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命令
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絵里香と早希が期待していた通りに連絡が来ることなく、次の朝になっていた。
「今日はどうしたの? なんだか元気がないみたいだけど」
朝のトーストを食べる気になれずに紅茶だけを飲んでる絵里香にお母さんが心配した様子で声をかけた。
新聞を読んでいたお父さんも顔をあげる。
「うん……ちょっとね」
説明しようにも、とうてい信じてもらえる内容じゃない。
それに絵里香自身に降り掛かってきている出来事でもないから、安易に相談することはできなかった。
「なにかあったなら、いつでも話を聞くからね」
そんな絵里香の心情を察したようにお母さんはそう言い、それ以上は追求して来なかったのだった。
☆☆☆
朝の心地いい風が吹き抜けていって絵里香の気持ちは晴れなかった。
体育のバスケで活躍していた早希の姿を思い出すと、胸がギュッと苦しくなる。
早希は本当にバスケ部に入って活躍したかもしれない。
だけど友梨奈がいる限り、それも難しいだろう。
友梨奈に部活は禁止だと言われてしまえば、それまでだ。
悶々とした気持ちを抱えて学校に到着すると、慌てて教室から出ていく早希とバッタリ会った。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「実は友梨奈から連絡が来て」
そう言ってメッセージ画面を見せてくる。
《友梨奈さま:今すぐジュースを買って屋上に届けに来い》
「ちょっと、これってどういうこと!?」
「あのふたりに友梨奈さまって登録するように言われて……」
それだけじゃない。
こんなメッセージを送りつけてくるなんて信じられないことだった。
仮にでも友梨奈は1年生で、早希は2年生なんだ。
こんな命令するメッセージは許せない。
「こんなの無視していいよ」
「でも……」
早希は青ざめてうつむいてしまった。
昨日の恐怖が蘇ってきているんだろう。
だったらなおさら、早希を友梨奈のところへ行かせるわけにはいかない。
「私が変わりに言ってくる。それでこんなことやめるように言う」
「それはやめて!」
早希が絵里香の腕を掴んで引き止めた。
「どうして? こんなことされて悔しくないの?」
「悔しいよ。だけど友梨奈の力は本物。どんな病気を体に溜め込んでいて、それをいつ移動させられるかわからない!」
言いながら早希の顔はどんどん青ざめていく。
病院通いが長いからか、世の中にどれほど恐ろしい病気があるのか、よくわかっているんだろう。
絵里香は下唇を噛み締めて早希を見つめた。
友梨奈からは逃れられない。
それはいつまで?
卒業するまで?
それとも、その先もずっと?
きっと、高校生や社会人なれば友梨奈の命令はエスカレートしていくはずだ。
それをずっと耐えなきゃいけないんだろうか。
絵里香は青ざめて震えている早希の体を両手で強く抱きしめた。
「それなら、私も一緒に行く」
今できることは、これくらいしかなかった。
☆☆☆
友梨奈が好きな飲物がわからないと言って、早希は何本ものジュースを自動販売機で購入した。
炭酸ジュースに紅茶にコーヒー。
両手一杯の飲み物を抱えて屋上までの階段を上がる。
「前までは階段を上がるのだって息が切れてたんだよ。それがほら、これだけのジュースを持って一段飛ばしで登っても平気なんだから」
早希が明るい声色で言って微笑んだ。
けれどその頬は引きつっている。
必死で恐怖心を押し殺そうとしているのがわかった。
絵里香はなにも答えずにただ頷く。
そしてふたりで寄り添うようにして屋上へ続くドアを押し開けた。
外はとても良く晴れていて心地よい風が吹き抜けていく。
その先に立っていたのは友梨奈と。
友梨奈の両隣には詩乃と直斗もいた。
詩乃と直斗の手には木刀が握られていて、その表情は穏やかだけれどいつでも攻撃できる体制でいることがわかった。
それを見た早希が一瞬ひるんだように足を緩める。
「どうしたの、早く持ってきてよ」
友梨奈が腕組をして催促する。
「は、はい」
早希が緊張した声で答えて早足に友梨奈へ近づいた。
「こんなに沢山買ってきたんだ?」
「は、はい。どれがいいかわからなかったので」
敬語になってしまうのは友梨奈のことが恐ろしいからだろう。
早希の体は小刻みに震えている。
「それなら連絡してくればいいのに、ばっかじゃないの?」
