友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月

文字の大きさ
5 / 10

命令

しおりを挟む
絵里香と早希が期待していた通りに連絡が来ることなく、次の朝になっていた。
「今日はどうしたの? なんだか元気がないみたいだけど」

朝のトーストを食べる気になれずに紅茶だけを飲んでる絵里香にお母さんが心配した様子で声をかけた。

新聞を読んでいたお父さんも顔をあげる。
「うん……ちょっとね」

説明しようにも、とうてい信じてもらえる内容じゃない。

それに絵里香自身に降り掛かってきている出来事でもないから、安易に相談することはできなかった。

「なにかあったなら、いつでも話を聞くからね」

そんな絵里香の心情を察したようにお母さんはそう言い、それ以上は追求して来なかったのだった。


☆☆☆

朝の心地いい風が吹き抜けていって絵里香の気持ちは晴れなかった。
体育のバスケで活躍していた早希の姿を思い出すと、胸がギュッと苦しくなる。

早希は本当にバスケ部に入って活躍したかもしれない。
だけど友梨奈がいる限り、それも難しいだろう。

友梨奈に部活は禁止だと言われてしまえば、それまでだ。

悶々とした気持ちを抱えて学校に到着すると、慌てて教室から出ていく早希とバッタリ会った。

「そんなに慌ててどうしたの?」
「実は友梨奈から連絡が来て」

そう言ってメッセージ画面を見せてくる。
《友梨奈さま:今すぐジュースを買って屋上に届けに来い》

「ちょっと、これってどういうこと!?」
「あのふたりに友梨奈さまって登録するように言われて……」


それだけじゃない。
こんなメッセージを送りつけてくるなんて信じられないことだった。

仮にでも友梨奈は1年生で、早希は2年生なんだ。
こんな命令するメッセージは許せない。

「こんなの無視していいよ」
「でも……」

早希は青ざめてうつむいてしまった。
昨日の恐怖が蘇ってきているんだろう。

だったらなおさら、早希を友梨奈のところへ行かせるわけにはいかない。
「私が変わりに言ってくる。それでこんなことやめるように言う」

「それはやめて!」
早希が絵里香の腕を掴んで引き止めた。

「どうして? こんなことされて悔しくないの?」


「悔しいよ。だけど友梨奈の力は本物。どんな病気を体に溜め込んでいて、それをいつ移動させられるかわからない!」

言いながら早希の顔はどんどん青ざめていく。

病院通いが長いからか、世の中にどれほど恐ろしい病気があるのか、よくわかっているんだろう。

絵里香は下唇を噛み締めて早希を見つめた。
友梨奈からは逃れられない。

それはいつまで?
卒業するまで?

