現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

文字の大きさ
60 / 61
魔法少女派遣会社

ラストのラスト☆姉弟喧嘩

しおりを挟む
 
 人影と人影。
 休日夜間、魔法少女派遣会社の屋上。
 大きく〝Hヘリポート〟と描かれている場所に、フリフリで、ヒラヒラで、ピンキーで、いわゆるロリータファッションに身を包んだ、桃色ツインテール頭の私が、同じくフリフリで、ヒラヒラで、青色のロリータファッションに身を包んだ、金髪長髪のひろみと対峙していた。
 月下に輝くひろみのしなやか金の髪が、ビュウビュウと吹く風に煽られ、まるで金獅子の体毛が如く、この世のモノとは思えない妖しさと、艶めかしさを醸し出している。
 ほんとに男か、こいつ。


「姉ちゃん、俺は今からあんたを超える……!」


 まるで腹の底から無理やり吐き出したような声で、ひろみが私に噛みついてくる。姉として、敵として、こういう場合、なんて答えればいいのだろう。
『晩御飯までには終わらせようね』
 は違うだろうし
『がっはっはっは! よく来たな勇者よ! 貴様のその馬鹿げた自尊心ごと、この世から葬り去ってくれようぞ!』
 というのもしっくりこない。
 うん。笑っとこう。
 私はとりあえず、口角をニチャァとあげると、精一杯の作り笑いを浮かべた。なるべく悪役ぽく。……一瞬ひろみの顔が強張った気がするが、たぶん気のせいだろう。


「おおおーっと! ここでキューティブロッサム選手! 何と挑発に対して気持ちの悪い笑みで答えた!」


Hヘリポート〟と描かれた地面から少し離れた場所。
 そこには、私が今着ている衣装を、なぜか持ってきてくれていた霧須手さんが、モップをマイクに見立てて奇声を上げていた。


「ごめん、霧須手さん。やりづらいからちょっと黙ってて」

「そう言うわけにはいかないでござる」


 珍しく霧須手さんが口答えをしてくる。


「これはいわば世紀の姉弟対決ショー! 盛り上げなければ損にござる! それに、見よ、ここよりはるか上空を飛行しているヘリコプターを!」


 ビシィという効果音が鳴りそうな勢いで、霧須手さんが上空──私たちが今いる屋上よりもさらに上部を指さした。
 ──パタパタパタ。
 そこにはけたたましい羽音・・を立てながら、私たちの上空を旋回しているヘリコプターが飛んでいた。目を凝らしてよく見てみると、昨日見たレポーターの人(名前忘れた)と、カメラマンの人が私たちに注目していた。

 結局、消化不良となってしまった今回の〝S.A.M.T.〟対〝魔法少女派遣会社〟についてだが、私は社長室で霧須手さんと合流した後、事の一部始終をクロマさんに報告して、こう告げられた。


『ちょうどいいから、このまま決着をつけましょう』と。


 つまりこういう事だ。
『ミス・ストレンジ・シィムレスが手加減していたことにより、S.A.M.T.の消滅が免れました! やったぜ! ピース!』……という事実の一切を隠蔽し、代わりに私とひろみが戦うんだったら、表向き、それを事実上の〝S.A.M.T.〟対〝魔法少女派遣会社〟とする事で、今回の事件の終着点にしようと、クロマさんは考えたのである。
 もちろん私はこれに抗議した。
 せっかく一大決心して、私との対決に踏み切ったひろみの気持ちを踏みにじり、全国放送して晒し物にしてしまうのは如何なものか、と。精一杯抗議した。
 だが、時すでに遅し。
 いざひろみの後に付いて、ビル風にさらされながら、屋上へと出てみると、そこには既に準備万端な報道陣が上空を飛び回っており、霧須手さんも私の衣装片手にニマニマと笑っていたのだ。なんて手回しの良さだ。金になりそうなことは全部やり、被害を被りそうになる事柄は隠蔽する。
 きったねー! これがS.A.M.T.のやり方か! 一緒に抗議しようぜ!
 ──と、ひろみのほうを向くと、なにやらひろみもまんざらでもない様子。結局、流されに流された結果、今に至るというわけだ。
 それにしてもまさか、ひろみのヤツ、見られて興奮するタイプだったなんて……弟の性的趣向に関しては割と肝要である私だけど、こればっかりはどうも……。
 ええい。こうなってしまっては、もう後にも引けない。まあ、あんまり、お互いが怪我をしないように戦おうじゃないか──


