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ご奉仕させていただきます 1
翌日、初仕事の余韻からか腰が重く、ぐったりする私を娼館の先輩が労わってくれた。
ここに送られてきた時に一番最初に優しくしてくれたオーナーのマリエッタ姐様は、心底心配してくれている表情で、テーブルに突っ伏している私の頭を優しく撫でてくれる。
「あんた大丈夫?あの侯爵様、見かけによらず激しいのかい?」
「え?!」
「だって見た目は淡泊そうだろう?あっちの方はどうなのかなと思っていたけれど」
「姐様!」
「姐さんでいいんだよ。言葉遣いにも育ちの良さが出ちまってる」
「ごめんなさい」
「そこが可愛いところなんだけどね。変なヤツに目をつけられらたら大変だ。あんたを買い取ったのがあの侯爵様で良かったんじゃないかい?」
「………………」
そうなのだろうか。
恋人役を演じるのはなかなか難しく、20歳ではあるけれど恋愛経験などまるでない。
昨夜の恋人役のイメージは、恋愛小説を沢山読んでいたので、その中の人物を真似ただけ。
私はとりわけ恋愛小説を読む事が大好きで、夜会よりもずっとそれを読んでいる人間だった。
知識だけは沢山あるのよね……でもこの恋人契約については娼館の皆に話すわけにはいかない。
ヴァレリオ様にも”秘密だ”と言われているから。
オーナーのマリエッタ姐さんだけは知っているみたいだけど。
「まぁ、今日はゆっくりしなよ。どうせ次まで時間があるんだろう?」
「はい。でも支給された衣服を整えたり、館内の清掃もありますので、頑張ります」
「来たばかりなのに……すまないね」
「でも仕事を言われていた方が色々考えなくて済みますから」
私の言葉に姐さんがまた頭を撫でてくれる。
マリエッタ姐さんは、かつてこの娼館の稼ぎ頭でナンバーワンの娼婦だった。
経験も豊富だし、本来のオーナーの愛人でもあり、今はオーナーを任されている。
きっと新しく来た新人の面倒を見てくれているのね……彼女のおかげで何とかやっていけてるもの。
「あら、こんなところでサボっていられる”元”ご令嬢はいいわね!」
「ほーんと。侯爵様専属になったからヒマなんじゃないかしら?」
当然私の事を気に入らない人達もいて、ロリエ姐さんとハグリー姐さんもそうだ。
「……あんた達、自分で言ってて恥ずかしくないのかい?」
「だ、だってミリタニーばかり、ズルいじゃないかっ!」「そうよ、来たばかりですぐに侯爵様にお声をかけられるなんて!!」
彼女たちの言葉に反論する言葉も見つからない。
でも私はここで躓いているわけにはいかないわ……いつかあの大貴族に復讐する為にも、ここで味方を増やしておかなくては。
私は彼女達の前へ進み出て、2人の手を握った。
「ロリエ姐さん、ハグリー姐さん。私、ここが自分の家だと思って頑張りますので、色々教えてくれると嬉しいです!」
明らかに動揺する二人。
良かった、まだ拒絶されるほど嫌われているわけではないみたい。
「ふ、ふん!私らにとってもここが家なんだ。あんたが頑張るって言うなら仲間にしてやってもいいけどね」
「ホントですか?!ありがとうございます!」
なんとか嫌われないで済んだみたい……私はホッと胸を撫でおろした。
その様子を見ていたマリエッタ姐さんは、あとで「やるじゃないか」と小声で褒めてくれたのだった。
きっと無駄な事など一つもないから、ここでしっかり頑張ろう。
ヴァレリオ様は10日に1度しか訪問されないので、その間、自分に出来る仕事をしっかりとこなす事に集中した。
◆◆◆
約束の10日後。
私は閣下専属なので、外で男性を誘うような服装をする必要がない。
オーナーにはヴァレリオ様が飽きないように、色気を出しなさいと言われているものの、正直どうすればいいか分からなかった。
もし閣下に飽きられてしまったら……様々な男性を相手にしなくてはならない。
想像しただけで体中が震え、怖くなってくる。
でも私はもう貴族ではないし、あの頃には戻れないのだから嫌がってる場合ではない。そう思うのに……早くヴァレリオ様が来てほしい。
恋人役になりきり、甘い言葉で包まれたい。
次の瞬間、扉がゆっくりと開いていく。
そしてそこから顔を覗かせたのは、少し雨に濡れたヴァレリオ様だった。
「閣下!雨が降っていらしたのですね……こちらへ」
「ミリー」
もう演技が入っているのか、極上の笑顔を向けてくれる。
さっきまで弱っていた心が温かくなっていくわ。
私は厚手の布を持ってきて、彼の顔や髪など濡れているところを拭いてあげた。
「ありがとう。でも大丈夫だ」
「でも」
「それよりも早く君がほしいから」
「ヴァレリオ様……」
ヴァレリオ様はサッと外套を脱ぎ捨て、私を引き寄せる。
「あ……」
すぐに重なる唇に、頭の中はすべてヴァレリオ様で塗りつぶされていった。
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