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※10日に1度の恋人
あれはいつだったか……あまりにも遠い記憶過ぎて姿形も朧気だけれど、幼い頃に将来を誓い合った男の子がいた。
自分の別荘に遊びに行っていた時。
母親同士が親友だという事で遊ぶようになった男の子……名前はなんだったかしら。
そう、たしかリオンって呼んでいたと思う。
『ミリー。ぼくたち、しょうらい”けっこん”するんだって』
男の子は花冠を私に作って、頭に乗せてくれる。
『そうなの?』
『うん!うれしいなぁ』
『ふふっ、そうなったらいいわね!』
私はどうして結婚するのかよく分かっていなかったけれど、その男の子と一緒にいるのがとても楽しくて、そうなってほしいと心から願っていた。
『やくそくだよ』
『うん!やくそく』
互いの小指を交差させ、つたない約束をする。
結局その約束は果たされぬまま。
我が伯爵家は没落し、多額の借金を背負い……両親の命を救う為、私は娼館へ送られた――――
ふと目覚めると、店の一室の天井が目の前に広がっている。
「……あら?」
「目覚めたか?少しうたた寝をしていたようだぞ」
「そう……」
お客の前でこんな事は滅多にないのに。
ボーっとする頭を起こし、先ほどまで隣にいた背中に視線を移す。
ついさっきまでベッドで乱れていたダークブラウンの髪は綺麗に整えられ、汗ばんでいた肌はその余韻を全く残していない。
整った顔立ちにバランスの取れた肢体。
程よい筋肉質な体に組み敷かれ、今夜も熱い夜を過ごした……けれど。
彼の専属娼婦になり、「10日に1度の恋人役を演じる」契約をした相手はすでにベッドから立ち上がり、テキパキとシャツを着るところだ。
もうこの光景を何度見ただろう。
あまりにも淡泊な姿に最初こそ驚いたけれど、今となっては慣れたもの。
でも少しずつ積み重なっていく胸の痛みに慣れる事はない。
「それでは失礼する」
「ええ、また10日後に。ヴァレリオ様」
無機質な扉が開かれ、古びた音を立てながら閉まっていった。
パタンッ。
一人になった室内は静寂に包まれ、恐ろしいほどひんやりしているように感じる。
この国に冬はないのに。
私は薄い毛布にくるまりながら窓際に立ち、彼が馬車に乗り込んで帰る姿を見送る。
「またね、ヴァレリオ・ミシェンコ侯爵閣下」
返事が返ってくるはずのない窓に向かって、一人呟いた。
◆◆◆
私はコンサヴァル伯爵家の一人娘ミリタニーとして、善良な両親に愛情をたっぷりと注がれながら育った。
しかしお父様がとある貴族に嵌められ、多額の借金を背負わされて没落するしかなくなり、両親を救う為に一人娼館送りを選ぶ。
それは奇しくも私の20歳の誕生日に起こった出来事だった。
ヴァレリオ様とは私が娼館へ送られてからすぐに出会う。
というより客としてやってきた彼が初仕事の私を一目で気に入ったらしく、多額の金を店に払って彼専用の娼婦として私を買ったのだ。
これから数多の客の相手をしなくてはならない事に怯えていたので、私はすぐに飛びついた。
ヴァレリオ様の名前と評判だけなら少しだけ聞いた事があったし、彼に一目会って、その姿や雰囲気、彼の瞳に宿る熱に『この人なら……』と思えた。
店としても羽振りの良い客という事で、どうぞ専属でと差し出されたのだ。
彼だけの娼婦……それが私に与えられた役目。
それが甘く苦しい恋の始まりだとも思わずに――――
初日にヴァレリオ様から提案されたのは、「10日に1度、恋人を演じてほしい」という事。
なんて事はない、彼が来た時は恋人として甘く熱い夜を提供しろという事だ。
私は愛や恋は分からなかったけれど、とにかくやるしかないと思い、承諾した。
「私でよければ、喜んでお相手させていただきますわ。閣下」
「ミリタニー。私の事はヴァレリオと呼んでくれ。君の事もミリーと呼ばせてもらおう、恋人だからな」
そういう事……もうここから恋人の演技は始まっていたのね。
「分かりましたわ。ヴァレリオ様」
「ミリー、君に出会えて私は幸せ者だ」
艶やかで長めのダークブラウンの髪が、私の顔を掠めていく。
彼の手が頬に触れ、優しく撫でた。
男性なのに、なんて美しい方なのかしら。
「ヴァレリオさ、ま……っ」
切れ長の目に黒曜石を思わせる瞳は熱を帯び、私の唇を奪っていく。
名実ともに初めてのキス。
最初は触れ合うだけだったけれど、次第に啄むように唇を食まれていく。
「んっ……」
「ミリー、口を開いて」
言われるがまま唇を開くと、彼の分厚い舌がねじ込まれた。
「んんっ」
互いの舌が絡み合い、歯列をなぞられると背中が粟立っていく。
キスってこんなに熱烈なものなの?