友梨奈が笑うと詩乃と直斗も同じように声を上げて笑った。
思わずムッとして前へ出ようとしたけれど、早希に視線を向けられて絵里香は足を止めた。
ここで文句を言えば早希の立場が悪くなる一方だ。
絵里香はどうにか苛立つ気持ちを抑え込んだ。
「じゃあ、これをもらおうかな」
友梨奈はそう言うと炭酸ジュースを早希から一本受け取った。
早希がホッとしたように頬を緩める。
友梨奈はゆったりとジュースを一口飲んだ後、先に視線を戻した。
「なにボーッと突っ立ってんの? もう用事はないから、戻れば?」
その言い方にまたカチンとくる。
ここまでジュースを運んできたのにお礼のひとこともないのはおかしい。
だけど、なにも言えなかった。
早希は友梨奈に頭を下げて逃げるようにきびすを返す。
絵里香もその後を追いかけたのだった。
☆☆☆
屋上を後にした早希は大きく息を吐き出してその場にへたり込んでしまった。
「大丈夫?」
絵里香は早希の背中をさする。
「大丈夫。さすがにちょっと怖かったけど、大丈夫だから」
それはまるで自分に言い聞かせているような言葉だった。
とても大丈夫そうには見えない。
「このままじゃダメだよ。こんな風にこき使われるなんておかしいでしょ」
「私は本当に大丈夫だから。だから絵里香は心配しなくていいから」
両手に飲み物を抱えたまま早希は言う。
その顔にはひきつった笑みが張り付いていて、どうにか絵里香を心配させないようにしようとしていることがわかった。
「これは私の問題だから、絵里香はもうついて来たりしなくていいからね」
どうにか立ち上がって階段を下りながら早希が言った。
「え? なに言ってるの?」
「だって、私の病気を友梨奈が取ってくれたんだから、絵里香はもともと関係ないんだよ」
「なんでそんな言い方するの!?」
思わず声が大きくなって、階段に絵里香の声が響いた。
早希が驚いたように目を大きくする。
「私にだって責任はあるよ。だって、都市伝説について調べたし、一緒に友梨奈を探し出したりしたじゃん」
それに、私達友達でしょう?
どうして1人で背負い込もうとするの?
その言葉は喉の奥につまって出てこなかった。
「でも……」
「『でも』はなし。私もう決めたことなんだから」
「……うん。わかった。ありがとう絵里香」
早希はどうにか納得したように頷いたのだった。
☆☆☆
それからしばらく友梨奈からの連絡はなかったが、昼休憩に入ったタイミングでまたメッセージが送られてきた。
《友梨奈:購買でパンを盗んで来い》
そのメッセージを見て早希も絵里香も固まってしまった。
早希はスマホ画面から目をそらせずにいる。
「盗むって、どういうこと?」
十分に時間が経過してから絵里香が呟いた。
友梨奈からのメッセージを何度読み直してみても同じことが書かれている。
「万引きしろってことなんだと思う」
早希がうつむいたまま答える。
その声は震えていた。
「なにそれ。そんなのできるわけないじゃん」
絵里香が吐き捨てるように言った。
ジュースを買ってこいという命令ならまだ従うことができる。
他の誰にも迷惑をかけていないし、犯罪でもないからだ。
だけど今回は違う。
万引きは立派な犯罪だ。
友梨奈は早希を犯罪者にしたいんだ。
「こんな命令聞いちゃダメだよ。こんなの、無視していればいいから」
「でも……」
命令を無視すれば病気を元に戻される。
早希はそれをひどく恐れているのがわかった。
病弱ですぐに早退してしまう自分に戻りたくないのはわかるけれど、友梨奈のために犯罪者になるなんて間違ってる。
「とにかく、給食を食べようよ。友梨奈だってパンがなくても給食があるはずなんだから」
「そ、そうだよね」
購買で食べ物の販売はしているけれど、部活終わりだったり給食で足りなかった生徒が購入することがほとんどだ。
まだ給食を食べてもいないのにパンを購入する生徒はほとんどいない。
内心で燃え上がる怒りを抑え込みながら給食を準備し、友梨奈と席をくっつけて食べ始める。
今日のメニューは豆ごはんと卵スープと海鮮サラダだ。
どれもとても美味しそうで食欲が湧いてくる。
「さ、食べよう」
箸を手にしていただきますと口にした、そのときだった。
早希が真っ青になって動きを止めたことに気がついた。
「早希、どうかしたの?」
まさかまた体調が悪くなったんだろうかと心配したけれど、早希の視線は一点へ向けられている。
そちらへ振り向いてみると教室の入口に詩乃と直斗が立っていたのだ。
ふたりとも無表情でジッとこちらを見つめている。
