【完結】10日に1度の恋人~初めて愛した人は、復讐相手の夫でした~

Tubling

文字の大きさ
4 / 36

ご奉仕させていただきます 1


 翌日、初仕事の余韻からか腰が重く、ぐったりする私を娼館の先輩が労わってくれた。
 ここに送られてきた時に一番最初に優しくしてくれたオーナーのマリエッタ姐様は、心底心配してくれている表情で、テーブルに突っ伏している私の頭を優しく撫でてくれる。

 「あんた大丈夫?あの侯爵様、見かけによらず激しいのかい?」
 「え?!」
 「だって見た目は淡泊そうだろう?あっちの方はどうなのかなと思っていたけれど」
 「姐様!」
 「姐さんでいいんだよ。言葉遣いにも育ちの良さが出ちまってる」
 「ごめんなさい」
 「そこが可愛いところなんだけどね。変なヤツに目をつけられらたら大変だ。あんたを買い取ったのがあの侯爵様で良かったんじゃないかい?」
 「………………」

 そうなのだろうか。
 恋人役を演じるのはなかなか難しく、20歳ではあるけれど恋愛経験などまるでない。
 昨夜の恋人役のイメージは、恋愛小説を沢山読んでいたので、その中の人物を真似ただけ。
 私はとりわけ恋愛小説を読む事が大好きで、夜会よりもずっとそれを読んでいる人間だった。
 
 知識だけは沢山あるのよね……でもこの恋人契約については娼館の皆に話すわけにはいかない。
 
 ヴァレリオ様にも”秘密だ”と言われているから。
 オーナーのマリエッタ姐さんだけは知っているみたいだけど。

 「まぁ、今日はゆっくりしなよ。どうせ次まで時間があるんだろう?」
 「はい。でも支給された衣服を整えたり、館内の清掃もありますので、頑張ります」
 「来たばかりなのに……すまないね」
 「でも仕事を言われていた方が色々考えなくて済みますから」

 私の言葉に姐さんがまた頭を撫でてくれる。
 マリエッタ姐さんは、かつてこの娼館の稼ぎ頭でナンバーワンの娼婦だった。
 経験も豊富だし、本来のオーナーの愛人でもあり、今はオーナーを任されている。
 きっと新しく来た新人の面倒を見てくれているのね……彼女のおかげで何とかやっていけてるもの。
 
 「あら、こんなところでサボっていられる”元”ご令嬢はいいわね!」
 「ほーんと。侯爵様専属になったからヒマなんじゃないかしら?」

 当然私の事を気に入らない人達もいて、ロリエ姐さんとハグリー姐さんもそうだ。
 
 「……あんた達、自分で言ってて恥ずかしくないのかい?」
 「だ、だってミリタニーばかり、ズルいじゃないかっ!」「そうよ、来たばかりですぐに侯爵様にお声をかけられるなんて!!」

 彼女たちの言葉に反論する言葉も見つからない。
 でも私はここで躓いているわけにはいかないわ……いつかあの大貴族に復讐する為にも、ここで味方を増やしておかなくては。
 私は彼女達の前へ進み出て、2人の手を握った。

 「ロリエ姐さん、ハグリー姐さん。私、ここが自分の家だと思って頑張りますので、色々教えてくれると嬉しいです!」

 明らかに動揺する二人。
 良かった、まだ拒絶されるほど嫌われているわけではないみたい。

 「ふ、ふん!私らにとってもここが家なんだ。あんたが頑張るって言うなら仲間にしてやってもいいけどね」
 「ホントですか?!ありがとうございます!」

 なんとか嫌われないで済んだみたい……私はホッと胸を撫でおろした。
 その様子を見ていたマリエッタ姐さんは、あとで「やるじゃないか」と小声で褒めてくれたのだった。
 きっと無駄な事など一つもないから、ここでしっかり頑張ろう。
 ヴァレリオ様は10日に1度しか訪問されないので、その間、自分に出来る仕事をしっかりとこなす事に集中した。
 
 ◆◆◆

 約束の10日後。
 私は閣下専属なので、外で男性を誘うような服装をする必要がない。
 オーナーにはヴァレリオ様が飽きないように、色気を出しなさいと言われているものの、正直どうすればいいか分からなかった。
 もし閣下に飽きられてしまったら……様々な男性を相手にしなくてはならない。
 想像しただけで体中が震え、怖くなってくる。

 でも私はもう貴族ではないし、あの頃には戻れないのだから嫌がってる場合ではない。そう思うのに……早くヴァレリオ様が来てほしい。
 恋人役になりきり、甘い言葉で包まれたい。
 次の瞬間、扉がゆっくりと開いていく。

 そしてそこから顔を覗かせたのは、少し雨に濡れたヴァレリオ様だった。
 
 「閣下!雨が降っていらしたのですね……こちらへ」
 「ミリー」

 もう演技が入っているのか、極上の笑顔を向けてくれる。
 さっきまで弱っていた心が温かくなっていくわ。
 私は厚手の布を持ってきて、彼の顔や髪など濡れているところを拭いてあげた。

 「ありがとう。でも大丈夫だ」
 「でも」
 「それよりも早く君がほしいから」
 「ヴァレリオ様……」

 ヴァレリオ様はサッと外套を脱ぎ捨て、私を引き寄せる。

 「あ……」

 すぐに重なる唇に、頭の中はすべてヴァレリオ様で塗りつぶされていった。

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】裏切られた私はあなたを捨てます。

たろ
恋愛
家族が亡くなり引き取られた家には優しい年上の兄様が二人いました。 いつもそばにいてくれた優しい兄様達。 わたしは上の兄様、アレックス兄様に恋をしました。 誰にも言わず心の中だけで想っていた恋心。 13歳の時に兄様は嬉しそうに言いました。 「レイン、俺、結婚が決まったよ」 「おめでとう」 わたしの恋心は簡単に砕けて失くなった。 幼い頃、助け出されて記憶をなくして迎えられた新しい家族との日々。 ずっとこの幸せが続くと思っていたのに。 でもそれは全て嘘で塗り固められたものだった。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。