初めての経験に頭が混乱し、息をするのも忘れて彼の舌に絡みついていた。
「っはぁ……ぁ……」
「鼻で息を吸うんだ」
「は、い……」
もう終わりかと思ったけれど、彼のキスはねちっこくて、まるで味わうように唾液をすすっている。
それが嫌じゃないのが不思議だった。
ようやく唇が離れた時、私はすっかりクタっとしてしまっていて、彼が本気で心配をしてくる。
「ミリー、すまない。君の唇があまりに美味しいから」
私は彼の言葉に一瞬ドキッとしてしまう。
恋人同士の設定なのだから当たり前の事……早く慣れないと。
「嬉しい、ヴァレリオ様」
「ミリー、君がもっとほしい」
これほどの美丈夫にほしいと言われれば、誰でも嬉しくなってしまうものかしら。
ヴァレリオ様は最初はほとんど笑わなかったのに、恋人役を演じ始めると途端に優しく蕩けるような笑顔を見せてくる。
反則よ……それなのにベッドだと獣のような瞳になるのだ。
「怖がらないで」
「はい……」
私が震えていたからか、落ち着かせるように耳元で囁く。
怖い気持ちだけで震えているわけではなくて、これは多分……ほんの少し期待する気持ちが入り交じっているのかもしれない。
ついこの前まで伯爵令嬢だったのに、なんてはしたないの。
でも貴族としての矜持を持っていたところで、ここでは何の役にも立たない。
とにかく両親を守る為に……そしていつか、私たち家族を壊した貴族に必ず復讐する為に……今は侯爵閣下に気に入られなければ。
でも私の焦りにも似た気持ちは、彼によって全て塗り替えられていく。
「ミリー、君は素晴らしい」
ヴァレリオ様の手が優しく夜着を脱がしていき、前のリボンを解けば全てが露わになった。
恥ずかしくてたまらなくて体を隠そうとするも、両手は彼の手でベッドに縫い付けられてしまう。
「だめぇ……っ」
誰にも見られた事のない部分まで全て、彼の目の前に差し出されてしまう。
ヴァレリオ様は上から下まで、余す事なく見つめ、ひと息吐いた。
「こんなに素晴らしいものを隠してはいけない」
ピンと勃ち上がった胸の花蕾を視界に捉えると、彼は舌を絡めて口に含んだ。
「はぁ、ぁあっ!」
「こっちも可愛がってあげないと」
反対の蕾も指で捏ねて引っ掻き、強く抓む。
こんな刺激を与えられた事がなく、体が弓なりにのけ反り、下腹部は性急に切なくなっていった。
「ああ、そんなっ!」
「快感に抗う事はないんだ。もっと感じて」
すっかり硬くなった先端を散々弄られながら、耳元で悪魔の囁きをしてくる。
そして耳の内耳を舌で舐られると、下半身に溜まった熱が押し上げられ、体中を快感が突き抜けていった。
「あ、だめっ、なんかクルッ……~~っ!!」
小刻みに体が震え、痙攣を繰り返しながら快楽で頭が痺れていった。
これが私の人生で、初めて経験する絶頂だった。
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