あーあー聞こえませんよー

葵桜

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一章

7.それは…

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「そう言えば言い忘れていたが、俺は結構前からオズワルドに興味を持っていたんだ…。
学校が新学期前の休みに入ったと同時に、オズワルドが城内を行き来しているのを見かけたんだ。
つい尾行のようについていっていたが、あの時は鬱陶しい気配をすまない。」


レイモンドは肩を落とし言うが、
何かを思い出したのか、あぁと苦笑いして頷くオズワルド。
両手を頭の下に入れ苦笑いをしながら続けて言う。


「いつも視線は送られてくるから、悪いものと、良いものの視線は流石に判別つくさ。
しかしあそこまで好意の視線を一方的に浴びせられたのは初めてだ。
従者や周りに聞いてもわからないと言う。
私にしか気配を分からせていないのかと思っていたのだが、ただダダ漏れだっただけだったのか。」


ダダ漏れだったと聞いた途端、片手で目を覆うレイモンド。
見えている頬が真っ赤の染まっているところを見ると、恥ずかしかったのか照れているのだろう。


「俺は隠せていなかったのか…。

王妃様が…、俺がオズワルドと鉢合わせしないように使用人に頼んでいたとかで、俺自身も姿は絶対に見えないようにしていたし。

しかし好意の気配がダダ漏れだったとは…。」


恥ずかしそうにしながらも肩を落としている。そんなレイモンドを見たオズワルドは頭の下から手を出し頭を優しく撫でる。


「私は嬉しいぞ。
私の一方的な好意だったら悲しいからな。
これで安心だ。」


「はぁ。
俺の彼氏が格好良すぎて辛い。
オズワルドが俺の味方だと思うと安心感を覚えるよ。」


そう言うと同時に抱きつくと、オズワルドも体に手を回してくる。
ぎゅうぎゅうと抱きつき合いながら、チュッチュとしつこくキスをし合う。

しかしそこから先はまだお預けらしい。
恋愛対象が男ではないオズワルドは知識もそこそこしかなくその内なと示し、再び抱きつきイチャイチャしている。

影から見ているアルクスからは、主さんが、イチャイチャ出来て良かったでさぁ。と言いたげな視線がレイモンドの後頭部に突き刺さる。


「アルクス。」


呼んだ瞬間ベットの隣にスッと現れる。


「王様に今日オズワルドを部屋に止める許可をもらっておいてくれ。
許可が降りたらその後は自由行動で良い。
扉の前には夜勤の俺の部下がいるしな。


ああ待て、そう言えば何日か前に、八百屋で女性の尻をなで回したとかいう痴漢いただろう。
そいつ罰金して外に放り出しておけ。
まあ、多分額的に無理だろうからあっちに放り込んでおけ。
“その額ならば真面目にやればそこそこ早く出れるだろうさ。”
と俺からの助言として言っておけ。」


「了解でさァ。

あー。俺はアルクスって言うレイモンド様の影とか言われちゃってる者でさァ。

オズワルド様、レイモンド様をよろしくお願いします。」


自己紹介まではチャランポランしていたが、お願いになるとすごく真剣な顔で頭まで下げる。
そんな彼の頭をレイモンドは撫でありがとうとつぶやく。


「あぁ。もちろんだ。
私の愛にかけて幸せにすると誓おう。」


お願いにすかさず返事を入れる。
満面の笑みを浮かべているが眼差しは真剣だった。
レイモンドは自分は強いから平気だと茶化そうとしたが、そんな瞳を目にしグッとつい息を詰め見つめてしまう。

そんな視線に気づいたのか顔を動かし視界に入れると、真剣な眼差しが絡むように見つめ合う。


「あー。俺はお邪魔さんですねぇー。
王様に報告してくるでさァ。」


「余計な事は報告しなくていいからな。
主に俺とオズワルドの仲の良さとかいちいちするなよ。

王妃様に知られたらそれこそ飽きられるまでおもちゃだ!!」


さっきの視線は絡み見詰め合い甘い雰囲気をダダ漏らしていたが、嘘のように食って掛かる。
しかし前のめりな勢いで言うレイモンドを無視し、アルクスは行ってしまう。

そんなレイモンドに呆れた様子も混じりつつなだめる。


「そんなに興奮するな。
王妃様に聞かれたらそれこそ私もおもちゃにされるだろう。

それは私も嫌だ。勘弁してくれ。」


同じ心境だったことが嬉しかったのか、ベットに押し倒す勢いでレイモンドが抱きついているが、そんな彼に嫌な顔ひとつせず抱きとめる。


「もうそろそろで学校も新学期が始まるな。

レイモンドは城内で仕事をしていると、父にも国王陛下にも聞いている。
王妃様からは、“学校に入学したら仕事禁止”と国王陛下に言われていると聞いた。

そう言えば黒服の騎士等はレイモンドが自分の隊長くらい強いから手合わせしたい等と噂をしていた。
学校では剣と魔法の剣魔大会がある。
それで入賞すると商品がもらえるという設定でな。

