【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling

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お泊りとお別れ


 パン屋の二階には幾つかの部屋があり、その一室で布団を並べ、アルジェールを挟んで三人で寝転がった。

 「きゃははっ」
 「アル、もう寝る時間よ」
 「やだぁ――眠くないもん!」
 「アルは元気だね」
 「まったく、もう……」

 すっかりお泊りで気持ちが高揚してしまっているわね。
 こうなったらなかなか眠らないかもしれない。
 リイザさんたちは明日も朝早くからお仕事なのに……。

 「まぁいいじゃないか。明日起きられなかったらウチの人とラルフが頑張ってくれるだろう」
 「ごめんなさい」
 「いいんだよ!私は嬉しいだけだからね」
 「ぼくもうれしいの」
 「そうかい!あははっ」

 アルジェールの言葉にリイザさんも負けないくらい元気だ。
 私も二人につられて心が温かくなっていく。

 「じゃあ、このまま寝ながらお話でもしましょうか」
 「そうだね!」
 「あい!」
 「私、アルジェールを生む前の事、リイザさんに何もお話していなくて」
 「そうだねぇ」
 「何も聞かれないのをいい事にここまでズルズルきてしまいました」
 「そんな事気にしてたのかい?」

 おかみさんは、なんて事はないように言い放つ。
 私はその事が心苦しくてたまらなかった。
 こんなに良くしてくれているご家族に自分の事情を全く話していないなんて……あなた方を信用していないと言ってるようなものだもの。

 「何か事情があるのは分かっていたし、人には言いたくない事の一つや二つ、あるってもんさ」
 「そうそう!」

 よく分かっていないくせに、アルジェールが間に入ってくる。
 ラルフのような口調をするようになってきた気がするわ。

 あと数日しかここにいられないから、私は全てを話す事にした。
 リイザさんはずっと真剣に聞いてくれて、話し終わった後、優しく頭を撫でてくれたのだった。
 家族にも撫でてもらった事などないのに……涙が出そうになるのをグッと堪える。

 「あんたはいつも頑張っているんだから、もう少し自分の頑張りを褒めてあげなきゃ」
 「自分の頑張り……」
 「アルもこんなに素直に育っているし、もっと褒めてもいいのに。いつも”まだまだだ。もっとちゃんとしないと”って思っているだろう?」
 「はい」
 「これからはレブランドさんと二人で頑張っていくんだよ。一人でやらなくてもいいんだから」
 「はい……っ!」

 やっぱり涙は自然と流れてくる。
 これからはレブランド様と……頼ってもいいのよね。
 いつの間にか隣のアルジェールから寝息が聞こえてきて、視線を移すとすっかり寝落ちしていたのだった。
 私とリイザさんは顔を見合わせて笑う。
 こんな日常も終わりが近づいているけれど、またいつでも会いにくればいいと考え、その夜は眠る事にした。
 
 そしていよいよロッジェ村を離れる日――――

 「荷物はだいたい持ちましたが、ある程度はあの家に残していきます。今度来た時の為に」
 「そうかい!それは楽しみだ!」
 「皆様、大変お世話になりました……また必ず遊びに来ますので!」
 「いつでも来てくれ」

 ラルフがそう言いながら私の頭とアルジェールの頭を撫でる。

 「ラルフ、あの……」
 「いいよ、言わなくて。分かってるから」
 「ごめんなさい。そして、ありがとう」
 「いいさ。でもこのくらいはもらおうかな」

 次の瞬間、ラルフに腕を引かれ、頬に柔らかい感触がする。

 「ラルフ!!」

 レブランド様が烈火のごとく怒って、ラルフを追いかけて行った。
 騎士でもあるのでとても足が速いレブランド様だけど、ラルフも速くてなかなか捕まえられない姿に、思わず笑ってしまう。
 私は不意打ちよりも、皆とのやり取りがもう日常ではなくなってしまう事が寂しくなる。
 このままだと離れられなくなりそうだわ。

 「そろそろ行きましょう!レブランド様!」
 「カタリナ!今行く!」

 私の声にすぐに戻ってくるレブランド様。
 若干慌てているようにも見えて、なんだか微笑ましい。
 
 「まったく、何をやっているんだか」
 「リイザさん、お騒がせしてごめんなさい」
 「いいんだよ。また遊びに来ておくれ!今度はもう一人家族が増えてそうだけど」
 「え?!」
 「それは……頑張るしかないな」
 「あっはっはっ!気を付けてね!」

 「はい!」「いってきまーす!」

 アルジェールはどこかにお出かけするかのように、皆に声をかけた。
 きっとどこに行くのかは分かっていないわね。
 息子にとっても環境が変わるから、しっかりとケアしてあげなくては。
 それに、また会いに来る事が出来るのだから……お世話になった村の方々にも手を振り、馬車に乗り込む。
 そして彼らの姿が見えなくなるまで、ずっと、ずっと手を振り続けたのだった。

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