12 / 36
ここに留まる
しおりを挟む「レブランド様……?」
「ずっと、ずっと君を探していた。四年半ずっと……まさか子供まで…………」
四年半ずっと探していた?
どういう事だろう。ヴェローナ様と結婚したのではないの?
私が2人の邪魔をしていたはずなのに。レブランド様は賭けにも勝って、悠々自適に暮らしているとばかり思っていたのに。
どうしてこんなに必死になって――――混乱する私をよそに、アルジェールが身をよじり、レブランド様の腕からすり抜けた。
「ぷはぁ!」
「す、すまない、アルジェール」
「? あ――――カッコいいきしさまだ!!かぁさま、きしさま来てくれた!」
「え、ええ。そうね、よかったわね」
アルジェールは、自分のもとに先ほどの騎士様が来てくれたと大喜びしている。
混乱しまうでしょうから、本当の事はまだ話すべきではないわね。
そこへリイザさんもやって来て、レブランド様に言葉をかけた。
「騎士団長様、あなた様の言い分は分かりました。でも我々も彼女達の事を大切に想っているんですよ。いきなり現れて連れて帰るなんて横暴じゃないですか?」
「え?!」
「カタリナは戻りたいのかい?」
「いいえ」
リイザさんに聞かれ、キッパリと、そしてハッキリと伝えた。
彼の為に自分から出て来たのだ。
今更戻りたいなどと言える立場でもないし、自分の居場所ではない邸に突然連れて帰ると言われて、そうですかと言う風にはならないわ。
「レブランド様、なぜあなたがここに来たのか分かりませんが、私には今の暮らしが大切なのです。必要であらば離縁書をまた書きますしアルジェールに会いに来るのは構いませんが、邸に戻るつもりはありません」
「そうか……」
ここまでハッキリと伝えれば帰ってくれるわよね。
身を切られるような想いをしながら書いた離縁書……あれをまた書かなくてはならないのは気が進まないけれど、あの邸は私の居場所ではないから。
これで全てが終わり、そう思ったのに。
レブランド様から、予想もしていなかった言葉が放たれた。
「分かった。それならば私がここに残る。君たちが帰りたいと言うまでそばにいるとしよう」
「え?」
「わぁぁい!」
「ちょっ、ちょっと!どういう事だい?!」
「どうなってるんだよ!!」
「団長――!!」
彼の言葉に色々なところから悲喜こもごもな声が上がる。
アルジェールはよく分からないけど憧れの騎士様がいてくれるから喜んでいるわね。
リイザさんやラルフは混乱しているし、騎士団の方々も慌てている。
でも当の本人であるレブランド様だけは落ち着いていた。
そして入口付近にいる騎士団の方々に何かを伝えると、騎士団の方々はそのまま去って行った。
「先ほども伝えた通り、私もここに留まり、君たちを取り戻す努力をする事にした。パン屋の方々もよろしく頼む」
「は、はあ……」
ラルフは呆気に取られた返事をしている横で、リイザさんが思い切り笑っている。
「あっはっはっ!面白い人ですね、騎士団長様は!」
「レブランドでいい。カタリナの大事な人は私にとっても大切な人だ」
「ありがとう。じゃあレブランドさんもパン屋を手伝っておくれよ。お兄さんが手伝ってくれたら売り上げ上がりそうだからさ」
「母さん!!」
「リイザさん、それは……!」
慌てる私とラルフをよそに、レブランド様は何か思案している様子を見せた後、すぐに快い返事をした。
「相分かった。そうするとしよう。ここで働けばカタリナやアルジェールにも会えるしな」
「そうそう!ちょうどいいだろ?」
「ではその間、ここに住まわせてもらおう」
「もちろんOKだよ」
どうなってるの……相手は鬼神と言われるジグマリン王国の騎士団長であり公爵様なのに、パン屋のお手伝いって。
それよりも邸に戻らなくてもいいのかしら。
帰りを待ってる方がいるのでは?
