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本妻vs娼婦
見るからに高位貴族なのが伝わってくるほどの威圧感。
私の胸に嫌な予感がざわざわとめぐってくる。
もしかして、この人は――――
「こんにちは。オーナーの方はどちら?」
「はい、私です」
マリエッタ姐さんは受付の奥から慌てて出て来て、対応し始めた。
「あら、あなたね。わたくしはヘレーネ・ミシェンコ。ヴァレリオ・ミシェンコ侯爵の妻よ」
やはり……!
このお方がヴァレリオ様の奥様であり、私達から全てを奪ったシュレーブス公爵家のご令嬢だったのね。
彼の奥様……誰の目も気にする必要もなく堂々と彼の隣りにいられる人。
喉から手が出るほどほしい立場――――
お二人が並んだら、誰がどう見てもお似合いだと思うでしょうね。
想像しただけで胸がチリチリと痛んでしまう。
心の中で自嘲気味にそう思っていると、ヘレーネ様がこちらを向き、話しかけてくる。
「あなたがミリタニーよね?」
「は、はい」
なぜ私の顔と名前を知っているのだろう。
社交界にもあまり顔をだしていないので、貴族だった私の事など知らないでしょうし、ここで会うのも初めてだわ。
「……ふふっ、私の夫が随分お世話になったようね」
「い、いえ……!ヴァレリオ様は……」
私が閣下の名前を出した瞬間、ヘレーネ様に髪を鷲掴みにされ引っ張られてしまう。
「あぁっ!」
「お前に夫の名を呼ぶ許可をした覚えはなくてよ」
「も、申し訳ございません……!!」
「たかが娼婦の分際で、わたくしの夫を盗もうとしたなんて罪深いわね……」
物凄い憎しみの目を間近で向けられ、背筋が粟立っていく。
私の事を殺したいと言わんばかりだわ……!
「ご夫人!!閣下が彼女を買い、ミリタニーは閣下の要求に従っただけです!!」
ヘレーネ様を落ち着かせる為に、マリエッタ姐さんが声をかけてくれたけれど、ヘレーネ様の怒りがおさまる気配はない。
むしろ火に油を注いでしまったようで、怒鳴り声を上げた。
「おだまり!!!!旦那様がこの女を求めていると言わんばかりね……!」
「決してそのような意図は……」
「ふん……こんなところ、お父様に言ってすぐに潰してやるわ!!あっははは!」
私のせいでなんてことに……でもこれでよく分かったわ。
彼女もシュレーブス公爵家の人間なのだと。
こうやって気に入らないとすぐに潰そうとするのね。
この館がなくなったら路頭に迷う娼婦たちが沢山いる……そんなこと、絶対にさせないわ。
負けたくない……!
「ヘレーネ様。そのような事をなさっては、ヴァレリオ様のお心は離れるばかりですわ。お気を付けください」
「………………」
私の言葉に突然笑うのを止め、マリエッタ姐さんへと私を投げつけた。
そして静かに近づいてきたと思えば、冷えた笑みを浮かべている。
「ヴァレリオ様のお心はね、誰のものにもならないの。彼には幼い頃からのとてもとても大好きで特別な方がいらっしゃるから。お前も私も同じ穴の狢よ」
「え……」
「いえ、違うわね。お前はその方に似てるから、その代わりなのよ」
全身の血が一気に冷えていく。
『ミリー、可愛いよ』
甘く蕩ける笑顔に、優しい仕草、本当の恋人を扱うような彼の手に抱かれ、夢見心地だった。
けれど……その全ては特別な方への恋情だったの?
だから奥様がいても恋人契約を?
目じりに涙が浮かび、一筋の雫が頬を伝う。
「ふふふふっ、バカな女。自分が求められていると思っていたなんて……これに懲りたら、人の夫に手を出そうなんて考えないことね」
ヘレーネ様は甲高い声で笑いながら、気分を良くして娼館を去って行った。
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