さすがに木刀は持っていないようだけれど、その様子は異様だった。
「私、やっぱり行かなきゃ」
早希が怯えたように立ち上がる。
「待って、行っちゃダメだよ。万引きなんてしたら、今度はどんなことをさせられるかわからないんだから」
友梨奈の命令は絶対にエスカレートしていく。
早希がどこまで従順になれるか確認しているのかもしれない。
「でも……」
青ざめたまま、詩乃と直斗を見つめる。
ふたりは早希を監視しに来たのだろう。
きっと、早希の行動はすべて友梨奈に筒抜けだ。
「早希、スマホを出して」
絵里香に言われて早希は自分のスマホを取り出した。
すると絵里香はメッセージ画面を開くと友梨奈に返事を打ち込み始めたのだ。
《もう命令を聞くことはできません。二度と連絡してこないでください》
それが送信される直前で、早希は絵里香からスマホを奪い取っていた。
「ちょっと、なにするの!?」
「ダメ。こんなこと送ったらダメだよ」
慌ててメッセージを削除する。
送信される前で良かった。
「なに言ってるの? この命令を聞くつもり?」
「だって……だって、それしかないじゃん」
早希には見張りがついている。
それに誰のかわからない目の病気を移動させられた時の恐怖は心に深く刻み込まれていた。
友梨奈に手を握りしめられただけで突然目の前が真っ白になった。
光だけを感じていたかと思うと、それもすぐに消えて暗闇が訪れたのだ。
呼吸ができない恐怖と、なにも見えない恐怖でパニックになった。
手を伸ばしてもなにもつかめず、助けを呼びたくても苦しくて声も出なかった。
もう1度あんな思いをするくらいなら、死んでしまった方がマシだった。
「私、行く」
スマホをスカートのポケットに入れて早希は席を立つ。
その表情には覚悟があった。
「そ、それなら私も一緒に行く」
絵里香が慌てて立ち上がる。
なにかあったときに少しでも助けになりたい。
それに、ここまできて友達を見捨てるわけにはいかなかった。
ふたりが動き出したのを確認して、詩乃と直斗も動き出したのだった。
「今日はどうしたの? なんだか元気がないみたいだけど」
朝のトーストを食べる気になれずに紅茶だけを飲んでる絵里香にお母さんが心配した様子で声をかけた。
新聞を読んでいたお父さんも顔をあげる。
「うん……ちょっとね」
説明しようにも、とうてい信じてもらえる内容じゃない。
それに絵里香自身に降り掛かってきている出来事でもないから、安易に相談することはできなかった。
「なにかあったなら、いつでも話を聞くからね」
そんな絵里香の心情を察したようにお母さんはそう言い、それ以上は追求して来なかったのだった。
☆☆☆
朝の心地いい風が吹き抜けていって絵里香の気持ちは晴れなかった。
体育のバスケで活躍していた早希の姿を思い出すと、胸がギュッと苦しくなる。
早希は本当にバスケ部に入って活躍したかもしれない。
だけど友梨奈がいる限り、それも難しいだろう。
友梨奈に部活は禁止だと言われてしまえば、それまでだ。
悶々とした気持ちを抱えて学校に到着すると、慌てて教室から出ていく早希とバッタリ会った。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「実は友梨奈から連絡が来て」
そう言ってメッセージ画面を見せてくる。
《友梨奈さま:今すぐジュースを買って屋上に届けに来い》
「ちょっと、これってどういうこと!?」
「あのふたりに友梨奈さまって登録するように言われて……」
それだけじゃない。
こんなメッセージを送りつけてくるなんて信じられないことだった。
仮にでも友梨奈は1年生で、早希は2年生なんだ。
こんな命令するメッセージは許せない。
「こんなの無視していいよ」
「でも……」
早希は青ざめてうつむいてしまった。
昨日の恐怖が蘇ってきているんだろう。
だったらなおさら、早希を友梨奈のところへ行かせるわけにはいかない。
「私が変わりに言ってくる。それでこんなことやめるように言う」
「それはやめて!」
早希が絵里香の腕を掴んで引き止めた。
「どうして? こんなことされて悔しくないの?」
「悔しいよ。だけど友梨奈の力は本物。どんな病気を体に溜め込んでいて、それをいつ移動させられるかわからない!」
言いながら早希の顔はどんどん青ざめていく。
病院通いが長いからか、世の中にどれほど恐ろしい病気があるのか、よくわかっているんだろう。
絵里香は下唇を噛み締めて早希を見つめた。
友梨奈からは逃れられない。
それはいつまで?
