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割り切った関係 1
「昨夜はどうだった?私が教えた事、してみたのかい?」
いつものようにサロンで、マリエッタ姐さんが閣下との事を興味深々に聞いてくる。
私は昨日の今日で体は怠いけれど、姐さんにはお世話になっているし、昨夜の出来事をかいつまんで話した。
「それって……なんだか嫉妬しているみたいじゃないか」
「そんなわけありません!きっとその場の雰囲気に酔っていただけです」
そうだ、恋人契約なのだから閣下もそのように振舞っているだけ。
あの方に他意はない……そう思うのに、姐さんに言われた言葉にほんの少し気持ちが高揚してしまう。
『嫉妬』
まるで居もしない他の男性に嫉妬しているかのようなヴァレリオ様を思い出し、また体が熱くなっていく。
閣下を思い出すと気持ちがよく分からなくなるので、あまり考えない方がいいのかもしれない。
そう思った瞬間、姐さんがヴァレリオ様の情報を口にする。
「そりゃそうか。閣下は既婚者だし愛妻家って聞くもんね」
既婚者……愛妻家…………?
閣下ほどの立場の方なのだから、奥様がいてもおかしくはないのに、なぜ考えもしなかったの?
それに娼館に既婚者がくるなんて当たり前のようにある。
閣下が来てもなんらおかしくはない……じゃあ、私は何に驚き、衝撃を受けているのだろう。
姐さんに言葉を返せずにいると、さらに衝撃の言葉を聞いてしまう。
「閣下の奥様って、シュレーブス公爵家のご令嬢らしいよ。高貴なお貴族様のお相手は高貴なお貴族様ってわけ。私らとは住む世界が違いすぎるよね」
”シュレーブス公爵家”
その言葉を聞いた瞬間、全身の血がサァァッと引いていく。
この公爵家の当主ロンダリオ・シュレーブスは……私の……私のお父様を嵌めて借金地獄にした張本人。
その家の娘と閣下が夫婦。
激しい吐き気にみまわれ、どんどん呼吸が浅くなる。
「ちょっとあんた!大丈夫かい?!」
「え……?」
「顔が真っ青だ!部屋で休んだ方がいいよ!」
「……すみません、マリエッタ姐さん。そうさせてもらいます」
私は姐さんに断わり、サロンを後にした。
自室に戻り、ベッドへ倒れ込むと天井を仰ぐ――――
まさか閣下のお相手があの……シュレーブス公爵家のご令嬢だったなんて。
夢であってほしい。
そんな人に買われて専属の恋人役をやっているなんて。
しかし次の機会に閣下に尋ねてみたら、驚くほどあっさりと認め、私には関係のない事だと言われてしまう。
「今私たちは契約中の関係だ。私の現実がどうであろうとこの空間に持ち込む事は許さない」
彼の言葉に眩暈がしてくる。
確かにそう……私は娼婦で、閣下の恋人役で……あなたの奥様の家は…………私の家族をバラバラにした。私の復讐先。
でもヴァレリオ様は私とシュレーブス公爵家の関係を知らないのだから、関係ないと言ってしまうのも無理はない。
「そう、ですわね。関係ありませんわ。今のあなたの恋人は私ですもの」
私の言葉にヴァレリオ様の黒い瞳に熱がこもる。
「そうだ、ミリー。私の可愛い人……」
残酷な人――――
奥様を愛しているその口で、私を可愛い人と言う。
でももし私が彼の中で奥様以上の存在になり、彼の心を奪う事ができたら、公爵家にダメージを与える事が出来る?
もし……もし私が彼の愛人になる事が出来たら……シュレーブス公爵家と接触出来るのでは……?
自分の心に芽生えかけた純粋な気持ちに蓋をして、どす黒い考えが湧きあがってくる。
どうせ清らかに生きたとしても伯爵家を取り戻せるわけではないわ。
あなたが私を利用するというのなら、私も利用するまで。
「ヴァレリオ様……今夜はあなたの好きになさってください」
まるで愛しい人に語り掛けるかのように囁いた。
「そんな事を言われたら……激しくしてしまうから、だめだ……っ!」
「いいの……あなたの手でめちゃくちゃにされたい」
何も考えなくてもいいように。
私をあなたでいっぱいにして。そしてあなたを私でいっぱいにする。
「ミリー……!!」
すぐに唇が重なり合い、私たちは語らう事をやめた。
「ふ、んっ……んぁ」
「舌を出して」
言われた通りに差し出された舌を彼が優しく食んだ。
互いの舌先を絡ませ、唾液がだらしなく垂れてもお構いなしに舌を堪能する。
吐息が混ざり合い、室内にはくちゅくちゅと水音だけが響く。
「は、ぁ……んんっ……」
「もっとだ……もっとほしい」
舌が口内に侵入し、息苦しいまでに求められていく。
あっという間に夜着は脱がされ、生まれたままの姿になった私の体に彼の手が這っていった。
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