔法少女・チーム〟はもちろん、魔法少女である私たちと、マスカット(笑)であるクロマさんだけでは成り立っていない。矢面に立つのが、私たちやクロマさんであって、その他の雑務なんかはすべて職員さんがやってくれているのだ。この人たちのお陰で、私たちが魔法少女として活動出来ていると言っても過言ではない、とクロマさんが言っていた。
「そういえば、荷物で思い出したのですが、この時間ですと……もう、すでに鈴木さんの部屋のほうに荷物が運び込まれている時間かと思います。あと、これを……」
クロマさんはそう言って、ポケットから、桜の花弁のストラップがついた鍵を渡してきた。
「えっと、これは……?」
「家の鍵です。鈴木さんの部屋は、鈴木さんのご希望通り、二階にありますので」
「ああ、うん、ありがとうございます……。でも、私が訊きたいのはこの形で……」
「形? キューティブロッサムなので、それにちなんでみたのですが……」
「ちなみに拙者の鍵には、刀のストラップが付いてたでござる」
「なんてセンスだ……。あれ? でも、運び込むも何も、私、荷物は無かったと思うんですけど、何運び込んでるんですか?」
「衣装です」
「……はい?」
「昨日着ていただいた衣装を、十着ほど、ワードローブのほうに」
「わ、ワードローブ? そんなのあるんですか!?」
「はい。四畳ほどの」
「ひ、広……じゃなくて、十着!? なんで十着もあるんですか! いりませんよ! 毎日、月火水木金土日と着ても、三着余りますよ!? 廃品回収に回してください! 全部!」
「スペアなので」
「スペアし過ぎですよ! ボーリングじゃないんですから!」
「デュフフ、〝十だけに〟ってやつですかな? フォカヌポゥw」
「そこまで考えてツッコんでないよ……というか、せめてあのピンクのフリフリはキツイですって……もっと黒い、シックな感じがよかったんですけど」
「無駄です」
「……無駄?」
「もうすでに生産体制に入っていますので、作り直すとなれば、自費ですべて回収することになります。それだけでもおよそ、数十億はくださらないでしょうね」
「どれくらい大量生産してるんですか!? 発注ミスですよ、それ! もはや業者じゃないですか!」
「ああ、もちろん、鈴木さん自身が着るための物でもあるのですが、それとはべつにレプリカも作っているのです」
「レプリカ……ですか? なんのために……」
「魔法少女はショービジネスも兼ねています。全てが全て、鈴木さんのために作ってあるわけではないのです」
「どういうことですか」
「衣装やら小物やらは、ファングッズとしても売り出しているという事です。さきほどお渡しした桜のストラップもそのうちのひとつです」
「ファングッズって、出すの早すぎじゃないですか……」
まあたぶん、それくらい早く、私のS.A.M.T.所属が決まってたって事なんだろうけど。
それに、私のグッズなんて、売れないでしょ。デビュー戦がアレでしたし……」
「いえ、それが、予想に反して、かなり売れ行きが好調でして」
「……自分で〝売れない〟って言っといてなんですけど、〝予想に反して〟とか言われるのも傷つきますね」
「おそらく、ある一定の層の人たちにウケたのでしょう」
「あの、すみません、人をイロモノみたいに言わないでもらえますか?」
「デュフフ、だけど事実、キューブロ殿はイロモノにてござ──」
「殴るよ?」
「ひ、す、すみませぬ……殺さないでください……」
「いや、殺さないけど……」
「──ああ、いえ、じつはですね。こちらに届いている反応を見るに、どなたもキューティブロッサムが、OL崩れの年増女だとは思っていないみたいなのです」
「ちょ、ちょっとちょっと! 暴言が過ぎませんか、クロマさん! ぶっ飛ばしますよ!?」
「すみません、殺さないでください……」
「……なんで二人とも、命乞いをするんですか……!」
「鈴木さんのお顔自体は、お若いというか、同年代の女性の中でも、まだ幼い雰囲気がありますので、ギリギリ大学生あたりに見えなくもない、のではないかと」
「なんか言い方にトゲがあるな……でも、若いって言われると、その、や、やっぱ嬉しいですね……へへへ……」
前の職場では、暴言とセクハラ発言しか聞いてなかったから、お世辞でもこういう事を言われると、すぐにくすぐったくなってしまう。
「デュフフ、キューブロ殿、すごく嬉しそう……でも、本音を言えば、拙者もキューブロ殿の事は、年の近い姉のように感じるでござる」
「へっへっへ、よせやい! 照れくせえじゃあねえかい!」
「……江戸っ子?」
「──ああ、そうでした」
突然、クロマさんが何か思い出したように口を開くと、一旦部屋から出て、ハンガーにかけられたフリフリの服……というか、昨日私が着たものと全く同じ服を持ってきた。
「どうぞ。カニみそももう目立たないかと」
「いや、どうぞって渡されても、いりませんよ。着たくありません。そんな服」
「クリーニングが終わったので、着てみてください。縮んでいるかもしれないので」
「なんで天然由来の繊維使ってるんですか!?」
クロマさんは言うや否や、クリーニングし終わった後に、服にかかっている薄いビニールをガサガサと取り外し、グイグイ私に押し付けてきた。この衣装の、すべすべシルクの肌触りが、妙に私の神経を逆撫でする。
「うわ!? な、なんなんですか、いきなり!?」
「どうぞ」
「いや、どうぞって……いつにも増してしつこいな! 着ませんって言ったら着ません! 第一非常事態でもありませんし……」
「いいえ、非常事態です」
「何がですか? クロマさんの頭がですか?」
「あ、キューブロ殿! 外を見るでござるぅ!」
霧須手さんに促され、渋々窓から外を見る私。
その私の目に飛び込んできたのは、紅い空だった。
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