面白いから参加するといい。
私もそういう所で手合わせ願いたい。」


大会と聞いた瞬間スゥッと目を細めるレイモンド。
途端にニヤリと悪そうな笑みを浮かべると楽しそうに笑う。


「ちなみに何がもらえるんだ?」


「そうだな…。
大会の主催者によるが、学園主催の参加者は学園の生徒だけなんでな、学園の教師または生徒にお願いを一つ聞いてもらえるとか、学食無料、授業免除、長期休暇での旅行無料券などだな。

学園には才能さえあれば入れてしまうから、貴族ではない一般人も多いからなぁ?
皆意外と喜んでいるんだ。」


会長から見た視点なのか顔を緩める表情をする。
きれいだと改めて見つめるが、生徒のことを考えているということに感心する。
何回惚れさせれば気が済むんだ、とボソッとつぶやくと頭を撫でられる。


「いつから続いているのかは知らないが、今まで参加しなかったような生徒が、景品目当てで参加しているのが面白い。
運良く勝ち進んでいるのか、普段は本気でないのかは知らないがな。あぁ、火事場のバカ力か?

まぁ余談なんだが、残念な事に騎士関係の学校なだけあって女子生徒…。ん?
特別少ないわけではなかったな。残念すぎる事に脳筋が多いから認識不足なんだ。

女子生徒なんかはあの学園に通っているだけあってか、こぞって自分から強すぎて妻にしたくない順位一位を狙っている始末だ。

学年が上がるに連れ共学なはずなのに同性の恋人が溢れている。
そのへんが虚しい事実だ。」


レイモンドは笑いを堪えるようにクスクス笑っている。
オズワルドは穏やかに目を細め、楽しそうに笑っている彼を見つめ、『絶対にその心と笑顔を守ってやる』と誓い直す。


「強烈な個性あふれる生徒が多そうだな。
俺もちょっと通ってみたくなってきた。」


「いざとなったら私がレイモンドの心と笑顔を守る。
素を出したくないのなら、ありきたりな茶髪の鬘に黒縁か銀縁の眼鏡でもかけて行ってみてもいいしな。
席は決まっていないし、授業も選択だから、変な事をしなければ目立つこともないだろう。
私の卒業付近でいいから、 1日だけでも学生として一緒に行動したい。」


「俺も学生としてオズワルドと一緒に行動したい。
気分の良いときだけでも学校を彷徨って見て回ることにする。
精神的にも落ち着いてけば、ちょくちょく学校に通えるようになるだろうし。

大会の他にも行事がたくさんあると聞いた!
こう見えても青春という言葉に魅力を感じているんだ。それに楽しみなんだ。」


レイモンドは最近ではめったに見せない年相応の笑顔で笑っていた。
報告を終えたアルクスは密かに戻っていて、レイモンドのそんな笑顔を見て涙ぐむ。

「心を痛めたあとにこんな笑顔を見れる幸福はまさに眼福」とつぶやく、レイモンドの白服の騎士はレイモンド親衛隊をしているだけはある。
すかさず魔法でその眼福な光景を紙に写す。
そして白服の騎士の部隊長等に、生で見たことを見せびらかす算段を考えていた。






二人はイチャイチャしながらだだっ広いお風呂に入り、そのまま就寝した。
ベットではオズワルドとレイモンドが抱きつきながら安心安全と寝ていたそうだ。
身長差がないと抱き込むことができないのが難点だよな、と勝手に見ていたアルクスがつぶやいているのを、レイモンドの部屋の番をしていた白服の騎士は聞きながら一緒に覗いていた。


「おはようレイモンド。
よく眠れたか?」


「おはようオズワルド。
下にしていた腕が痺れた。」


二人して朝から大笑いをしていると、城勤務の召使い達がわらわらと入室すると扉を開き、レイモンドに服について聞く。


「オズワルド様はどういたしましょうか?
レイモンド様ので良ければ準備いたしますが。」


「問題ない。
オズワルドの服は出来るだけ新品にしてあげてくれ。

朝ごはんは今日はどこで食べればいい?」



そう問えばおどおどとした少女が手を上げているのを見るける。


「あのー、その事についてなのですが…。
あの…、国王陛下から伝言ですぅ…。
こちらお手紙でございます。」


何故かオズワルドには一切近づかず、おどおどとした様子のまま性急に伝え、レイモンドにどうぞと封筒を手渡すと、ササッと速歩きで去ってしまっていた。




(オズワルド、レイモンドに手を出してもいいが傷つけたら許さない。
話は変わるが、出来ればレイモンドを学校に通わせるぞ。
今日は街で鬘と眼鏡を買ってきなさい。)



どこで聞いたのかは明白である。
アルクスがちょこっと情報を流したのだろう。


「なるほど…?
レイモンド、一緒に買いに行こう。どうだろうか?」


片手を出しながら朝日を背景にさわやかな笑顔を浮かべるオズワルド。
自分にとって安定剤のようになるであろう恋人が神に見える。

爵位の高い貴族同士なのだし婚約をし、オズワルドを規約という名の枷で縛ってしまうのが、俺にとっての安心感なのではないだろうか。
これからは隣にオズワルドが橘居座り放さないでいてくれるだろう。



きっと大丈夫。一緒にいればきっと楽しい毎日が待っているはず。
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