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第二部
残酷な真実、そして――
『これはいったい……王宮の周りを飛び回っていたら、おびただしい数の貴族たちが王宮を出て去って行くので、何事かと馳せ参じました。もしや私の力が必要な時が来ましたかな』
「ラディ、お願い!陛下が刺されて重傷なの!!」
私は頼もしい相棒のラディの額にキスをすると、彼の額に刻まれた魔女の契約印が浮かび上がり、光り輝きながら私の魔力と共鳴をし始める。
『全ての魔力を指先に集中させ、傷ついた部分に力を流し込んでください』
「分かったわ!」
ラディのおかげで私の魔力が増幅されているのが分かる……魔力を指先に集め、その魔力を深い傷口にゆっくりと流し込んでいった。
きっと体の中も傷ついているに違いない。
私の魔力に包まれた陛下の体は黄金の輝きを放ち、だんだんと目視でも血が止まってきたのが分かる。
「血が止まってきたわ」
『その調子です!傷口が全て塞がるまで続けてください』
私は返事の代わりに大きく頷き、更に指先の魔力を強めていった。
塞がって…………お願い………………全ての傷口が塞がり、血が止まれば陛下も助かるはず……!
ゆっくりではあるものの、止めどなく血が流れ出ていた傷口から血が出なくなり、やがて皮膚と皮膚がゆっくりとくっついてきて、みるみる痕が消えていったのだった。
最後まで魔力を送り続け、血を大量に失った陛下の体力も回復させるように努める。
私の魔力に包まれた陛下は、先ほどまで青白いお顔をしていたけれど、だんだんと血色がよくなり、唇にも赤みが戻ってきた。
「……………………う…………っ」
「「陛下!!」」
「「父上!!」」
意識を失っていた陛下の目が徐々に開かれていく。
目で辺りを見渡し、自力で上体を起こそうとし始めたので、王妃殿下が慌てて陛下を支えた。
「私は………………助かった……のか…………?」
国王陛下の御言葉に皆が笑顔で陛下に抱きつき、喜びに溢れた。
衛兵たちもホッとした表情を浮かべ、捕らえた侍女のそばにいたドミニク様も目を細めて喜んでいらっしゃる。
良かった――――私は成功したのよね。
『ティナ様、頑張りましたな』
「ラディのおかげよ…………っ!!」
心の中は喜びでいっぱいだったけれど、沢山の魔力を使ったからか頭がくらくらしてきて、自分の体に力がはいらなくなっていく……フラッと倒れそうになる私の体を隣りにいらっしゃったディクセル王太子殿下が咄嗟に支えてくださった。
「クリスティーナ!」
「…………申し訳、ございません……」
「ティナ!」
ドミニク様も駆けつけてくれて、心配そうな表情を向けてくれた。
しかし陛下が回復した事にショックを受けた侍女が、大きな声で抵抗し始めたのだった。
「おのれ!離せぇぇぇぇぇぇええ!!魔女め、お前さえいなければ父上がっっ!!」
ドミニク様がゆっくりと立ち上がって暴れる侍女の元へ行き、押さえつけられている彼女の近くに膝をついて、諭すように真実を告げる。
「お前の目には私たちは贅を尽くしている阿呆に見えるのだろう。しかし、お前が慕う公爵も同じだ」
「違う!父上は私とお母さんを助けてくれた!!下々の者に見向きもしないお前たちとは違う……!」
「お前の母親はどうして死んだと思う?」
ドミニク様の問いに何を聞かれているか分からないと言った表情のリドリス。
恐らくフェンデルバーグ公爵は嘘の情報を彼女に伝えていたのだろうという事は、彼女の様子からもすぐに分かった。
「…………どうしてって……病気が急変したのだと……父上が…………」
「公爵に殺されている。先王陛下に手を掛けた口封じにな」
真実を告げられたリドリスの瞳が泳ぎ、何を言われたのか分からないといった表情だった。
胸が痛い…………きっと父親であるフェンデルバーグ公爵の事をずっと信じ続けていたに違いないのだから。
「そんなバカな……っ!お前が真実を言っている証拠などないではないか!!」
「これはお前の母親の物だろう?」
そう言ってドミニク様が見せたのは、小さなミサンガという腕輪だった。
「どうしてそれを…………」
「お前の母親を手に掛けた者から頂戴したのだ」
「……………………」
リドリスはまだ信じないといった表情でドミニク様を睨み付けていたので、ドミニク様は言葉を続けていく。
「お前の母親がいた娼館のオーナーであるサイモンだ」
「サイモン?時々お母さんに会いにきていた男…………」