卒業するまで?
それとも、その先もずっと?
きっと、高校生や社会人なれば友梨奈の命令はエスカレートしていくはずだ。
それをずっと耐えなきゃいけないんだろうか。
絵里香は青ざめて震えている早希の体を両手で強く抱きしめた。
「それなら、私も一緒に行く」
今できることは、これくらいしかなかった。
☆☆☆
友梨奈が好きな飲物がわからないと言って、早希は何本ものジュースを自動販売機で購入した。
炭酸ジュースに紅茶にコーヒー。
両手一杯の飲み物を抱えて屋上までの階段を上がる。
「前までは階段を上がるのだって息が切れてたんだよ。それがほら、これだけのジュースを持って一段飛ばしで登っても平気なんだから」
早希が明るい声色で言って微笑んだ。
けれどその頬は引きつっている。
必死で恐怖心を押し殺そうとしているのがわかった。
絵里香はなにも答えずにただ頷く。
そしてふたりで寄り添うようにして屋上へ続くドアを押し開けた。
外はとても良く晴れていて心地よい風が吹き抜けていく。
その先に立っていたのは友梨奈と。
友梨奈の両隣には詩乃と直斗もいた。
詩乃と直斗の手には木刀が握られていて、その表情は穏やかだけれどいつでも攻撃できる体制でいることがわかった。
それを見た早希が一瞬ひるんだように足を緩める。
「どうしたの、早く持ってきてよ」
友梨奈が腕組をして催促する。
「は、はい」
早希が緊張した声で答えて早足に友梨奈へ近づいた。
「こんなに沢山買ってきたんだ?」
「は、はい。どれがいいかわからなかったので」
敬語になってしまうのは友梨奈のことが恐ろしいからだろう。
早希の体は小刻みに震えている。
「それなら連絡してくればいいのに、ばっかじゃないの?」
友梨奈が笑うと詩乃と直斗も同じように声を上げて笑った。
思わずムッとして前へ出ようとしたけれど、早希に視線を向けられて絵里香は足を止めた。
ここで文句を言えば早希の立場が悪くなる一方だ。
絵里香はどうにか苛立つ気持ちを抑え込んだ。
「じゃあ、これをもらおうかな」
友梨奈はそう言うと炭酸ジュースを早希から一本受け取った。
早希がホッとしたように頬を緩める。
友梨奈はゆったりとジュースを一口飲んだ後、先に視線を戻した。
「なにボーッと突っ立ってんの? もう用事はないから、戻れば?」
その言い方にまたカチンとくる。
ここまでジュースを運んできたのにお礼のひとこともないのはおかしい。
だけど、なにも言えなかった。
早希は友梨奈に頭を下げて逃げるようにきびすを返す。
絵里香もその後を追いかけたのだった。
☆☆☆
屋上を後にした早希は大きく息を吐き出してその場にへたり込んでしまった。
「大丈夫?」
絵里香は早希の背中をさする。
「大丈夫。さすがにちょっと怖かったけど、大丈夫だから」
それはまるで自分に言い聞かせているような言葉だった。
とても大丈夫そうには見えない。
「このままじゃダメだよ。こんな風にこき使われるなんておかしいでしょ」
「私は本当に大丈夫だから。だから絵里香は心配しなくていいから」
両手に飲み物を抱えたまま早希は言う。
その顔にはひきつった笑みが張り付いていて、どうにか絵里香を心配させないようにしようとしていることがわかった。
「これは私の問題だから、絵里香はもうついて来たりしなくていいからね」
どうにか立ち上がって階段を下りながら早希が言った。
「え? なに言ってるの?」
「だって、私の病気を友梨奈が取ってくれたんだから、絵里香はもともと関係ないんだよ」
「なんでそんな言い方するの!?」
思わず声が大きくなって、階段に絵里香の声が響いた。
早希が驚いたように目を大きくする。
「私にだって責任はあるよ。だって、都市伝説について調べたし、一緒に友梨奈を探し出したりしたじゃん」
それに、私達友達でしょう?
どうして1人で背負い込もうとするの?
