悪と正義と悪意と。

パティル

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悪のト。

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 この街唯一のコンビニは朝早くから賑わいを見せていた。
 勿論、そんな賑わいを全く持って一ミリたりとも歓迎していないコンビニ店員、天ヶ崎 彩希あまがさき さきにとっては早く皆帰ってくれといわんばかりの表情でレジに立っていた。

 住宅街の中にある唯一のこのコンビニ、無駄に駐車場が広く店内も無駄に広い。コンビニというより、もはやスーパーといっても過言ではないその店内に店員は二人。夜勤明けで仮眠をとっている店長と、まだバイトを始めて一週間しかたっていない天ヶ崎の二名である。

 そんな広めの店舗でワンオペをしていても、普段のこの時間帯ならば特に忙しいことはなく、補充も夜中の内に終わっている為レジさえ出来れば店はまわる。
 では、実際の店内にはどうなっているか見てみよう。

 若い美人の女性が雑誌に目を落とし、優に十分はその場から動こうとはしない。
 一人。

 先ほどから店内に入るなり騒がしくする男子高生三人組。
 四人。

 整理すれば、眠る店長に新人バイト、美人のお姉さんに若者三人という総勢六名がコンビニ内に集っていた。

 男子三人組をジト目で、すぐにでも立ち去れと接客の挨拶もせずにムスッとしている新人バイト、天ヶ崎 彩希は防犯用のカラーボールをいつでも投げれえるよう、そっとレジ下にある空間に忍び込ませている。

 ここでそんな彼女の話を少しなぞってみよう。

 ことは十日前に遡る。

 制服に身を包み、茶色い長髪をなびかせながら電動自転車通学を漕ぐ天ヶ崎 彩希 十六歳。高校最初の夏休み前日、部活に入部していない彼女は短縮授業が終わると同時に即岐路へつく。
 三十分かかる道を意気揚々と自転車を漕ぐ昼下がり。

 それは何の前触れも無く、突然起こった。
 ガチャコンという音と共に、ペダルの感触がなくなるとマイアミ号(自転車の名である)からカラカラカラと続けて嫌な音が鳴った。
 最初はチェーンが外れただけだろうと、自転車から降りチェーンを確認するも特に外れた様子も無く、結局自宅まで後数メートルという事もありそのまま押して帰った。

 夕方頃に帰宅した父親に修理を頼むも、どうやらモーター部分に不具合が起きているのではないか、と言われ素人ではどうしようもないという結論に至った。母親からの助け船で、ママチャリ(電動自転車だ)を貸そうと提案されるも、天ヶ崎 彩希はその申し出を断った。何が悲しくてママチャリ登校しなきゃいけないのよ! と年相応な反応をみせると、徒歩でも大丈夫と言い張り翌日はいつもより1時間半早く家を出た。

 この街で貴重な交通手段の電動自転車という選択を放棄し、自由気ままに徒歩で登校してみると、普段と違うように見える景色の違いに心が浮きだち、テンションは思ったよりも高まっていた。

 まぁ、そんな気持ちも最初の一時間で綺麗さっぱりと消え去っていた。靴擦れして足は痛むわ、思ったよりも時間がかかって遅刻しそうになっているわと、現実は非情であった。

 結局、電動自転車を修理すべく急ぎでお金が必要となった。
 この小さな住宅街から抜け出すためには、電動自転車は必須なのだ。
 町から抜け出せないのだから、働く場所は自然と絞られるわけで辿り着いたのがこのコンビニである。

 ついでに紹介しておくと、店内にいる三人組の男どもは天ヶ崎と同じ高校に通う生徒で、顔見知りである。バイトしていることを聞きつけ、茶化しに来ているのだ。同級生に仕事中に茶化されるのは、正直言って良いものではない。茶化す方はそんな事を考える事も出来ない脳金で、そもそも今が面白ければ良いという胆略的な思考回路しか持ち合わせていないのである。良くある話で、良くない話である。

 行動に伴う影響、結果を見通せない今だけを見る眼力はもはや悪意の塊と言って良いだろう。

「おいっ、これタダでくれよ!」

 すなわち、これも突然の思い付きで、それが彼にとっての正義だったのだろう。面白くて、自分が強く見えて、相手を見下し優越感に浸るであろう台詞が、それだった。
 天ヶ崎は当然、こんなバカな台詞に付き合うつもりも無く手元に用意していたカラーボールに手をかける。

 しかし、カラーボールを投げる前にもう一つの介入者が現れた。
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