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魔法少女派遣会社
ラストのラスト☆姉弟喧嘩
しおりを挟む人影と人影。
休日夜間、魔法少女派遣会社の屋上。
大きく〝H〟と描かれている場所に、フリフリで、ヒラヒラで、ピンキーで、いわゆるロリータファッションに身を包んだ、桃色ツインテール頭の私が、同じくフリフリで、ヒラヒラで、青色のロリータファッションに身を包んだ、金髪長髪のひろみと対峙していた。
月下に輝くひろみのしなやか金の髪が、ビュウビュウと吹く風に煽られ、まるで金獅子の体毛が如く、この世のモノとは思えない妖しさと、艶めかしさを醸し出している。
ほんとに男か、こいつ。
「姉ちゃん、俺は今からあんたを超える……!」
まるで腹の底から無理やり吐き出したような声で、ひろみが私に噛みついてくる。姉として、敵として、こういう場合、なんて答えればいいのだろう。
『晩御飯までには終わらせようね』
は違うだろうし
『がっはっはっは! よく来たな勇者よ! 貴様のその馬鹿げた自尊心ごと、この世から葬り去ってくれようぞ!』
というのもしっくりこない。
うん。笑っとこう。
私はとりあえず、口角をニチャァとあげると、精一杯の作り笑いを浮かべた。なるべく悪役ぽく。……一瞬ひろみの顔が強張った気がするが、たぶん気のせいだろう。
「おおおーっと! ここでキューティブロッサム選手! 何と挑発に対して気持ちの悪い笑みで答えた!」
〝H〟と描かれた地面から少し離れた場所。
そこには、私が今着ている衣装を、なぜか持ってきてくれていた霧須手さんが、モップをマイクに見立てて奇声を上げていた。
「ごめん、霧須手さん。やりづらいからちょっと黙ってて」
「そう言うわけにはいかないでござる」
珍しく霧須手さんが口答えをしてくる。
「これはいわば世紀の姉弟対決ショー! 盛り上げなければ損にござる! それに、見よ、ここよりはるか上空を飛行しているヘリコプターを!」
ビシィという効果音が鳴りそうな勢いで、霧須手さんが上空──私たちが今いる屋上よりもさらに上部を指さした。
──パタパタパタ。
そこにはけたたましい羽音を立てながら、私たちの上空を旋回しているヘリコプターが飛んでいた。目を凝らしてよく見てみると、昨日見たレポーターの人(名前忘れた)と、カメラマンの人が私たちに注目していた。
結局、消化不良となってしまった今回の〝S.A.M.T.〟対〝魔法少女派遣会社〟についてだが、私は社長室で霧須手さんと合流した後、事の一部始終をクロマさんに報告して、こう告げられた。
『ちょうどいいから、このまま決着をつけましょう』と。
つまりこういう事だ。
『ミス・ストレンジ・シィムレスが手加減していたことにより、S.A.M.T.の消滅が免れました! やったぜ! ピース!』……という事実の一切を隠蔽し、代わりに私とひろみが戦うんだったら、表向き、それを事実上の〝S.A.M.T.〟対〝魔法少女派遣会社〟とする事で、今回の事件の終着点にしようと、クロマさんは考えたのである。
もちろん私はこれに抗議した。
せっかく一大決心して、私との対決に踏み切ったひろみの気持ちを踏みにじり、全国放送して晒し物にしてしまうのは如何なものか、と。精一杯抗議した。
だが、時すでに遅し。
いざひろみの後に付いて、ビル風にさらされながら、屋上へと出てみると、そこには既に準備万端な報道陣が上空を飛び回っており、霧須手さんも私の衣装片手にニマニマと笑っていたのだ。なんて手回しの良さだ。金になりそうなことは全部やり、被害を被りそうになる事柄は隠蔽する。
きったねー! これがS.A.M.T.のやり方か! 一緒に抗議しようぜ!