その言葉は喉の奥につまって出てこなかった。
「でも……」
「『でも』はなし。私もう決めたことなんだから」
「……うん。わかった。ありがとう絵里香」
早希はどうにか納得したように頷いたのだった。
☆☆☆
それからしばらく友梨奈からの連絡はなかったが、昼休憩に入ったタイミングでまたメッセージが送られてきた。
《友梨奈:購買でパンを盗んで来い》
そのメッセージを見て早希も絵里香も固まってしまった。
早希はスマホ画面から目をそらせずにいる。
「盗むって、どういうこと?」
十分に時間が経過してから絵里香が呟いた。
友梨奈からのメッセージを何度読み直してみても同じことが書かれている。
「万引きしろってことなんだと思う」
早希がうつむいたまま答える。
その声は震えていた。
「なにそれ。そんなのできるわけないじゃん」
絵里香が吐き捨てるように言った。
ジュースを買ってこいという命令ならまだ従うことができる。
他の誰にも迷惑をかけていないし、犯罪でもないからだ。
だけど今回は違う。
万引きは立派な犯罪だ。
友梨奈は早希を犯罪者にしたいんだ。
「こんな命令聞いちゃダメだよ。こんなの、無視していればいいから」
「でも……」
命令を無視すれば病気を元に戻される。
早希はそれをひどく恐れているのがわかった。
病弱ですぐに早退してしまう自分に戻りたくないのはわかるけれど、友梨奈のために犯罪者になるなんて間違ってる。
「とにかく、給食を食べようよ。友梨奈だってパンがなくても給食があるはずなんだから」
「そ、そうだよね」
購買で食べ物の販売はしているけれど、部活終わりだったり給食で足りなかった生徒が購入することがほとんどだ。
まだ給食を食べてもいないのにパンを購入する生徒はほとんどいない。
内心で燃え上がる怒りを抑え込みながら給食を準備し、友梨奈と席をくっつけて食べ始める。
今日のメニューは豆ごはんと卵スープと海鮮サラダだ。
どれもとても美味しそうで食欲が湧いてくる。
「さ、食べよう」
箸を手にしていただきますと口にした、そのときだった。
早希が真っ青になって動きを止めたことに気がついた。
「早希、どうかしたの?」
まさかまた体調が悪くなったんだろうかと心配したけれど、早希の視線は一点へ向けられている。
そちらへ振り向いてみると教室の入口に詩乃と直斗が立っていたのだ。
ふたりとも無表情でジッとこちらを見つめている。
さすがに木刀は持っていないようだけれど、その様子は異様だった。
「私、やっぱり行かなきゃ」
早希が怯えたように立ち上がる。
「待って、行っちゃダメだよ。万引きなんてしたら、今度はどんなことをさせられるかわからないんだから」
友梨奈の命令は絶対にエスカレートしていく。
早希がどこまで従順になれるか確認しているのかもしれない。
「でも……」
青ざめたまま、詩乃と直斗を見つめる。
ふたりは早希を監視しに来たのだろう。
きっと、早希の行動はすべて友梨奈に筒抜けだ。
「早希、スマホを出して」
絵里香に言われて早希は自分のスマホを取り出した。
すると絵里香はメッセージ画面を開くと友梨奈に返事を打ち込み始めたのだ。
《もう命令を聞くことはできません。二度と連絡してこないでください》
それが送信される直前で、早希は絵里香からスマホを奪い取っていた。
「ちょっと、なにするの!?」
「ダメ。こんなこと送ったらダメだよ」
慌ててメッセージを削除する。
送信される前で良かった。
「なに言ってるの? この命令を聞くつもり?」
「だって……だって、それしかないじゃん」
早希には見張りがついている。
それに誰のかわからない目の病気を移動させられた時の恐怖は心に深く刻み込まれていた。
友梨奈に手を握りしめられただけで突然目の前が真っ白になった。
光だけを感じていたかと思うと、それもすぐに消えて暗闇が訪れたのだ。
呼吸ができない恐怖と、なにも見えない恐怖でパニックになった。
手を伸ばしてもなにもつかめず、助けを呼びたくても苦しくて声も出なかった。
もう1度あんな思いをするくらいなら、死んでしまった方がマシだった。
「私、行く」
スマホをスカートのポケットに入れて早希は席を立つ。
その表情には覚悟があった。
「そ、それなら私も一緒に行く」
絵里香が慌てて立ち上がる。
なにかあったときに少しでも助けになりたい。
それに、ここまできて友達を見捨てるわけにはいかなかった。
ふたりが動き出したのを確認して、詩乃と直斗も動き出したのだった。
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