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運命の悪戯 ~ヴァレリオSide~
幼い頃、体の弱かった母の療養目的で別荘に連れて来られて、そこで小さな女の子と出会う。
ターコイズブルーの髪と瞳は、まるで透き通った海と同じで、彼女の可愛らしさにすっかり溺れていった。
毎日その女の子と遊ぶのが楽しみで、シロツメクサで冠を作り、彼女の頭に乗せ、結婚を誓ったりもした。
『ミリー。ぼくたち、しょうらい”けっこん”するんだって』
『ふふっ、そうなったらいいわね!』
まるで天使のようだった君――――
直後に母の容態が悪化し、王都へ帰ったが、母はそのまま還らぬ人となり、私たちがそれから会う事はなかった。
けれどすぐにその女の子が誰かを調べ、その約束を果たす為にこれまで生きてきた。
ミリタニー・コンサヴァル伯爵令嬢。
君を手に入れる為に。
将来ミシェンコ侯爵家を継ぐ私は、父にミリタニーの事を相談し、密かに縁談を結んでほしいと頼んでいた。
「ヴァレリオ、喜べ。先方からいい返事がもらえたぞ」
「本当ですか?!父上!」
それは私が19歳の時だった。
水面下で話を進めてくれていたようで、父上からの朗報に浮足立つ。
ミリタニーの母親と私の母親は古い友人だった事で私たちは出会ったけれど、幼少期以来の顔合わせになるので、覚えているだろうかという緊張感もあった。
それでも――――
君が手に入るならなんでもいい。
社交界でどんな令嬢と会おうとも、彼女への想いが薄れる事はなかった。
ミリタリーはあまり社交界に顔を出すタイプではないのか、たまに夜会で彼女を見かける機会はあっても声をかける事は出来ず、遠くから眺めている事しか出来なかった。
「お前も相当一途だな」
「父親譲りと言ってください」
「そうだな……婚約が決まれば、フレイヤの墓に報告に行こう」
「はい。母上も喜んでくださるはずです」
私達父子はこの時、喜びに沸いていた。
しかし、直後から父上が体調を崩し始める。
体調がどんどん悪化していく父上の代わりに当主の代理として仕事をするようになると、婚約の話を進める余裕がなくなってしまう。
そして――――父上はそのまま還らぬ人となってしまった。
父上は生前、遺言書を書いていたので、その内容をぼんやりとする頭で読んでいった。
そこには「当主は私ヴァレリオである事。そしてシュレーブス公爵家のヘレーネ嬢との結婚」について書かれていたのだった。
「どうして……なぜ…………ミリタニーとの結婚を進めていたはずなのに!!」
こんな遺言書など破り捨ててしまえば…………しかし……父上が体調を崩しながらも最後に書いた遺言書を破るなど、私には出来ず。
『当主の遺言は絶対』
遺言書を持って公爵家に出向けば待っていたと言わんばかりに、とんとん拍子に結婚が進められていった。
この違和感を抱え、侯爵家当主としての仕事に追われながら父上の死を乗り越えられずにいた私は、結婚してからもヘレーネを受け入れられず……寝室も別々にする日々を送る事となる。
そして冷えた結婚生活を送ること一年半……衝撃の一件が新聞に大きく載っているのが目に入ってくる。
『コンサヴァル伯爵家、賭博場(カジノ)で大損!!借金地獄へ』
ミリタニーの家が?借金?
没落したというのか?!
なぜ……彼らは善良な者たちだったはずだ!伯爵も温厚な方で……賭博場(カジノ)で借金をするような方ではない……!
この記事は何かの間違いでは……新聞を食い入るように読んでいる私のそばに、いつのまにかヘレーネがいて、私に声をかけた。
「あら、もうその記事が載ったのですね。つい先日の話ですのに」
「……どういう事だ。君は何か知っていたのか?」
「怖いお顔。私とはほとんど言葉を交わしませんのに……ヴァレリオ様はそのご令嬢の事になると、随分饒舌ですのね」
そう言いながら、醜悪な笑みを浮かべるヘレーネを見て、全て悟った。
これはシュレーブス公爵家が絡んでいる件なのだと。
私はコンサヴァル伯爵家について聞いたのに、彼女はミリタニーの事について話した。
私が心の中で彼女を愛しているのを知っているのだ。
そして伯爵家を没落するように公爵に頼んだのはまさか……。
「旦那様、お顔の色が大層悪いようですけど、いかがいたしました?」
「……いや。今日も私の妻は美しいなと思っただけだ」
「まぁ!なんて嬉しいお言葉!では今夜は……」
「今夜も仕事で遅くなる。先に寝ててくれ」
「いつもそうではありませんか!もう娼館送りになった女など、忘れたらどうです?!」
「……誰の話だ?」
「いえ、あの…………」
私の問いに慌てるヘレーネを一瞥し、背を向けた。
ミリタニーは娼館送りにされたというのか――――その事を知っているという事は、この女が絡んでいる事は間違いない。
「とにかく仕事なんだ。王太子殿下から頼まれた仕事でもある。君であろうと口を挟むのは許さない」
「……承知いたしました」
私は馬車に乗り、邸を後にした。
そしてすぐに王宮へ行き、王太子殿下にこの事を報告する。
「そうか……私は父上から聞いて知っていたが、まさかシュレーブス公爵家が絡んでいるとはな。賭博場への勧誘やそれに伴う強制的な賭け事は法で禁じている」
「恐らく脅されたか、嵌められたか……伯爵は賭け事をするような人ではありません!」
「分かっている。この件は父上から任されている。一旦私に預からせてくれ。お前はミリタニーのところへ行け」
「ですが、どこの娼館に送られたのか……」
下を向く私に殿下が一枚のメモを渡してくる。
「ここにいる。すでに調査はしているから間違いない。早く行かねば他の男のものになるぞ?」
「…………っ!!」
「ヴァレリオ!ミリタニーには真実を告げるな。怪しまれないように間隔を空けて通え」
「……まだ何か?」
「あとは……好きにしろ」
私は殿下の執務室を飛び出した。
急いで行かなくては、彼女が客を取ってしまう……!
こんな形で君を迎えに行かなくてはならないなんて――――
こうなってしまったのは、全部私のせいなのに。
コンサヴァル伯爵家は巻き込まれただけなのだ……恐らくヘレーネが私を手に入れる為に仕組んだ事なのだろう。
もし……もし、ミリーの事も、父上の死も、公爵家が絡んでいたのなら……絶対に許すものか。
覚悟を決め、逸る気持ちを抑えながら彼女がいるであろう娼館へと向かった。
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