がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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37 悩める男

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 心が幼子に戻ってしまっていたリオは、幼い言動を見せるときと、大人の面影を見せるときがあった。
 朝の日課になった身体強化魔法をかける接吻のときも、可愛らしい笑顔で「おはようのチュー」と言って自分から接吻をねだってくるので、冷静になるまで、何度壁に頭突きをしただろうか――隊員の館の壁には大穴が開いてしまった。

「勘弁してください……」と、隊員たちに冷めた目で見られた。

 素直でまっすぐな好意はここちよく、子供特有の独占欲を見せる言動は、俺の心を踊らせた。暗闇を怖がり、ひとり寝を嫌がった。俺の匂いが安心すると笑い、ちゅうちょなく抱きついてくる。

 ――リオは俺だけを頼っている! 俺だけの聖女だ! 俺のほうが、独占欲の塊だ……だが、こんな俺をリオは受けいれてくれているのが、嬉しくてたまらない。
 ふたりだけの世界に閉じこめておけたら……このまま俺だけを頼りにしてくれるだろうか? そんな許されない感情がわきあがる。

 幼い好意も素直に嬉しいが、ときおり見せる、艶のある眼差しにただよう色香には、腰が抜けそうになった。
 ――無垢で淫らな二面性を見せ、俺を誘惑する。

 幼女と成人の狭間をただよっていた彼女は、薬師ばぁによって心をとり戻した。彼女にとって、薬師ばぁがどれだけ大切な人だったのか……黄泉路へ逝く、薬師ばぁにすくなからぬ嫉妬を感じた。
 リオの好意にかこつけて、彼女を独占していた時間の終わりを感じ……寂しく思う。

 俺たちに、とどまっていられる時間は少なかった。気弱なガラナミア伯爵のことだ、俺の力を欲し、暴走するだろう……自惚れではなくシャルナの軍神と呼ばれた力は伊達じゃない。セフィロース卿を頼るのはシャクだが、『血族』が持つ『聖者の手記』が気になっていた。
 シシーリア聖皇国に行くためには、シノアの森を通らなければならない。魔獣がでる可能性がある森には、追っ手もうかつに入りこめないだろう……逆に西翼城壁部隊はシノアの森の魔獣討伐がおもな任務だった。
 ――地の利はこちらにある。

 ラキアを出るとき、リオはあからさまに落ちこんでいた。薬師ばぁの葬儀にも参加できずに出発するのを、悲しんでいるのだろう……埋葬される場所でも知れば、少しは慰めになるだろうか? 少しでも元気づけられたら……そう思い、旦那と同じ墓に埋葬されるとつたえた。
 薬師ばぁをシノアの森から連れ帰っていることがわかれば、ガラナミア伯爵がまた変な気をもむ可能性があるため、秘密裏に共同墓地に運ぶてはずになっていた。
 この世界の平民は、都市ごとの共同墓地に埋葬される。旦那も眠っている場所だから、あながち嘘とはいいきれない。
 『死してなお、よりそうなんて、とっても素敵』――リオは、そういって微笑んだ。
死してなお、よりそう……いいな。すごくいい。それは最高の死出の旅路だ! 死さえふたりを引き離せない。





 シノアの森の独特な樹木の形は馬の速度を遅くする。着実に追っ手がせまっていることを感じた。振り落とされないよう、リオの体を自分の体に固定し、追っ手をむかえ撃つ。彼らの隊服から城内防衛部隊だとわかった。
 やはりガラナミア伯爵は、リオを切り捨てたか! 怒りで体が熱くなった。
 胸のなかのリオの体温が愛おしい。リオを失うことがあれば、俺は俺でなくなるだろう。シャルナの軍神は、もうどこにも存在しないのだ。ここにいるのはリオのために生きるたたの男だ!