それとも、その先もずっと?
きっと、高校生や社会人なれば友梨奈の命令はエスカレートしていくはずだ。

それをずっと耐えなきゃいけないんだろうか。
絵里香は青ざめて震えている早希の体を両手で強く抱きしめた。

「それなら、私も一緒に行く」
今できることは、これくらいしかなかった。


☆☆☆

友梨奈が好きな飲物がわからないと言って、早希は何本ものジュースを自動販売機で購入した。

炭酸ジュースに紅茶にコーヒー。
両手一杯の飲み物を抱えて屋上までの階段を上がる。

「前までは階段を上がるのだって息が切れてたんだよ。それがほら、これだけのジュースを持って一段飛ばしで登っても平気なんだから」

早希が明るい声色で言って微笑んだ。
けれどその頬は引きつっている。

必死で恐怖心を押し殺そうとしているのがわかった。
絵里香はなにも答えずにただ頷く。

そしてふたりで寄り添うようにして屋上へ続くドアを押し開けた。
外はとても良く晴れていて心地よい風が吹き抜けていく。


その先に立っていたのは友梨奈と。
友梨奈の両隣には詩乃と直斗もいた。

詩乃と直斗の手には木刀が握られていて、その表情は穏やかだけれどいつでも攻撃できる体制でいることがわかった。

それを見た早希が一瞬ひるんだように足を緩める。
「どうしたの、早く持ってきてよ」

友梨奈が腕組をして催促する。
「は、はい」

早希が緊張した声で答えて早足に友梨奈へ近づいた。
「こんなに沢山買ってきたんだ?」

「は、はい。どれがいいかわからなかったので」


敬語になってしまうのは友梨奈のことが恐ろしいからだろう。
早希の体は小刻みに震えている。

「それなら連絡してくればいいのに、ばっかじゃないの?」
友梨奈が笑うと詩乃と直斗も同じように声を上げて笑った。

思わずムッとして前へ出ようとしたけれど、早希に視線を向けられて絵里香は足を止めた。

ここで文句を言えば早希の立場が悪くなる一方だ。
絵里香はどうにか苛立つ気持ちを抑え込んだ。

「じゃあ、これをもらおうかな」
友梨奈はそう言うと炭酸ジュースを早希から一本受け取った。

早希がホッとしたように頬を緩める。
友梨奈はゆったりとジュースを一口飲んだ後、先に視線を戻した。

「なにボーッと突っ立ってんの? もう用事はないから、戻れば?」
その言い方にまたカチンとくる。

ここまでジュースを運んできたのにお礼のひとこともないのはおかしい。
だけど、なにも言えなかった。

早希は友梨奈に頭を下げて逃げるようにきびすを返す。
絵里香もその後を追いかけたのだった。


☆☆☆

屋上を後にした早希は大きく息を吐き出してその場にへたり込んでしまった。
「大丈夫?」

絵里香は早希の背中をさする。
「大丈夫。さすがにちょっと怖かったけど、大丈夫だから」

それはまるで自分に言い聞かせているような言葉だった。
とても大丈夫そうには見えない。

「このままじゃダメだよ。こんな風にこき使われるなんておかしいでしょ」
「私は本当に大丈夫だから。だから絵里香は心配しなくていいから」

両手に飲み物を抱えたまま早希は言う。

その顔にはひきつった笑みが張り付いていて、どうにか絵里香を心配させないようにしようとしていることがわかった。

「これは私の問題だから、絵里香はもうついて来たりしなくていいからね」
どうにか立ち上がって階段を下りながら早希が言った。


「え? なに言ってるの?」

「だって、私の病気を友梨奈が取ってくれたんだから、絵里香はもともと関係ないんだよ」

「なんでそんな言い方するの!?」
思わず声が大きくなって、階段に絵里香の声が響いた。

早希が驚いたように目を大きくする。

「私にだって責任はあるよ。だって、都市伝説について調べたし、一緒に友梨奈を探し出したりしたじゃん」

それに、私達友達でしょう?
どうして1人で背負い込もうとするの?

その言葉は喉の奥につまって出てこなかった。
「でも……」

「『でも』はなし。私もう決めたことなんだから」
「……うん。わかった。ありがとう絵里香」

早希はどうにか納得したように頷いたのだった。


☆☆☆

それからしばらく友梨奈からの連絡はなかったが、昼休憩に入ったタイミングでまたメッセージが送られてきた。

《友梨奈:購買でパンを盗んで来い》
そのメッセージを見て早希も絵里香も固まってしまった。

早希はスマホ画面から目をそらせずにいる。
「盗むって、どういうこと?」

十分に時間が経過してから絵里香が呟いた。
友梨奈からのメッセージを何度読み直してみても同じことが書かれている。

「万引きしろってことなんだと思う」
早希がうつむいたまま答える。

その声は震えていた。
「なにそれ。そんなのできるわけないじゃん」


絵里香が吐き捨てるように言った。
ジュースを買ってこいという命令ならまだ従うことができる。

他の誰にも迷惑をかけていないし、犯罪でもないからだ。
だけど今回は違う。

万引きは立派な犯罪だ。
友梨奈は早希を犯罪者にしたいんだ。

「こんな命令聞いちゃダメだよ。こんなの、無視していればいいから」
「でも……」

命令を無視すれば病気を元に戻される。
早希はそれをひどく恐れているのがわかった。

病弱ですぐに早退してしまう自分に戻りたくないのはわかるけれど、友梨奈のために犯罪者になるなんて間違ってる。

「とにかく、給食を食べようよ。友梨奈だってパンがなくても給食があるはずなんだから」

「そ、そうだよね」

購買で食べ物の販売はしているけれど、部活終わりだったり給食で足りなかった生徒が購入することがほとんどだ。

まだ給食を食べてもいないのにパンを購入する生徒はほとんどいない。

内心で燃え上がる怒りを抑え込みながら給食を準備し、友梨奈と席をくっつけて食べ始める。

今日のメニューは豆ごはんと卵スープと海鮮サラダだ。
どれもとても美味しそうで食欲が湧いてくる。

「さ、食べよう」
箸を手にしていただきますと口にした、そのときだった。

早希が真っ青になって動きを止めたことに気がついた。
「早希、どうかしたの?」

まさかまた体調が悪くなったんだろうかと心配したけれど、早希の視線は一点へ向けられている。


そちらへ振り向いてみると教室の入口に詩乃と直斗が立っていたのだ。
ふたりとも無表情でジッとこちらを見つめている。

さすがに木刀は持っていないようだけれど、その様子は異様だった。
「私、やっぱり行かなきゃ」

早希が怯えたように立ち上がる。

「待って、行っちゃダメだよ。万引きなんてしたら、今度はどんなことをさせられるかわからないんだから」

友梨奈の命令は絶対にエスカレートしていく。
早希がどこまで従順になれるか確認しているのかもしれない。

「でも……」
青ざめたまま、詩乃と直斗を見つめる。

ふたりは早希を監視しに来たのだろう。
きっと、早希の行動はすべて友梨奈に筒抜けだ。


「早希、スマホを出して」
絵里香に言われて早希は自分のスマホを取り出した。

すると絵里香はメッセージ画面を開くと友梨奈に返事を打ち込み始めたのだ。
《もう命令を聞くことはできません。二度と連絡してこないでください》

それが送信される直前で、早希は絵里香からスマホを奪い取っていた。
「ちょっと、なにするの!?」

「ダメ。こんなこと送ったらダメだよ」
慌ててメッセージを削除する。

送信される前で良かった。
「なに言ってるの? この命令を聞くつもり?」

「だって……だって、それしかないじゃん」
早希には見張りがついている。


それに誰のかわからない目の病気を移動させられた時の恐怖は心に深く刻み込まれていた。
友梨奈に手を握りしめられただけで突然目の前が真っ白になった。

光だけを感じていたかと思うと、それもすぐに消えて暗闇が訪れたのだ。
呼吸ができない恐怖と、なにも見えない恐怖でパニックになった。

手を伸ばしてもなにもつかめず、助けを呼びたくても苦しくて声も出なかった。
もう1度あんな思いをするくらいなら、死んでしまった方がマシだった。

「私、行く」
スマホをスカートのポケットに入れて早希は席を立つ。

その表情には覚悟があった。
「そ、それなら私も一緒に行く」

絵里香が慌てて立ち上がる。
なにかあったときに少しでも助けになりたい。

それに、ここまできて友達を見捨てるわけにはいかなかった。
ふたりが動き出したのを確認して、詩乃と直斗も動き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

処理中です...