なぜか喉まで出かかった言葉を口にする事が出来ない。
一つ言える事は、私に今の彼の意思を変える事は出来ないという事だった。
でも彼の目的がアルジェールだったら諦めてもらわなくては困る……息子を奪われるのだけは絶対に阻止しなくては。
ひとまず今日は自宅へ帰るしかなさそう。
疲れた……色々と話はまとまったと思うと、ドッと疲れがやってきてしまう。
「じゃあ、今日は私達帰りますね」
「ああ、また明日ね!」
「カタリナ、送るよ」
いつものようにラルフが申し出てくれるので頷くと、ふいにレブランド様に腕を引かれたので振り返った。
「ラルフとやらが送る必要はない。私が送るのだから」
「なっ!俺がいつも送っているんだから俺が送る!」
「必要はない」
「もう二人とも……」
「めっ!!」
私の代わりにアルジェールが間に入って、二人にお叱りをしてくれたようだ。
「ごめん……」
「すまない……」
「あっはっはっ!アルが一番大人だね!皆で行けばいい、レブランドさんは二人の家を知らないんだし」
「感謝する」
こうしてなぜか、私とアルジェール、ラルフに加えてレブランド様も一緒に自宅へ向かう事となった。
その道すがら、可愛い息子はラルフとレブランド様に両手を持ってもらい、宙に浮いたりしてはしゃいでいる。
「きゃ――――っ!!」
「そらよっと!」
「………………」
レブランド様は小さい子供をあやした事がないのか、無表情のままアルジェールを持ち上げていた。
はしゃいでいる息子が可愛い。
レブランド様の無表情を見ても怖じ気づかないアルジェールは大物かもしれない。
大人二人に構ってもらえてとても満足したのか、心なしか息子の表情がいつもより明るい気がする。
もしかして心のどこかで父親だと気付いているとか?
いつまでも隠してはおけないので、どこかのタイミングで伝えなくてはならないわね……今はまだ早いけれど、ここにいる内に伝えたいとは思っていた。
パン屋から歩いて15分ほど離れたところに小さな木造二階建ての家があり、そこでアルジェールと二人、細々と暮らしていた。
庭には少し畑もあって、お野菜を育てたり、花壇を作ってお花を育てたり。
私たち二人にとっては小さなお城だ。
「二人とも、ありがとうございます」
「ありがとうごじゃました!」
「どういたしまして。ここに住んでいるのか?」
「ええ」
「私も一緒に……」
「さぁ、レブランドさんは帰りましょう!」
何かを言いかけたような気がするけど、ラルフが腕を引いて連れて行ってしまったのだった。
「ばいばーい!」
アルジェールは二人に向かって元気に手を振っている。
息子がいてくれるおかげでレブランド様との間がなんとかなっている気がするわ。
まだ何を話せばいいか気まずいけれど、ここにいる間に少しでもお互いの本音を話して、彼が彼の人生を歩めるようになればいいと願った。
278
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
婚約者は嘘つき!私から捨ててあげますわ
あんり
恋愛
「マーティン様、今、わたくしと婚約破棄をなさりたいと、そうおっしゃいましたの?」
愛されていると信じていた婚約者から、突然の別れを告げられた侯爵令嬢のエリッサ。
理由も分からないまま社交界の噂に晒され、それでも彼女は涙を見せず、誇り高く微笑んでみせる。
―――けれど本当は、あの別れの裏に“何か”がある気がしてならなかった。
そんな中、従兄である第二王子アダムが手を差し伸べる。
新たな婚約、近づく距離、揺れる心。
だがエリッサは知らない。
かつての婚約者が、自ら悪者になってまで隠した「真実」を。
捨てられた令嬢?いいえ違いますわ。
わたくしが、未来を選び直すの。
勘違いとすれ違いから始まる、切なくて優しい恋の物語。
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる