あーあー聞こえませんよー

葵桜

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一章

6.だって…

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「ここが…、レイモンド殿の部屋か···?」


レイモンドとオズワルドは夕食を食べたあと、王妃様の提案通り、城に設けてあるレイモンドの私室に訪れていた。

オズワルドが部屋に入った瞬間、ついと言いたい動きで一回廊下へ出て扉や周りの風景を見たあと、戸惑うようにレイモンドに目線を戻す。


「ああ。
間違いなく俺の部屋だ。
ふ、可愛いだろ?」


ニヤリと広角を上げ胸を張るレイモンド。


「……。
その仕草は可愛いな。
しかしなぜユキヒョウのぬいぐるみなんだ。」


「尻尾がふわふわで崖上りが得意で可愛いのに格好良いだろ?
ほら?俺も可愛いけど格好良いだろ?」


おどけて言うレイモンドにオズワルドは、可愛い格好良いの種類が違うのではと苦笑いをもらす。


「異国の小説を読んでいたら出てきたんだ。
図鑑で調べたらつい気に入ってしまって。
今度ペットに子共のユキヒョウを買って育てる予定だ。」


今すぐにでも欲しいというように、頬を上気させ満面の笑みで言い切るレイモンド。


「そうなのか。」


レイモンドの笑みに表情を少し緩める。
思っていたより楽しそうに暮らせていて良かったなと安堵する。が――――。


「ん?



…………。それ大丈夫なのか!?」


レイモンドの笑みについ流されそうになったが、常識から外れている。
否外れているどころか今にも飛び出し疾走で何回目かの失踪をしそうだ。


「ちゃんと餌やっていれば問題ではないさ。
王様がだめと言ったら、頑張って似たような使い魔を召喚するしかないだろうけど、そんなの聞いたことないし、妥協してフェンリルにするよ。」


そんな悲しく寂しいとでも言いたげなちょっと悔しそうな表情をして言うレイモンドに、つい同情心が生まれる。


「うん?なるほど。」


流される寸前で思い直したのか指摘する。
と言うよりかは今回はあまり流されなかったようだ。


「ユキヒョウが国王陛下の許可が下りなかった場合と仮定しているようだが、フェンリルはS級以上なのだが?」


「ん?
それに何か問題あるのか?」


「レイモンド殿は規格外だな。」


その返しにん?と首を傾げ、さて何に対してだろうかと本気で悩む。

ぶつぶつとアレでもないしコレでもないだろうと、呪文のように自分の規格外な所を呟きながら探しているようだ。
しかし本人が自覚していないだけで、ぶつぶつとぶちまけている言葉実際すべてが規格外な所であるのである。







「規格外な思案すぎるユキヒョウについては置いておこう。

だからといって話す事なぞいざ考えると思いつかないな。
学校についてであれば答えられることも多々あると思うのだが。」


「んー。
寮は一人部屋?」


「人によるな。
事情がある人や金がある人だけはそういう人もいたはずだが、基本申込みをしない限り二人部屋だな。
例外で奇数になった場合は必然的に一人部屋の奴も出てくる。」


「引きこもるつもりだし、別に二人部屋でもいいんだけど、しかし一人部屋は魅力的だなぁ。」


腕を組み頭をかしげ部屋割を考えるレイモンド。
そんな事を言うのをすかさず拾い、ちゃっかり自分の願望と言うなの提案をする。


「私と同室になるか?
私は入学当初から親が一人部屋にしたから開いているぞ。
恋人という関係でも、お見合いをすすめてきた両親からは許可が出ると思うのだが。



ああ!それよりも大事なことを言い忘れていた。
寮も学校もペットの飼育禁止だからな。」


「な、なん…だと…!?
いや!内緒で小動物くらい飼ってる人がいるはずだ!」


「密かにいてもレイモンド殿が飼いたいユキヒョウは絶対にだめだ。」


指同士をくっつけイジイジと上目遣いで拗ねる。
しかしその体制は残念な感じではある。
ほぼ同じ背でほぼ同じ体格のどう見ても男性だろう人がやっても可愛くないのはもちろんのこと、一番泣けるのは体制である。
上目遣いをするためにわざわざ膝を曲げ屈み見上げているのである。

レイモンドの意地の汚さを理解したオズワルドは、そんなレイモンドの行動に思わず肩を揺らしながらも笑いをこらえつつ、徹底的にペット飼育禁止を言い渡す。

事実禁止なのだが部屋はどの部屋も防音で、バレないように密かに飼ってる生徒もいるようだ。

しかしユキヒョウのような肉食で大きいサイズの動物は無理だろう。


「チッ。
諦めてフェンリル辺りを召喚するしかないか…。」


意地の汚さは変わらず大型猛獣をやはり手に入れたいようだ。



「………。部屋はどうするんだ。」


「オズワルド殿の父上は許してくれるのか?
一応結婚を前提での恋人なわけだし、同じ部屋のほうが都合は良さそうだと思っているが、王様も王妃様も俺が学校に行けばいいと言っているし。」


腕を組み頭を横に倒す仕草をしながら聞くと、オズワルドがハッと息を呑む音が聞こえる。
上目遣いよりこちらの方が効果があるようだ。


「聞いておく。
それについては明日また会いに来る。
しかしだな、そういう仕草をするのはわざとなのだろうか。
私がレイモンド殿に抱きつきたくなる。」


しかしレイモンドの顔は、濃くサラサラで肩下まであるブロンズな髪と、宝石がはめ込まれているような透けるエメラルドグリーンな瞳に、薄っすら橙色の健康的な肌に、血色が良くほんのり紅い唇。
今は少し幼さが残っているが、王子顔で理想的な抱かれたい男の顔をしているのは、確かである。

またオズワルドの顔も、すぅっと通った高い鼻に、薄くも厚くもない丁度いい唇に、少し焼けている橙色の肌、そして2年生になるからなのか、ほとんど幼さを残さない同じく理想的な抱かれたい男の顔である。
加えて肩下の長さまである紺色で下でゆるく結んでいる髪と、ラピスラズリのような瑠璃色の瞳に、レイモンドと同じくらいの高身長だ。

二人でいれば女性からの誘いはひっきりなしであるだろう。学校でいればそれこそ王子組と変な括りにされるだろう。

そんな二人だが恋は盲目というのは確かかもしれない。お互いが全てを可愛く格好良く見えてしまうのだろう。


「そうか。
ぎゅってしよう。」


そんな擬音とともに腕をバット大きく広げられる。
オズワルドは一瞬首を傾げるものの、納得したのかレイモンドの胸に飛びつくように抱きつく。


「オズワルド殿からいい匂いがする。」


「レイモンド殿もいい匂いがするな。」


そこで照れっともせず、ニコニコと話す。
恥ずかしいという羞恥心は残念ながら持ち合わせていないらしい。


「暇だな。」


「ああ。」


そう言いながらお互い離れ会話をする。
レイモンドは窓の近くまで歩いていきバルコニーに出ると、空を見上げる。

追いかけるようについてきていたオズワルドは下を見る。
下は花壇になっているのか、花が咲き乱れている。
その縁で庭師が花柄摘みをしている。
隣りにある温室と見られる建物には薔薇が植えられているようだ。
見えはしないが、香りがこのバルコニーまで漂っているのだ。温室にはオールドローズの方が多いのかもしれない。

穏やかな新学期の時期。
日差しも今日は思いの外強くなくそよ風に癒やされながら微笑むと、隣をふと見つめる。


「なあ、オズワルド殿。
お互い呼び捨てについてどう思う。
オズワルドでもオズ様でも…。」


見つめていると、空を見上げていたレイモンドに突然話しかけられ、瞼を瞬かせる。


「では、私は“レイモンド”、と呼ぼうか。

政略結婚ではあるが好き同士であって、それに加え恋人だもんな。
レイモンドにもオズワルドと呼んでほしい。」


レイモンドは少し驚いたという顔をしたが、笑顔が浮かぶ。
オズワルドがレイモンドの頬に手を添えて笑いかけると釣られるように、レイモンドも微笑みながら自分の頬に添えられている手の上に自分の手を上から重ねる。


「ああ。もちろんだ。
オズワルド。」


「呼び捨てであるとこんなにも近く感じるのだな。
レイモンド。
キスしてもいいだろうか…。」


少しとろけた微笑みを出すと同時に瞳を閉じる。
オズワルドはそのまま顔を近づける。


わざとチュッと音を立てて数秒の軽いキスを離す。


「レイモンド、数秒のキスでその表情は俺を誘っているのか?」


先ほどよりもトロンととろけた笑みと共に嬉しそうな微笑みも浮かべている。
オズワルドは心臓を射抜かれたような、例えるならばズキュンとも言えなくもない衝撃を受ける。
頭を撫でれば擦り寄ってくるし、手を引けばついてくるしで、愛らしさが増す。
まるで人懐っこい子猫のようだ。

そのままベットまで来るとそこにレイモンドを寝かせる。
理性を切らして襲いかかるのではなく、その横にオズワルドも横たわると自分の腕で包み込む。

顔を見合わせ微笑み合う。


「帰るのが惜しいな。
襲わないからレイモンドの寝室に外泊したいくらだ。」


「別に襲ってくれてもいいんだけど?

まー、そうだな、ここに外泊は一応城の部屋だし、王様が良いって言えば…。
問題はないと思うんだけど、ウェルズ家は許可出してくれるのか?」


何か考える仕草をするオズワルドに、何か変なこと言ったかな、と顔を覗き込むように見つめる。

数分一方的に見つめていたが、考えがまとまったのか目が合う。


「父は特に何も言わないだろうな。
ああ、仲が悪いわけではないぞ。
今城にいるだろうから従者に言伝をするさ。
父は家を継がないという事を心配していたのか、お見合いだの立ち位置だの爵位だのと、グルグル考えてくれていたようだからな。」


その返しに嬉しそうにオズワルドに一瞬ギュッと抱きつき離れ、大きく広い今寝転がっている自分のベットで大の字になる。
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