病弱な僕と正反対な君

蒸しケーキ

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寮生活03

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 「さっきの電話って親?」

 振り返るとそこには一条君がいた。

 「うん。保健の先生が連絡してくれたみたいで。」

 「そっか。それなら良かった。ほんとに焦ったんだぜ?起きたらお前どこにもいないし、登校時間だっていうのに、戻ってくる気配はないし。机にあったパンフレットが開いたまんま置いてあってさ、もしかしたらと思って行って正解だったわ。」

 「ごめんね。また、迷惑かけちゃったよ、ね。」

 「別に?てか、またってなんだよ、まぁ今、大丈夫そうならなんでもいーわ。」

 静寂した時間が流れる。間が持たない。もういっそ胸の傷痕見たよね?と聞いてしまおうか。そう思い一回、深呼吸をして呼吸を整え、言葉を発そうとすると、

 「あのさ、もし、唯が言いたくないとかだったら全然いいんだけど、その、胸の傷痕、もう痛くないのか、、?」

 ん?と一瞬戸惑う。なんだか僕は拍子抜けしてしまった。気持ち悪いだとか、今後見せないでくれとか、そんな言葉を言われるものだとばかり想像していたから。どうして痛くない?なんて聞くのだろうと反芻していると

 「あーー、その倒れてるときに胸の傷見たら赤くなってたからよ。なんかまだ痛みとかあんのかなって。」

 あぁそういうことか。確かに僕のこの傷痕は自分の体温が上がったりすると、ほんのり赤色に染まってくる。だけどちょっと痒くなったりするだけで、特に痛みとかはないことを一条君に話した。その流れで今までの自分の生い立ちについて話した。手術をしたこととか、体が弱いこととか、前よりはできるようになったことがたくさん増えたこととか、色々。

 うなずいては時折、苦しそうな顔をしたり、驚いたような顔をしたり、表情をコロコロ変えながら、僕の話を真摯にずっと聞いてくれた。

 「ごめんね。面白い話なんてなかったでしょ、?」

 そういうと

 「いや、むしろ教えてくれてありがとな。」

 髪の毛をわしゃわしゃと撫でられる。

 「一条君はどうなの、?家族構成、とか、、?」

 「あー、俺だけ話してないのもあれだしな。別に大した話はねぇけど・・・」

 一条君は、8人兄弟の長男だと教えてくれた。そして小、中学校とサッカー部で高校でもサッカー部に入る予定で、家だと小さいのがうるさすぎて勉強に集中できないから、といいこの高校に入学を決めたらしい。だから面倒見がやたらいいのか、と腑に落ちた。

 「そういえば授業ってもう終わったの?」 

 「ん?あぁ今日は午前中だけで、ほとんどオリエンテーションだったからな。」

 「そうだったんだ。」

 「ありがとね。話聞いてくれて。」

 「唯の方こそ、話しにくいこと言ってくれてありがとな。迷惑かけるなんて思わないでなんかあったら絶対言えよ。」

 一条君は本当に心強い。

 「うん。ほんとに、ありがとう。」

 胸がキュッと苦しくなり、優しさに触れ、涙が零れそうになる。

 「おう。あ、あと」

 一条君が僕に近付きトンっと胸に手を当てる。そこから温かさがじんわりと広がっていく。

 「その傷痕、気持ち悪いとか、見たくないとか、微塵も思ってねぇから。唯が頑張った証拠だろ?後ろめたい気持ちになる必要なんかねぇよ。それでもし、なんか言われたら俺に言ってくれ。そいつのことぶん殴るから。」 

 真っすぐにその瞳は僕を捉え、吸い込まれてしまいそうだった。僕は一番欲しかった言葉を一条君がくれた。僕の涙腺は簡単に決壊してしまい、みっともなく一条君の前で泣いてしまった。

 そのときも一条君は

 「今までがんばったんだな」

 といい、僕が落ち着くまで抱きしめてくれた。バニラのような甘い香りが僕を優しく包み込んだ。一通り泣き終えると、僕はまた

 「ありがとう。」

 といい、一条君から離れる。離れがたいな、なんて思ってしまった自分が少し恥ずかしくなり顔が熱くなる。

 「全然。落ち着いたなら。」

 こころなしか、一条君の顔も若干赤らんでいる?気がしなくもない。暑かったのかな?なんて思っていると、ぐるるるるると僕の腹の虫が鳴った。

 ふっ、と一条君が笑うと、

 「昼、食べ行くか。あ、でも購買かなんかで買ってここで食ったほうがいいな。」

 なんて気を遣ってくれた。スマホで自分の顔を確認すると泣き腫らした目が主張しており、とてもじゃないが人前に出れそうではない。

 「そうだね、僕も部屋で食べたいかも。」

 「ん。じゃちょっくら買ってくるわ、」

 財布を手に取り、部屋を出る。

 5分もしないうちに戻ってきて、手には焼きそばパンや、たまごサンド、いちごジャムのコッペパンなどがあった。僕がお金を渡そうと、「いくらした?」と聞いても頑なに、「いらない」と突き返されてしまうので、じゃあ今度何か奢るねというと笑顔で、「ラッキー」なんて言ってきた。普段はイケメンなのに、こういうところは可愛いんだなと彼を見て思った。

 部屋でご飯を食べていると

 「リスみたいだな」

 なんて言われた。そうかな、なんて思っていながら

 「一条君はなんだろうね。チーターとかかな?」

 「え、なんでチーター、?」

 「足は速いだろうし、それにほら、一条君かっこいいし。」

 そういうと一条君は満更でもなさそうな顔をして

 「ふーんかっこいいって思ってくれてるんだ」

 「うん。思ってるよ?一条君よくみんなから言われるでしょ?」

 なんて言うと

 「、、、颯」

 「ん?」

 「名字じゃなくて名前で呼んでほしい。」

 「分かった。は、颯くん?」

 名前で呼ぶとよし、と言わんばかりの満足そうな顔をし、そのあとボソッと

 「名前呼び結構いいかも、、、」

 「え?なにか言った?」

 僕には聞き取れなかったが、きっと聞かない方がいいものなのだろう。颯君は、なんにもなかったような顔で

 「なんにも~!唯、明日から授業頑張ろうな~無理のない範囲で!」 

 屈託のない笑顔で言う。僕もその笑顔につられて

 「そうだね。ちょっと楽しみだよ。」

 と笑みを溢しながら返す。

 「唯、RINE交換しね?色々不便だろ?」

 「そうだね、僕も連絡先交換したい。」

 スマホでQRコードを読み取りRINEを交換した。家族以外で連絡先を持っている人は颯君が初めてだったので、とても嬉しい。

 そのあとも他愛もない話をしながら一日を過ごした。明日の授業、頑張れそうな気がする、、!そう思いながら
ベッドで眠った。
 

 
 



 




 
 

 
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