「お前の母親に手をかけたのは痴情のもつれもあっただろうが、公爵からの報酬目当てでもあったのだろう。サイモンは今に至るまで公爵から支援金をもらいながら娼館を運営している。信じるも信じないもお前次第だ……貴族というのはお前が思っているよりもずっと狡猾だ。ただの善意で施しをする者などいない」
「……………………う、う…………ッうわああぁぁぁぁ!!!!」
真実を受け入れられないリドリスは半狂乱になり、フェンデルバーグ公爵と共に衛兵に引きずられるように連れて行かれたのだった。
連れて行かれる際、リドリスが閣下を父上と呼ぶと、閣下はリドリスを散々罵倒し「お前なぞ娘ではない!」と切って捨てる言葉が聞こえてきた…………こういう結末になる前に、どうにかあの母娘を救ってあげられなかったのだろうかと思ってしまうほど、哀れな終わり方――――
「…………あの者もまた、いいように使われていただけなのは分かってはいるが、あの母娘がしてきた事に恩赦を与える事は出来ぬ」
「陛下……」
皆が陛下の言葉の重みを感じ、リドリスやフェンデルバーグ公爵が去ったホール内は静寂に包まれたのだった。
そんな中、ドミニク様がディクセル王太子殿下に支えられていた私のもとへとやって来る。
「ディクセル、ティナを支えてくれて感謝する」
「あ、いえ。咄嗟の事でしたから」
「そろそろ休ませてあげたい」
「は、はい!」
ドミニク様は私を軽々と抱き上げ、王族の方々の方へ向き直った。
「ディクセル王太子殿下、助けてくださってありがとうございます」
「いや……何もしてないよ、私は。ゆっくり休んで」
体調の悪い私を支えてくださっていた王太子殿下にひと言お礼が言いたくてお声をかけたけれど、私よりも殿下の方が調子が悪そうな……お顔も赤いし、どうしたのかしら。
不思議に思う私の手の甲にキスをし、「父上を助けてくれて、ありがとう」と逆にお礼を言われてしまうのだった。
「クリスティーナ、私からも礼を言わせてほしい」
「クリスティーナ様、私からも……なんてお礼を伝えればいいか」
国王陛下と王妃殿下がそう仰ってくださって恐縮しきりだった私に、ドミニク様が助け舟を出してくれる。
「まぁそういうのは後日ゆっくりお茶でもしながら。隣の客室を使っても?」
「気が利かなくてごめんなさい!そうよね、お休みしなくては。どうぞお使いになって」
「ありがとうございます」
ドミニク様が色々とお話を進めてくださり、私を抱きかかえたまま颯爽とその場を後にし、隣の客室を使って休ませていただける事になったのだった。
その後ろをラディが飛んでくるのが見える。
沢山の魔力を使い切ってヘトヘト……ドミニク様の腕の中は良い匂いがするし、温かくて安心するわ。
このまま眠れそうな感じもする――――
私はずっと緊張にさらされ、魔力も使い切っていた事から激しい眠気に襲われてしまい、客室のベッドで寝かされる頃にはうとうとし始めていた。
「ティナ、お疲れ様。それに兄上の事、本当にありがとう」
「ドミニク様…………お礼などいいのです。助けられるかは不安でしたが、助ける選択肢以外ありませんでしたもの。成功して良かった……」
私がホッとしたようにそう言うと、ラディが得意げに話し始めた。
『半分くらいは私のおかげですな』
「まぁ、今回はそうかもな」
『ドミニク殿がお認めになるとは!明日は雪がふるかもしれませぬ……』
「ラディったら」
私は2人のやり取りに思わず笑ってしまう。
さっきまでの緊張が嘘のような平和なやり取りに、体の力が抜けていくわ。
今日は月があまり見えないので、室内も暗く、どんどん意識が遠退いていく。
「そうだ、お水を持ってくるね。着替えも借りてくるよ。ティナは休んでていいから」
「あり、がと、う……ござ…………」
ドミニク様の後ろをラディが飛んでいくのが目の端に入ってきた…………きっと2人で色々としてくれるのね。
今夜はドミニク様とゆっくりベッドで眠って、朝を迎えられるに違いない。
陛下をお助けする事が出来て、本当に良かった。
フェンデルバーグ公爵もリドリスも捕まったし、これで解決――――色々と解決をして安心したのか、私はお礼を最後まで言う事が出来ずに意識を手放してしまう。
次に目覚めた時の事を思い、幸せな眠りに落ちていった。
しかし次に目覚めた場所は、自分が眠ったはずの客室のベッドではなく、ヤヌシュと一緒に馬車に乗っているとは、夢にも思っていなかったのだった。
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