──と、ひろみのほうを向くと、なにやらひろみもまんざらでもない様子。結局、流されに流された結果、今に至るというわけだ。
それにしてもまさか、ひろみのヤツ、見られて興奮するタイプだったなんて……弟の性的趣向に関しては割と肝要である私だけど、こればっかりはどうも……。
ええい。こうなってしまっては、もう後にも引けない。まあ、あんまり、お互いが怪我をしないように戦おうじゃないか──
「──いやあ、それにしても、まさかこんな舞台まで用意してくれるなんて。姉ちゃんところのクロマさん、だっけか? その人も粋な事してくれるじゃねえか!」
「え、なにが?」
「なにがって、今から俺が、魔法少女〝ターコイズ・マグニフィセント〟が、魔法少女キューティブロッサムをぶっ倒すって事だよ!」
「ダサッ!? ……え、ちょっと待って、なに? ぶっ倒す、うんぬんは置いといて、ターコイズ・マグニフィセントって、もしかしてあんたの魔法少女名?」
「バッ……!? ダサ、くはないだろ! むしろかっけえだろうが!」
「いや、ダサいよ。直訳すると崇高なトルコ石だよ? なにそれ? バカなの?」
「勝手に訳してんじゃねえよ! つか、感じ取れよ、もっとこう……崇高なニュアンスをさ!」
「いやいや、笑われちゃうよ、あんた。『ぷぷぷ、崇高なトルコ石っておま!』みたいな感じで霧須手さんに」
「な!? ……き、キューティブロッサムよりはましだろうが!」
「うぐぅっ!? ……そ、それはそうだけど……今はあんたの名前について話してるんだから、話をすり替えないでよ」
「すり替えてねえよ。俺よりも数段ダサさで勝ってる姉ちゃんに、俺の名前をとやかく言う資格なんてないって言ってんだよ。それに、今から姉ちゃんは俺にぶっ倒されちまうからな。あとで泣きながら俺の名前がかっこいいって謝って来ても、もう遅いぜ」
「ほぅん……へえ? ふーん? そんな事言っちゃうんだ? お姉ちゃんに? 覚悟できてんの? 腫れるよ、ケツ。これまでにないくらい」
「……へ、へへっ、だから言ってんだろ! そんな脅し、俺には通用しないってよ!」
そうは言ってるものの、ひろみの脚はガクガクと痙攣している。とはいえ、これは私がひろみを直々に矯正してあげるしかないな。……それも、すこし痛みの伴う方法で。
「──ああっ!?」
ひろみが突然、上を指して声を上げた。
なんだ? ヘリコプターでも墜落したのか? ……と思ったが、特に何もなく空を旋回したまま。なんのこっちゃ。と思って、再び前を見て見ると──ひろみの姿が消えていた。
なるほどね。戦いは既に始まっているという事か。
それにしても、こんなこすずるい手を使ってくるなんて、これは本格的にお仕置きが──
──パン! ──パン!
右の頬に衝撃。
軽いジャブが二発。それもいきなり、私の顔面を狙ってきている。
確かにツカサの言う通り速い。限りなく速い。
今のも〝殴られた〟という感覚が、殴られた後になってわかっただけで、実感はそれほどないし、なにより目では負い切れなかった。──が、やはり軽い。軽すぎる。まるで風船で殴られたように、ダメージが残らない。こんなのをあと何発……何億発と打ち込まれても、私は怪我すらしないだろう。
「ひろみ、いきなりお姉ちゃんの顔を狙ってくるなんて、……わかってるよね──」
ギャリギャリ……!
突如、焦げ臭いニオイが鼻をつく。口を閉じ、位置を特定しよう上下、左右、見回してみるが、見当たらない。
どこからだ?
──スンスン。
再び私は鼻腔をひくひくと動かしてみる。
前から音もニオイもしない。なら、後ろ──
ドボォ……!
私が急いで後ろを振りむいた瞬間、鳩尾を鉄棒で強く殴られたような衝撃を受け、そのまま5メートルほど吹っ飛んだ。
なんだこの威力は。
さっきの殴打の比じゃない。それに、この焦げ臭いニオイ……。
見ると、さっきまで私が立っていた場所に、ひろみが立っていた。そして注目すべきはその足元。真っ黒に、まるで何か爆発したように、真っ黒に変色して、そこから煙が上がっていた。
私は手をついて立ち上がると、改めて敵の方向を向いた。
「……なるほどね。ご自慢の速度を生かした攻撃ってワケだ」
最初のジャブで私の気を正面に向け、その間にひろみは私の背後に回り込み、力を溜める。この場合力を溜めるとは、つまり回転。おそらく、フィギュアスケートのように片足を軸に体を回転させ、対象が振り向いた瞬間、遠心力を利用した蹴りを叩き込む。
いま、ひろみの足元が焦げ付いているのは、その時の摩擦熱。
これがさっき起こった一部始終だと仮定した。
確かに重い。確かに鋭い。けど──
「こんなのただの子供だましだよ。吹っ飛びはしたけど、ダメージは──」
にやり。と、ひろみが今まで私に見せた事のない笑顔を見せてきた。その瞬間、再びひろみの姿が消える。
──パン! ──パン!
そして、馬鹿の一つ覚えみたいなジャブが飛んでくる。
相変わらず速すぎて目視で捉えることは不可能。
だけど、このパターンはもう見切っている。
また後ろから蹴りを入れてくるつもりなのだろう。
なら振り向きざまに、そのまま捕まえて裸にしてひん剥いてやる。
私はそう思い、急いで振り返った──が、振り向いた先には、何もなかった。
何もない。
それはつまり、この〝ビルの屋上〟というリングにおいて、致命的だという事。一寸先は闇。
次に私が背中に衝撃を感じた時──私の体は屋上の柵を突き破り、ビル外へと蹴り飛ばされていた。
徐々に私が、私を蹴り飛ばしたひろみから遠ざかっていく。ビルからはじき出され、落下するまでの、その数秒間の猶予の中──全身の時間がゆっくりと流れるこの時間で、私ははっきりとひろみの声を聞いた。
「──俺の攻撃で姉ちゃんを倒せないのは知ってる。けど、ここから落ちて、地面に叩きつけられたらどうかな?」
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