 追っ手を切りふせたあと、今夜の野営場所、シノアの聖域に向かい馬を進める。返り血を浴びた自分の姿を見せ、リオを怖がらせたくなかったため、彼女をマントから出さなかった。彼女の体温を感じながら馬を走らせていたが――気がついてしまった……この体勢はまずい。
 ぴったり密着したリオの軟らかい体が、馬の歩にあわせて……ぶつかる。
 たわわな胸がつぶれ、意識を集中すれば乳房だけでなく、先端の突起の存在も感じられた。ズグリと俺の下半身がうずく。その場所もダメだ! リオの尻が乗っている! なぜ、この姿勢でリオを固定してしまったのか――自分の行動を恨んだ。

 己の欲をリオに気づかれないように細心の注意をはらい、シノアの聖域に入った。
リオを馬からおろすと、不安定な格好でつらかったのだろう、リオがその場で崩れ落ちる。助けおこしてやることもできず、滝の水を浴び、己を落ちつかせる。血のりも洗い流せて一石二鳥だ。
 リオもマントのなかは暑かったのだろう(以前も暑いと言っていた)――赤い顔をして水辺で涼んでいた。なんの気なしに水浴びに誘うと、リオが服を脱ぎだした!

 しずめた肉竿が反応しだすのを感じるが、目をそらすことはできなかった。リオが1枚ずつ脱いでいくようすを凝視する。
 ――思わず生唾を飲みこんだ。
 白い下着姿のリオは、青く発光している滝壺の光をうけ、輝くばかりだ! なんて奇麗なんだ。つーっと、足先からストッキングを脱ぐ姿は……やばい……なんて淫らに俺を誘うのだろう。

 興奮しながら見つめていて反応が遅れた。水に落ちたリオが、一気に深くなる滝壺に足をとられ悲鳴をあげた。水面まで持ちあげてやると、まだ脱ぎ途中の下着が肌にはりつき、乳房の桃色の突起がすけて見えた。全裸よりいやらしい姿で、俺の脳髄を直撃してくる。
 さらに、可愛らしいことを言うのもだから、了承も得ずに唇を奪ってしまった。
 一度ふれると我慢なんかできない。リオの悲鳴で己の行動を恥じたが、涙目で「抱かれたい」と告白され、理性のタガがはずれた。
 あとは彼女を濡らすこともせず、一気に己の欲望だけをぶつけた。「痛い」と涙を流すリオを見て、後悔する。……が、いまさら腰をとめることはできなかった。せめて、リオも気持ちよくさせようと、リオのよいところを刺激しつづける。射精欲はむりやり押さえこもうと奮闘していた。

「――アラン様、好き」

 今、そんな告白をするのか! リオをもっと気持ちよくしてやりたかったのに、一気に気持ちをたかぶらせられた。――ああ、もう! リオ! 君って奴は、なんて可愛い女なんだ。本当にもう、このまま抱きつぶしてしまいそうだ。

 無茶をさせすぎたか? リオが水中に沈んでいく! リオの手を掴むと、寂しそうに微笑んだ。リオ! まさか、このまま水中に沈んでしまいたかったのか? 俺のことを好きと、言ってくれたじゃないか……

 水中から、ぐったりしたリオを引きあげ、火をおこし遅い食事の用意をする。リオは火にあたりながら、うつら、うつらしているようだった……無理をさせすぎて、疲れていただけか? シノアの聖域は、発見できているのはここだけだ。明日からは魔獣を警戒しながらの野宿になる。リオをしっかり休ませないと……

 就寝前、ふれるだけの口づけを交わし、回復魔法をかけた。追っ手を警戒し、念のためリオを腕に抱いて寝る。リオは俺に背を向けて、小さな肩をふるわせながら泣いていた。
 ――俺に気づかれないように、精一杯、声を殺して……
 リオの心は、幼子のときと同じままだ。純粋な彼女に俺の欲は毒だ……『唯一の愛』しかいらないと言っていたではないか! 彼女の処女を散らした自分が、彼女の唯一になったと信じきっていた。治療としょうして奪ったくせに……リオはきっと俺を唯一と思いこもうとしていたんだ……なんて愚かな独占欲……それでも、体だけでもいいから、俺のものになってくれ……

 俺の聖女、俺の女神、俺のすべて、俺の唯一はおまえだリオ……
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