「──いやあ、それにしても、まさかこんな舞台まで用意してくれるなんて。姉ちゃんところのクロマさん、だっけか? その人も粋な事してくれるじゃねえか!」

「え、なにが?」

「なにがって、今から俺が、魔法少女〝ターコイズ・マグニフィセント〟が、魔法少女キューティブロッサムをぶっ倒すって事だよ!」

「ダサッ!? ……え、ちょっと待って、なに? ぶっ倒す、うんぬんは置いといて、ターコイズ・マグニフィセントって、もしかしてあんたの魔法少女名?」

「バッ……!? ダサ、くはないだろ! むしろかっけえだろうが!」

「いや、ダサいよ。直訳すると崇高なトルコ石だよ? なにそれ? バカなの?」

「勝手に訳してんじゃねえよ! つか、感じ取れよ、もっとこう……崇高なニュアンスをさ!」

「いやいや、笑われちゃうよ、あんた。『ぷぷぷ、崇高なトルコ石っておま!』みたいな感じで霧須手さんに」

「な!? ……き、キューティブロッサムよりはましだろうが!」

「うぐぅっ!? ……そ、それはそうだけど……今はあんたの名前について話してるんだから、話をすり替えないでよ」

「すり替えてねえよ。俺よりも数段ダサさで勝ってる姉ちゃんに、俺の名前をとやかく言う資格なんてないって言ってんだよ。それに、今から姉ちゃんは俺にぶっ倒されちまうからな。あとで泣きながら俺の名前がかっこいいって謝って来ても、もう遅いぜ」

「ほぅん……へえ? ふーん? そんな事言っちゃうんだ? お姉ちゃんに? 覚悟できてんの? 腫れるよ、ケツ。これまでにないくらい」

「……へ、へへっ、だから言ってんだろ! そんな脅し、俺には通用しないってよ!」


 そうは言ってるものの、ひろみの脚はガクガクと痙攣している。とはいえ、これは私がひろみを直々に矯正してあげるしかないな。……それも、すこし痛みの伴う方法で。


「──ああっ!?」


 ひろみが突然、上を指して声を上げた。
 なんだ? ヘリコプターでも墜落したのか? ……と思ったが、特に何もなく空を旋回したまま。なんのこっちゃ。と思って、再び前を見て見ると──ひろみの姿が消えていた。
 なるほどね。戦いは既に始まっているという事か。
 それにしても、こんなこすずるい・・・・・手を使ってくるなんて、これは本格的にお仕置きが──

 ──パン! ──パン!
 右の頬に衝撃。
 軽いジャブが二発。それもいきなり、私の顔面を狙ってきている。
 確かにツカサの言う通り速い。限りなく速い。
 今のも〝殴られた〟という感覚が、殴られた後になってわかっただけで、実感はそれほどないし、なにより目では負い切れなかった。──が、やはり軽い。軽すぎる。まるで風船で殴られたように、ダメージが残らない。こんなのをあと何発……何億発と打ち込まれても、私は怪我すらしないだろう。


「ひろみ、いきなりお姉ちゃんの顔を狙ってくるなんて、……わかってるよね──」


 ギャリギャリ……!
 突如、焦げ臭いニオイが鼻をつく。口を閉じ、位置を特定しよう上下、左右、見回してみるが、見当たらない。
どこからだ?
 ──スンスン。
 再び私は鼻腔をひくひくと動かしてみる。
 前から音もニオイもしない。なら、後ろ──

 ドボォ……!
 私が急いで後ろを振りむいた瞬間、鳩尾を鉄棒で強く殴られたような衝撃を受け、そのまま5メートルほど吹っ飛んだ。
 なんだこの威力は。
 さっきの殴打ジャブの比じゃない。それに、この焦げ臭いニオイ……。
 見ると、さっきまで私が立っていた場所に、ひろみが立っていた。そして注目すべきはその足元。真っ黒に、まるで何か爆発したように、真っ黒に変色して、そこから煙が上がっていた。
 私は手をついて立ち上がると、改めてひろみの方向を向いた。


「……なるほどね。ご自慢の速度を生かした攻撃ってワケだ」


 最初のジャブで私の気を正面に向け、その間にひろみは私の背後に回り込み、力を溜める。この場合力を溜めるとは、つまり回転・・。おそらく、フィギュアスケートのように片足を軸に体を回転させ、対象が振り向いた瞬間、遠心力を利用した蹴りを叩き込む。
 いま、ひろみの足元が焦げ付いているのは、その時の摩擦熱。
 これがさっき起こった一部始終だと仮定した。
 確かに重い。確かに鋭い。けど──


「こんなのただの子供だましだよ。吹っ飛びはしたけど、ダメージは──」


 にやり。と、ひろみが今まで私に見せた事のない笑顔を見せてきた。その瞬間、再びひろみの姿が消える。
 ──パン! ──パン!
 そして、馬鹿の一つ覚えみたいなジャブが飛んでくる。
 相変わらず速すぎて目視で捉えることは不可能。
 だけど、このパターンはもう見切っている。
 また後ろから蹴りを入れてくるつもりなのだろう。
 なら振り向きざまに、そのまま捕まえて裸にしてひん剥いてやる。
 私はそう思い、急いで振り返った──が、振り向いた先には、何もなかった・・・・・・
 何もない・・・・
 それはつまり、この〝ビルの屋上〟というリングにおいて、致命的だという事。一寸先は闇。

 次に私が背中に衝撃を感じた時──私の体は屋上の柵を突き破り、ビル外へと蹴り飛ばされていた。
 徐々に私が、私を蹴り飛ばしたひろみから遠ざかっていく。ビルからはじき出され、落下するまでの、その数秒間の猶予の中──全身の時間がゆっくりと流れるこの時間で、私ははっきりとひろみの声を聞いた。


「──俺の攻撃で姉ちゃんを倒せないのは知ってる。けど、ここから落ちて、地面に叩きつけられたらどうかな?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...